新型コロナウイルスと闘う、医療・自治体の現場①前編 宮城県、「健康観察チャット」で現場のひっ迫を救う

メインビジュアル : 新型コロナウイルスと闘う、医療・自治体の現場①前編 宮城県、「健康観察チャット」で現場のひっ迫を救う

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう現在、先の見えない状況に多くの人々の不安と混乱が続いています。自治体や保健所、医療機関へは、感染症に関する問い合わせが急増。保健所は、感染者が発生すれば、医療機関への移送手続き、濃厚接触者の健康管理等、現場は限りある人数の中で過負荷に陥っています。

富士通は、2020年2月下旬より「新型コロナウイルス感染症対策特別チーム」を編成し活動をスタート。2月、3月と事態が急変するにつれ、各現場で勃発する様々な課題一つひとつに耳を傾け、チャットボットを活用したサービスを提供してきました。5月11日現在、既に20自治体、60保健所で導入され、感染症対策の最前線を支援しています。新型コロナウイルス対応の最前線で、現場の方々と共に闘ってきた、富士通の新型コロナウイルス感染症対策チームでリーダーを務める生川慎二に話を聞きます。後編では、今回の感染症対策健康観察チャットサービスの開発にご協力いただいた、感染症対策の専門家でもある東北大学の小坂健教授からのコメントもあわせてご紹介します。

目次


感染拡大が止まらない新型コロナウイルス、混乱する医療・自治体の現場

写真 : 富士通 新型コロナウイルス感染症対策チーム リーダー 生川 慎二

富士通 新型コロナウイルス感染症対策チーム
リーダー
生川 慎二

―― 新型コロナウイルス対策を開始したきっかけをお聞かせいただけますか?

2020年2月26日、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部クラスター対策班の専門家より、「新型コロナウイルスの感染症対策の情報管理で意見を聞きたいので厚労省に至急来て欲しい」と一本の電話がありました。

そこで、すぐに永田町にある厚生労働省のクラスター対策班を訪問すると、未知なるウイルスに対応するための専門家が集結していました。この時は、中国からの帰国者との接触だけではなく、感染ルート不明の感染者が出始めた頃だったため、クラスターと呼ばれる集団感染の母集団をいかに早く見つけられるか?そこにITを駆使して効率的に行えないか?ということが議論されていました。そこから、新型コロナウイルスへの感染症対策支援がスタートしました。

―― 「新型コロナウイルス感染症対策特別チーム」を編成した理由を教えて下さい。

私は、2009年にも厚労省の感染症対策の担当官と新型インフルエンザのサーベイランスシステムを緊急開発し、1ケ月で全国保健所の情報収集をした経験があります。当時のウイルスは幸いにも感染力が弱く、パンデミック(世界的大流行)になりませんでしたが、その時に、WHO・国立感染症研究所・保健所・医療機関の役割と感染症法の存在を知りました。

そして、未知なるウイルスと闘うためには、①緻密なデータの収集と共有、②最初の数万件の症例が分析の観点で重要、③医療崩壊を防ぐ保健所・医療機関向けの支援者支援、④ワクチンや治療薬が開発されるまで人類は覚悟して闘い続けなければならない、の4点を学びました。

そのため、新型コロナウイルスに関しても、パンデミックに備えて「未知なるウイルスの感染傾向を得るための情報収集」と「保健所を中心とした支援者支援」を実現する情報インフラの整備が急務であると考え、早急に対応していくために精鋭を選抜し、専任で新型コロナウイルス感染症対策チームを立ち上げました。

―― 感染拡大を防止するために、情報インフラの整備が急務だったのですね。対策チームを早々に立ち上げ、まずは始めたことは何ですか?

対策チームは、はじめ少数精鋭の有志メンバーで立ち上げました。初動対応のスピードが大事であると考え、翌2月27日にはチャットボットを活用した情報収集のプロトタイプを作成し、専門家に提示。その後、クラスター対策の専門家内でも実際に動く環境でイメージを掴んでいただき、未知なるモデルのシステム化の検討がスタートしました。

3月3日には対策チームが社内で承認され、全国自治体・保健所に示されている「新型コロナウイルス感染症状患者の接触者における健康観察票」のシステム化が始まり、3月5日には、プロトタイプをブラッシュアップした第1版をリリースしました。

写真 : 未知なるウイルス、未知なるシステムを設計する対策チーム

未知なるウイルス、未知なるシステムを設計する対策チーム

感染症対策の負荷が高まり、ひっ迫する医療・自治体の現場

―― その頃、保健所等現場はどんな様子でしたか?

保健所は、新型コロナウイルス関連の相談やPCR検査、患者の移送手続き、消毒、濃厚接触者の積極的疫学調査等、通常業務に加えて新型コロナウイルス感染症対策の負荷がかなり高まっていました。

感染者が少ない自治体では、保健所のコントロール下で濃厚接触者の健康調査が行えているようでした。しかし、クラスターが発生した自治体では、一度にスポーツジムで1400人、ライブハウスで600人という濃厚接触者数となり、保健所職員での対応も限界。全国の保健所現場では、国から示された調査書式は存在していましたが、新型ウイルスに対応した統一システムがこの時点では存在していなかったため、手作業で頑張るしかなく、保健所職員の方々の負荷は大変なものでした。

また、ライブ等のイベントは、近隣県から参加する方も多いため、クラスター発生での感染者が県や市をまたぐことになります。その場合、自治体間での情報共有や感染経路の特定等が非常に困難になっていました。

そこで、今後の感染拡大に備え、利用者がスマートフォンで自身の健康観察情報を入力できるクラウドベースのチャットボットの仕組みを設計し、富士通が提供するサービス基盤「CHORDSHIP(コードシップ)」を活用しました。CHORDSHIPは、モバイル端末インターフェースのAPIやSNS連携を標準実装し、変化する業務プロセスも設定ベースでチューニングが可能です。また、セキュリティ面でも金融機関や大手企業・官公庁自治体等100システム以上で稼働し、厳しいセキュリティ審査も通過した実績があるため、安全なシステムをスピード感持って提供できると考えたからです。

写真 : プロジェクトルームで緊急開発を行う対策チーム

プロジェクトルームで緊急開発を行う対策チーム

クラスター発生源をより早く見つけ出し、感染拡大の速度を抑制するために

―― 新型コロナウイルス感染症に対する日本の戦略は、感染拡大の速度を可能な限り抑制することでWHOからも評価されていますね。

新型コロナウイルスは、罹患しても約8割は軽症(無症候者・軽症者)で経過し、感染者の8割は人への感染は起こさないと報告されています。爆発的に感染をさせるのは約1割の人であり、クラスター(患者間の関係が認められた集団感染)を引き起こしています。

日本の戦略はこれらの特徴から、クラスターを引き起こす感染者や感染ルートを見つけ出し、「クラスターの断続化・大規模化の防止」に向けた対策を迅速にとるというものです。つまり、積極的疫学調査による濃厚接触者、無症候者等の健康調査や聞き取りを行うことで、クラスター発生源を見つけ出し、感染拡大の速度を可能な限り抑制するのです。その結果、感染拡大の封じ込めや医療提供体制崩壊防止に繋がります。

―― そのクラスター発生源を見つけ出すためにも、よりスピーディに正確な情報を収集することが求められるのですね。

はい、そのためには、地道な情報収集が必要であり、日本には全国保健所ネットワークと医療ネットワークがあるからこそ可能な戦略なのです。

後編は、どのように導入を進めていったのか。また導入システムの仕組みと、今回のチャットボットサービスの開発にご協力いただいた東北大学 小坂健教授からのコメントもあわせてご紹介します。