生活とビジネスを変えるサブスクリプション【後編】

メインビジュアル : 生活とビジネスを変えるサブスクリプション【後編】

目次


前編の続き)

消費者にとって魅力的なサブスクサービスとは     

好みの商品やサービスを、いつでも、好きなだけ定額で利用できるサービスの利用形態、サブスクリプション(サブスク)は、動画や音楽の配信だけでなく、交通機関の利用、クルマやブランド品の利用、食事の提供等多方面に広がってきました。中には、これまでの業界構造や商習慣を一変させてしまうほどの成功例も出てきています。 

多くの人が利用する、魅力的なサブスクサービスとは、どのようなものなのでしょうか。成功しているサブスクサービスの特徴を整理すると、以下のような4つの成功要因が浮かび上がってきます。これらは、現代の消費者の価値観や行動様式を映したものだと言えそうです。

図 : サブスクの成功例から見た4つの成功要因

サブスクの成功例から見た4つの成功要因

  • 「所有」よりも「利用」で価値を感じる

まず、「所有」よりも「利用」に、ユーザが価値を感じる商品を見つけることが重要になります。例えば、通勤や買い物等日常の足として利用するクルマは、移動手段として利用することに価値があり、サブスクに向いています。一方、ステータスシンボルとしてのクルマは、所有することに価値がある面があり、サブスク向きとは言えません。市場と消費者をユーザ目線でよく観察して、こうした違いを見極める必要があります。

  • 価格変動が大きな商品を定額利用

次に、利用状況や経済状況の変化で、利用代金の負担が大きく変動する可能性がある商品やサービスの利用を定額化するとインパクトのあるサブスクサービスになるようです。経済学者の研究によると、商品やサービスの利用料金を都度払いと定額払いのいずれからか選べる場合、多くの消費者が定額料金を選ぶ傾向があると言います。スマートフォンの料金プランでは定額料金を選ぶ人が多いのは、たとえ動画のような大容量コンテンツの視聴や、経済状況の大きな変化があっても、経済的負担を最小限に抑えて安心感を得たいからです。

  • 顧客体験のマンネリ化を防ぐ仕掛け

また、提供するサービスから常に新鮮な顧客体験が得られるよう、サービス内容をアップデートしてマンネリ化を防ぐ仕掛けが必須です。当初は多くのユーザを集めていたサブスクサービスが、飽きられたり、繰り返しの利用によってサービス価値が目減りしたりして失敗に至るケースがあるようです。利用履歴やアンケート調査等のデータを継続収集し、提供するコンテンツやサービス内容を改善させ続ける必要があります。

  • パーソナライズしたサービスを提案

さらに、一人ひとりのユーザのニーズを把握し、それぞれにパーソナライズしたサービスを提案していく仕組みも欠かせません。ユーザそれぞれのニーズは千差万別であり、一律のサービス提供では、いずれ満足できる顧客体験が得られないからです。ここでも、データを通じて個々のユーザの利用動向を把握し、求めるサービスを先回りして提案していく仕組みが求められます。

サブスクによって豊かな生活と効率的なビジネスが実現

いまやサブスクは、商品やサービスの提供を考える際に、必ず検討すべきビジネスモデルになりつつあります。先進的なサブスクの実践例をいくつか紹介します。

高級ブランド品の普段使いという新市場を創出

ラクサス・テクノロジーズでは、月額6,800円で高級バッグ借り放題のサービス「ラクサス」を提供しています。エルメスやプラダ等の高級ブランドのバッグのうち、通勤等での日常使いもできる商品を中心に品揃えして、定額借り放題にしました。日頃からブランド品に囲まれた富裕層を除いて、これまで普段使いという市場はありませんでした。サブスクによって、高級ブランド品に新市場を創出することに成功した訳です。同社では、定期的にアプリ上でユーザの好みを調査し、そのデータに基づいて効率的な商品調達をし、さらには利用率を高めるためAIで分析したユーザ一人ひとりの好みに応じた商品を勧めています。こうした仕組みの成果で、会員の平均継続率は95%と極めて高いようです。

豊かで効率的な生活をプロデュース

東急グループでは、移動手段と娯楽・食事を一体化したサブスクサービス「東急線・東急バス サブスクパス」の実証実験を2020年3月~5月に実施しました。グループ内企業の鉄道やバスの乗車、映画館での鑑賞、そば屋での食事を一定期間、定額料金で利用し放題にしたサービスです。日本の鉄道会社は、鉄道の運行だけでなく、都市開発やスーパーのような生活サービスを手がけている所が沢山あります。消費者の生活全体をプロデュースできる立ち位置にいるため、総合的サブスクサービスを提供することで、豊かで効率的な生活の実現を支援できる可能性がありそうです。

初期投資無しで工場をスマート化

産業機器用の精密部品メーカーであるTHKは、機械の中で動き続けていることで疲労・故障する部品の状態を常時監視するサービス「OMNIedge」を提供しています。産業機器を故障することなく動かすためには定期点検が欠かせません。しかし、点検個所が大きな機械の奥にある例も多く、工場全体を停止して機械を分解し、確かめる必要がありました。同社のサービスでは、点検個所にあらかじめセンサーを設置し、稼働時データを常時モニタリングして、故障の予兆がある場合にだけ対処できるようにしました。しかも、モニタリングに必要なセンサー、ネットワーク機器、通信費用、データ解析費用等をパッケージ化してサブスク化。初期費用無しで利用可能なため、工場のスマート化を加速するビジネスモデルとして期待されています。

商品企画の常識をサブスクが変える   

これまで消費者を対象にした製品やサービスを企画する人は、より多くの人の好みに合わせようと、商品企画が無難になる傾向がありました。尖った商品は、どうしても購買層が限られると考えるからです。これがサブスクでの商品提供を前提にすることで、商品企画の視点がより挑戦的なものへと変わる可能性が出てきています。

定額で利用し放題のサービス提供ならば、ユーザ側も冒険的な商品やサービスを利用しやすくなります。既に動画配信サービスでは、地上波のテレビ放送では扱えない攻めた内容の作品を自主制作し、そこから新たなトレンドを生み出すヒット作品が登場するようになりました。そして、そのことが動画配信サービスの価値を高める要因にもなっています。

また、売り切りでは買わない商品や都度払いでは試すことさえないサービスを利用する人も増えそうです。着こなしが難しい個性的な服や興味本位で試してみたくなるような家電製品等、ニッチな商品開発が魅力的ビジネスに変わっていく可能性がありそうです。

著者情報
木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。      

伊藤 元昭

エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社。日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。