スパコン「富岳」の世界一への挑戦、現場の裏側に迫る① 製造編

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2020年5月、理化学研究所(理研)と富士通が共同開発するスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」が稼働開始しました。

「富岳」はすでに2019年の試作機の段階で、省エネ性能の国際ランキング「Green500」において世界一に輝き、少ない消費電力で効率的に計算できる設計等が世界的に高く評価されています。本来は2021年度、つまり来年度から共用が開始される予定でしたが、コロナ禍の状況を受け、現時点で提供可能な「富岳」の一部を、共用開始に先駆けて優先的に提供されることになりました。

世界に誇る次世代スーパーコンピュータである「富岳」は、どのように製造されたのでしょうか。今回は「富岳」の製造現場の裏側に迫ります。

「富岳」は、全てにおいて「スケールが違う」

「富岳」は、理化学研究所と富士通が共同開発した次世代型スーパーコンピュータ(注)で、2019年8月に運用を終了したスーパーコンピュータ「京(けい)」の後継機です。現在はアプリケーション実行性能で「京」の100倍を達成するための各種チューニングを実施中です。2020年6月22日(現地時間)に発表されたスーパーコンピュータ処理性能に関する国際ランキング「TOP500」では、2位に対して約3倍の性能差をつけ、世界1位となりました。

「富岳」の製造が開始されたのは、2019年4月。石川県にある富士通ITプロダクツ(FJIT)の工場で製造がスタートしました。同年12月から理化学研究所の計算科学研究センター(兵庫県神戸市)に、FJITで製造された約400台の計算機ラックの搬入が開始され、2020年5月中旬、全ての計算機ラックの製造と搬入が完了しています。

「富岳」の製造も、一般的なPCの製造も基本的な工程は同様です。但し、「富岳」はスパコンだけあって、搭載するCPUの数や部品点数等「規模(スケール)」が全く違います。例えば、通常のPCは心臓部であるCPU(演算装置)が1個だけですが、「京」では8万個、「富岳」には、「京」の約2倍にもなる15万個以上が搭載されています。

「15万台以上のPCが連結」しているのが「富岳」

「富岳」は、1つのマザーボードにCPUを2つずつ載せ、1つの計算機ラックを192枚のマザーボードで構成。つまり、1つの計算機ラックには384のCPUが搭載されています。そのラックが約400台で、合計15万個以上のCPUを持った「富岳」が構成されています。言わば、15万台以上のコンピュータが連結しているのが「富岳」です。

しかも、演算処理を行うCPUコアは「京」の8コアから48コアまで増え、その集積度やプリント板の実装密度等も向上しています。

これだけ多くのCPUを連動しながら動かして超高速に計算処理をするためには、CPUの能力だけではなく、それぞれのCPUを連動させるためのネットワークの仕組みも必要となります。ラック同士を繋ぐ接続ケーブルも膨大な量が必要です。

ほかにも、接続部品等の微小な部材も搭載されたため、部品総点数は「京」の1.9倍までに増大。そのため、より多くの組み立て工程の作業が必要とされました。加えて、膨大な点数の部品を在庫にしたり、組み立てたりするスペースを確保するといった工夫も求められました。

さらに、出荷開始から搬入完了まで、「京」では10か月でしたが、「富岳」ではわずか7か月間で行うことができました。

製造開始当初からトップスピードで製造した「富岳」

この「富岳」の製造を行ったのが、富士通のコンピュータシステムの基幹工場であるFJITです。FJITは、富士通のコンピュータシステムの基幹工場として、メインフレームやUNIXサーバ、基幹IA・スパコン等の中規模以上のサーバやストレージシステム等を製造しています。「富士通生産方式(FJPS)」を採用したものづくりの一大拠点です。

FJPSとは、「トヨタ生産方式(TPS)」をベースに富士通の得意なICTを取り入れたもので、カイゼンとICTを融合した富士通グループ独自のものづくり方式です。製造工程の稼働状況の可視化や自動化等によって、製品の品質や生産性の向上等に役立てています。

「わずか7か月で製造する」という目標に対し、FJITでは、FJPSにさらに独自のアレンジを加えました。約2年かけて試作機の生産や生産ラインの構築等の量産準備を進め、それにより他の製品の製造に影響を与えることなく、「製造開始当初からトップスピードで富岳を製造する」ことを可能にしたのです。

効率的な「富岳」の製造を可能にした工夫とは?

これまでのPCやサーバの製造と比べると、今まで経験したことのない規模とスピードでの対応を迫られることになった「富岳」の製造ですが、製造にあたっての解決すべき課題はそれだけではありませんでした。

従来よりも多くの部材点数と製造スペースが必要となったため、「富岳」製造ラインには様々な工夫が施されました。例えば「在庫部品搬送の最適化」です。多くの部品や物品を持ち運ばれる現場では、作業スタッフの動向や突然の状況変化等によって最適な搬送ルートが常に変化します。

そのため、その都度のタイミングで最適な経路を瞬時に計算する必要がありました。そこでFJITが取り入れたのが、富士通の量子コンピューティング技術「デジタルアニーラ」です。

デジタルアニーラは、現在の汎用コンピュータでは解くことが難しい「組合せ最適化問題」を高速に解く技術です。部品を効率よくピッキングするためには、これまで作業者の経験に頼る部分が多くありました。経験の浅い作業者の場合、どの棚にどの部品があるのかを判断することが難しく、部品搬送にかなりの時間がかかります。

FJITでは、デジタルアニーラによって必要な部品をピックアップする最適な動線をタブレット上にマップ表示し、そのタブレットを確認しながら作業者が部品を搬送することで時間の短縮を可能にしました。

1か月70台ペースで約400台をスケジュール通りに製造

さらに、CPUや電子部品のはんだ付け、シェルフ・ラックの組み立て等の一部の手作業を除き、組み立ての製造ラインの多くを自動化しました。例えば、「マザーボードのバックパネルへのネジ締め作業の自動化」です。

従来は難しかったアームロボットでの作業についても、視覚センサーを利用してリアルタイムにデータ収集すること等で、より細かい作業を確実に実施できるようにしました。

写真 : ロボットを活用した「ガイドピン組立」の例(画像提供:富士通ITプロダクツ)

ロボットを活用した「ガイドピン組立」の例(画像提供:富士通ITプロダクツ)

その他にも、各工程で部品の良否を判定する確認作業を強化しました。従来の目視検査に加えて、画像認識技術を活用した外観検査機でのチェックにより品質の確保に努めました。

はんだ付けをしたプリント版のユニット検査では、外観検査機が不良と判定した箇所を目視検査機で最終的な良否判定を実施。シリアルナンバーで管理されているプリント板を間違いなく検査するため、ICTによって外観検査機と目視検査機とを連動させています。

さらに、品質を確保した上で、手戻りを発生させないことにも注力しました。これら様々な工夫により、1日当たりの生産量を「京」の時よりも大幅に向上させ、1か月当たり計算機ラックを70台のペースで製造。この結果、スケジュール通りに「富岳」を製造することができました。

「富岳」が設置される計算機室と同じ環境で、徹底的に動作検証

計算機ラックは製造しても、そのまま出荷できる訳ではありません。約400台もの計算機ラックで構成される「富岳」では、現地で計算機ラックを組み立てた後に、万が一、不具合が発見されると、その対応に膨大な時間と労力がかかってしまいます。

そのため、出荷前の計算機ラックの検証はとても重要な意味を持ちます。出荷前の試験では、まずはCPU単位での試験によって良否判定を行い、40時間をかけて部品の動作確認を実施しました。品質検査工程では、そこから吐き出される処理結果データは膨大な量になるため、FJITでは、障害解析や修理フロー等にも自動化の仕組みを導入しました。

計算機ラックの動作検証では、実際に「富岳」が設置される理化学研究所の計算機室と同じ環境で検査しました。

このように「富岳」の製造では、短い納期で確実に製造するための工夫が多くなされています。そこには、富士通グループがこれまで培ってきた経験やノウハウを結集し、加えて最先端のICT技術との融合がもたらした結果だと言えます。

万全に製造準備を進めてきた「富岳」ですが、予想もしなかった事態に遭遇してしまいます。新型コロナウイルス感染症の拡大によって製造停止リスクが発生したのです。
後編では、「富岳」の製造や理化学研究所への搬入等の様子を交えながら、そうしたトラブルをどう解決していったのかについてお伝えします。

FUGAKU NEWS vol.4 「富岳」製造
(出典:理化学研究所 ビデオギャラリー)

(注1)スーパーコンピュータ「京」と「富岳」とは?
超高速で膨大な計算ができる計算機が、スーパーコンピュータです。「富岳」は、スーパーコンピュータ「京」の後継機です。「京」の名は1秒間に1京(10の16乗)回の計算ができることに由来します。「京」は世界性能ランキングのTOP500で2011年6月と11月に1位、Graph500では2014年以降、通算10期(連続9期)1位に輝きました。最大で「京」の100倍のアプリケーション実効性能を目指す「富岳」には、FACOMに始まる富士通コンピュータ開発の知識と経験も結集しています。

「富岳」とは“富士山”の異名で、富士山の高さが性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがユーザの拡がりを意味しています。医療だけでなく災害・エネルギーや持続可能性といった社会課題解決、新発想のものづくり、宇宙や生命の謎の解明、それらを助けるAIやロボット研究等の世界最先端技術を結集した「富岳」は現在も多くの挑戦を続けています。