AIで感染症の拡大を予測、新型コロナウイルス抑制にも期待

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新型コロナウイルスによる死者数が増加の一途をたどる中で、米国でも感染拡大が報じられ、世界保健機関(WHO)は公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。このようなときにこそ、他の感染症の拡大抑制に貢献してきたAIが役割に目を向ける意味は大きいと思われます。AIアルゴリズムがこれまでに導き出してきたのは、感染拡大を防ぐための介入や予防に関する俯瞰的な戦略ばかりではありません。感染拡大との戦いにおけるリソース割り当ての最適化や、さらには、アウトブレークの兆候を人間の医師よりも早く察知することまで、その応用範囲は大きく広がっています。

HIVやエボラウィルス、デング熱の感染拡大抑制に貢献してきたAI

遡って2014年の研究では、調査員が英国におけるHIVの検査と治療の評価を行い、感染に気付いていない人々を特定するうえで、統計モデリングが使用されました。その結果、研究チームは、HIV保有者側に行動の変化は認められなかったにもかかわらず、このアプローチによって新規感染者の発生を5%低下させることができたことを確認しました。

また、2016年には、ジョージア大学、マッセー大学、カリフォルニア大学の共同チームによって開発されたAIが、フィロウイルスの拡大を予測するために使用されたこともあります。このウイルスは通常コウモリ同士で感染しますが、人間にもうつる可能性があり、中でもフィロウイルス科のウイルスとして最もよく知られているのが、エボラウイルスとマールブルグウイルスです。フィロウイルスの宿主である可能性が最も高いコウモリの種類を予測するため、その際に使用されたモデルでは、生活歴や生態から行動記録に至るまで57種類の因子を使用し、87%の予測精度を達成しました。

続く2017年の研究では、HCVことC型肝炎ウイルスの予防のためにするべき活動の内訳を、使える予算に応じて提案するモデルが作られました。研究チームはそれを利用して公衆衛生基金の最善の使い道を導き出し、予算が10億ドルの場合には、「治療(特に早期治療)への全額投資」であるという結論を得ています。一方、予算が50億ドルの場合は、その60%をスクリーニングに、残りを治療に投じることが望ましく、そのスクリーニングへの配分も3年目には20%に下げるべきと判断されました。

同じく2017年には、シンガポールのソー・ウィー・ホック公衆衛生学校と国家環境庁の科学者チームが、デング熱のアウトブレークを予測するためのアルゴリズムを開発し、過去10年分の気候データとデング熱の季節的変動パターンを考慮することで、最大4か月前に流行予測が行えるようにしています。その後まもなく、エイミというスタートアップ企業が、デング熱のアウトブレークが発生しそうな場所と時期を84%の精度で予測可能というツールの提供を開始したほか、愛媛大学の研究者チームも、降雨および気温のデータを使って、マニラでのデング熱の発生を予測するモデルを構築しました。

さらに2018年には、サウスカロライナ大学の科学者チームが、各疾病予防機関がよりコスト効率の高い方法で予防措置を講じるためのアルゴリズムを開発しています。そして、このモデルをインドにおける結核予防と米国での淋病予防に関する実際のデータを使ってテストした結果、現在運用されている手法と比べて、結核を8,000件、淋病を20,000件予防できた可能性があったことがわかりました。

予測モデルに生じるバイアスを防ぎ、より有効性を高める開発が進む

このようにAIは、全世界的な伝染病予防のための計画策定ツールとなる可能性を秘めています。しかし忘れてはならないのは、病気の発生を予測するいかなるアルゴリズムも、あらゆる予測モデルが直面する落とし穴を避けては通れないということです。

その観点から、グーグルにとっては不名誉だった「インフル・トレンド」の例を見てみましょう。世界25か国以上にインフルエンザの流行予測を提供することを目的として、2008年に運用が開始されたこのWebサービスでは、何百万人ものユーザーの健康を観察し、行動を追跡することで、人々がインフルエンザに似た何らかの症状を抱えているかどうかを明らかにしようとしました。ところが、予測結果自体は保健機関の観察データと概ね一致していたものの、報道でインフルエンザが大々的に取り上げられると検索数が増えて結果がゆがめられてしまうことが、研究者の手で明らかにされたのです。したがって、健康状態に関する検索動向に注目するというインフル・トレンドのアプローチでは、導き出される流行予測が誇張されてしまう恐れがあることがわかりました。同様に、IBM傘下のザ・ウェザー・カンパニーも、ザ・ウェザー・チャンネルのモバイルアプリとワトソンAIプラットフォームを利用したインフルエンザ予測ツールを提供していますが、こちらツールでは予測期間を15日間と短く設定することで、この問題をうまく回避しているものと考えられます。

このようなゆがみに対処する取り組みの一環として、いくつかの企業では、自社システム内にバイアスが生じるのを防いでその有効性を確実なものとするための新たな手法の開発を推進するようになりました。

新型コロナウイルス感染拡大のリスク予測に活用されるAI

このほかにも、病気の症状や死亡率、治療法の有無といった情報に基づいて感染症拡大のリスクを予想するためのプラットフォームを開発したメタビオタは、現在、米国の有識者コミュニティや国防省と連携して、新型コロナウイルスに関連する問題に取り組んでいます。また、その競合企業であるブルードットのシステムでは、実証済みの自然言語処理と機械学習アルゴリズムを用いて、旅行者の旅程情報や飛行経路のほか、現地の気候や気温、家畜などの情報などに関し、65言語、約10万点に上る記事を毎日分析することで、100種を超える感染症の追跡を行っています。

さまざまな予測の有効性が実証されるかは別としても、感染症の拡大を追跡する機能を備えた自動システムを開発する取り組みは、今後何年にもわたって加速する一方となるでしょう。BCCリサーチのアナリストによると、デジタル病理学・疫学市場は2018年の48億ドルから拡大して、2023年には102億ドル規模に達すると予想されており、その主な推進力として、コンピュータの拡張性が高まったことや、機械学習モデルのパフォーマンスや精度を向上させる目的でこれまで着目されていなかった情報を新たな特徴量としてデータセットに追加する「モデル特徴量エンジニアリング」分野のイノベーションが挙げられています。つまり、これらの領域における進化が続く限り、感染症予防のための自動化の試みも盛んになりこそすれ、停滞や後退することは考えられないといえるのです。

この記事はVentureBeatのカイル・ウィガーズが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

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