どう変わる?ニューノーマル時代の働き方(後編)

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前編の続き)

新型コロナウイルスの世で我々が生きることになった「ニューノーマル」の世界。そこでは「テレワーク」という新しい働き方が世界で一気に進みました。

こうした中、浮き彫りになったテレワークの課題があります。それは「仕事の効率」。日本生産性本部が在宅勤務をした人を調査した所、66%が「仕事の効率が下がった」と答えているのです。

効率が下がった最も大きな理由として挙がったのは、「職場に行かないと閲覧できない資料・データがある」というものでした。ここで分かることは、テレワークを根付かせるためには、資料・データのオンラインでの共有化を進める等、課題を取り除くと同時に、業務フローを考える際、テレワークを前提にするといったことも必要になってくる、ということです。

目次


先進企業6社は、どのようにテレワークを実現させたのか

テレワークの先駆けと見なされるような企業では、テレワークのより良い運用に向けた検証を早くも始めている所があります。いくつかの事例を具体的に紹介しましょう。

  • TOYO TIRE「実験業務もクラウド経由で会社のパソコン利用」

TOYO TIREはクラウド経由で自宅のパソコンから会社のソフトをリモート操作することで、会社以外でも実験業務の一部をできるようにしました。研究開発部門では実に7割の社員が在宅勤務である同社では、リモートでできる仕事を増やすことにより、製品開発スケジュールに支障が出ないよう工夫しています。(注1)

  • 富士通「私物スマホを活用、モバイルで承認作業」

自宅やサテライトオフィス等の様々な場所で業務を可能とするテレワーク勤務制度を、2017年4月から全社員を対象に正式導入した富士通。テレワークをした社員から要望が多かった「移動中や外出先でメール送受信」と「幹部社員による外出先での承認処理」を、社員の私物スマホを活用し実施できるようにしました。

  • ヤフー「取引先との契約含め100%電子サイン化」

2021年3月末までに民間取引先との契約における捺印や署名を「100%電子サイン化」する目標を掲げたのがヤフーです。新型コロナウイルスの影響長期化が予想される中、出社を余儀なくされる紙の契約書の捺印手続きを無くすべきと判断したためだと言います。既に進めていた働き方改革やデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、社内の申請等でも先行して電子化を推進しているそうです。(注2)

  • ソフトバンク「書類をクラウド上で共有、会社での書類探しをゼロ化」

100%電子サイン化を掲げるヤフーを傘下に収めるソフトバンクでは、ペーパーレスがテレワークの基盤と位置付けています。その同社では、クラウド上での書類共有を進めることで、紙の削減率9割を達成しました。ここまでペーパーレスが進むと、書類探しや閲覧を目的にしたオフィスへの出社はほぼ必要なくなるとのこと。先の日本生産性本部の調査で浮上した、テレワークが仕事の効率を下げる原因を、見事につぶしていることになります。(注1)

  • GMOインターネット「誤解防止へチャット5連続でビデオ会議切り替え」

時間や場所を気にせずいつでも気軽にコミュニケーションを取れるのがチャットの魅力ですが、「誤解が生じやすい」「テキスト入力は音声よりも時間がかかる」というデメリットがつきまといます。同社では、「同じ話題でのテキストチャットは5回連続まで。それ以上続く場合は、ビデオ会議に切り替える」とルールを設定。コミュニケーションを取ろうとして相手や自分の感情を害してしまうケースの大幅な削減が期待されます。(注1)

  • さくらインターネット「派遣社員にも臨時手当で不平等感を一掃」

データセンター運営のさくらインターネットは、2020年3月2日に勤務形態を原則在宅とし、テレワーク環境を自宅に構築するための臨時特別手当1万円の支給を正社員、契約社員、嘱託社員、出向社員の別なく決めました。「職場のメンバー間に不平等感を出さない」との考えで、テレワーク普及に当たって大切なことに「仕事をこなせる環境があれば、従業員は楽しく前向きに取り組むはずという、性善説に基づく企業風土」を挙げています。(注3)

(注1)『日本経済新聞』2020年6月20日付

(注2)プレスリリース2020年5月18日

(注3)『日本経済新聞』2020年6月19日付

テレワークで効果を上げる10のポイント

ここまで見てきた事例は私達に、テレワークで効率を上げるために必要なことを教えてくれます。大まかに分けるとそれは、①テレワークをするのに最低限必要なこと、②会社、組織でテレワークするのに必要なこと、③個人でテレワークするのに必要なこと、の3つのカテゴリーに分類可能です。以下、それぞれをさらに細かく分けてポイントをまとめてみます。

図 : 最低限必要なこと しっかりとした通信インフラ 動作が安定しているアプリ セキュリティの確保 会社でしかできない仕事の削減 会社、組織で必要なこと 一人ひとりを理解する コミュニケーションの改善 評価制度の見直し 個人で必要なこと 仕事にリズムを持たせる アウトプットや成果へのこだわり モチベーションの維持

①テレワークをするのに最低限必要なこと

  • 「しっかりとした通信インフラ」

スムーズなテレワークの実現にとって「通信インフラの安定」は一丁目一番地。中国では「新常態」の社会においてテレワーク継続の検証が始まっており、メディアは、「安定した通信インフラが成否のカギを握る」と強調しています。リモート会議での時差のある会話やネットの遅さ等、通信インフラ起因のストレスがたまると、生産性の向上は望めません。さらに、アクセスを社内からに限定している情報を利用するには、VPNの設置も必須です。

  • 「動作が安定しているアプリ」

通信インフラ同様、ユーザ体験の善し悪しがストレスや生産性の向上に直結するのがアプリケーションです。使用中に頻繁に落ちるようなものは、仕事で使うのは論外ですが、それに加えて、複数の項目を1つのアプリにまとめて扱える、直感的に操作できる等、システム部門は使用するアプリに注意を払うことが求められます。

  • 「セキュリティの確保」

テレワークでは、セキュリティ対策を施した端末の確保が必須。専門のIT企業等の協力を仰いだ強固なセキュリティの構築は不可欠です。また、派遣社員のテレワークが進んでいる現状から、派遣先に対してデータを端末に残さず、クラウド上に自動保存する端末を貸与するサービスを始めたアデコのような企業も出てきています。

  • 「会社でしかできない仕事の削減」

テレワーク定着に不可欠なこととしてよく挙がる「会社でしかできないと思われている業務の見直し」。資料の電子化と電子サインの推進によるペーパーレスは、出社の必要を減らすための代表的な施策です。この他、ニューノーマルの社会における業務の再構築にあたり、「対面が一般的」ではなく「リモートが一般的」という見地に立って常に考えることにより、突破口が開けることが多いようです。

②会社、組織でテレワークに必要なこと

  • 「一人ひとりを理解する」

テレワークの根底にあるのは、「自由な働き方」という思想です。学齢期の子供がいたり、独身だったり、親の介護を担っていたりと個々人の抱える事情は様々。何より大切なのは、それぞれの立場を理解することです。テレワークというと在宅勤務を想像する人もいますが、家で仕事をする環境にある人ばかりではありませんし、勤務時間の裁量を望む人もいる。そこで企業にはサテライトオフィスの設置や、コアタイムの短縮化が求められます。

  • 「コミュニケーションの改善」

テレワークで対面での接触が減ると、どうしても不足するのがコミュニケーションです。テキストでは言葉足らずになるし、雰囲気を伝えるのも感じ取るのも難しい。だからといって、テレビ会議を増やすと、仕事の進捗に影響が出るし、余計なものが画面に映り込まないよう気を遣うので、かえって読み取れる情報が少なくなるとの感想を持つ人もいます。どれか1つに偏らず、チャット、メール、テレビ会議の使い分けを意識して行うのが大切です。

  • 「評価制度の見直し」

評価制度の見直しも、テレワーク最大の課題として挙がる項目です。プロセスの把握や時間管理ができなくなり、個人の評価が難しいためで、評価制度を見直すべきとの声も挙がります。こうした中、仕事内容を職務に応じて決め、成果で処遇する「ジョブ型」制度を推進する日立製作所のような企業も出ています。不平等な評価は、社員のやる気の維持や人材の確保への影響が必至。ニューノーマルの働き方に即した評価制度への移行が必要です。

③個人でテレワークに必要なこと

  • 「仕事にリズムを持たせる」

数カ月のテレワークを経験し、特有の疲れやストレスを感じたとの声をよく聞きます。要因の1つとして、オフィスに足を運ぶことにより確保していた仕事とプライベートの切り替えができなくなったことや、運動不足があると言われています。切り替えとはすなわちアクセントを入れてリズムを作ること。自分でリズムを作るのが難しい場合、定期的に上司に連絡を入れる等、自分なりのルーティンを作り、通勤に代わるリズムをとるのが有効です。

  • 「アウトプットや成果へのこだわり」

テレワークの導入により、社員の行動を監視するため、テレビ会議システムに常時映り込むよう求める企業が出てきています。新しい働き方は、個人に自由を持たせることで人間らしく生き生きと働き成果も出そうという取り組みのはず。行動を過度に縛って社員を追い込み生産性が下がるような評価や管理は止めるべきです。一方で社員には、自由や裁量が認められる分、規則の遵守や、汗をかく等ということより、アウトプットが求められます。

  • 「モチベーションの維持」

職場で声をかける機会が少なくなる分、社員のやりがいや悩みを知るのは難しくなります。また、くつろぎの場である自宅で仕事をするという、ある意味矛盾した環境で、モチベーションを維持するのは難しいこと。しかし、それがニューノーマル時代の働き方です。対策として、過度に追い込まないことに留意しつつ、社員にやることを宣言させ、そのことについて上司と会話させて、仕事の意義や目標を定期的に確認させる方法は有効です。

ニューノーマルの社会で依りよく生き、働くために

新型コロナウイルスという想定外の要素によって、これまで経験したことのない新しい時代と社会——ニューノーマルの世の中に一歩を踏み出した、と感じている人は少なくないと思います。何しろ未知の世界ですから当然不安はある。それでも、変わる所は変わる、変えない所は変えない、適応する所は適応する、すなわち今まで積み上げてきた知見を十分に生かしながら変革することにより、私達はニューノーマルの時代を依りよく生きていけるはずです。そして、個人を尊重するという思想が根底にあるニューノーマル時代の新しい働き方の代表であるテレワークを上手に運用する企業には、自然と人が集まり、総合力も上がっていくことが期待されると言えるでしょう。

著者情報
木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年「日経ビジネス」編成長、2014年「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。

山田 泰司

ノンフィクションライター

1965年生まれ。1988年中国山西大学留学、89年北京大学留学。東洋大学中国哲学文学科中退。1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年中国国有雑誌の編集者を皮切りに上海を拠点に活動。IT企業のエンジニアから出稼ぎ労働者まで、中国人の仕事と生き方を中心に取材を続けている。NHKラジオの中国レポートは今年で23年目。2010年からは、電子機器・半導体・ディスプレイ情報の会員制メディア「EMSOne」の編集長も兼任。単著に『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』(日経BP)、『不存在的3億人』(台湾聯経出版)。調査レポートに『中国スマート工場総覧』(日経BP、木村知史との共著)