スパコン「富岳」の世界一への挑戦、現場の裏側に迫る② 搬入編

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前編の続き)

2020年5月、理化学研究所(理研)と富士通が共同開発するスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」が稼働開始しました。富岳は、2021年度から共用開始される予定ですが、新型コロナウイルス感染症の対策への「富岳」活用に向けて、前倒しで試行的な利用が始まりました。

「富岳」の製造・構築は急ピッチで進められましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、主要部品のサプライチェーンが分断され、調達が思うようにできないトラブルにも見舞われました。そうした状況の中、富士通は、どう困難を乗り越え、前倒しでの稼働開始を可能にしたのでしょうか。ここでは「富岳」搬入の裏側をお伝えします。

分断したサプライチェーンをどう克服したのか?

スーパーコンピュータは構成要素が多く、複雑なシステムです。そのため、膨大な数の部品を国内メーカーだけから調達するのは困難です。そこで、国内外の様々なメーカーと協力し、グローバルなサプライチェーンを構築。厳密なスケジュール管理のもと、必要な部品を必要な数量で確実にFJITの製造現場に到着させる仕組みを確立しました。

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、世界中の多くの都市が封鎖される事態(ロックダウン)が発生。その結果、「富岳」の構成部品の中には、メーカーによる部品の生産停止や国外への輸出が制限された部品もあり、サプライチェーンが分断される緊急事態に陥ってしまいました。

富士通では、グローバルなサプライチェーンを構築する際に、様々なリスクに対応するため、複数のサプライチェーンによるマルチソース化をしています。「富岳」の製造においても、スケジュール通りの納品が難しいものもあり、改めて対策が必要になりました。

部品の出荷の遅れを取り戻すために富士通が取り組んだこととは?

スーパーコンピュータを構成する部品においては、部品メーカーの本社、製造工場、流通拠点がそれぞれ世界中の異なる国にある、といったことはごく普通にある光景です。富士通では部品を製造するメーカー各社と連絡を取り、部品製造の現状を調査・整理しました。

その情報をもとにして「富岳」の設計・調達・開発・品質部門が一体となり、最適な部品配給を可能にするようにサプライチェーンを再構築しました。

それでも調達が滞りそうな部品については、メーカー各社と相談の上で部品製造・試験・出荷工程等を富士通がサポートする体制を整えました。例えば、部品メーカーの工場が出荷前に実施する試験と、受け入れ時に実施する検査を一括して富士通が実施して期間を短縮する等、出荷の遅れを取り戻す対応を実施しました。

また、富士通と部品メーカーで協力して、製造・試験の方法を改善することで、システムの品質を落とさずにトータルのリードタイムを短くする工夫もしました。

FJITが実践した製造過程の工夫とは?

さらに、製造現場であるFJITでは、部品調達のスケジュールが変更されたことによる影響が製品出荷の遅れに繋がらないように対策を実施しました。部品が届かない製造ラインをただ止めてしまうのではなく、製造、組み立ての順番の組み換え等の工夫をすることで、欠品によるライン停止が起きないように、また、欠品していた部品が来た時の回復が短時間でできるようにしました。

具体的には、通常の決められた製造手順を見直し、製造に必要な部品が揃った部分の作業が進められるように製造順序の最適化をしました。また、調達が遅れている部品の品質をどうすれば保証できるかを関係部門と調整しました。実際に部品調達が遅れてしまったコネクタや水冷関係の部品等については、工程手順を変更してフレキシブルに対応することで、品質を確保した上での出荷を可能にしました。

「富岳」の搬送は、どのように行われたのか

石川県で製造された「富岳」は、約300キロ離れた神戸市の理研・計算科学研究センターまで運送されました。2019年12月の出荷開始から約半年かけて、10トンの大型トラックで、1台約1.6トンの計算機ラックを約400台、1回の搬送で6ラックずつ出荷しました。

また、筐体間を繋ぐ10万本のケーブル等、FJITで製造しない物については、富士通の明石工場で検品し搬入しました。

細心の注意を払い、万全の体制で搬送された「富岳」

スーパーコンピュータは精密機械です。搬送途中の振動や衝撃等で機械がダメージを受けると、代替品の手配、製造、搬送に時間がかかってしまい、スケジュール通りの搬入と構築、稼働開始ができません。また、配送には水平を保たなければいけない等の制約も多く、細心の注意を払う必要があります。

富士通では、2019年12月の出荷開始を前に模擬ラックを使用したテスト搬送を実施。模擬ラックを実際に神戸市まで輸送し、現地での荷下ろしの手順も確認し、あわせて理研の計算科学研究センターでの搬入経路も全て入念にチェックして、慎重にテスト搬送を行いました。

様々な工夫と協力により、大量の機材を計画通りに搬送

実際の搬送は、毎回、石川県の工場を夜出発して神戸市の理研・計算科学研究センターに朝方到着する段取りでした。到着後には設置工事や試験・調整、開発・調整、運用環境の構築・整備等の予定が厳密に組まれています。万が一、遅延してしまうと後工程に影響を与えることにもなります。

富士通の運輸部門では、製造工場の製造状況や現場の作業状況等を考慮しながら、トラック手配計画を柔軟に変更して最適な出荷計画を調整しました。そこには前回の「京」を搬入した際の知見が生かされており、大量の機材をジャストインタイムで搬送することができました。

「オール富士通」体制で実現した「富岳」の製造・搬送

これまでご紹介したような、サプライチェーンや製造工程の組み直し等の柔軟な対応を迅速にできたのは、サプライチェーン全体を含めた多くの関係者が一丸となった、まさしく「オール富士通」体制で臨んだ結果だと言えます。

また、「感染症対策という全世界が直面している課題の解決に貢献したい」という使命感と「前倒しでの提供とはいえ、研究開発の利用に耐えるようにして提供しよう」という全ての関係者の想いが結実した表れではないでしょうか。

数々の試練を乗り越え、「富岳」の製造、搬入、敷設、ハードウェア導入試験、ソフトウェアチューニングの各工程でハードウェア障害が発生した際にも後工程へスケジュール影響与えないように、ハードウェア担当者が富岳現地に常駐し、不良検出、交換指示を行いました。また、即時部品交換を実現するため、特に富士通で試験していない部品については明石工場にバッファ部品を持ち、即時補充を実現しました。

さらに、富士通の物流担当者も富岳現地に常駐し、メーカーとの不良代替部品補充ルートを確立し、最後まで欠品ないハードウェア導入を実現しました。
以上より、設置からハードウェア導入試験までは、当初計画通り、12月初旬から5月中旬までの4か月半で実現しました。

今後は理研に運ばれた各機材を連携させ、さらに様々な工程を経て稼働することになります。

次回は、世界一のアプリケーション実効性能を実現するために欠かせないチューニングを担当したソフトウェア部門の挑戦を紹介します。

FUGAKU NEWS vol.5 計算機ラック初出荷・搬入開始
(提供:理化学研究所 ビデオギャラリー)

(注)スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」とは?
超高速で膨大な計算ができる計算機が、スーパーコンピュータです。「富岳」は、スーパーコンピュータ「京」の後継機です。「京」の名は1秒間に1京(10の16乗)回の計算ができることに由来します。「京」は世界性能ランキングのTOP500で2011年6月と11月に1位、Graph500では2014年以降、通算10期(連続9期)1位に輝きました。最大で「京」の100倍のアプリケーション実効性能を目指す「富岳」には、FACOMに始まる富士通コンピュータ開発の知識と経験も結集しています。

「富岳」とは“富士山”の異名で、富士山の高さが性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがユーザの拡がりを意味しています。医療だけでなく災害・エネルギーや持続可能性といった社会課題解決、新発想のものづくり、宇宙や生命の謎の解明、それらを助けるAIやロボット研究等の世界最先端技術を結集した「富岳」は現在も多くの挑戦を続けています。