新型コロナウイルスは企業イノベーションの次の波を促すか

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コロナ禍によって、世界中の人々や政府、経済、ビジネスは完全な停止状態に追い込まれました。しかし注意深く目を向ければ、この混乱の中にも隠れたチャンスや企業のイノベーションを見つけることができるでしょう。

例えば、ヨーロッパで14世紀に流行したペストからは、長く続いた不公正な封建制が打破され、雇用契約という、より進んだ就労システムに置き換わる結果がもたらされました。そして、その後にイギリスとフランスの百年戦争が始まったのです。

この戦争からも不幸な犠牲者が生まれた一方で、イノベーションの推進ももたらされ、農業の生産性は大幅に向上し、経済が押し上げられました。

混乱の中にチャンスあり

近年の出来事に目を転じると、2002~2004年のSARSの大流行は、現在のアジア全域で最も重要な小売企業としての地位を確立しているeコマース企業、アリババの躍進のきっかけとなりました。同社の成長理由は、旅行や人との接触に対する強い不安にありましたが、これは今日私達が、新型コロナウイルスが原因で抱いている不安と全く同じものなのです。

2008年の金融危機も、企業がピンチの中にチャンスを見出すきっかけとなった出来事の一例です。エアビーアンドビーやウーバーなどのスタートアップ企業が、その機会を捉え、欧米諸国で、それが新しい生活様式と見なされた結果、人々は自宅内の余っているスペースを貸し出したり、同じ方向に向かう赤の他人と自動車を相乗りしたりするといった形で、資産を維持・共有するようになりました。この金融危機からは、ゲーム業界までもがチャンスを見いだしました。アジアのネクソンや、ヨーロッパのキングのようなゲーム企業は、自社の有料のビジネスモデルを、F2Pこと「フリー・トゥ・プレイ」のビジネスモデルへと変更しました。基本的には無料で遊べますが、勝利を収めるには課金が必要となるような仕組みです。

今回のコロナ禍でも、すでに消費者・企業間の活動のあり方に変化が生まれています。リモートワークが新しい標準となり、テクノロジー系か非テクノロジー系かを問わず、世界中の企業から奨励されるようになりました。

一方で、航空会社の大部分は莫大な損失を被り、小売店では入荷商品が不足して品切れが起きています。そうした変化の一部は短期的なものであり、新型コロナウイルスの収束後に回復すると考えられますが、中には今後数十年にわたって難しい状況が続くケースもあるでしょう。

パンデミックの発生は「生物学的」「心理的」「経済的」側面に影響

人によって感染症の罹患率・致死率の程度は様々であり、実質的に感染拡大のスピードもそれによって左右されますが、歴史的に見ると、パンデミックの発生は、生物学的側面、心理的側面、経済的側面という3つの領域に直接影響を与えてきました。

ここで、今回の新型コロナウイルスの大流行がその3領域に及ぼしている影響を、詳しく見てみましょう。生物学的な影響は当然ながら非常に大きく、とりわけ社会の高齢層に打撃を与えました。心理面では二重の悪影響が見られます。まず前例のない規模のロックダウンによって、あらゆる地域の人々の行動意欲が落ち込んだほか、海外渡航が禁止されたために孤立度が高まりました。次に、株式投資家の相場見通しが弱気に傾き、世界経済の状況が悪化したことが挙げられます。最後に、この想定外の騒動によって世界中のサプライチェーンが破壊された結果、世界のGDPも低下するでしょう。

このような由々しき事態に適応するため、企業には長期的なモデルチェンジが求められることになります。心理的・経済的影響による景気後退の中で、サービス費や価格が下落することを予期しておく必要があるでしょう。その理由は、ある意味で皮肉なことですが、新型コロナウイルスの大流行の逆説的な波及効果として、新しい企業イノベーションやビジネス戦略が生まれてくると考えられるためです。実際にも、スタートアップ企業や新しいビジネスモデルは、急速に勢いを得ています。そして、以下に紹介する3種類のマクロ的イノベーションは、コロナ禍の世界が収束した後も持続していくことが予想されるものです。

安定・堅牢なサプライチェーン網の構築

これまでのグローバルサプライチェーンは、品質と安価なコスト構成を同時に維持するという点で、非常に高い信頼性を誇っていました。ところが、世界は、今回の新型コロナウイルスの大流行から、この古いシステムにはレジリエンスが欠落しているという教訓を得たのです。例えば、中国の生産規模が縮小した結果、私たちは部品供給などが即座に世界的な影響を受けていることを目の当たりにしています。その結果、全地球的な需要に応えるために、流通、サードパーティ・ロジスティクス、供給の調整・追跡に関するモデルの構造的な変革が必要とされるようになりました。

この目標に向け、5G、ロボティクス、IoT、ブロックチェーンといった分野の技術発展を通じて、ベンダー同士が相互に連携し、安定的かつ堅牢なサプライチェーン網を構築できるようにすることが求められています。さらに、eコマースの進化に伴って、自動運転車や宅配ドローンの利用も進むでしょう。将来的には、アマゾンやアリババのような企業が、こうしたサプライチェーン上の先駆的な変革を競っていくことが想像されます。

デジタル行政への移行

今回の新型コロナウイルスの大流行を受け、いくつかの国では行政のあり方にも明確な変化が見られました。例えば、韓国で大部分の国民のPCR検査を行ったり、市民をスマートフォンでタグ付けして他の市民を保護したりする取り組みが迅速に実行されたことや、中国の武漢で病院が記録的なスピードで建設されたことは、記憶に新しいのではないでしょうか。もし世界中により多くのスマートシティがあったなら、こういったポジティブな変革はどれも、グローバル規模で実行に移すことができたで可能性があります。

グラスゴー大学の調査によると、5,500の大都市のうち、現在の危機に対応するため断固たる変革を推進しているのは、27都市にとどまっています。しかし、未来の大災害に対処するためには、DXを推進するスマート政府の存在が必要です。マイクロソフトやシーメンス、シスコなどのIT企業は、そのようなデジタルガバナンスに向けたパラダイムシフトから利益を上げることができるでしょう。

デジタル技術によるメンタルヘルスサポート

在宅勤務は新しい標準となっている反面、グループ作業が必要な状況への対処が難しくなってきたほか、生産性やチームの士気にも影響が出ています。そして個人レベルでは、従業員のメンタルヘルスにも影響が及んできました。

今では、これまでオフラインだった業界がオンラインに適応・移行する例が増えました。しかし専門家は、消費者の広範なニーズや好みをカバーするには、オンラインとオフライン、両方のプレゼンスの組み合わせが必要であると指摘しています。

この点について、オンラインショッピング比較サイト、バッグ・イット・トゥデイのCTOであるキリ・プルショッタム氏は、次のように述べました。「企業はもはやオンラインとオフライン、どちらかのプレゼンスが求められるという状況にありません。新型コロナウイルスの災禍の中、そして新型コロナウイルス以降に成功を収めるには、『オムニチャネル』のリテイリングを通じて消費者に照準を合わせ、あらゆる手段を尽くして顧客ニーズに対する理解を深める必要があるといえます」

まさにそうしたことを、デジタル+人間味の取り組みによって実現している企業がいくつかあります。元グーグルの人事責任者、ラズロ・ボック氏が起業したコラボレーションサービスのスタートアップであるフムのほか、ソフトウェア開発のプラットフォームのギットハブや、ブログツールのワードプレスへの貢献で知られるWeb開発会社のオートマティックのようなテクノロジー企業は、リモートコラボレーションを支援するビジネスモデルを有していることから、現在の状況をチャンスに変えて利益を得ることができました。それ以外にも、メンタルヘルス・サービスのブレイブやマインドフルネス・サービスのモメントなどの新興企業は、孤立から生じるメンタルヘルス問題に取り組むことで企業イノベーションを推進しているほか、ソーシャル・エンゲージメント・サービスのリップルでも、メンタルヘルスを支援するプログラムの開発が進められています。

ニューノーマルの世界

今回の新型コロナウイルスの大流行によって、私達は誰もが新しい世界秩序への移行を余儀なくされ、日々の暮らしも大きな影響を受けました。特に企業は、変化への適応方法を学ぶ一方で、従業員の健康基準も維持する必要に迫られています。しかし、そのような行動を適切にとれた企業は、今後の動揺を最小限に抑えることができるはずです。

ハッカソンから生まれた2,000件ソリューションやアイデア

世界中の主要な専門家が、今回の新型コロナウイルスの大流行の悪影響に対抗するためのアイデアや提案を出し合っています。そうした精神に基づいて、ブルガリアの政治家であるマリア・ガブリエル氏はオンラインイベント#EUvsVirusを開催しました。このイベントでは、起業家、学者、ビジネスマンなど20,000人の参加者が集まり、各チームが互いに競争する形式で、新型コロナウイルスの感染拡大や悪影響に対して即効性のあるソリューションを探ったのです。扱われたテーマには、健康と生活、ビジネス継続性、社会的・政治的発展、在宅勤務、デジタル教育、金融などがありました。このハッカソンから生まれたソリューションやアイデアは、2,000件に上っています。

自営業は、現時点で最も大きな影響を受けている職業です。この事実は、国連国際労働機関とOECDの報告書によって裏付けられています。自営業者の数は、ヨーロッパだけでも3,200万人に上るとされており、こうした働き手をカバーする政策がなければ、彼らは窮乏に追いやられてしまうでしょう。

旅行、飲食、イベント開催などの業界も規模縮小を迫られ、多くのフリーランサーが仕事を失いました。これは市民の家賃、食料、医薬品に対する支出能力の低下が招いた、フリーランス仕事の需要減少に起因しています。

フリーランスに関する次の一手

フリーランスのサービス業界は、民間部門において深刻な打撃を受けました。しかし政府が必要な支援を投入するのであれば、公的部門においてフリーランスを活用する余地は、依然として大きく残されています。政府や公的機関には大量の情報や要望が押し寄せているため、職員は圧倒され、すべての問題への迅速な対応は難しくなっていると考えられるからです。

そこで、政府が既存のフリーランサー用プラットフォームを通じて、そのような自営業者を採用し、業務負担を軽減するような提案が考えられるでしょう。そうすれば政府にもメリットがあり、フリーランサーにとっても就業機会が提供されることで一時的な助けになります。

このソリューションの試験運用は、フリーランサーが従事できる既存のデジタルプラットフォームを、政府の一部署が利用することによって行えるでしょう。

今後に向けて

#EUvsVirusには、今回の新型コロナウイルスの大流行に立ち向かうために専門的な人々が集まり、多大な成功を収めました。次は、そこで提案されたソリューションを実行に移す番です。ハッカソンの審査員によって選ばれた117件のプロジェクト提案は、すでに欧州委員会に送られています。

現在は、企業イノベーションや創造的思考を通じて大規模な問題に立ち向かうことが強く求められている時代です。一部のソリューションは実行に移されましたが、さらに多くのソリューションを実行に移すことが求められています。この観点から、御社にはどのような貢献ができるのかを考えてみてもよいでしょう。

 

この記事はTechBullion向けにルーク・フィッツパトリックが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

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