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DXを推進するポイントは?先進事例から成功への近道を探る【前編】

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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世の中が大きく変わろうとしています。世界を見れば一部の大都市ではロックダウンが行なわれ、またあらゆる国で人との余計な接触を避けるために移動制限が強いられています。日本においては、どことなく導入に後向きだったテレワークがあっという間に広がりました。感染拡大が収まりつつある中でも、そのままテレワークを続ける企業は多くみられます。コロナ禍を機にその効用を多くの人々が実感し、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだと言えるでしょう。

目次


テレワークの推進だけがDXではない

テレワークに代表される働き方改革ばかりがクローズアップされますが、アフターコロナ時代に社会の在り方が大きく変わろうとしている中、企業がやるべきことはまだまだあります。サプライヤーとの関係も見直さなくてはなりませんし、顧客との接点も変わっていくでしょう。省人化はますます進み、業務の効率化も一層求められます。既存のルールにとらわれずに様々な業務を変えていくことが望まれるのです。

例えばヤフーでは、取引先との契約の捺印や署名を電子サインに切り替え、2021年3月末までに「100%電子サイン化」を目指すことを発表しました。同社では、以前から契約における電子化を推進してきたと言います。新型コロナウイルス感染症の影響の長期化が予想される中で、出社を余儀なくされる紙の契約書の捺印手続きを早急に無くすべきと判断し、100%電子サイン化を進めることをいち早く決定したのです。このように、グローバル全体でいよいよDXに本腰を入れざるを得ない状況になっています。

その一方で、世界の先進国と比較してDXが遅れているとも言われている日本。DXの必要性は分かっていても、大胆に業務を変えるのはかなりの労力が必要なため、PoC(概念実証)等で足踏みをしていた日本企業は少なくありませんでした。こういったマインドを一気に変えて、日本全体がDXの実現に突き進むべき時が来たのです。

DX成功の近道は先進企業に学ぶこと

しかしながら、DX導入に本腰を入れ、成功に導くのは、そう簡単なことではありません。DXで成果を挙げている企業はどこが違うのか?DXで成功するためには何に力を入れたらよいのか?予めポイントが分かれば、回り道することなく、DXで成果を挙げられるかもしれません。

そこで、DXに取り組んでいる企業は何が自社に足りないと考えているか、さらに本気でDXに取り組んでいる企業は何が違うのかといったポイントを明確にし、それらのポイントに対して実際にDXで成果を挙げている企業がどのように取り組んでいるのかを紹介します。

DX推進の実態に関しては、日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2019年7~8月に独自に実施した「デジタル化実態調査」の分析結果を基にします。同調査の対象は、国内の大手・中堅企業の情報システム部門の責任者で、約900社のCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、システム部長等から回答を得ました。調査内容は『DXサーベイ~900社の実態と課題分析』で紹介されています。

IT部門が変わらないとDXは進まない

DXの取り組みは、日本においてはまだ試行錯誤の段階の企業が多いと言えます。それは実態調査において、「DXを推進していますか」という問いに対して、900社のうち約3分の1の企業しか「推進している」という回答が得られなかったことからも確認できます。

では、DXを推進している企業は、どのような点が自社に足りないと考え、見直しや強化を図ろうとしているのでしょうか。

図 : DXプロジェクトを推進するための⾒直し・強化策(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

DXプロジェクトを推進するための⾒直し・強化策(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

「IT部門とデジタル化推進部門の再編」(39.1%)という回答が1番多く、次に多かったのは「デジタル化推進部門の新設」(32.7%)でした。いずれもDXの推進体制に関する見直し・強化策と言えます。経営層や事業部門をより強く巻き込み、デジタル技術を使って変革を起こせるような推進体制に関するノウハウが不足しており、多くの企業が改善を試みていることが分かります。

「経営戦略の見直し」(28.4%)を挙げる企業も多くありました。DXを推進する現場と経営戦略がかみ合っていないことが分かります。回答者からの自由記述コメントを参照してみると、「経営戦略にDX戦略についての記述がない」、「経営トップがDXについて聞きかじってきては導入しようとするので、戦略があやふや」といった趣旨の意見が出ています。このような多くの企業が「足りない」と感じている部分をうまく運用することが、DX成功への近道と言えるでしょう。

経営戦略こそが関係者を一丸にする

DXで成功している企業の要件を、もう1つ視点を変えて実態調査から探りましょう。DXを推進している回答企業に対してDXに対する「本気度」に対して聞いた所、本気で取り組んでいるという回答が65.7%、PoC(概念検証)で足踏みしているという回答が33.9%という結果となりました。

さらに「DXの推進度」の調査では、DXの実態を詳細に把握するため、成果を上げるのに必要なキーファクターとして、「ビジョン」「推進体制」「人材」「SoR(既存の基幹系システム)」「SoE(いわゆる「攻めのIT」)」と5つ定めた上で、それぞれのキーファクターごとに点数化しました。点数化する上では、5つの領域別にそれぞれ4項目を設定し、推進状況のレベル感(レベル1~5の5段階)を尋ねています。項目の一部には、経済産業省の「DX推進指標(試行版)」を基に作成したものを含んでいます。

図 : DXで成果を上げるための5つのキーファクター(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

DXで成果を上げるための5つのキーファクター(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

例えば、推進体制という領域では「経営者のリーダーシップ」という項目を設けています。そのレベル感は、「経営者が強力なリーダーシップを発揮し、全社的な改革を持続的に推進」がレベル5、「経営者がリーダーシップを発揮して、一部の部門で改革を推進」がレベル3、「経営者がリーダーシップを全く発揮できていない」がレベル1といった具合です。

5つの領域の各項目を点数化し見えてきたことは、DXに本気で取り組んでいる企業と、PoCで足踏みしている企業で大きな差がある項目ほど、先に手を打つべきということです。これらの項目について、具体策を講じて実践する。これがDXを推進するための初手であり、成功している企業は、それをいち早く実践していると言えます。

具体的に差が大きかった項目を3つ紹介します。最も大きな差があった項目は「ビジョン」の領域の中の「経営戦略に基づくDX推進計画書の作成状況」でした。DXに本気で取り組むには、まずビジョンを具現化する経営戦略を明確に定義し、社内外に周知徹底していくことが重要という訳です。

次に差が大きかった項目は、「人材」の領域の中の「DXを推進しているリーダークラスの力量や役職」でした。DXを牽引するリーダー人材には、構想力と組織を動かす力が求められます。本気で取り組む企業には、このような人材をDX戦略のトップに据えている所が多いと言えます。

3番目に重要な項目は、「DX推進をミッションとする部門・役割の明確化と、必要な権限の付与」でした。前述した2つの項目とも関係するのですが、まずは推進体制(部門ごとの役割)を明確にし、迅速な意思決定と組織を動かすための権限をきちんと付与していないとDXに本気で取り組むことはできません。

これらの実態調査の結果から、成功している企業から積極的に学ぶべきポイントとは、「DXを推進するための部門・役割の明確化」「確固たる経営戦略を立案し関係者に正しく伝達」「DXを推進するリーダークラスの強い牽引力」の3つです。

後編では、3つのポイントについて、うまく実践している企業を見ていきます。

著者情報
戸川 尚樹

日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ所長

1996年、日経BP社入社。『日経コンピュータ』編集記者としてCIOを中心に取材。企業の情報化戦略やIT投資、情報化推進体制、IT・データ利活用法、ERP導入等のテーマで記事を執筆。『日経コンピュータ』副編集長、『日経ビジネス』編集記者(電機・IT担当)、『ITpro』編集長を歴任。2015年9月、デジタル変革リーダー100名を会員組織化した『日経ITイノベーターズ』事業を立ち上げ・運営。2018年2月、『日経 xTECH』を創刊し、日経 xTECH IT 編集長に就任。2019年4月から現職。近著は『DXサーベイ 900社の実態と課題分析』(日経BP)。

木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年、日経BP社入社。「日経メカニカル」編集記者として、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCM等製造業におけるコンピュータ技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。