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アフターデジタル時代のEコマース、キーワードは「OMO」(前編)

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目次


常にオンライン状態のデジタルネイティブ世代、変化が求められるマーケティング戦略

総務省が発行した「情報通信白書令和元年版」によると、2018年時点で日本でのモバイル端末の世帯普及率は95.7%であり、ほぼ全ての家庭にデジタルツールが行き渡る状態になりました。そして、物心がついた時からパソコンやスマートフォンがあって当たり前で育ったデジタルネイティブ世代となる13歳〜19歳では96.6%、20歳〜29歳では98.7%がインターネットを利用しており、この世代が商品の購入やサービス利用の主要な消費者になりました。

皆さんは今、家電製品や洋服等を買う時、どのように購入する商品を選び、購入するお店を探していますか。価格比較サイトで最安値や相場をチェックして購入店を決めているかもしれません。また、製品の情報をネットでチェックし、実店舗に行って使い勝手を確かめ、ネット店舗と実店舗の価格を比較しながら購入している人もいるでしょう。

現代人にとって、もはやネット上の仮想空間は、現実世界との間の境目を感じない、日常生活の場になりつつあります。常にオンライン状態で生活する「アフターデジタル時代」を迎えた今、企業は、こうした消費者の変化を念頭に置いたマーケティング戦略を立て、商品を販売する必要があります。

アフターデジタル時代のマーケティング戦略、「OMO」とは

ネットを通じて商品やサービスを提供するEコマースのマーケティング戦略は、消費者のネットリテラシーの向上とテクノロジーの進歩に合わせて、日々進化し続けています。そして直近では、常にオンライン状態にある「アフターデジタル時代」をリードするマーケティング戦略として、「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれる手法が注目されています。

OMOとは、直訳すると「オンラインとオフラインの融合」を意味し、オンラインショッピングと実店舗での買い物の境界を消費者に意識させず、シームレスな購買体験を提供することを目指す、新しいマーケティング戦略を指します。

O2Oやオムニチャネルとの違いとは

これまでのEコマースでは、オンラインとオフラインの間にキッチリとした境目があり、それぞれの販売戦略や施策、運用システムが個別に作られてきました。その中で、2013年から2017年頃には、オンラインとオフラインの双方を連携させた「O2O(Online To OfflineまたはOffline To Online)」と呼ばれるマーケティング戦略を実践する企業が増えました。O2Oは、オンラインとオフラインの役割を明確にし、それぞれの特徴に合った情報を提供し、どちらかに顧客を誘導して購入してもらうことを目指した手法です。

また、「オムニチャネル」と呼ばれるマーケティング戦略を取る企業もありました。近年、実店舗とネット店舗の両方を用意する小売店が増えてきていますが、それぞれの顧客情報や在庫状況を個別管理していたのでは非効率であり、複眼的な顧客の購買行動の洞察ができません。そこで、オムニチャネルでは、双方のデータベースを統合して情報を一元管理し、効果的なマーケティングを実践できる素地を作り出すことを目指しました。

O2Oやオムニチャネルは、オンラインとオフラインを切り分けた上で、双方により効果的に消費者を誘導するためにとられたマーケティング戦略です。ところが、消費者の多くがオンラインとオフラインの間に境目を感じなくなったアフターデジタル時代に突入すると、こうした手法も徐々に消費者の実態に合わなくなってきました。そこで、時代の変化に適応すべく、オンラインとオフラインの隔たりをなくし、より効果的で効率的な手法へと発展させたのがOMOです。

図 : Eコマースでのマーケティング戦略の進化

Eコマースでのマーケティング戦略の進化

よりよい顧客体験を提供し、一見客ではなく得意客を増やす

OMOの最大の特徴は、単に商品を販売することに焦点を当てていない点です。ネット上で提供する商品情報の閲覧履歴や実店舗での行動履歴等、あらゆるチャネルから得た顧客情報を統合して得たデータを基に、顧客一人ひとりの興味・嗜好・個性・生活状況を徹底的に洞察。顧客が、商品を選び、購入し、有効活用するまでの一連の流れを個々にデザインし、よりよい顧客体験の提供を目的にします。

ユニクロは、2020年6月に原宿駅前にOMOを活用した都心型店舗を出店しました。そこでは、壁一面に設置した240台のディスプレイにネット投稿されたユニクロ商品の着こなしを表示。それを見た来店客は最新の着こなしに触れることができ、また、購入したくなった商品を簡単に見つけ出すことができる仕掛けも用意しています。

洋服や嗜好品を購入する際、「私の好みをよく分かってくれる店員さんがいるから、必ずこの店で買うことにしている」と言う人もいます。ところが、Eコマースでは、常に最安値の店舗から購入しようとするため、買い物をするたびに購入先がコロコロと変わるのが常です。OMOでは、商品を購入する前後にも企業が顧客に提供する価値があることを明確に意識し、そこでより良い体験を提供することで、顧客をお得意様にしようとするマーケティング戦略なのです。商品情報や生活情報を提供するネットのコンテンツやIoTを活用したリアル店舗での行動履歴等をフル活用し、通販サイトよりも確度の高い顧客のニーズを洞察して、潜在的な期待に応えます。

後編では、OMOを実践するためのテクノロジーや米国や中国で効果を挙げているOMOの先進的な実践例をご紹介します。

著者情報
木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。

伊藤 元昭

エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社。日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。