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次世代モバイル通信"5G"とは?【第7回】DXのビジネス基盤として期待高まる5G

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毎年2月末に開催され、“モバイルの祭典”と呼ばれているイベント「MWC Barcelona」ですが、2020年は新型コロナウイルスの影響で中止となりました。過去にも地元交通機関のストライキや大雪といった悪条件によって開催が危ぶまれたことはありましたが、中止となったのは初めてです。“世界各地でサービス提供が始まった5Gの最新動向を知りたい!”と思っている皆さんにとってMWC Barcelona 2020(以下MWC2020)は、世界中のモバイル専門家・関係者の生の声を聞いたり、人脈を広げたりするための貴重な場となるはずでした。それだけにMWC2020が中止となったのはとても残念なニュースでした。

写真 : 2019年2月に開催されたMWC 19 Barcelonaの展示会場の外観と展示風景(出所:日経BP総研)

2019年2月に開催されたMWC 19 Barcelonaの展示会場の外観と展示風景(出所:日経BP総研)

「CES2020」でも注目! MWC開催がなくても、5G推進の流れは止まらない

MWC2020の開催は見送られましたが、5Gの実用化に向けた動きは活発に進められています。

米国ラスベガスで2020年1月上旬に開催された「CES2020」では多数の5G関連発表がありましたし、2月には5G対応スマートフォンの発表が続きました。一部の企業は、MWC2020で予定していた5G対応スマートフォンの製品発表をオンライン・イベントの形で実施し、スマートフォンを選ぶ条件に“5G利用の可否”が加わったことを世界にアピールしました。

写真 : CES2020が開催された米国ラスベガス市内で目を引いた「5G」の文字(出所:日経BP総研)

CES2020が開催された米国ラスベガス市内で目を引いた「5G」の文字(出所:日経BP総研)

写真 : CES2020内で開催された対談セッション「予測:5Gがあなたの生活をどのように変えるか?」に登場した米Qualcomm社長のクリスティアーノ・アモン氏(出所:日経BP総研)

CES2020内で開催された対談セッション「予測:5Gがあなたの生活をどのように変えるか?」に登場した米Qualcomm社長のクリスティアーノ・アモン氏(出所:日経BP総研)

写真 : 米AT&TはCES2020でCTスキャン画像のダウンロードにおける4Gと5Gの速度差比較を紹介した(出所:日経BP総研)

米AT&TはCES2020でCTスキャン画像のダウンロードにおける4Gと5Gの速度差比較を紹介した(出所:日経BP総研)

写真 : ソニーモバイルコミュニケーションズはMWCで予定していた5G対応スマートフォン「Xperia 1Ⅱ」の製品発表会をオンラインで実施した(出所:ソニーモバイルコミュニケーションズ)

ソニーモバイルコミュニケーションズはMWCで予定していた5G対応スマートフォン「Xperia 1Ⅱ」の製品発表会をオンラインで実施した(出所:ソニーモバイルコミュニケーションズ)

5G推進では、スマートフォンの発表に加え、企業間連携や開発拠点を新設する動きも活発になっています。

例えば、米国の大手モバイル通信事業者であるVerizonは医療・ヘルスケア領域におけるユースケースの開発を目的として、米ジョージア州にあるEmory Universityの医療部門Emory Healthcareとの協業を発表しました。VerizonはEmory Healthcareの研究開発拠点を米国における「5G医療イノベーションラボ」と位置づけて、5Gサービスを利用できるようにしています。

スウェーデンのEricssonとドイツAudiは、工場の自動化に関する協業を発表しました。両社は以前から、5Gネットワークの超低遅延性を活用したロボットと自動誘導車両(AGV)を備えた自動生産システムの構築を目指しており、ドイツのガイマースハイムにあるAudiのP-Labsにおいて、Ericssonの5Gシステムを活用した生産設備で検証を始めたそうです。

4Gの主役は個人、5Gの主役は企業

CESをはじめとする世界の5G実用化動向を見ていると、興味深い共通点に気がつきます。それは、“5Gは企業がDXを推進する際の基盤技術である”というロジックが目立ってきていることです。

4G時代の2010年代は、世界的にスマートフォンが浸透したことによって個人の生活が一変しました。ライドシェアサービスのUberなど、スマートフォンを介して個人の需要を満たすビジネスが浸透し、Instagramのように画像が中心のソーシャルメディアやTikTokのような動画を用いたスマートフォン向けの個人間のコミュニケーションが活性化しました。4G時代の主役はスマートフォンであり、それを使いこなす消費者個人が4Gの恩恵に与っていたと言えるでしょう。

これに対して5Gの主役はIoTであると見られてきたわけですが、最近ではそれをさらに進めた考え方として、“5G時代の主役は企業”という考え方が一般的になりつつあります。これは、“AIやIoTといったデジタル技術を効果的に結びつける基盤技術の5Gが浸透すれば、それによって企業のDXが一気に進行する”という意味です。例えばCES2020の主催者であるCTA(Consumer Technology Association)が報道機関向け発表会で用いた「5G will be led by the enterprise(5Gは企業が牽引する)」は、“5G時代の主役は企業”という分かりやすいメッセージでした。

図 : CES主催者であるCTA(Consumer Technology Association)のメッセージ「5G will be led by the enterprise(5Gは企業が牽引する)」(出所:CTA)

CES主催者であるCTA(Consumer Technology Association)のメッセージ「5G will be led by the enterprise(5Gは企業が牽引する)」(出所:CTA)

2020年3月に日経BP総研が発行した「5Gエコノミー世界総覧」によると、5Gサービスを提供する事業者数は2020年2月5日時点で60を超え、5Gが変革を加速する産業領域は「製造」、「モビリティ」、「医療・ヘルスケア」、「介護」、「地方自治体」、「教育」、「eスポーツ」、「AI/AR/VR」の8領域あるそうです。今後5Gは、“通信事業者がどのようなサービスが提供するのか”ということより、“企業のDX推進をどれだけ加速できたか”を問われることになりそうです。

顧客中心でDX推進に突き進むDelta Air Lines

5G時代の主役とされる企業は、5G時代にどのような進化や変革を考えているのでしょうか。ここでは、大手企業とスタートアップのDX事例を紹介しましょう。

1つめは、CES2020の基調講演に登壇した米国の大手航空会社Delta Air Linesです。

写真 : CES2020の基調講演に登壇した米Delta Air Linesのエド・バスティアンCEO(出所:日経BP総研)

CES2020の基調講演に登壇した米Delta Air Linesのエド・バスティアンCEO(出所:日経BP総研)

Deltaの講演で印象的だったのは、「顧客中心」の考えに基づいたDXを推進しようとしていることです。「旅行がリラックスしたものであり、ストレスが少なく、そして楽しいものにする」(エド・バスティアンCEO)という目的が出発点となり、そのために必要な技術や連携先を選んでいるという姿勢を随所に見ることができました。

その姿勢が凝縮されていたのが、基調講演中の随所で紹介された“近未来の旅行体験”のイメージ映像です。内容は以下のようなものでした。

  • 出張の朝、スマートフォンに空港までの渋滞情報が通知され、ライドシェア予約が促される
  • ライドシェアの車内で、スマートフォンから機内で見る映画を探す
  • 空港到着後に、空港内の混雑状況をもとに、最適なチェックインルートがアドバイスされる
  • 空港におけるチェックインは、バイオメトリクス技術によって短時間で完了
  • ターミナル内では、搭乗ゲートや目的地の天候などが顧客ごとに個別最適化されて表示

講演の中でDeltaは、ライドシェアサービスを提供するLyftや、1つの表示装置から複数の情報を提供する「パラレル・リアリティ」技術を開発するMisapplied Sciencesなどのパートナー企業を紹介し、顧客にとって快適な旅行体験を実現するためにパートナー提携を進めている姿勢を打ち出しました。さまざまな強みを持つ企業がデジタル技術を持ち寄って企業連携することが、DXの近道であることがよく分かる講演でした。

写真 : 同一の表示装置から、顧客に応じた個別情報を表示する「パラレル・リアリティ」技術(出所:日経BP総研)

同一の表示装置から、顧客に応じた個別情報を表示する「パラレル・リアリティ」技術(出所:日経BP総研)

スタートアップの実践例としては、米Otter.aiの音声認識AIサービス「Otter」があります。Otterは、リアルタイムの英語音声の文字起こしサービスであり、その精度は高く、議事録作成を簡略化したい企業などでの採用が増えています。議事録の作成は、多くの企業に共通するタスクであり、時間がかかるものです。このため、会議に速記専任者を同席させることもよくあります。こうしたツールが普及すれば、会議後の作業効率は劇的に変わることでしょう。文字起こしサービスは、超低遅延性の5Gと相性が良く、リアルタイム性を売りにした応用サービスが多数登場することが期待されています。

例えばOtterを英日翻訳ツールと組み合わせれば、英語によるプレゼンテーションをその場で日本語表示することが可能になります。2020年1月に開催されたイベント「DOCOMO Open House 2020」では、みらい翻訳が提供する「Mirai Translator」と組み合わせることにより、英語のプレゼンを即時に日本語で表示するデモが実演されました。プレゼンテーション音声をOtterが英文テキスト化し、そのうえでMirai Translatorが即時に英日翻訳することで実現したものです。

写真 : 「DOCOMO Open House 2020」で講演するOtter.aiのサム・リアンCEO。講演内容はリアルタイムで日本語表示されていた(出所:日経BP総研)

「DOCOMO Open House 2020」で講演するOtter.aiのサム・リアンCEO。講演内容はリアルタイムで日本語表示されていた(出所:日経BP総研)

ローカル5Gでユーザ企業の手でも5G構築・運営を現実に。富士通が国内初免許を取得

5G時代にはもう一つ、企業が取り組むべきテーマが登場します。企業が自らのDXを加速するために、自らの事業に適した自営5Gネットワークを構築することです。これがローカル5Gです。

ローカル5Gについてはこの連載でも何度か紹介してきましたが、いよいよ国内でも企業による5Gネットワークの構築が始まります。2020年2月18日、関東総合通信局は富士通に、国内初となるローカル5Gの無線局予備免許を付与しました。これを受けて富士通は、ローカル5Gの電波を発する無線局を富士通新川崎テクノロジースクエアに設置し検証を進め、商用のローカル5Gの無線局免許を取得。3月27日より自社内での運用を開始しました。

富士通だけでなく、DXを推進する企業はすべて、ローカル5Gを構築するべきかどうかを検討する必要があります。そこで次回は改めて、ローカル5Gを取り上げます。どんな企業がローカル5Gに取り組むべきか、ローカル5Gの設計・構築・運用に関する注意点は何か、現行ネットワークからのマイグレーションに必勝法はあるのか―――。どうぞお楽しみに。

著者情報
林 哲史

日経BP 総合研究所 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。

菊池 隆裕

日経BP 総合研究所上席研究員

1990年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、同年日経BPに入社。『日経コミュニケーション』『日経エレクトロニクス』『日経コンピュータ』などで、主に通信・インターネット分野を取材・執筆。2002年~2004年までシリコンバレー支局勤務。2009年、ソニーエリクソンコミュニケーションズ(当時)などと共同で、スマートフォン向けアプリの開発コンテスト「Android Application Award(A3=エーキューブ)」を立ち上げ。その後、ソニー向けに「CES」「MWC」「IFA」におけるスタートアップ企業との共同出展を支援。『フードテックの未来2019-2025』(2019年12月)、『5Gエコノミー世界総覧』(2020年3月)の編集担当。『日経フードテック・カンファレンス』(2019年12月)企画担当。