服はシェアして、旅は手ぶらの時代に。(前編)DXで新しいシェアリングサービスを創る

【未来を創るチカラ Vol.14】DXプロジェクトリーダー 山田 修平

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ファッション業界が生産工程で排出する温室効果ガスや、毎年廃棄される膨大な衣服は深刻な環境問題です。サステナビリティが火急の課題とされる中、日本でもシェアリングやサブスクリプションのプラットフォームを立ち上げようと『DASSEN BOUTIQUE(ダッセンブティック)』が開発され、大きな期待を集めています。このプラットフォームを活用して2018年8月に三越伊勢丹の服のシェアリングサービス『CARITE(カリテ)』が誕生し、2020年の春にはANAの『手ぶら旅行サービス』が提供開始予定です。異業種の企業をつなぎ、デジタルトランスフォーメーション(DX)で革新的なサービスを創り出すイノベーションはいかにして生まれたのか。プロジェクトリーダーである富士通の山田修平に、その背景や想いを聞きます。

リアルとデジタルを融合したシェアリングサービス基盤『DASSEN BOUTIQUE』

山田 「『DASSEN BOUTIQUE(ダッセンブティック)』は、ファッションを中心とした小売企業やブランドが、サブスクリプションサービスやシェアリングサービスを、オンラインと実店舗でカンタンに始められる富士通のソリューションです。現在、スマホアプリとECモールの2つを提供しています。

スマホアプリソリューションは、お客様が商品の閲覧やレンタル予約を行えるモバイルアプリと、商品の個品管理やレンタル予約に応じた在庫管理機能、決済機能を提供する事業者向け管理システムのSaaS基盤で構成されています。主に実店舗の利用率が高いお客様をメインターゲットとしており、アプリ上で簡単に服のレンタル、購入ができることはもとより、実店舗に立ち寄り試着した上でキャッシュレス注文することができます。
ECモールソリューションは、主にWeb閲覧やECの利用率が高いお客様をメインターゲットとしており、お客様は様々なブランドのアイテムをECモール上でレンタルすることができ、事業者はアイテムをECモールに登録するだけですぐにサービスを開始することができます。

現在、三越伊勢丹様でスマホアプリソリューションを活用したサービス『CARITE(カリテ)』が提供されており、またANA様でECモールソリューションを活用した『手ぶら旅行サービス』をこの春から提供予定です。」

図 : 『DASSEN BOUTIQUE』 画面イメージ(写真左 スマホアプリ画面、写真右 ECモール画面)

『DASSEN BOUTIQUE』 画面イメージ(写真左 スマホアプリ画面、写真右 ECモール画面)

三越伊勢丹×富士通:銀座三越セレクトブランドのシェアリングサービス『CARITE』

「三越伊勢丹様の『CARITE』は、ブライダルや特別な日のために銀座三越がセレクトしたレディースウェアを、スマホアプリを使ってレンタルできるサービスです。お客様はアプリからアイテムを探して予約申し込みができるほか、銀座三越に来店して手に取りながら商品を選んだり試着したり、アプリで決済することも可能です。チャット機能を通じてお客様と販売スタッフが繋がれるので、スタイリングの相談やリコメンドもできます。利用が終わったらクリーニングは要らず、返却用の袋に入れて郵送するだけです」

図 : 銀座三越『CARITE』イメージ(写真左 スマホアプリ画面、写真右 店頭フロア)

銀座三越『CARITE』イメージ(写真左 スマホアプリ画面、写真右 店頭フロア)

「2018年8月から銀座三越で4ヶ月実施したトライアル検証では、予想の半分の期間で目標を達成することができました。またデパートの顧客層は50代・60代以上がメインになっている中で、『CARITE』は20代・30代のお客様の割合が65%に上り、若年層のお客様へのアプローチという点においても手応えを感じています」

ANA×富士通:旅に合う服・カメラ・美容家電を体験できる『手ぶら旅行サービス』

「2019年12月に、ANA様とアライアンスを組み、『DASSEN BOUTIQUE』を活用した『手ぶら旅行サービス』の提供を発表しました。飛行機やホテルを予約するように、旅行に関わる様々なアイテムのレンタルをオンラインで予約でき、宿泊先で受け取って、チェックアウト時に返却する仕組みです。ANAセールス様をはじめ、バーニーズ ジャパン様・キヤノンマーケティングジャパン様・クレイツ様・東田ドライ様という複数企業の共創によって実現したサービスで、2020年1月からお客様モニターによる実証実験が始まったところです。

写真 : 2019年12月に催されたANA『手ぶら旅行サービス』発表会の様子。ファッションアイテムは、バーニーズニューヨークがコーディネート

2019年12月に催されたANA『手ぶら旅行サービス』発表会の様子。ファッションアイテムは、バーニーズニューヨークがコーディネート

『手ぶら旅行サービス』は、“荷物からの解放”だけではありません。旅先に合わせた理想的なコーディネートを体験でき、興味のある美容家電を試せるなど、ブランドとの出会いが楽しめます。重くてかさばる服やカメラを持ち運ぶ労力や、帰宅後の洗濯の手間が減るので、旅行体験そのものにより深く没入できる余裕も生まれます。究極的には、荷物を持たずに旅行に出られるといった新しい体験をお客様に提供することを目指しています」

開発の経緯:GAFAを追うのではなく、新しい市場を創出しよう

「私はテクノロジーやデジタルが好きで富士通に入社しました。入社した2008年当時はiPhoneが登場し、Facebookが世界に広がっていくことをワクワクしながら眺めていましたが、一方で、私が子どもの頃はそれらの役割を日本の企業が担っていたのに、日本が主役でないことに寂しさと悔しさを感じていました。

その後も、世界と日本の差は広がってしまったように思います。GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)のような企業は様々な産業を脅かす存在となっています。今からGAFAと同じ道を辿って追いつくことは難しい。でも新しいトレンドに素早くキャッチアップし、正しくデジタルを実装できれば新しい市場を創出することができるはず。そう考えて2016年当時まだ日本では認知度の低かったサブスクリプションサービスやシェアリングサービスに着目し、各社がすぐにサービスを導入できるようなソリューションの企画に着手しました。

同じ頃、社内で新ビジネスの企画をテーマにしたワークショップが開催され、アウトプットの1つとして“手ぶらで旅行するサービス”のアイディアを知りました。ただ、このアイディアは実現に至らなかったと聞いて、もったいないなあと。旅行に荷物がいらなくなるというコンセプトだけでなく、インバウンドに展開できれば“日本に来る時は荷物が必要ない!”という驚きを提供できます。着物だけでなく日本の最新カルチャーを、ファッションを通して体験してもらえるのでは…?とイメージが広がって、ワクワクしました」

シリコンバレーのスタートアップの人たちのマインドに、触発される

「ただ、このイメージを全部いっぺんに実現しようとすると難易度が高くて、必要なピースがあちこち抜けてしまいます。そこでまずは“服”のサブスクリプション、シェアリングプロジェクトの延長線上に、次のステップとして、旅行業界を巻き込んでいけば実現できるのでは?と仮説を持って企画を膨らませていきました。

当時の私は、小売業界、ファッション業界やそのデジタルトレンドも知らなければ、文系でプログラミングを書くこともできず、そもそも新規事業も初めてでした。何も知らない、できない状態と、やりたいこととのギャップを埋めるために実際にファッションブランドの店舗などの現場に足を運んで、1ユーザとして体験してみることから始めました。会社の出張ではいつ行けるかもわからない、行けたとしても”視察ツアー”になってしまう可能性があるシリコンバレーには、スピード感を持って実態を知るために自費で赴き、デジタルやサブスクリプション、シェアリング、UXの最先端を自分の目で見て体験してきました」

「シリコンバレーでは、当時日本では利用しづらかったUberを利用してみたり、デザイン思考のメッカとして有名なスタンフォード大学のd.schoolで学生たちが新規事業のアイディアをプレゼンする場に参加して意見交換をしました。Airbnbにも泊まって世界中から集まったスタートアップの人たちと話し、日本とは異なる社会課題や、それを解決したいのだという強い思い、モチベーションの起点となった体験、いわゆる原体験を聞き、マインドに触れることがすごく刺激になりました」

通説を破れ!大企業でもイノベーションは起こせる

「新規事業は、何が間違っていて何が正解なのかわからない、カオスな取り組みです。なかなかうまくいかないことに、焦りや歯がゆさや不安を感じることもありました。アクセラレーターやベンチャーキャピタルの方、起業家の方からは、『何をしたいのかわからない』、『なぜ富士通でやるのかよくわからない』など、厳しい言葉を投げかけられたこともありました。また『大企業ではイノベーションは起こらない』ことが通説であることを知りました。本プロジェクトでも当初は『「サブスク」などはやるわけがない』、『「レンタル」と何が違うんだ』と社内で言われてきました。今振り返れば、新規事業をやったこともない人達の賛同を受けていたら、それは成功しないビジネスだったのだと思います。大企業では、肯定されるよりも否定される方がビジネスの成功確率は高いと思います。その想定で周囲の理解を得るための対策を丁寧に立てれば、大企業でイノベーションを起こせると考えています。

プロジェクトを始めるにあたり、まずは仲間集めから開始しました。このプロジェクトの成功には、デザインの力がすごく重要だと思っていたのと、ハングリー精神や行動力があるスタートアップの方たちを巻き込みたいと思ってメンバーを探していたところ、新規事業の勉強会で出会った方に、UX/UIデザインの最前線で活躍されているスタートアップ、ここ(インタビュー場所となった)ARCHECO(アルチェコ)さんの前社長の須齋さんを紹介していただくことができました。また経産省の次世代イノベーター創出プログラムの『始動』に応募したり、企業の若手有志コミュニティに参加するなどして、社外のネットワークを拡大していきました。その中で三越伊勢丹様のプロジェクトメンバーとも知り合うことができました」

写真 : ARCHECOは最先端のUXデザイン、UIデザインの知見を軸に、新規事業の立ち上げから、既存サービス改修までを手掛けるUX/UIデザインコンサルティングファーム

ARCHECO(https://archeco.co.jp/)は最先端のUXデザイン、UIデザインの知見を軸に、新規事業の立ち上げから、既存サービス改修までを手掛けるUX/UIデザインコンサルティングファーム

後編では、大企業同士のオープンイノベーションについて、また今後のビジョンについて、聞いていきます。

山田 修平

写真 : 山田 修平

1984年茨城県生まれ。富士通入社後、金融業界の営業を担当。社内公募制度にて新規事業部門へ異動。経産省主催 次世代イノベーター「始動」選抜。「Dassen boutique」を中心に、三越伊勢丹「CARITE」、ANA「手ぶら旅行サービス」をリリース。現在は、「Dassen boutique」の事業拡大に従事しながら、DX、新規事業開発、イノベーション創出のアドバイザリー、実行支援に取り組む。2020年4月より0から1を生み出すトランスフォーメーションデザインファーム「Ridgelinez(株)」に所属。
Dassenboutique、DX、新規事業開発、イノベーション創出を検討中の方は、是非お問合せフォームにご連絡ください。