日本の橋梁6割が老朽化に、危険なく安全に維持・管理するメンテナンスとは

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急速に進む社会インフラ老朽化、メンテナンス人材の減少も課題

現在、日本では道路やトンネル、橋梁、ダム、港湾設備などの社会インフラの老朽化が急速に進んでいます。国土交通省の「社会資本の老朽化の現状と将来予測」(注1)では、「今後20年間で、建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなる」と発表しています。例えば全国に約70万あるとされる橋梁は、2033年には建設後50年を経過するものが60%以上にのぼると予想しています。

(注1)国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」の「社会資本の老朽化の現状と将来予測」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html

さらに、これらのインフラを維持管理していくには、専門的な知識やスキルを持った作業員によるメンテナンスが欠かせませんが、高いスキルを持った人材が減っていく中で、膨大なインフラの維持に手が回らなくなることも懸念されています。

人が危険な場所に近づかず保守・保全できるスマートメンテナンスとは

このような課題を背景に、インフラ設備の維持管理で、最優先で考えるべきことは「事故を起こさない」「人が危険な場所に近づかない」ということです。そこで、事故や故障の予防保全として期待されているのが、ICTを活用したスマートメンテナンスです。

スマートメンテナンスとは、IoTなどのセンシング技術を活用して現場(フィジカル)のメンテナンス作業のデータをサイバー空間(コンピュータ)に収集・蓄積し、サイバー上で解決できるモデルを作り、実作業に反映するという仕組みです。富士通も、最新技術を活用したスマートメンテナンスを通じ、インフラ設備の維持管理に貢献しています。

「壁を這う」ドローンで、江島大橋の橋梁をメンテナンス

例えば、橋梁のメンテナンスにおいて、富士通は、内閣府などが国家プロジェクトとして推進しているSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で、鳥取大学チームとともに、2018年7月、「江島大橋の維持・管理プロジェクト」に参画しました。

一般的に保全作業では、橋梁点検車の作業用ゴンドラで橋の上から降りたり、橋の下に足場を組んだりして、作業員が点検箇所まで行き、目視で確認します。手間と時間、コストもかかり、そのうえ足場の上などの作業には危険も伴います。

これを解決するために、富士通の提案した技術が、ドローンを用いた点検ロボットシステムと、このロボットシステムで撮影した画像データをもとに、橋梁の損傷を3次元のデジタルデータで記録・管理する技術でした。

通常のドローンは、空中を飛び回りますが、橋梁のヒビ割れや亀裂、金属部分の錆びなどの劣化状況を調べるには、空中からの撮影では正確なデータが得られません。そこで点検ドローンは車輪を搭載した二輪型を採用しました。

江島大橋は、鳥取県境港市と島根県松江市にかかる全長1446mの橋で、海面からの高さは最高44.7mにも達します。橋梁点検車を使用しても辿り着けない箇所があるため、ドローンを橋の側面にそって這わせることで、点検ロボットが接地面をしっかりと、漏れなく撮影できるようにしました。その結果、0.1mm単位のヒビ割れや亀裂、錆びなどの検知に成功し、人による近接目視点検の代替え可能な性能を実証しました。このような取り組みの結果、危険な場所に人間が足を運ばなくても、橋梁のメンテナンスが可能になりました。

写真 : 壁を這い橋梁を点検するドローンの様子

壁を這い橋梁を点検するドローンの様子

3Dモデルで橋梁の全体像を再現、サイバー空間でのメンテナンスも可能に

また、この江島大橋の維持・管理プロジェクトで、富士通はドローンによって撮影、収集したデータを自動的に「3D維持管理データベース」に蓄積する仕組みを構築しました。これにより作業員がデータベースに手入力する手間を省き、作業の効率化を図りました。

図 : 従来の人による目視点検、点検結果の入力をロボットシステムが撮影、調書を自動出力 

従来の人による目視点検、点検結果の入力をロボットシステムが撮影、調書を自動出力 

さらに、「3D維持管理データベース」に蓄積したヒビ割れ写真の画像やデジタルデータを組み合わせ、橋梁の現況をサイバー上に3Dモデルとして復元して、デジタルの世界で橋梁を点検する取り組みを行いました。ドローンを活用すれば、橋梁の劣化状況だけでなく、劣化箇所の位置情報なども正確に取得できます。デジタルの世界で、橋梁の損傷状況を把握したり、劣化箇所の位置情報を確認して点検するという、スマートメンテナンスが可能になります。

このスマートメンテナンスのための3Dモデル作成に必要なのが「関連付け」という処理です。デジタルの世界で、橋梁の状態を確認し、点検を行うには、現実の橋梁とデジタルの3Dモデルがシンクロしている必要があります。そのため、ドローンが取得した画像や位置などのデータを、デジタルの橋梁と関連付けながら、シンクロできるような形で3Dモデルを構築します。

このようにサイバー空間上に復元した過去と現在の3Dモデルを比較して、亀裂が広がっている場所を発見したり、劣化進行のシミュレーションを行います。これにより、危険な場所に人を近づけることを最低限に抑え、橋梁の予防保全の強化に役立てることができます。

図 : 3D維持管理データベースを活用し、サイバー空間上に現況を復元。橋梁の劣化箇所や現況確認を可能に

3D維持管理データベースを活用し、サイバー空間上に現況を復元。橋梁の劣化箇所や現況確認を可能に

沖縄電力様が設備点検ドローンで撮影した画像を富士通の外観検査AIで解析

電力発電設備のメンテナンスでは、ドローンとAIによる画像解析技術を用いて、安全かつ正確に点検画像を取得し、不具合箇所の高精度な検出を実証検証した沖縄電力様の事例があります。風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーに注力する沖縄電力様では、2018年より、発電設備の保全にドローンを活用した効果的な巡視点検の手法検討と、点検で得た画像解析の高度化を検討しています。

写真 : 目視しづらい羽根の下、広大なメガソーラー実証研究設備の点検にドローンを活用

目視しづらい羽根の下、広大なメガソーラー実証研究設備の点検にドローンを活用

これまでは、作業員が月1回、風力発電設備の巨大な羽根(ブレード)や、ブレードを取り付けているタワーを地上から目視で点検していました。太陽光発電の施設でも同様に、月1回、発電パネルや架台、ケーブルなどの異常を目視での点検を行っていました。発電パネルは面積が広いために1回あたりの検査に5~6時間もかかることもありました。また、目視だけではヒビ割れや錆びなどを見落とす可能性がありました。

そこで、沖縄電力様ではドローンを使い、上空からの撮影による設備点検に取り組みました。その結果、1回の点検を大幅に短縮できることに加えて、地上からでは見えない場所も点検しやすくなることになり、点検業務の高度化が可能であることが見えてきました。

ドローンを用いて取得した設備画像の解析にはディープラーニングを用いた富士通の外観検査AIで解析しています。太陽光パネルは光の反射や映り込みが大きいため、人間の目で見てもヒビ割れや亀裂を見つけるのは容易ではありません。ドローンでただ撮影しただけでは、異常を正確に把握するのは困難です。そこでドローンを飛ばす高さや撮影するカメラの角度の調整とディープラーニングによる分析を組み合わせることで、画像を詳細に解析できるようにし、目視では見つけづらい微小な劣化箇所も検知できるようにしました。その結果、膨大な数の太陽光パネルなどで、不具合の箇所を高精度で検出できることが実証されました。

写真 : 太陽光パネルのAI画像解析結果。視認目視しづらいパネル設置架台の錆も自動検出

太陽光パネルのAI画像解析結果。視認目視しづらいパネル設置架台の錆も自動検出

光ファイバーを活用し機械設備の異常予兆を検知、要員の安全も確保

保守・保全作業の中には、光ファイバーを活用して設備や機械の温度変化を常時監視することで、要員の安全を確保するとともに、操業停止による損害を回避しながら、異常の有無を監視するようなケースもあります。

光ファイバーは一般的に光通信のために用いられることが多いものですが、面や空間の温度計測にも利用できるデバイスです。例えばプラントに細い光ファイバーを張り巡らせると、1本の光ファイバーでプラントの温度を±1℃の精度、10cmの間隔、最大約6kmの長さまで測定できます。

ある電力系プラントの実証実験では、この光ファイバーを用いてボイラーが複雑に入り組んだ配管設備の温度を測定。多点で継続的に温度センシングを行い、その温度変化から設備異常をリアルタイムに検知する検証を行いました。温度測定ポイントごとに電源や通信ケーブルと共に設置して使用する半導体式温度センサーや熱電対式温度センサーのような従来のポイント式温度センサーによる異常検知よりも、精緻でリアルタイムな検知が可能であることを実証しました。

具体的には、高温の水蒸気を送る蒸気配管の測定温度データを解析することにより、蒸気配管内の水蒸気の異常な液化や滞留の発生を検知することができました。さらに、蒸気配管と燃料配管の温度上昇・低下タイミングの比較から、それぞれの配管が正常な状態であるかどうかを把握することにも成功しました。

こうした光ファイバーを活用した技術により、プラントの中の高温な場所、あるいは酸素が少ない危険な場所に人を極力近づけず、要員の安全を確保しながらプラントの状態を推定できるようになります。

また、光ファイバーを活用することで、機械を停めずに点検が可能になるため、稼働状態でしか生じない異常を検知でき、操業停止に伴う損害のリスク回避も期待できます。

小規模メンテナンスによる遠隔点検で、さらに効率的、かつ安全に

このように社会基盤を支えるインフラ設備は、山中、洋上など人里離れた場所に作られることも多いことから、メンテナンスのために機材を運搬したり、足場を組み立てたりと大掛かりな準備が必要でした。しかしスマートメンテナンスを活用することで、小規模な人員と設備で、遠隔での点検が期待できるようになります。点検後に修繕が必要と判断した段階で、作業員を配置して作業するようにすれば、さらに効率的かつ安全なメンテナンスが期待できます。

今後、老朽化した社会インフラが増え続けると予測される中、メンテナンスに伴う危険な作業を極力回避し、メンテナンス人材の不足といった課題を解決するにはICTの活用が不可欠です。富士通は、これからも、スマートメンテナンスで老朽インフラの維持・管理といった社会課題に取り組んでまいります。