日本のDXは本当に遅れているのか?「DXサーベイ」から見る900社の実態【前編】

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2020年に入って世界中に蔓延した新型コロナウイルス。様々な点で企業にも市民にも影響を及ぼしていますが、なかでも深刻なのはマスク不足。入手を試みようとする市民はもとより、医療従事者ですら手に入らない状態が続きました。この問題を解決しようと、台湾政府が取り組んだ先進的なDXの取り組みが話題になりました。

目次


マスク不足の混乱を一気に解消した台湾政府のDX

台湾政府は、マスクが手に入らないとう市民の不安な状況を緩和するためにインターネット上に「マスクマップ」を公開しました。マスクマップには、マスクの在庫状況により4色に分けられたアイコンであらゆる薬局が表示され、さらにアイコンをクリックすると、その薬局が保有しているマスクが大人用、子供用かも確認できます。この情報を手掛かりに消費者はマスクの購入場所を探し出せるため、台湾ではマスク不足の混乱が早期に収まったというワケです。

マスクマップが公開されたのは、2月の上旬。天才プログラマーともいわれる台湾のIT担当大臣・唐鳳(オードリー・タン)氏が先導することで、わずか数日で仕組みを完成させたことが、大きな話題となりました。デジタル技術を用いて変革を起こしたという点で、この取り組みは台湾政府が起こしたデジタルトランスフォーメーション(DX)といえます。日本でもこのような仕組みがあればと、うらやましく思った方も多いかもしれません。

「デジタル競争ランキング」で日本23位、アジア勢で後塵

この取り組みの差を裏付けるようなデータがあります。スイスのビジネススクールであるIMDが発表した「デジタル競争力ランキング」によれば、2019年は日本が23位、一方で台湾は13位でした。

1位は米国、2位はシンガポール、3位はスウェーデンで、続く上位には欧州勢が名前を連ねます。ちなみに韓国は10位、中国は22位ですから、日本はアジア勢と比較しても後塵を拝しているという結果になっています。

4割にも満たない日本のDX推進企業

近年、企業が変革を起こすためにはデジタル技術を利用することが避けられず、そのための最大の関心事の一つがDXと言われています。日本においても急速にDX推進への取り組みが進んでいると思われますが、「日本のDXは海外と比べて遅れている」という論調が見られます。まだ諸外国に比べて遅れているのであれば、さらにDX推進の勢いを加速する必要がありそうです。

日本のDXは本当に遅れているのでしょうか?そこで、日本のDXの実態を明らかにするとともに、DX推進において何が課題となって、その課題をどのように解決すべきかについて探っていきたいと思います。DX推進の実態に関しては、日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2019年7〜8月に独自に実施した「デジタル化実態調査」の分析結果を基にします。

同調査の対象は、国内の大手・中堅企業の情報システム部門の責任者で、約900社のCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、システム部長などから回答を得ました。調査内容は『DXサーベイ~900社の実態と課題分析』で紹介されています。

まず日本において、DXがどれぐらいの企業が推進しているのかを知りましょう。デジタル化実態調査において、「DXを推進していますか」という質問では、おおよそ3分の1がDXを推進しているということでした。

図 : DXの推進状況(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

DXの推進状況(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

しかしながら、NRIセキュアテクノロジーズが行ったDXに関する実態調査では、米国、シンガポールの企業に同様の質問を行ったところ、DXを推進している企業が8〜9割に達しており、この結果と比べると、「日本のDXは海外と比べて遅れている」という論調は、かなり当たっているように思えます。

情報・通信サービス業と建設業がDX推進の上位に

この傾向は、業種別に見た場合でも同じでしょうか?DXの推進で先行する海外では、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表されるITサービス企業やFintechを強力に推し進める金融業で最もDXの導入が活発だとされています。日本でも業種によって、DXの推進度合いに差があるかもしれません。

図 : 業種別に見たDXの推進状況(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

業種別に見たDXの推進状況(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

最もDXの推進状況が進んでいるのは情報・通信サービス業でした。ITサービスがビジネスの中心にある業種なので、DXとの親和性が高いためと考えられます。平均を大きく上回っていますが、この情報・通信サービス業でも6割満たないというところに、日本がDXで遅れているといわれる所以を感じられます。

次に高かったのは建設・不動産業です。ただし、これは建設業の高い数字に引っ張られた結果といえます。建設業単独では半数近い企業がDXを推進していることが分かりました。

建設業といえば深刻な人手不足に陥っている業界の一つです。そういう事情を抱え、省力化・生産性向上を志向したDXに取り組む企業が多いものとみられます。これまで紙ベースであったプロセスに3次元モデルを組み込むことで作業効率を上げたり、メンテナンス時にVRを利用して遠隔地から支援したりするなどの、先進的な取り組みが建設業で始まっています。

一方、金融業は海外と比べプレゼンスが低い印象です。また、日本のお家芸ともいえる製造業に関してもDXの推進が進んでいるとは思えません。「モノ」という形があるものを生産することを得意とするがあまりに、デジタルは専門外という意識が、DXの推進を妨げている可能性があります。

中小企業では人材不足がDX推進のネック

ではDXを推進するための課題はどこにあるのでしょうか?その一つは人材不足です。DXの本質は、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するためにデジタル技術を活用すること。これまで一般的だった特定の業務をITシステムで置き換えるといった取り組みとは大きく違います。古くからITを企業戦略の中核と捉えCIOなどの要職を設けて取り組んできた欧米と比較すると、DXを推進するためのデジタル技術と業務の両面で専門知識を持つ人材が、日本では不足しているという感はぬぐえません。

デジタル化実態調査においても、DX推進において日本が人材不足であることを現す結果が得られました。回答企業の従業員数別にDXの推進状況を見てみると、従業員300人未満の企業ではDXを推進している割合が約2割に留まります。一方、従業員数が増えるにつれてDX推進率は急上昇し、5000人以上の企業では8割を超える結果になりました。5000人以上の企業に限っていえば、推進状況は米国などと比較しても遜色ないといえそうです。

図 : 企業規模(従業員数)別に見たDXの推進状況(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

企業規模(従業員数)別に見たDXの推進状況(出所:日経BP総合研究所イノベーションICTラボ『DXサーベイ』)

やはり人材を豊富に持つという点においては、大きな企業ほど優位にあります。ともすれば、DXは専用の部署をもって取り組み成功を掴む例を聞きますが、大きな企業ほどそういった体制をとるなどのチャレンジをしやすく、実際にDX担当役員を設ける大手企業は増えてきました。

また、IT人材の多くをITベンダーが抱え、ユーザー企業はITベンダーにシステムを発注するといった、日本のITの産業構造も、企業における人材不足の一つの要因です。加えて、この産業構造をDXの推進においても引きずり、DX推進の主要部分の多くをITベンダーに委ねるとなると、その分多くのコストが発生することになり、やはり大手中心にDXが推進する理由となりそうです。

後編では、さらにDXがなぜ進まないのか、また企業がやるべきことを探っていきます。

著者情報
戸川 尚樹

日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ所長

1996年、日経BP社入社。『日経コンピュータ』編集記者としてCIOを中心に取材。企業の情報化戦略やIT投資、情報化推進体制、IT・データ利活用法、ERP導入などのテーマで記事を執筆。『日経コンピュータ』副編集長、『日経ビジネス』編集記者(電機・IT担当)、『ITpro』編集長を歴任。2015年9月、デジタル変革リーダー100名を会員組織化した『日経ITイノベーターズ』事業を立ち上げ・運営。2018年2月、『日経 xTECH』を創刊し、日経 xTECH IT 編集長に就任。2019年4月から現職。近著は『DXサーベイ 900社の実態と課題分析』(日経BP)。

木村 知史

日経BP 総合研究所 上席研究員

1990年慶應義塾大学理工学部機械工学科修士課程卒業、同年日経BPに入社。製造業のための総合情報誌「日経メカニカル」にて、主に先端の加工技術および生産管理システムの分野を取材・執筆。その後、CAD/CAMやSCMなど製造業におけるコンピューター技術の活用誌「日経デジタル・エンジニアリング」の創刊に参画。2008年1月、Webサイト「Tech-On!(現日経xTECH)」編集長。2012年7月、「日経ビジネス」編成長、2014年1月、同媒体のデジタル版「日経ビジネスDigital(現日経ビジネス電子版)」編集長。ビジネス関連のコンテンツを企画するとともにサイト運営やアプリ開発を先導。2019年1月、「日経ビジネス電子版」を企画・立ち上げ。2019年4月より現職。大手企業のコンテンツコンサルティングや「Beyond Health」等のメディアのコンテンツ企画を担当。