DX政策の最新動向と今後の展望

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2018年9月の経済産業省による「DXレポート(注1)」の公表以降、日本政府は、DXをキーワードとした政策を複数展開しています。また、DXに関連した書籍が数多く出版されるなど、DXに対してベンダー・ユーザー・投資家などからの関心は従来以上に高まっています。ここでは、政府の課題認識(日本の産業社会が抱える課題)にフォーカスを当てながら、これまでのDX政策、および2020年度以降に運用される政策の展望についてご紹介します。

DX(Digital Transformation)とは何か

DXは、2004年 スウェーデン ウメオ大学 エリック・ストルターマン教授の提唱により生まれた概念です。経済産業省では、DXを次のように定義し、決して“DX=新技術の導入”ではないことを強調しています。

経済産業省の「DX推進ガイドライン」(注2)によると、DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。

日本企業が多くのリスクに直面する「2025年の崖」

近年、あらゆる産業でデジタル技術を駆使したディスラプターが登場するなど、様々な領域でゲームチェンジが起きています。日本の多くの経営者はDXの必要性を認識し、対策を検討しています。しかし実際は、予算の90%以上をランザビジネスに割く企業が約40%存在する(注3)など、ビジネス変革に十分なリソースが割かれていません。日米のIT投資を比較すると、図1のとおり、日本企業は業務効率化といった守りのIT投資を行う傾向があります。

図 : 図1 IT投資における日米比較(出所:2017年 JEITA IDC Japan 調査(注4))

図1 IT投資における日米比較(出所:2017年 JEITA IDC Japan 調査(注4))

さらに、2025年にはIT人材不足が約43万人に倍増する、21年以上運用する基幹システムが60%以上になる、メインフレームの担い手の高齢化が進むなど、日本企業が抱える課題が一気に深刻化することが想定されます。このように2025年を境に、日本企業が多くのリスクに直面することを、経済産業省は「2025年の崖」と呼んでいます。

DX政策の動向~2025年の壁をいかに乗り越えるか~

経済産業省は「2025年の崖」を乗り越えるべく、表1に示すような施策を展開しています。各施策を次節以降でご説明します。

名称 公表時期 概要
DXレポート 2018年9月 民間企業がDXを推進するうえでの課題と対応方針を提示
DX推進ガイドライン(注2) 2018年12月 DX実現のために、経営者が押さえるべき事項を明確化
DX推進指標(注5) 2019年7月 経営者が自社の経営とITシステムの現状/問題点を自己診断によって把握するための指標
DX推進における取締役会の実効性評価項目 同上 取締役会向けにDX推進指標をサマライズしたもの

表1 DX政策一覧

①DXレポート・DX推進ガイドライン

DXレポートとは、経済産業省に設置された「DXに向けた研究会」での議論を取りまとめたものです。本研究会には富士通を含めたベンダーだけでなく、ユーザー・アカデミアの方々も参加しています。本レポートでは、まず日本企業の課題を経営戦略と既存システムの観点から整理しています。

  • 経営戦略の課題:明確なビジネス戦略がないまま「AIを使って何かできないか」など、技術ありきのPoC(Proof of Concept:戦略仮説・コンセプトの検証工程)が繰り返されるが、ビジネス変革につながらない etc.
  • 既存システムの課題:所有する情報資産がブラックボックス化し、デジタル化の足かせになっている etc.

次に、現状の情報資産を分析・評価したうえで、図2の通り、刷新・機能追加・廃棄・塩漬けに仕分けするイメージを示しています。DX推進には、所有する情報資産を仕分けしたうえで、具体的なアクションを検討・実行することが重要です。

図 : 図2 情報資産の仕分けイメージ(出所:経済産業省 DXレポート)

図2 情報資産の仕分けイメージ(出所:経済産業省 DXレポート)

そして、「2025年の崖」に対するDX失敗と成功の2つのシナリオを示したうえで、以下の対応方針をまとめています。

  • DX推進ガイドラインの策定
  • 情報資産の見える化指標、中立的な診断スキームの策定
  • アジャイル開発などに対応するユーザーとベンダーの新たな関係の検討
  • DX人材の育成、確保の検討

DXレポートでは、日本社会にDXの重要性を訴求するために、一見するとメインフレームや既存システムを否定するような強い言葉が一部用いられていますが、その本質は「現状把握⇒分析⇒評価」を進めながら戦略的なシステム投資を実施することにあると考えます。また、今後の検討の方向性として、ユーザーとベンダー間の目指すべき姿と双方の新たな関係や、DX人材の育成・確保等が掲げられています。法務や人事など多方面の課題に向き合い、DX実現を後押しするという政府の意図が見て取れます。

対応方針の1つであるDX推進ガイドラインは、DXを実現するうえで、経営者が押さえるべき全12項目を「経営のあり方・仕組み」と「ITシステム」の2つの観点からまとめたものです。項目ごとに失敗・成功事例が示されています。

DXレポートの公表以降、DXをキーワードとしたセミナーやシンポジウムが連日開催されるなど、「2025年の崖」のキャッチコピーとともにDXの重要性は社会に広く認知され始めています。

②DX推進指標・DX推進における取締役会の実効性評価項目

DX推進指標は、経営者が自社のDXの取り組み状況やITシステムの競争力・問題点などを把握し、経営者に気づきを与えるための指標です。DXレポート、DX推進ガイドラインに続いて、2019年7月に公表されました。各項目について経営者が経営幹部・事業部門・DX部門などと議論しながら回答し、進捗管理を行いつつ、アクションプランを策定・実行することが期待されています。なお、本指標は、富士通をはじめベンダー・コンサル・ユーザー企業が参加した経済産業省主催の検討会での議論をもとに策定されています。

経済産業省は、本指標を活用した一連の流れを健康診断の流れに例え、社会への普及を図っています。

  • 問診票や血液検査=DX推進指標を用いた自己診断
  • 人間ドックや精密検査=コンサル・ベンダー各社による詳細診断
  • 専門医による治療=コンサル・ベンダー各社支援によるITシステムの構築・改修・刷新

DX推進指標は、キークエスチョンとサブクエスチョンの計35個の設問(+定量指標)で構成されており(図3)、設問ごとにレベル0~5の成熟度で評価する形式で構成されています。本指標を活用する本質は、診断結果の絶対値の大小に一喜一憂することではなく、1回目の診断結果をいつまでにどれだけ伸ばすかといったことを定め、中長期的に結果をトラッキングしながらDX実現に向けたアクションプランを実行することにあると考えます。

図 : 図3 DX推進指標の構成(出所:経済産業省 DX推進指標)

図3 DX推進指標の構成(出所:経済産業省 DX推進指標)

現在、各企業の自己診断結果については独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が同機構のHP上で収集を図っています。2019年度内には、業界ごとの傾向を分析したベンチマークが公表される見込みです。このベンチマークにより自社の立ち位置を理解し、次のアクションの検討・実行に活かすことが期待されます。

また、本指標と同時に取締役会向けにDX推進指標の設問をサマライズした「DX推進における取締役会の実効性評価項目」が公表されています。この実効性評価項目は、主に社外取締役による実効性評価等におけるコミュニケーションのためのツールセットとして策定されました。日本企業のDX化を浸透させるため、経営層の理解を深めることが狙いです。

2020年度以降の展望~より加速していくDX~

経済産業省は、経営における戦略的なシステム利用の指針としてデジタルガバナンス・コードの策定も進めています。そして2020年5月中下旬より、デジタルガバナンス・コードを踏まえてステークホルダーとの対話に取り組む企業を認定する制度を運用予定です。この認定制度の狙いは、国がデジタル技術に対する取り組みの優劣を評価することではなく、投資家等のステークホルダーとの対話に積極的な企業を見える化し、企業間競争やステークホルダーからのエンゲージメントを促進することにあります。

また、上場企業を対象に、デジタルガバナンス・コードを踏まえ、優良な取り組みを行う企業を選定する「DX銘柄(注6)」の取り組みも2020年より開始します。「DX銘柄」は「攻めのIT経営銘柄(注7)」の後継制度の位置づけであり、1業種1.2社が選定され、2020年5月中下旬に発表される予定です。

デジタルガバナンス・コードを踏まえたステークホルダーとの対話に取り組む企業の認定制度とDX銘柄は、優良企業の見える化促進施策として連携して推進されると想定します。認定制度・DX銘柄が広く社会に普及すれば、企業の「DXに本気で取り組む」という意思表示に加え、判断材料となる資料がオープンになり、投資家等ステークホルダーからの注目度はより高まると想定されます。

なお、具体的な認定手順や提出が求められるエビデンスは政府内で詳細設計中ですが、これらの取り組みの根拠法となる情報処理促進改正法は2019年11月29日に成立し、2020年5月中旬に施行される見通しです。

安倍総理を議長とし、日本政府の戦略・方針を策定する未来投資会議においてもDXの必要性が言及され、上記の施策に加えて、「DX実践手引書(仮称)」や「DX事例集(仮称)」の検討も進んでおり、DXがより加速していくことが予測されます。

政府が提起するDXの課題に真正面から向き合い、「2025年の崖」を乗り越えるか、崖に陥りデジタル競争の敗者になるか、各社は正念場を迎えています。富士通グループは「IT企業からDX企業」へ転換し、社会課題の解決やお客様のDXビジネスの牽引を通して、社会の発展に貢献していきます。

(注1)経済産業省「DXレポート」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf

(注2)経済産業省「DX推進ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf

(注3)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会 企業IT動向調査2019(P.32)より
https://juas.or.jp/cms/media/2017/02/it19_ppt.pdf

(注4)JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)「2017年国内企業の「IT経営」に関する調査」(2018年1月)より
https://www.jeita.or.jp/japanese/exhibit/2018/0116.pdf

(注5)経済産業省「DX推進指標」
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html

(注6)経済産業省「DX銘柄」
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200204003/20200204003.html

(注7)経済産業省「攻めのIT経営銘柄」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/keiei_meigara.html

執筆者プロフィール:
吉川 明男(よしかわ あきお)

富士通株式会社
政策渉外室

写真 : 吉川 明男(よしかわ あきお) 富士通株式会社 政策渉外室

通信キャリアに入社。公共(警察)営業を経て、経営企画部に異動。サービス原価・価格策定やユニバーサルサービス制度の主幹として総務省対応に従事。2018年に富士通株式会社へ入社。現在は、経済産業省を中心に、DX・モビリティ・次世代コンピューティングなどの産業振興政策に関する渉外活動を担当。

※この記事は、富士通総研発行の情報誌「知創の杜 2020 Vol.1」(2020年3月5日発行)に掲載されたものです。
※執筆者の部署、役職と記載内容は、「知創の杜」発行当時のものです。


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