製造現場の負荷を軽減し、品質と効率性を向上させるAI活用法とは?

メインビジュアル : 製造現場の負荷を軽減し、品質と効率性を向上させるAI活用法とは?

品質担保のための過剰な検査が、かえって現場の負荷につながる可能性も

今、多くのものづくりの現場では、「品質と効率性向上」の両面を維持することが非常に難しい課題となっています。多くの製造業では、製品の品質はもちろん、作業品質や効率を高めるため、従業員教育をはじめ、モチベーションを上げる取り組みを実践したり、作業を標準化したりすることで品質保全に努めています。

しかし、高いスキルを持った人材の育成や確保が難しい上、そもそもヒューマンエラーをゼロにすることは極めて困難なために、品質を担保するための過剰な検査が、かえって工程全体の作業負荷を高めてしまう恐れが発生する、という皮肉な問題も生まれています。

このような製造工程や、設備のメンテナンスにおける作業現場の負荷を軽減したり、スキルギャップを補完して技術を継承したりすることが、ものづくりやメンテナンスの効率性と品質を高める上で重要なポイントになると考えられます。

富士通は、ものづくり事業ブランド「COLMINA(コルミナ)」のもと、AI(人工知能)で映像から人の様々な行動を認識する「行動分析技術 Actlyzer(アクトライザー)」や、高精度に加工品質を判断するAI「リアルタイム特徴量抽出技術・品質状態推定技術」で、このような現場の課題解決を支援しています。

ヒューマンエラーを未然に防ぎ、検品作業の負荷も軽く

通常、工場では手順書に沿って一定の手順で作業を進める必要があります。作業を1つ飛ばしてしまったり、忘れてしまったりというヒューマンエラーを防ぐため、多くの工場では、出荷前に入念な検品検査を行っています。

一方、人間の行動は複数の動作の組み合わせで成り立っています。Actlyzerは、「歩く、走る、止まる」などの人間の基本動作を約100種類のパターンとして定義し、基本動作をディープラーニングによって分析することで、複雑な人間の行動を分析できるようにしました。

作業者の一連の動きを現場のカメラで撮影しておき、その画像をActlyzerで解析することで、作業者がマニュアルとは異なった動作をとった場合に、作業が正しく行われたかどうかを分析できるようになります。もし、手順を間違えたり、添付品を入れ忘れたりしたような場合には、作業者にアラートで伝えることでエラーを未然に防ぐ、というようなシステムへの導入も可能となります。その結果、必要以上の過剰な検品作業が省略できるようになるなど、作業後の検査工程の負荷軽減が期待できます。

図 : 図1 複数の動作が組み合わさった複雑な行動を認識できる「行動分析技術 Actlyzer」

図1 複数の動作が組み合わさった複雑な行動を認識できる「行動分析技術 Actlyzer」

規模の大きな工場の中では、何千人という人間が同時に作業をしており、それぞれの作業の正確性を確認することが不可能でした。Actlyzerを活用することで、人数が多くても一人ひとりの行動を確認できることで、作業品質の向上にもつながります。

人の行動をリアルタイムで分析するActlyzerで事故を未然に防止

Actlyzerの大きな特長は、リアルタイムに行動を分析できることです。例えば設備のメンテナンスの現場などでは、事故が発生したり作業員がケガを負ったりする可能性があります。Actlyzerを活用することにより、作業員の転倒など人の動きをリアルタイムで分析し、事故発生や作業員がケガをしたことをアラームで通知する、などのシステム構築が可能です。

さらに、Actlyzer は危険な場所への人の立ち入りや、不審者の侵入検知など、セキュリティを守る用途にも活用できます。また、次世代移動通信である5Gと組み合わせれば、遠隔地でメンテナンスしている人間の作業も、リアルタイムで確認することが可能です。

熟練者の技術やメンテナンス作業を次の世代へ継承するために

ものづくりやメンテナンスに関わる技術を映像として蓄積することには、大きな意味があります。特に現場では、熟練者と初心者のスキルギャップや技術継承が大きな課題となっています。ベテラン作業者が退職などで現場を去ることで、その技術が後輩に受け継がれないまま失われることは、企業にとっては大きな損失です。

そこで、ベテランの高いスキルやドキュメントの無い機械のメンテナンス手法を画像で残しておき、Actlyzerで記録すれば、分析可能な映像として蓄積できるようになります。ベテラン作業者の高いメンテナンス技術を次世代に継承することにも貢献できます。

SUBARU様とAIを活用し製品と作業の品質向上に挑戦

人の行動分析だけではなく、製品の品質向上や設備のメンテナンスにもAI技術が活用されている事例があります。SUBARU様では、エンジン部品加工の品質向上にAIを活用しており、そこに富士通のリアルタイム特徴量抽出技術と品質状態推定技術が使われています。2019年12月4日から2020年1月31日に行った実証実験では、エンジンバルブの開閉のための部品であるカムシャフトの研削加工工程にこれらの技術を活用しました。

カムシャフトは金属を研削加工して製造します。実証実験では、研削加工時の振動や動力値を計測し、加工品質の実測値とAIの推測値を照合しながら、AIの推論の確からしさを検証してきました。これにより、加工時の振動や動力値から、製品の品質をリアルタイムに予測できるようになり、工程が良好に進んでいるかなどを確認できるようになりました。

同時に、実証実験では、カムシャフトの研削に用いる研削設備(砥石)の点検にも役立つことが分かりました。砥石は使えば使うほど目が詰まり、研削能力が劣化するため、従来は一定時間使用した砥石を、定期的に目立てと呼ばれる砥石を研ぐことで、研磨能力を維持してきました。この実証実験では、研削加工時のセンサーデータから、砥石の研削能力を判定。砥石が劣化して、製品の品質に影響が及ぶぎりぎりの状態になってからの目立てが可能となりました。これにより、砥石の無駄な交換などのメンテナンス作業の削減にもつながるようになりました。

このように、AI技術を用いることで、人間の作業品質同様、機械が行う製造作業やメンテナンスの作業品質についても、正確な判断が期待できるようになりました。また、この実証実験を通じ、製造過程で同時に品質確認を行えるようになったため、従来の抜き取り検査に加え、加工したすべての製品の品質把握が出来るようになり、品質保証レベルを飛躍的に向上することが出来ました。これは、製造業においては画期的なことと言えます。

図 : 図2 AIモデル(注2)を活用した品質保証の仕組み

図2 AIモデル(注2)を活用した品質保証の仕組み

(注1)エンジン部品の一種で、バルブ開閉の役割を担う。

(注2)今回の実証実験で使用したAIモデルは、株式会社富士通アドバンストエンジニアリングが持つ生産現場でのIoT活用技術、株式会社富士通研究所が持つAIモデル生成技術とSUBARUが持つエンジン部品の加工ノウハウを組み合わせ、富士通とSUBARUが共同開発したものです。

AIを活用しサイバー上で解決するスマートメンテナンスを実現

これまでも、製造現場には多種多様なICTが導入されてきました。今後はAIが至るところに導入されていくでしょう。AIの性能向上のためには、質の良いデータを数多く集めることが重要になります。AIのためのデータを用意するには、業種業界に関する知識や知見、経験とAIに関するスキル、両面に亘る幅広い知識が必要となります。富士通は、製造業や流通業など、色々な業界での実績を蓄積してきました。ActlyzerなどのAI技術を使い、映像を蓄積していくことは、IoTなどのセンシング技術を活用して現場をデジタル化し、サイバー上で解決するスマートメンテナンスにも通じます。

富士通は、今後もお客様の製造現場へのAI導入をご支援することで、ものづくりや保守作業の品質と、作業効率向上に貢献していきます。