【北米通信】シリコンバレーのハイテク企業の明暗を分けたコロナショック

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世界を襲ったコロナ禍。この影響は、シリコンバレーをはじめとするテクノロジー企業にとっても他人事ではありませんでした。社会の問題を解決するはずのテクノロジーが新型コロナウイルスには全く太刀打ちできなかったばかりか、無敵とも思われたテクノロジー業界が大きな打撃を受けています。コロナ禍のピークが過ぎ去ろうとしている現在、テクノロジー業界では調整と再編成の時期を迎えていると言えます。

目次


UberやAirbnbもレイオフ(一時解雇)せざるを得ない事態に

ショックだったのは、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアービーアンドビー)のような、新しい需要と働き方を生み出してテクノロジーと社会の新時代を築いていた企業が、新型コロナウイルスの環境下ではなすすべなく後退するほかなかったことです。Uberでは、ドライバーを担っていたギグワーカー達はもちろんのこと社員もコロナ禍の犠牲になり、2020年5月20日までに世界中で7000人近くがレイオフされています。Airbnbでも、同年の5月初めに全社員の25%に当たる1900人がレイオフされました。両社はウェブサイトにレイオフされた社員の名前、肩書き、技能を掲載、「タレントディレクトリ」と称して元社員の再雇用を後押ししています。

写真 : 1億5000万人以上の会員数を誇るYelpも、外食等が規制される中で、レイオフを行わざるを得なかった

1億5000万人以上の会員数を誇るYelpも、外食等が規制される中で、レイオフを行わざるを得なかった

明らかに負け組となってしまったのは、旅行系、移動系、シェア系のテクノロジー企業ですが、それ以外にもレストラン情報のYelp(イェルプ)、クーポン発行のGroupon(グルーポン)、イベント情報のEventbrite(イベントブライト)等よく知られた企業も、間接的な影響を受けてレイオフを行っています。また、歴史の浅いスタートアップの場合は、ビジネスモデルが時代にそぐわなくなった、資金が集められなくなったといった理由でレイオフを行なったり閉鎖したりした所も少なくありません。テクノロジースタートアップ全体では、2020年3月11日以降5月末までに世界の475社で6万1260人がレイオフされています(Layoffs.fyiによる)。

大躍進したZoom、ビデオ会議の利用者は30倍に

写真 : 在宅勤務が増えたことによりビデオ会議ツールのZoom利用者は急増した

在宅勤務が増えたことによりビデオ会議ツールのZoom利用者は急増した

一方、勝ち組はと言えば、外出禁止系、在宅勤務系です。予想通りではありますが、家にいてもできること、家にいなければならないからやりたいこと、時間ができたのでついにできること、リモートワークに必要なツールといった領域が利用を伸ばしました。

ビデオ会議ツールのZoom(ズーム)は、当初セキュリティ問題で批判を受けたものの、5月末時点で日々3億人が世界中でZoom会議に参加していると言います。参加者数は昨年12月には1000万人でしかありませんでした。Zoomの使いやすさに対する人気を追って、
MicrosoftやGoogleが自社のビデオ会議ツールに大きな改良を加えたことは特筆すべきでしょう。また、ほとんど無名だったHouseparty(ハウスパーティー)というグループビデオアプリも、通常の70倍のダウンロード数を記録したと言います。

ほかにも、Netflix(ネットフリックス)は直近の四半期でサブスクライバーを1600万人増やし、同社自身が予想していた700万人を大きく上回りました。同様の追い風を受けたのは半年前にサービスを開始したDisney+(ディズニー+)で、アメリカでは受容度が25%アップ、世界中のサブスクライバーは5450万人に達しました。Disney+は、新しくビデオストリーミングに加入するユーザの間で1番人気があるという調査結果も出ており、コロナ禍を機にNetflixにとっては脅威となる存在として躍り出てきたと言えます。

ストリーミング音楽でも、Spotify(スポティファイ)が市場の予想を上回る600万人の新たな有料サブスクライバーを獲得し、有料サブスクライバーの総数は1億3000万人になりました。同社のサービスは、コロナ禍の初期には利用が減ったものの、家族向けパッケージへの加入が増えたほか、同社がコロナ禍中を過ごすための様々なプレイリストを提供し、状況への対応力が功を奏したと思われます。そして、オンラインゲームの売り上げも今年は35%増加が見込まれています。

単純に勝ち組とは言えないGAFA

写真 : Amazonは売上増に伴い社員を増やしたが、コロナ禍対策により利益は減っている

Amazonは売上増に伴い社員を増やしたが、コロナ禍対策により利益は減っている

さて、レイオフが吹き荒れる中で採用を増やしているのが、AmazonやFacebookで、他社でレイオフされた社員を雇い上げています。Facebookは1万人の新しいポジションをエンジニアリングと製品開発で作るとし、Amazonは何と17万5000人の採用を行うとしています。Amazonの場合は倉庫作業員が中心ですが、それだけオンラインショッピングの需要を集めていることが伺えます。

4月末に発表されたAmazonの直近四半期の業績報告によると、売り上げは前年度より26%伸びて755億ドルとなったものの、顧客の需要に応えるための費用がかさみ利益は29%減の25億ドルとなりました。また今後もコロナ禍対策のコストに40億ドルを費やすとしており、単純に勝ち組とは言えない状況かもしれません。人々の新しい生活習慣ともなった食料品のオンライン購入では、Walmart(ウォルマート)やInstacart(インスタカート)がAmazonの売り上げを超えていることも報告されています。

Googleの親会社であるAlphabet(アルファベット)の業績は、前年度から13%増の412億ドルで、利益は68億ドル。ただ、今年1〜2月は好調だったもののコロナ禍が本格化した3月以降は、オンライン広告の売り上げが落ち込んでいることが明らかで、今後の業績は予断を許しません。同様の懸念はFacebookにもあり、2020年第1四半期の売り上げは18%増の177億4000万ドルですが、今後数カ月の見通しは明確ではありません。

勝ち組企業もwithコロナ時代に考慮すべきこと

これらテクノロジー企業大手は、今後も在宅勤務の規模を拡大すると言われています。これらの企業に勤める社員は、これまで出社していた際は、食堂やスポーツジムが社内にあったために、充実した会社ライフを過ごしていました。一方現在は、食費やスポーツジム費用は自分持ちとなっており、その待遇は決して厚遇ではなく、それを不満に思っている社員もいるようです。こういったコロナ禍による社員の不満の鬱積に関しても、企業は気を配る必要があります。

著者情報
瀧口 範子

フリーランスの編集者・ジャーナリストとして、シリコンバレーに在住。テクノロジー、ビジネス、政治、国際関係や、デザイン、建築に関する記事を幅広く執筆する。さらに、シリコンバレーやアメリカにおけるロボット開発の動向についても詳しく、ロボット情報サイトrobonews.netを運営して情報発信を行っている。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?』(プレジデント社刊)、『行動主義:レム・コールハースドキュメント』(TOTO出版)、『にほんの建築家:伊東豊雄観察記』(ちくま文庫)、訳書に『人工知能は敵か見方か』(日経BP社)、『ソフトウェアの達人たち』(ピアソンエデュケーション刊)等がある。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。1996〜98年にフルブライト奨学金を受け、スタンフォード大学コンピュータ・サイエンス学部に客員研究員として在籍(ジャーナリスト・プログラム)。

林 哲史

日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。