日本のDXは本当に遅れているのか?「DXサーベイ」から見る900社の実態【後編】

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近年、企業が変革を起こすためにはデジタル技術を利用することが避けられず、そのための最大の関心事の一つがDXと言われています。

前編では、DX推進の実態に関して、日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2019年7〜8月に独自に実施した「デジタル化実態調査」(注1)の分析結果を基に、日本におけるDXの推進状況の実態を業種別、従業員別にみてきました。後編では、さらにDXがなぜ進まないのか、また企業がやるべきことを紹介します。

(注1)調査対象は、国内の大手・中堅企業の情報システム部門の責任者で、約900社のCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、システム部長などから回答を取得。調査内容は『DXサーベイ~900社の実態と課題分析』にて紹介。

目次


「2025年の崖」――レガシーシステムがDX推進の足かせに

人材不足とともに、DX推進を進めるうえで課題となるのは、レガシーシステムです。というのも、かなりの費用をかけたレガシーシステムを捨てられず、DXに足を踏み出せないという現状があるからです。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が2018年9月にまとめた『DXレポート』においても日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査結果(2017年度)を基に、「約8割の企業がレガシーシステムを抱え、約7割の企業が『レガシーシステムがDXの足かせになっている』と感じている」と指摘しています。ここでいうレガシーシステムとは、「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステム」と定義されています。

このレガシーシステムによって引き起こされるのがいわゆる「2025年の崖」問題です。先のDXレポートにおいて、レガシーシステムのままでは2025年に崖を迎え、多大な経済損失が発生するといわれているのです。

レガシーシステムが、DX推進の足かせになっているという実態は、デジタル化実態調査でも明らかになりました。レガシーシステムを含むSoR(System of Record、既存の基幹系システム)全体を対象として、「SoRは、DX推進の足かせとなるような深刻な状況にあると思いますか」という質問では、全体の約35%がSoRを「DXの足かせ」であると深刻に感じているのです。

図 : SoRの足かせ度 「既存の基幹系システム(SoR)は、DX推進の足かせとなるような深刻な状況にあると思いますか」に対する回答結果(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

SoRの足かせ度
「既存の基幹系システム(SoR)は、DX推進の足かせとなるような深刻な状況にあると思いますか」に対する回答結果(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

これからのDX時代に向けて、企業がやるべきこと

では、このような課題がある中で、これからのDX時代に向けて、企業がやるべきことは何なのでしょうか?

求められるデジタル人材像とは

まず重要なのはDXを推進するための人材育成です。様々な技術・手法で収集した定量・定性的なデータを会社全体で活用していかなければなりません。

このため事業部門内にデータ活用スキルを備えた人材を増やし、科学的なアプローチで事業強化策を企画し、実践する仕組みを構築できるかどうかが重要になってきます。その一方で、ビジネスに関わる全社員を、デジタル人材に変えることも重要です。DXの本質を、経営層や事業部門の担当者が理解しなければ、デジタル変革はままなりません。

DXを推進して成果を上げるための王道は、全社員をデジタル化人材に変身させることともいえます。ここでいうデジタル化人材とは、基本的なITスキルやデータ活用スキルを備えた人材のことで、決して全社員がAIエンジニアやデータサイエンティストのような技術のプロになるべきである、ということではありません。

レガシーシステムの整備後回しが競争力の低下に

レガシーシステムの課題に関しては、DXの足かせになるリスクはないかどうかの徹底的な検証が必要です。レガシーシステムが整備されていない状態では、新たなシステムで強化しても既存のデータを活用しにくく、業務効率を上げることができなくなってしまいます。AIやIoTの導入ばかりに資源を投入し、レガシーシステムの整備を後回しにしてしまうと、中長期的に競争力を高めることはできません。DXで必要なものを見極めることが大切です。

DXの最大の敵は、変革への抵抗勢力だといわれています。デジタル化のセンスを身につけ、DXの必要性や可能性を理解した人材が増えるほど、DX推進のスピードは上がっていくといえるでしょう。

著者情報
戸川 尚樹

日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ所長

1996年、日経BP社入社。『日経コンピュータ』編集記者としてCIOを中心に取材。企業の情報化戦略やIT投資、情報化推進体制、IT・データ利活用法、ERP導入などのテーマで記事を執筆。『日経コンピュータ』副編集長、『日経ビジネス』編集記者(電機・IT担当)、『ITpro』編集長を歴任。2015年9月、デジタル変革リーダー100名を会員組織化した『日経ITイノベーターズ』事業を立ち上げ・運営。2018年2月、『日経 xTECH』を創刊し、日経 xTECH IT 編集長に就任。2019年4月から現職。近著は『DXサーベイ 900社の実態と課題分析』(日経BP)。

木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年慶應義塾大学理工学部機械工学科修士課程卒業、同年日経BPに入社。製造業のための総合情報誌「日経メカニカル」にて、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCMなど製造業におけるコンピューター技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、同媒体のデジタル版「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。ビジネス関連のコンテンツを企画するとともにサイト運営やアプリ開発を先導。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。