DXを推進するポイントは?先進事例から成功への近道を探る【後編】

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アフターコロナ時代に社会の在り方が大きく変わろうとしている中、企業はDXに本腰を入れざるを得ない状況になっています。

前編では、DXで成功している企業から学ぶべきポイントに関して、日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2019年7〜8月に独自に実施した「デジタル化実態調査」(注1)の分析結果を基に、明らかにしました。その結果、ポイントは「DXを推進するための部門・役割の明確化」「確固たる経営戦略を立案し関係者に正しく伝達」「DXを推進するリーダークラスの強い牽引力」の3つであることが分かりました。後編では、これらのポイントについてうまく実践している企業を紹介します。

(注1)調査対象は、国内の大手・中堅企業の情報システム部門の責任者で、約900社のCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、システム部長等から回答を取得。調査内容は『DXサーベイ~900社の実態と課題分析』にて紹介。

目次


IT部門を解体・再編したアクサ生命

最初に「DXを推進するための部門・役割の明確化」を実践している企業を見ていきましょう。

DX推進体制を強化するためにIT部門を再編したのが、アクサ生命保険です。同社は、IT部員370人の意識改革に8カ月費やし、IT部門改革プロジェクト「HAYABUSA」を断行しました。IT部門の組織体制やメンバーの役割、開発プロセスを2018年1月に刷新しました。

従来のIT関連部門を解体し、ビジネス部門とIT関連組織の対応関係が明確になるように再編。IT関連組織を「トライブ(部族)」と呼ぶ単位に分割し、ビジネス部門とIT部門が密に連携し、開発生産性とシステムの品質を高められる体制に移行したのです。

これによって、新商品・サービス向けシステムを対象にアジャイル開発を実践しています。既に新商品の開発期間を約40%短縮する等、IT部門改革で成果を上げています。

また、IT部門に戦略チームをつくり、DXの推進スピードを高めているのがダイキン工業です。同社のIT部門「IT推進部」は、DXの実現スピードを高めるための戦略組織「IT創発G(グループ)」を2015年に立ち上げました。若手や中堅、ベテランの従業員約20人による専任体制で、攻めのITを加速させています。

IT創発Gの役割は2つあります。1つは、先進ITを常にウォッチし、IT活用テーマを迅速に創出・検証すること。もう1つは、事業部門と組んで直接事業に貢献するようなビジネス改革テーマを企画することです。IT創発Gのシステム開発方針は、アジャイルと内製化。比較的小規模なシステムを高速に開発しては、効果を素早く検証し、既存製品・サービスの強化や新たな製品・サービスの創出を急ぎます。

DXのビジョンを18ページの冊子にまとめたJFE

次に「確固たる経営戦略を立案し関係者に正しく伝達」している企業を見ていきましょう。DXに本気で取り組むには、まずDXのビジョンを明確に定義し、社内外に周知徹底していくことが重要であり、これを実践することによって経営陣と現場が一体になれるとも言えます。

JFEホールディングスは2018年に国内鉄鋼業界で初となる「IT REPORT 2018」を公表しました。IT REPORT 2018は、同社のDXビジョンを18ページの冊子にまとめたものです。

IT担当役員のメッセージやJFEスチールの「ITビジョン」等について図表を交えて解説。鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業のIT戦略や具体策等に関する情報を社内外に発信しています。「JFEにとってのDXとは何か」を様々な観点から分かりやすく示し、それを多くのステークホルダーと共有することで、社内やグループ会社との結束力を高めてDXを推進しています。

アサヒグループホールディングスもDXビジョンを独自にまとめている1社です。同社は、新グループ経営理念「Asahi Group Philosophy(AGP)」を2019年1月から施行。事業利益の海外比率が40%近くに高まり、グループ社員の半数以上が外国人になる等、グループ全体が新しい成長ステージに立ったことを踏まえた取り組みです。

そして、AGPだけではなく、DX戦略も策定しました。それが「ADX(Asahi Digital Transformation)戦略モデル」です。ADX戦略モデルは、「新規ビジネス・UX(ユーザーエクスペリエンス)の創出」や「既存事業の拡大」といったイノベーション領域に挑戦していくために必要な要素を体系化したものです。

AGPに明記してある価値観「挑戦と革新」やイノベーション戦略に基づき、「イノベーションプロセス」、「組織・人材・環境」、「テクノロジー」の3分野で具体策を進めます。それによって、「稼ぐ力の強化」と「新たな成長の源泉獲得」を目指す訳です。

リーダー人材をヘッドハンティングした荏原製作所

最後に「DXを推進するリーダークラスの強い牽引力」を実現している企業を見ていきましょう。

自動車関連や環境エネルギー、不動産、金融等多角的に事業を展開するオリックスでは、DXを推進する「デジタルイノベーション促進部」と「データ改革部」を2019年1月に立ち上げました。同部門は、オリックス・グループのデジタル化を横断的に支援するCoE(センター・オブ・エクセレンス)として活動する約30人からなる組織です。

CoEは、横断組織や横断基盤のことを意味します。オリックスの場合、デジタル化に関する人材やノウハウ等を点在させるのではなく部門に集約。そして、それらの知識を持った部員達が、各組織のデジタル化を引っ張っているという構図です。

10年後も通用する情報システム基盤を整備する――。こういった目的を実現するために、外部からCIO(最高情報責任者)をヘッドハンティングしたのは荏原製作所です。2018年12月に入社し2019年4月、同社の情報通信統括部長に就いた小和瀬浩之氏は花王やLIXILでCIOを歴任し、グローバル基幹系システム構築プロジェクトを牽引した人物です。その手腕を高く評価した荏原製作所は、CIO相当職を小和瀬氏に任せることにしました。

DXビジネスを顧客に提供するとともに、自らもDXによって社内改革を進める。このような強い意志をもって、大胆に経営体制を刷新したのが富士通です。富士通では2022年度の目標として、テクノロジーソリューション全体で売上高3兆5000億円、営業利益率10%を目指しています。これを実現するために2つの施策に着手しました。1つが顧客企業のDXを実現する新会社Ridgelinezの設立。もう1つが自社のDXによる改革です。

社長の時田隆仁氏は、社内のDXを進めるためにSAPジャパンで代表取締役社長を務めてきた福田譲氏を執行役員常務CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高DX責任者)補佐として招きました。「業務プロセスからカルチャー等を含めて全面的な見直しに携わり、社内のDX化を牽引してもらいたい」(時田氏)と期待を寄せています。

DXは経営の根幹に関わる全社的な取り組みであるため、経営者が先頭にたって全社を引っ張れるのであれば、それが一番好ましい体系であると思われます。しかし、組織が大きくなればなるほど、細部にまで目が届きにくくなります。その場合は、個の力で突破できる人材を登用したり、あるいは精鋭を集めた部隊を組織したり等して、全体の取り組みを引っ張れる仕組みが重要となります。

自社に足りない点はIT企業に求めるのがDXへの近道

今回は、DXを成功に導くためのポイントを3つ挙げ、先進企業から学びました。その中で具体的なシステムやツール、例えば基幹系システムに代表される既存システムやAI(人工知能)に代表される先端ツールの話はでてきていません。もちろん、これらのシステムやツールの見直しや開発もDX成功のためには重要ですがともするとDXは先端ツールの導入に目が向きがちで、基幹系システムの未整備がDX導入の足かせになることも十分に考えられます。経済産業省の提言であるいわゆる「2025年の壁」問題は、既存のシステムがDX導入の妨げになっていることを警告しており、これを回避するためには、既存システムの改良と新規システムの導入をバランスよく行わなくてはなりません。

このような場面で重要になってくるのが、「IT企業との協業」です。自社のDXに必要でありながら不足している技術・ノウハウ、主にはシステムやツール等の技術・ノウハウを積極的に外部から支援してもらう。急激に環境が変化するアフターコロナ時代により的確なDXを実現するためには、IT企業の力が必須になるとも言えます。

IT企業にも様々な特徴があり、得意分野も異なります。戦略立案が得意な企業、クラウド構築に長けている企業、基幹系システム構築に強い企業等々。自社にかけているのはどのような領域で、そこに強い企業はどこなのか。そして、重要なのは、しっかりと自社に寄り添ってくれること。そういったIT企業を見つけることも、DXの成功には欠かせません。

事実、実態調査における「DXプロジェクトを推進するための見直し・強化策として、何を実施すべきだと思いますか」という問いに対し、「IT企業との協業・提携」を挙げる回答者が3割以上もいました。これは重複ありでの回答結果ですが、3番目に多い数字で、1番目に多い回答と10ポイントも差がありません。前述した3つのポイントに注力し、自社に足りない点はIT企業に頼って二人三脚で邁進する。DXで素早く効果を上げるためには、こういった視点も必要です。

著者情報
戸川 尚樹

日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ所長

1996年、日経BP社入社。『日経コンピュータ』編集記者としてCIOを中心に取材。企業の情報化戦略やIT投資、情報化推進体制、IT・データ利活用法、ERP導入等のテーマで記事を執筆。『日経コンピュータ』副編集長、『日経ビジネス』編集記者(電機・IT担当)、『ITpro』編集長を歴任。2015年9月、デジタル変革リーダー100名を会員組織化した『日経ITイノベーターズ』事業を立ち上げ・運営。2018年2月、『日経 xTECH』を創刊し、日経 xTECH IT 編集長に就任。2019年4月から現職。近著は『DXサーベイ 900社の実態と課題分析』(日経BP)。

木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。