生活とビジネスを変えるサブスクリプション【前編】

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そもそも“サブスクリプション”って何?

スマートフォンの「データ通信し放題」や「動画見放題」「音楽聴き放題」、さらには「ラーメン食べ放題」等……。最近、「〇〇し放題」というセールスコピーがつけられたサービスを目にする機会が増えました。

これまでにも、1日中アトラクションを楽しめる遊園地やレストランでのビュッフェ、バスや鉄道の1日券のように、短期・短時間の〇〇放題はありました。ところが、最近では1カ月、1年と長期にわたって、従来は購入しないと使えなかった商品や都度払いで受けていたサービスを、好きな時に、必要なだけ定額料金で利用できるサービスが次々と登場してきています。こうした、一定期間の利用権を提供するビジネスモデルのことを“サブスクリプション(サブスク)”と呼んでいます。

現在、サブスクで提供されるサービスの分野は、急激に増え続けています。動画や音楽コンテンツの配信サービスから、クルマやバッグ、衣料のような日用品や食べ物のような消費物、さらにはビジネスの基幹業務を行うITシステムまで、様々な業界・業種の企業がサブスクでのサービス提供を始めています。矢野経済研究所の調査によると、サービス分野の拡大と利用者の増加によって、2018年度のサブスクの国内市場規模は5627億円となっており、5年後の2023年度には9000億円近くまで成長すると予想されています。

ユーザ目線で進化し続けるサブスク

サブスクの最大の特徴は、ユーザの好みや都合、目的に合わせて、定額で自由にサービスを利用できる点です。そして、「サブスク1.0」から「サブスク2.0」「サブスク3.0」と、ユーザにとってより使い勝手のよいビジネスモデルへと進化しています。

図 : ユーザ目線で進化するサブスク

ユーザ目線で進化するサブスク

サブスク1.0は、「まとめ買いによる商品やサービスの割引購入」のことを指します。この段階では、消費者一人ひとりの好みは反映されず、売り手側の裁量で提供する商品やサービスの内容が一律で決められます。その代表例は、果物屋さんでの「いちご一山500円」といったまとめ売りです。お客さんのお得感を演出しながら、大量仕入れ大量販売による集客増や経営の安定といったお店のメリットを追求するものです。確かに、商品単価は安いのですが、必ずしも、買いたいモノが、必要な量だけ売られている訳ではありません。同様のサブスク1.0の例としては、新聞の朝夕刊セット等が挙がります。

サブスク2.0とは、「消費者が求める“コト”を、定額で実現するサービスの提供」です。サブスク1.0との最大の違いは、消費者が所有する“モノ”を販売するのではなく、「興味を満たしたい」「目的地まで移動したい」「仕事を効率よくこなしたい」といった消費者一人ひとりの本質的な要求“コト”を実現するためのモノやサービスの利用権を提供する点にあります。動画見放題サービス「Netflix」やオフィスソフトの定額利用サービス「Microsoft 365」がサブスク2.0の代表例だと言えます。さらには企業で利用するITプラットフォーム等のサブスク提供も始まりました。例えば富士通の「FUJITSU Hybrid IT Service」では、デジタルトランスフォーメーション(DX)で活用できるクラウドやセキュリティ等、各種の業務サービスをパッケージ化し定額で提供しています。そしてサブスク2.0では、ネットを通じてユーザのサービス利用履歴のデータを収集することで、よりよい顧客体験が得られるサービスの設計に利用されています。

サブスク3.0は、「パーソナライズした双方向型または提案型のサービス提供」を目指す近未来のビジネスモデルです。ユーザ一人ひとりの消費状況や好みの傾向を把握して、魅力的な内容のサービスを提供できる環境を整えて、ユーザの満足度とお得感を高めることを目的としたものです。既に、定額で高級ブランドのバッグを利用できるサービス等実践例が登場しています。

サブスク3.0を実現していくには、ユーザの消費状況や好みの傾向をいかに把握するかが、とても大切になります。ネットを通じて利用履歴を把握するだけでなく、提供する製品に取り付けたセンサー等を通じて商品の利用状況をデータとして収集し、人工知能(AI)等を使って解析して、ユーザの消費状況や好みを洞察します。

サブスクはユーザとサービス提供者の双方にメリットがある

現在は、サブスク2.0が急増し、サブスク3.0のサービスを始める先進的な企業が登場し始めた段階だと言えます。こうした、新しいビジネスモデルが多くの業界・業種に広がり、市場が拡大し続けている理由は、ユーザ側とサービス提供者の双方に現在の時代観や市場環境に合ったメリットがあるからです。

まず、ユーザにとっては、いつでも、好きなだけ利用できるというサブスク2.0以降のサービス価値が、いまどきのライフスタイルに合っています。SNS等を通じて、流行や売れ筋商品のトレンドがコロコロと変わる時代になりました。しかし、よほどのお金持ちでもない限り、目まぐるしく変わる流行についていくことはできません。しかし、高額の商品やサービスでも初期費用無しで利用可能なサブスクサービスならば、興味を持ったその時に気兼ねなく利用できます。サブスクは、衝動的な興味や欲望をタイムリーに叶える一種の保険として、消費者には安心感とお得感のあるサービスに映っているのです。

一方、サービス提供者にとっては、顧客と継続的に繋がっていけるメリットがあります。現在の消費者は、価格比較サイトやSNS等を通じて、商品やサービスの価格や内容をシビアに比較して、その都度最適な購入先を選ぶようになりました。このため、固定客の獲得が困難になってきたのです。さらに、消費者は必ずしもモノの所有にこだわらなくなり、そうした消費者傾向に合った新たなビジネスモデルが必要でした。サブスクならば、ユーザと継続的に繋がり、お得意様にできます。しかも、ユーザ一人ひとりの消費傾向や好みに関するデータが多く集まるため、サービス品質を上げやすくもなります。

後編では、魅力的なサービスを提供する条件や今後サブスクがどのように生活やビジネスを変化させていくかをご紹介します。

著者情報
木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。

伊藤 元昭

エンライト 代表

1989年東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 材料科学専攻 修士課程修了。同年、富士通に入社。人工衛星搭載用の耐放射線デバイス、SOIデバイスの研究開発に従事。1992年、日経BP社に入社。日経マイクロデバイス、日経エレクトロニクスの記者として、半導体、電子部品の業界・技術に関する記事を執筆、1997年編集委員、1998年副編集長。2003年より、三菱商事と日経BPが合弁で設立したコンサルティング会社、テクノアソシエーツ プリンシパル 技術戦略担当として、電子・機械分野の事業・技術戦略のコンサルティング事業に従事。2007年、日経エレクトロニクス、日経マイクロデバイスにて、編集委員、副編集長。2009年、電子・機械局広告に企画編集委員として転属。2014年、日経BP半導体リサーチ 編集長。同年、株式会社エンライトを設立。