オフィス時代は終わったのか? 将来を担うのは英国のベッドタウン

メインビジュアル : オフィス時代は終わったのか? 将来を担うのは英国のベッドタウン

「オフィス」は終わったのでしょうか? この「オフィス」とは、誰もが必要とする仕事のスペースという意味でのオフィスではなく、いわゆる「オフィス」、つまり、企業の施設や本社、空高くそびえる高層ビルのようなものを指します。かつて、農地が工場となり、工場が事務所に取って代わられたのと全く同じように、テクノロジーによって仕事の性質は様変わりしました。21世紀への変わり目に、オフィスはすでに小さな画面に入るほど縮小されていたともいえます。それ以降も、何とか生き延びてきたオフィスでしたが、それも新型コロナウイルスによってそれも脅かされるようになりました。オフィスが君臨する都市の中心部でも、同様のことが起こっています。

週5日のオフィス勤務に復帰したい人は18%

2020年3月、イギリスのボリス・ジョンソン首相が英国民に「ステイホーム」を命じたとき、私には、それが弔いの鐘の音のように聞こえました。新型コロナウイルスへの恐怖心から起こったロックダウンは、非常にショッキングだったため、投資銀行のモルガン・スタンレーによる最新の調査によると、職場に復帰したイギリスのオフィスワーカーの比率は、今でも34%にすぎません。イタリアでは76%、フランスでは83%もあるにも関わらずです。

少し前のこと、ジョンソン首相は急に考えを変え、オフィスワーカーに出勤するよう指示しましたが、これに従った人は殆どいませんでした。かつて賑わったロンドンのカナリーワーフ、マンチェスターのディーンズゲート、バーミンガムのコルモアロウを歩いてみると、ゴーストタウン化しています。オフィスは空っぽで、小売店、パブ、カフェは閉店中どころか入り口に板が打ち付けられている始末です。やがて職場に復帰する人がいるとしても、以前と同じ人数に戻ると予想する専門家は1人もいません。

社会歴史学者のロウランド・パーカーは、ケンブリッジシャー州フォックストン村を舞台にした古典的な歴史書『ザ・コモン・ストリーム』の中で、人々のトラウマとなるような多くの出来事を描きました。例えば、サクソン族の侵略や黒死病、ごく最近では1920年代のコンバインの登場などです。特に、農業機械の登場によって、畑仕事のための労働力の必要性が著しく減少した結果、村は過疎化し、田園地帯の活力も失われました。

それ以降、例えばフォックストンという町は、ケンブリッジやロンドンで働くオフィスワーカーのベッドタウンとして復活を果たしてきたのですが、今また自宅勤務という新たな変化に直面しています。自宅をオフィスにできるのであれば、苦労してまで都市のオフィスビルに戻りたいだろうか、という疑問を感じる人は、英国全土に大勢いることでしょう。モルガン・スタンレーのレポートによれば、週5日のオフィス勤務に復帰したいと希望するヨーロッパのオフィスワーカーは、18%しかいません。ちなみに、もしもすべての就業時間を自宅での仕事に充てると、年間で16日以上分もの生産性が向上すると推定されています。

毎日オフィスに出勤する理由はどこにもない

一方で、マスコミは、「いずれにしてもオフィスは私たちにとって良いものである」と結論づける調査であふれかえっているのが実情です。彼らは、オフィスが、社会の多様性とカジュアルな交流を促し、「外出する」ことが、狭く閉じられた人間関係からの解放をもたらすとしています。また、長きにわたり「会社」という存在を、本社や、物理的な施設とその階層化によって確立してきた、経営のイデオロギーも無視できません。ニューサイエンテイスト紙は、「マイクロソフトのボスが、これまでのオフィス環境で構築された「社会資本」が、監視されていない在宅ワークによって蝕ばれることを危惧している」と報じています。そして、リモート会議システムのズームでは、会議の「前後2分」のゴシップの時間に取って代わるものを提供できないでしょう。テレビドラマの「ザ・オフィス」を見れば、それは明らかです。

これに対して、オフィスワーカーたちは、きっと反対の意思表示をするでしょう。バーミンガムのある弁護士は、ガーディアン誌のインタビューで「毎日、このオフィスに出勤する理由はどこにもありません。仕事はどこでも変わりなくできます。」と語り、数百万人の声を代弁しました。同様に、アメリカでは最高経理責任者の4分の3が、「リモートワークの導入が必要である」との考えを受け入れつつあります。

こうした考え方が、今後の都市のオフィス街に対して、どれほど強烈な影響を与えるかは未知数です。ロンドン、バーミンガム、マンチェスター、およびリードのオフィス街は、過去数十年間にわたって、オフィス需要の増加を前提に計画されてきました。ロンドン大学の経済・政治学部で都市を専門とするトニー・トラバース教授は、これらのオフィス街について、「すでに死んだも同然で、怖すぎて予測できないほどですが、控えめに見積もっても、おそらく労働人口の半数が労働時間の半分を何らかの形のリモートワークに充てることを選ぶでしょう」と分析します。つまり、大まかにいって、従来のオフィス利用の25%が消滅することになるわけです。

オフィスワーカーの4分の1が都市の中心部を去るとなると、商業にも壊滅的な打撃があります。オフィスワーカーをあてにした小売店、カフェ、パブの利益は吹き飛ぶでしょう。新興オフィスビルは、それらが置き換えたビクトリア時代の古い建物のようには用途の融通が効かず、家賃の急降下が避けられません。企業の本社が入った高層タワーは、時代遅れの恐竜のように街の景観を損ねる存在になりはてます。

未来のオフィスは「自宅」

今では、感染リスクを考えると通勤は不要で、健康上有害だとさえ考えられるようになりました。オフィスへの出勤は、ショッピングと同様に、個人の裁量に任された、たまに行う活動となるでしょう。職場の友人、顧客、仲間との交流が大切なのは確かですが、それも、週5日9時~5時のフルタイムで行う必要性はありません。通勤はオフィスに持ち込まれたディケンズの工場労働の理念のようなもの、つまり、時代遅れの遺物なのです。

このことは、都市にとって必ずしも悪い知らせではありません。オフィスが減れば、その分、住居用のスペースは増えます。文化や娯楽活動も復活するでしょう。歴史地区は、もし保全の対象となるならば、現代の都市経済の鍵を握っていると見られている創造的な産業を惹きつけることができます。こうした産業は、都市に集中することで成長しやすくなる傾向があるためです。

筆者は、BBCの番組に出演したホテルショコラという高級チョコレートブランドチェーンのアンガス・サールウェル氏の話に興味を持ちました。このブランドの大都市の直販店の運命は悲劇的である反面、新たなワークハブとして台頭してきた、チェルトナム、セントオールバンズ、スタンフォード、ハロゲートといった街でのビジネスは成功しているのです。もし私が不動産ビジネスの人間ならば、同じような大聖堂のある他の街も、この先の発展が見込めると考えて、すべて買い占めることでしょう。

既存の企業スペースや社屋という概念は、明らかに危機的状況にあります。そして、オフィスワークの将来は、小都市や郊外の村にかかっているといえるでしょう。つまり、イギリスの保守派政治家のロバート・ジェンリックが推進する、ロサンゼルス風のハウジング計画変更政策で台無しにされない場所ということです。

未来のオフィスは、これまで通勤していた人々が「自宅」と呼ぶところにあります。職場との強い結びつきは、新たな近所付き合いによって置き換えられるでしょう。たとえ労働人口の25%の変化であっても、これは人口統計学的に見て、革命的なトレンドなのです。

サイモン・ジェンキンスはガーディアン誌のコラムニストです。

 

この記事はThe Guardianのサイモン・ジェンキンスが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願い致します。

※本記事の文中のリンクは英語ページに遷移します。