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アフターデジタル時代のEコマース、キーワードは「OMO」(後編)

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目次


前編の続き)

OMOを実践するためのテクノロジーとは

誰もが常にオンライン状態にあるアフターデジタル時代、ネット上で商品を販売するだけの従来型Eコマースは時代遅れの販売手法になるかもしれません。オンラインとオフラインの両方から得られる顧客情報をフル活用し、あらゆるチャネルを駆使して顧客体験を高めるマーケティング戦略「OMO(Online Merges with Offline)」が、近未来の小売業やサービス業にイノベーションをもたらします。

OMOを実践する工程は、大きく3つに分けられます。各工程で最新のテクノロジーを活用することで、効果的で効率的なOMOが実践できます。

図 : OMOを実践する際の3つの工程

OMOを実践する際の3つの工程

1つ目は、顧客の情報を収集する工程です。消費者のニーズを高確度で探るためには、オンラインとオフライン双方から様々な手段を使って一人ひとりの顧客を観察する必要があります。その際、オンラインでは、商品情報の閲読履歴、ネット店舗内の行動履歴等を収集できる技術を活用します。一方、オフラインでは、カメラや各種センサーを使った実店舗内での行動履歴、QRコードやICタグ等を通じて顧客に提供する商品情報の閲覧履歴等を収集する技術を活用します。

2つ目は、収集した情報を解析して、一人ひとりの顧客ニーズを洞察する工程です。ここでは、収集した多様な情報を整理・蓄積するデータベース技術、顧客ニーズを推し量るビッグデータ解析やAI(人工知能)の技術が必要になります。重要なのは、消費者全体の一般的傾向を俯瞰的に推し量る技術ではなく、顧客個人に固有の傾向を深く洞察する技術が必要になる点です。

3つ目は、的確なチャネルを通じて商品・サービス・情報を提供し、顧客満足度の向上を図る工程です。商品在庫がある店舗を紹介して割引クーポンを届けて誘導したり、来店した顧客の情報を確認した店員がさりげなく好みに合いそうな商品を提案したり、購入の商品を有効活用するための情報を継続的に提供したりします。この際には、マルチデバイス、マルチチャネルで顧客と密に繋がりを持つことが大切です。

米国アマゾンや中国アリババで効果を挙げているOMOの先進的な実践例

デジタルマーケティングが高度に発達した米国や中国では、既にOMOの先進的な実践例が数多く出てきています。

中国アリババ集団が運営する実店舗の生鮮スーパーマーケット「盒馬鮮生」では、極めて洗練されたOMOを実践して顧客体験を向上させています。同スーパーでは、来店客が買い物を楽しめる場となるような演出を徹底しています。例えば、海鮮コーナーに設けられた大きな生け簀から新鮮な食材をフードコートに持って行くと、その場で料理にしてもらえ食べられます。新たな外食の楽しみと料理のヒントを同時に提供する場になっています。

商品には全てバーコードやQRコードが描かれたタグが付けられています。これを読み取ることで、食材の産地や収穫日、売り場までの物流履歴が分かります。中国では食の安全に対する意識が急激に高まっており、このシステムは商品に対する安心感を与えています。さらに、食材の情報を表示するサイトでは、その食材を使った料理のレシピが紹介され、料理を作るために必要な調味料等もまとめて購入できます。購入する商品は、通常のスーパーと同様にレジでも決済できますが、オンラインで支払い、自宅まで配送してもらうことも可能です。

米アマゾン・ドットコムでは、実店舗の無人コンビニ「Amazon Go」を事業化しています。Amazon Goでは、入店する際にスマートフォンで個人認証すれば、レジでの会計なしで商品を持ち出すことができ、ストレスのない購買体験ができます。来店客が手に取った商品等は店舗内のカメラとマイク、棚に設置したセンサーで逐次検知し、退店時にゲートをくぐる際に持ち出す商品を自動集計して代金を決済します。

Eコマースで大きな成功を収めているアマゾンが、なぜ実店舗を作る必要があるのか?同社は、ネット上だけでは得られない消費者情報を実店舗から集め、ネット上でのサービスを改善する材料にすることを目的としているのです。より高度な顧客体験を提供できるEコマースを創出するため、消費者をもっと深く理解する実験場だと言えます。

日本では、ローソンと富士通が、川崎市にある富士通の事業所内で無人コンビニの実証実験を行いました。ここでは、富士通研究所が開発した手のひら静脈認証と顔情報で個人認証を行い、手ぶらでの買い物を実現。実験の結果や来店客の動き・動作時間・購買動機・再来店意欲等を調査・分析し、売り上げを高める方策を探るために利用する予定です。

日本のおもてなし文化をOMO化して世界に

現時点では、日本でのOMOの実践は、米国や中国等と比べて進んでいるとは言えません。日本はキャッシュレス決済の普及が遅れており、また実店舗での顧客に対する手厚いおもてなしが定着していることが要因だと思われます。

逆に言えば、優れた顧客体験を提供するために押さえるべき商売の勘所は、日本人のDNAに刻み込まれているとも言えます。そのノウハウは世界に通用することでしょう。日本を訪れる観光客は、日本の小売店のサービスの質の高さに一様に驚き、宅配便のように顧客目線の日本発のサービスを海外展開して成功している例もあります。OMOのような最新のテクノロジーを活用したマーケティング戦略を使いこなせば、世界をリードするOMO大国になる可能性がありそうです。マーケティング分野での日本の伸びしろは、極めて大きいと言えます。

著者情報
木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。

伊藤 元昭

エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社。日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。