【中国Watch】ニューノーマル時代への挑戦、中国が掲げる経済対策「新基建」とは?

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中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が、2020年5月22~28日の日程で開催されました。全人代のメインとも言われる「政府活動報告」は、昨年の中国政府の成果等を回顧するとともに、今年の経済目標をどのように設定するのか、そのためにどんな施策を打つのか等を、首相自らが発表します。今回、その中で、李克強首相が重点的に投資する具体的な項目として挙げたものが「新型基礎設施建設」です。新型基礎設施建設は略して「新基建(シン・ジー・ジェン)」と呼ばれます。日本語に訳すとすれば「新型インフラ建設」あたりが妥当でしょう。新型コロナウイルスによってダメージを受けた中国の経済復活のキーワードとして、新基建は中国ウォッチャーの注目を集めています。

目次


産業のデジタル化を支える新型インフラ建設「新基建」

新基建を新型インフラ建設と訳しましたが、ここで言う新型とは何のことでしょうか。鉄道や道路、空港、橋梁等、いわゆる人が生活するために必要となる「ハード」を中心としたものが旧型のインフラ。これに対して、新型は産業の「デジタル化」を支えるインフラを意味しています。

産業のデジタル化を支えるインフラについては、中国政府の中核組織である国家発展改革委員会が、2020年4月20日に開催した記者会見において明確にしました。新基建の範疇にあるインフラには3種類あります。1つは5Gを代表とする通信ネットワークやAIを代表とする新技術、さらにはデータセンターを代表とするコンピュータインフラを包括する「情報インフラ」。2つ目は、既存のインフラにデジタルを融合させた、例えばスマート交通やスマートエネルギーに代表される「融合インフラ」。そして最後は研究開発や科学教育等を支えるための「イノベーションインフラ」の3分野です。

「情報インフラ」「融合インフラ」「イノベーションインフラ」の3つと言っても、まだ具体的なイメージがつかめないかもしれません。但し、ここで注目すべきなのは、中国政府において各産業の管理監督を手掛け、公共事業の許認可を行う等経済政策全体に強い権限を持つ国家発展改革委員会が、新基建の概念を明確にしたことです。これによって、今後の政策には新基建を中心に据えることを、政府が意思表明したと考えられます。

18兆円を超える投資が予測される7つの分野

新基建には現在、7つの重点分野があるとされるのが一般的です。その7つとは、「5G」「AI」「ビッグデータセンター」「産業インターネット」「超高圧送電線」「都市間鉄道」「新エネルギー車の充電スタンド網」。いずれも急成長が期待される新分野であり、2020年の投資額はこの7分野で1.2兆元(約18兆円)を超えると、中国銀行研究院が予測したほどです。

図 : 中国政府が本腰を入れる経済対策「新基建」の3つのインフラ領域と7つの重点分野。以前は上記の7つから「超高圧送電線」と「都市間鉄道」を除いた5分野とする向きもあったが、現在は7分野とするのが一般的

中国政府が本腰を入れる経済対策「新基建」の3つのインフラ領域と7つの重点分野。以前は上記の7つから「超高圧送電線」と「都市間鉄道」を除いた5分野とする向きもあったが、現在は7分野とするのが一般的

「新基建」は新型コロナウイルスで失速した中国経済を立て直す切り札

新基建について初めて中国内で言及されたのは、2018年末に開催された中央経済工作会議においてです。中国政府が年末に開催する中央経済工作会議は、現在の情勢を鑑みたうえで、翌年の経済政策運営の基本方針を決めるために開きます。この会議において、「新基建を強化する」ことが提案されました。この基本方針を受けて、2019年3月に開催された全人代の「政府活動報告」や2019年7月に開催された中央政治局会議等でも、「新基建の強化」に触れられてきました。

一気に注目を集めたのは、新型コロナウイルスによって失速した中国経済を立て直すべく、様々な方針が打ち出される中で、頻繁にその名前が強調されるようになったからです。2020年2月23日に開催された「新型肺炎疫病防止と経済社会発展推進工作会議」で、習近平国家主席が参加する中、その強い潜在力を推進するように方針が示されました。さらに同年3月4日に開催された中央政治局会議においても「新基建を加速させる必要がある」との方針が打ち出され、新型コロナウイルス後の経済対策の本命として浮上してきたのです。

なぜ、これほどまでに「新基建」が期待されるのか。そこには、リーマンショックの際に4兆元の経済対策を施した反省があります。リーマンショック後に発動された財政政策は「4兆元投資」と称され、その名の通りに規模が大きく、「世界を救った」と言われるほどでした。その一方で、大規模な財政政策に金融緩和が加わったことによって、余剰な生産能力を生みだしたり、不動産バブルによるゴーストタウンを残したり等、中長期的にみて安定成長をもたらしたとは言い難い側面があります。

世界経済が停滞する間に、デジタル化でグローバル競争力を

一方で、新基建は同じインフラ投資でありながら、「デジタル」といった最先端の技術に立脚した投資で、長期的な技術進歩を進めるためのものであることから、負の遺産となる確率は極めて低いと言えます。また、世界の経済が停滞する間に、新基建で投資を続ければ、この分野での技術面でリードできるため、グローバルに競争力を付けられることになります。米中冷戦が特に深刻となる中で、最先端技術で先を行くことは、隣人のアジア諸国をはじめ多くの国に、中国をアピールできる材料となります。

新基建が表に出だした当初は、その効果に懐疑的な意見も多くありました。旧型インフラと比較してハイテクに立脚しているといっても、地方や省庁がバラバラの重複投資で無駄が出た、数々の過去の失敗と同じ轍を踏むことになるのではないか、等といった意見です。とはいえ、新基建は2015年に指導部が掲げた産業政策「中国製造2025」を推進してきた線上にあるもので、それに加えて新型コロナウイルス後の立て直しという名目を掲げることで、中国経済と技術発展をけん引する存在になったことは間違いないと言えそうです。

著者情報
木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。