「防災・減災」の意識向上に向け、地域に求められる対策とは(前編)

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近年、異常気象とそれに伴う甚大な災害の発生が、日本国内のみならず世界中で報告されています。環境問題はSDGsにおいても重要なテーマであり、SDGsに貢献していくためには「持続可能な防災・減災対策」にどう取り組むかがカギとなります。災害による被害をいかに少なくするか。2020年2月19~20日に行われた「サステナブル・ブランド国際会議」の中から、「防災・減災」をテーマとしたディスカッションをご紹介します。

目次

避難勧告・指示をいつ発令するか。適切な判断をICTで支援

最初に、ファシリテーターの広島大学大学院の江戸克栄氏より、SDGsで環境問題がクローズアップされていることや、自然災害から暮らしを守る「防災・減災」の取り組みの重要性が高まっていることを紹介。富士通の吉田千穂が「最新のICTを活用した防災・減災の取組みについて」と題し、災害時の自治体の情報収集と情報発信の課題、ICTを活用した避難発令判断、避難行動シミュレーションシステム等先進的な取り組みを説明しました。

写真 : 富士通株式会社 地域社会ネットワークビジネス推進部 マネージャー 吉田 千穂

富士通株式会社
地域社会ネットワークビジネス推進部
マネージャー
吉田 千穂

災害発生時、市区町村は避難勧告を住民に伝達するという重大な役割を担います。全国の自治体では、総合防災システムを活用し、防災関係機関や災害現場から効率的かつ広域に情報を収集し、災害対策本部で多様な情報を高度化し関係者で情報共有して災害対応を行っています。さらに、住民向けへの情報伝達は防災無線だけではなくアプリやSNSといった複数の伝達手段で情報提供を行っています。

従来の被害報告は、自治体の職員が災害現場に出向き紙の報告書や電話等で行っていました。
愛知県では、スマートフォンやタブレット端末で災害現場の写真を撮影し位置情報をつけて送信する等、迅速かつ効率的に被害情報を収集しています。災害対策本部では、それらの情報を確認しながら対策を検討・対応有無の判断することができます。自治体の業務が効率化するということは、結果として住民対応の高度化にも繋がると考えます。

こうした取り組みの中で市町村が最も課題としているのが、「住民への避難勧告・指示をどのタイミングで、どのように行うか」ということです。愛知県では、ICTを活用した先進的な取り組みとして、「市町村防災支援システム」の中で避難発令の判断支援を実現しています。

本システムでは、「雨がどれぐらい降ると何時間後に危険が高まるか」等の危険度を時系列で確認でき「何時間後にどれぐらいリスクが高まるか」といった予測表示を行うことで、市町村ごとの避難発令の判断支援を行うことができます。

図 : 任意のテキスト愛知県様の市町村防災支援システムの概要

愛知県様の市町村防災支援システムの概要

従来、避難発令等は担当者の経験値に依存することも多く、担当者の異動により迅速な判断が難しくなる等悩ましい状況もありました。当システムにより、気象情報の予測を時系列で確認しながら、それぞれの地域がどのタイミングでどうリスクが高まっていくのかを予測シミュレーションできるようになります。ICTを活用することで、「どのタイミングでどのような避難発令をしたらいいのか?」の判断が可能になり、誰でも同じ避難発令の判断を実現することができます。

東北大学、東京大学、川崎市、富士通の産学官による共同プロジェクトでは、津波が来た時の避難行動をシミュレーションし、避難所までどのように移動するのかを行動モデル化しました。

当モデルでは、沖合の津波観測データをもとに、川崎市臨海部における津波波形を高精度に予測し、津波浸水を高解像度でシミュレーションします。川崎市が行った防災訓練では、川に濁流が入り浸水で地域が通行不可となったことを想定して、被災者がスマートフォンのアプリを利用し、リアリタイムで通行不可地点の情報を素早く共有。共助の活動により住民の迅速で安全な避難をサポートできることも明らかになりました。

防災、減災は非常に重要な課題です。富士通ではICTを活用し、人々が安心して豊かに暮らせる社会を作り、SDGsの目標を達成に向けて取り組んでいきたいと考えています。

災害時に「逃げようとしない」人々の防災意識をどう変えるか

中国新聞社の山本洋子氏からは、土砂災害発生時に早期避難ができない現実についての問題提起、避難しやすくなる環境整備への提言がありました。

写真 : 株式会社中国新聞社 メディア開発室 兼 編集局経済部記者 山本 洋子 氏

株式会社中国新聞社
メディア開発室 兼 編集局経済部記者
山本 洋子 氏

広島県は土砂災害警戒区域数が全国最多です。地質的に土砂災害が起こりやすい上、平地が少なく山の肌に沿って住宅が建てられているため、災害が起きやすいのです。それにも関わらず、避難指示エリアにおける避難率はとても低いのが実情です。「避難は難しい」「避難したくない」と思っている住民が多いため、「人は逃げないもの」という前提に立っての対策が重要です。

具体的には、住民の「避難したくない」と思う気持ちを軽減することです。そのためには、避難所の環境を改善し、「二度と避難したくない」と思わないようにする工夫が大切です。避難した人の満足感が高まるように、避難所にカラオケを設置する等の試みもあるほどです。

「避難を促すエコシステム」構築することも重要です。ショッピングモールや映画館等の商業施設を避難所にすれば、「快適そうだから」と避難する人が増えるかもしれません。こうした行政だけではなかなかできない仕組みを実現させるためには、民間企業を巻き込みエコシステムを構築する必要があります。若手リーダーを育成し、防災意識の高い人を巻き込んで対応していく、これが私から広島県へ提言したいことです。

防災の対応にかかる負担を支援する「避難保険」の可能性

あいおいニッセイ同和損害保険の田村雅史氏からは、損害保険を活用した災害時の避難を促す仕組みについて紹介がありました。

写真 : あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 商品企画部 企画グループ 担当次長 田村 雅史 氏

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
商品企画部 企画グループ
担当次長
田村 雅史 氏

あいおいニッセイ同和損害保険では、グループの中期経営計画として「当社グループの強みである多様性を生かした企業活動により安心と安全を提供し、安定した人々の生活と活発な事業活動を支え、2030年にはレジリエント・サステナブルな社会、すなわち予期せぬ出来事に対応でき、経済の環境、社会のバランスが保たれる社会の実現を目指す」という目標を掲げています。

この中でも「安心安全」を提供するために「リスクを見つけ伝える」「経済的な負担を小さくする」「リスクの発現を防ぐ」「影響を小さくする」等の取り組みをグループとして実践しています。この取り組みは、自動車保険の領域で先行して行っています。IoT等技術革新が進む中で、車にドライブレコーダーを搭載してリアルタイムに情報サービスを提供するものが「テレマティクス損害サービス」です。

この取り組みを自動車保険以外の領域でも実現できないかと模索中です。その1つが「避難保険」です。このたび、商品化に向けて広島大学と共同研究を開始しました。

まずは、実際の災害発生時の状況を分析しました。それによると、災害が発生しても避難しない人が95.7%にも達していることが分かりました。理由は「家の方が安全だから」「避難最中が危ない」「避難所の環境がよくない」といったことです。このように「避難意識が低い人」や「自宅がいいと感じている人」に避難してもらう仕組みを保険で構築できないかと検討しました。

具体的な形として、行政による災害における避難指示が発令された際の避難にかかる移送費用を支払う補償として「緊急費用補償特約」を発売しています。自治体を契約者とすることにより、住民へのセーフティネットの提供を保険会社として資金的に支えるものです。

今後、あいおいニッセイ同和損害保険では、大学、自治体、民間企業と共同で「避難保険」についての仕組みの検討を進めていきます。そして「安心安全の提供」という原点に立ち戻り、より多くの人が被害に遭わないことを目指して取り組みの検討を継続していきます。

後編では、避難行動を起こしやすくする環境整備のための実例紹介と、「避難に対する考え方の多様性」をテーマに、大学教授、新聞記者を交えたパネルディスカッションを紹介します。

※登壇者の職制は開催当時のものです。