【北米通信】コロナショックの社会変化をとらえた新たなスタートアップが続々登場

メインビジュアル : 【北米通信】コロナショックの社会変化をとらえた新たなスタートアップが続々登場

無敵とも思われたテクノロジー業界が大きな打撃を受けています。シリコンバレーをはじめとする北米のテクノロジー企業においても、レイオフ(一時解雇)等コロナショックが避けられていない中、すでに次の動きが芽生えています。ニューノーマルに照準を合わせたテクノロジーやビジネスモデルが模索されているのです。

目次


注目領域は医療関連やwithコロナを意識した健康管理

当然のことながら、医療関連、オンライン診察、医薬品開発、テストキット開発等は注目領域です。例えば、LetsGetChecked(レッツゲットチェックト)というスタートアップは、新型コロナウイルスをはじめ、多様な検査を自宅で行えるキットを開発しています。新型コロナウイルスに関しては、キットの価格が129ドル。キットは1〜2日で手元に届き、検体は同社ラボでの検査結果が出てから24時間以内にスマートフォンに送られてきます。

写真 : Kinsaが提供するスマート体温計とそれに対応したアプリ(Kinsaのプレスリリースから)

Kinsaが提供するスマート体温計とそれに対応したアプリ(Kinsaのプレスリリースから)

それ以外にも、スマート体温計を開発するKinsa(キンサ)というスタートアップは、体温計の情報を元に個々人の症状に合わせたガイダンスを与えたり、地域の集合的な発熱状況が分かったりするプラットフォームを開発しており、今後感染症が頻繁に起こるような時代に有用となる仕組みと言えます。

また、ユニークな所では、HabitAware(ハビットウェア)というスタートアップが、腕の動きを認知し顔を触ったりする癖が出るとアラートするウェアラブルを開発しています。さらに、VergeSense(ヴァージセンス)は、オフィスの天井に設置するセンサーによって、室内の人数を数えたり、利用状況によって清掃の必要性をアラートしたりする仕組み等を統合しています。このようなテクノロジーは「Occupancy Management(利用率管理)」と呼ばれ、空間内の人の数をコントロールするのに有用でしょう。オフィス以外にもレストランやスタジアム、劇場等でも役立ちそうです。

成長する新領域を整理し、新たなテクノロジー開発を呼びかけ

コロナ禍によって社会が求めるものも激変しましたが、スタートアップを育成するアクセラレータでは、成長する新領域を整理して、新たなテクノロジー開発を呼びかけています。例えばシリコンバレーのPlug and Play(プラグアンドプレイ)では、ヘルステック、サプライチェーン、エンタープライズ、小売、フィンテック、旅行等の領域を挙げており、そのそれぞれで目新しい視点を加えています。

例えばサプライチェーンでは「ソーシャルディスタンシング管理」「労働者不足管理」「緊急事態時の閉鎖下でのスケールアップ」、小売ならば「ライブビデオショッピング」「AI利用の体温モニタリングとビデオ分析」、旅行ならば「旅行中止の管理」といったものです。なるほどと思わせるピンポイントな開発が期待されます。

写真 : Plug and Playのテックセンター。同社はスタートアップの育成を行っている(Plug and Play提供)

Plug and Playのテックセンター。同社はスタートアップの育成を行っている(Plug and Play提供)

また、ベンチャーキャピタル会社のSOSV傘下のアクセラレータであるIndieBio(インディーバイオ)も、コロナ後をにらんだスタートアップをすでに選び出しています。何社かを紹介しましょう。renegade.bio(レネゲードバイオ)は、RNA抽出を必要としない新型コロナウイルス感染テストの改良方法を編み出しました。コストでは70%安く、スピードもCDC(米疾病対策予防センター)の標準テストと比較して2倍という成果を出しています。医療関係者や地方政府関係者、警察官等大規模なテストが必要な場面ですでに利用されています。Verdex(ヴァーデックス)は、マスク用の新素材を生み出しました。ナノファイバーと固有に開発された樹脂を組み合わせた素材は、100nm以下の物体やウイルスを透過させないものと言います。

素早く動いたのは、スタンフォード大学のStartX(スタートエックス)も同様です。StartXは、スタンフォード大学発のスタートアップを支援する組織ですが、3月なかばに「COVID-19タスクフォース」と銘打って、スタートアップ、教授陣、研究者らが協力して新型コロナウイルスと戦うための予防、診断、治療に照準を合わせたソリューションの開発と実用化に取り組み始めました。同タスクフォースには主に医療関連のスタートアップ40社が関わっており、開発中のテクノロジーや手法を即座に現場に繋げることを目指しています。

ニューノーマル時代に向けて、予想を超えた新陳代謝がはじまっている

スタートアップはそもそも時代のニーズに呼応していることが求められます。今回のような突然やってきた医療や社会の変化にも敏速に対応する所こそ、アジャイルさを特性とするスタートアップ精神の賜物と言えます。

新型コロナウイルスの脅威は、まだまだ収まっていません。今後数年間は、その戦いは続くはずで、人々は新しい社会や生活様式を築いていくことでしょう。そのようなニューノーマル時代に、テクノロジー界がどう対応していくのか。予想を超えた新陳代謝が、まさにグローバルで起ころうとしています。

著者情報
瀧口 範子

フリーランスの編集者・ジャーナリストとして、シリコンバレーに在住。テクノロジー、ビジネス、政治、国際関係や、デザイン、建築に関する記事を幅広く執筆する。さらに、シリコンバレーやアメリカにおけるロボット開発の動向についても詳しく、ロボット情報サイトrobonews.netを運営して情報発信を行っている。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?』(プレジデント社刊)、『行動主義:レム・コールハースドキュメント』(TOTO出版)、『にほんの建築家:伊東豊雄観察記』(ちくま文庫)、訳書に『人工知能は敵か見方か』(日経BP社)、『ソフトウェアの達人たち』(ピアソンエデュケーション刊)等がある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996〜98年にフルブライト奨学金を受け、スタンフォード大学コンピュータ・サイエンス学部に客員研究員として在籍(ジャーナリスト・プログラム)。

林 哲史

日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。