テレワーク導入のメリットと課題 富士通16万人の実践から

メインビジュアル : テレワーク導入のメリットと課題 富士通16万人の実践から

改めて注目されるテレワークとは?

テレワークとは、在宅勤務、外出先や移動途中での時間を有効に活用するモバイルワーク、社外に設けられたサテライトオフィスでのリモートワークなど、時間や場所にとらわれないワークスタイルのことを意味します。

少子高齢化社会を迎えた日本では、労働人口を確保することが年々難しくなりつつあります。テレワークは子育て・介護世代が柔軟に働くことを可能にし、離職防止や、若い世代が柔軟に働ける環境を重視する採用の面でも有効です。また、災害時での対応などを考慮する上でもテレワークは注目を集めています。
富士通は2015年から、全社をあげて働き方改革に取り組んできました。自社の実践事例をもとに、テレワーク導入のためのポイントやそれがもたらすメリット、そして見えてきた課題について紹介します。

目次


テレワーク導入当初の課題とは

富士通はテレワークを制度として体系化するために、2015年から人事と総務、IT関連部署がワーキンググループを作成して課題を抽出するなどの取り組みをスタート。そして2年後の2017年4月より全社員を対象に、自宅やサテライトオフィスなどの様々な場所で業務を可能とするテレワーク勤務制度を正式導入しています。

テレワークと聞くと、導入には様々なICTツールを駆使する必要がありハードルが高いと思うかもしれません。しかし、いきなり本格的な導入は難しくとも、前段階として比較的実現しやすいことも多くあります。たとえば、外出時の移動中や、お客様先/作業現場への訪問時など、テレワーク以外でもオフィスの外で仕事をしたいシーンはいろいろと考えられます。こうした際に簡単に仕事ができる環境を提供することで、社員の生産性、隙間時間の有効活用、残業防止につながっていきます。

実際にこれらのシーンでの仕事を可能とするにはいくつかの制約を考慮することが必要となりました。「重いPCはできる限り持ち歩きたくない」「タブレットやスマートフォンで業務がしたい」「セキュリティを万全にしたい」の3点です。

私用スマホの活用から着手

簡単に取り組むことができ、社員からの要望が特に多いのは、移動中や外出先でメールの送受信を可能にしてほしい、また、幹部社員が外出先でも各種の承認処理を行えるようにしてほしいといったことです。ちょっとした隙間時間にこれらのことを処理するには、ノートPCではなくスマートフォンを利用するほうが手軽ですが、一方で全社員にスマートフォンを支給するには大きなコストがかかります。

そこで、社員が所有する私物のスマートフォンの活用を進めました。メール利用は、会社のビジネスアカウントに届いたメールのプライベートアカウントへの添付や転送を不可にするなど、会社と個人の領域をしっかり分けて運用できる仕組みを採用しました。また、承認作業に関しては、稟議や勤怠、発注などそれぞれのシステム用に個別のアプリケーションを用意するのではなく、1つのアプリケーションですべての承認処理を実施できるように開発を行い、モバイルでの利便性にも配慮したことがポイントです

図 : 私物のスマートフォンから、稟議や勤怠、発注など、1つのアプリケーションで承認を可能に

私物のスマートフォンから、稟議や勤怠、発注など、1つのアプリケーションで承認を可能に

また、お客様先や現場への訪問時にいただいた質問や要望、現場のリアルタイムな状況などをすぐに関係者に共有して解決したい、という要望もありました。そこで、電子ペーパーとクラウド型ファイル管理サービス「Box」を組み合わせて活用する仕組みを構築しました。

例えば、お客様からの要望などを電子ペーパーにメモ、スマートフォンからBoxにアップロード。登録メンバーにメールが届き、その中に記載されているURLをクリックするとそのメモがすぐに参照できるようにしました。その場で関係者と確認、相談し、一度の訪問ですぐに解決できるため、現場からは業務の効率化につながったと好評でした。

テレワークの効率的な運用に必要な3要素

富士通社内へのテレワーク活用基盤を導入した経験を踏まえて、テレワークを効率的に運用するために欠かせない要素は3つあります。それは「Web会議」「ペーパーレス」「仮想デスクトップ基盤」です。

・Web会議サービス

例えば、自宅にいるからといって会議に参加できないようでは、テレワークの活用は拡がっていきません。そこで、まずはWeb会議サービスを導入し、どこからでも会議に参加できるようにしました。Web会議には音声通話やチャット、資料共有などができる「Skype for Business」を採用し、現在の利用率は全社員の97%に達しています。さらに、このシステムでは、各自の在席/離席状況、取り込み中など現在のステータスが確認できるため、相手の状況によって電話で問い合わせをしたりチャットで会話したりといった、シーンに応じた最適なコミュニケーション方法を選択することも可能になりました。

・ペーパーレス

また、テレワークのために多くの紙資料を持って帰る必要があると、やはり普及は進みません。ペーパーレス化の推進には前述のBoxを活用し、テレワーク時に共有が必要な資料はすべてBoxに格納するようにしました。Boxに格納できるデータは100種類以上のファイル形式に対応しており、場所やデバイスを選ばずにPCやスマートフォンからもすぐにプレビューで資料の内容を参照し、編集やレビューができるため、ペーパーレス化の推進にとても効果的です。

・仮想デスクトップ基盤(VDI)

そして、本格的なテレワークを実現する仕組みとして欠かせないのが、仮想デスクトップ基盤です。これは、社給のシンクライアントや自宅の私物PCなどの画面をモニター替わりとし、どこからでも会社のデスクトップ画面にアクセスできる技術です。実際の処理はすべてサーバ側で行われ、画面イメージのみを手元の端末に転送しているため、ローカル側に業務データをコピーしたり、不要なデータをアップロードしたりすることはできません。またセキュリティパッチもデータセンター側で一括して適用することができるなど、高度なセキュリティ対策も実現しています。

さらに、仮想デスクトップは、テレワーク時にも非常に効果を発揮します。「PCが変わると、お気に入りがない、オフィスのデスクトップにファイルを置いてきてしまってすぐに仕事が始められないといった場合がありますが、仮想デスクトップを使えばどこにいても常に同じ環境で作業を再開できます。セキュリティ面や作業効率の点からも、仮想デスクトップはテレワークに必須であると考えられます。

図 : 仮想デスクトップ基盤を利用すれば、セキュリティ対策に加え、常に同じ環境で作業ができるため、どこにいてもすぐに仕事を始めることができる

仮想デスクトップ基盤を利用すれば、セキュリティ対策に加え、常に同じ環境で作業ができるため、どこにいてもすぐに仕事を始めることができる

技術的な部分だけではなく真の課題は他にあった

2019年5月現在、富士通でテレワークを導入している職場は70%。利用者数は順調に増えており、一見テレワーク導入はスムーズに進んでいるようでしたが、「苦労話、失敗もたくさんあります」と明かしました。

例えば、メールボックスの移行に時間がかかったことを挙げました。社内のメールシステムをオンプレミス型からマイクロソフトのクラウドサービスである「Office 365」に変更するため、グループ会社を含め約10万人分のメールデータをOffice 365に移行する必要があり、想像以上に時間がかかりました。また、ネットワークやサーバの性能といった技術的な問題よりも真の課題は移行期間ならではの現場の混乱にありました。

また、従来オンプレミス型のシステムで使用していたメール誤送信防止用のプラグインツールをOffice 365で使用すると、メールの送信に時間がかかり、使い勝手の面でも利用者から不満の声もあがりました。他にもソフトウェアベンダーも想定できていなかったシステムトラブルへの対応、ルールや運用に関するリスク・コンプライアンス部門や人事労務部門などとの社内調整に予想以上に時間がかかり、移行期間が延びてしまいました。

さらに、仮想デスクトップ基盤の性能にも不満の声が上がりました。そこで、原因が仮想デスクトップ基盤のシステムにあるのか、接続するネットワーク側にあるのかなどを切り分け、CPU、メモリの状況を一目でみられる監視画面の作成や拠点ネットワークの監視/チューニングなど、様々な角度から対策を講じて早急に対応できる仕組みをつくりました。

社内への啓発活動で利用率が70%へ向上

テレワークが実施できるようにシステムや制度を整備したとしても、実際に社員がそれらを活用し、柔軟な働き方の実現や生産性の向上につながらなければ意味がありません。富士通の場合も、最初から多くの社員が利用したわけではなく、正式導入直後の利用状況は仮想デスクトップ基盤が48%、Boxについては28%程度に留まっていました。

しかし、仮想デスクトップについては、社内における働き方改革の取り組みでテレワークの認知が一般的に広がったことや、持ち運びの負担にならない薄型・軽量のシンクライアントの配布を展開したことにより、2019年3月には仮想デスクトップ基盤の利用率が70%まで向上しました。

また、Boxについては、社長からのメッセージ配信やEラーニングの全員必須受講などのトップダウンだけでなく、利用率の低い部門への説明や、使い方の動画を作成し配信する、といったボトムアップの取り組みにも力を入れました。結果、2019年3月時点ではBoxの利用率は70%に達しました。

85%の社員が隙間時間の有効活用を実感

女性が働きやすい会社第1位に

では、テレワークの導入によって実際の働き方はどう変わったのでしょうか。入社2年目の女性社員のケースを見ると、これまでは自席のある新横浜のオフィスと汐留本社間で移動が多く、汐留での会議の後に新横浜のオフィスに戻って残業することが頻繁にありました。テレワーク導入後はそのまま汐留で作業ができ、移動時間が短縮されて定時内に仕事を終えられるようになり、英会話スクールに通える時間などが確保できるようになったといいます。

このようにテレワークが定着することによって、隙間時間を有効活用できていると体感している社員の割合は85%と非常に高い数字を達成しています。ワークライフバランスに関しては2人に1人が向上したと感じています。また、東洋経済新報社がまとめた「CSR(企業の社会的責任)企業総覧2017年度版(注1)」では、女性が働きやすい会社の第1位に選ばれました。

(注1)「CSR企業総覧」は東洋経済新報社が2005年以降、毎年実施している「CSR調査」をまとめたもの。2017年度版は2016年6~10月に調査を実施し、1408社(上場1364社、未上場44社)のデータをまとめている。

社内で導入、定着させた経験も苦労もノウハウとして提供

テレワークによって業務を効率化し、生産性を高めるには、制度とインフラを整えるだけでは十分ではありません。利用を拡大、定着させるには利用者の視点に立ち、かゆいところに手が届くような継続的な改善が必要です。テレワーク導入で得た苦労や失敗などのすべてを含め、ノウハウとしてお客様に提供できる経験を持っている点を、富士通の大きな強みとして富士通はお客様のテレワーク導入に貢献していきます。

図 : テレワーク、働き方改革(ワークスタイル変革)に関するお問い合わせはこちらまで

著者情報
中村 元晃

富士通株式会社
IT戦略本部 グループ共通サービス統括部
統括部長代理

写真 : 富士通株式会社 IT戦略本部 グループ共通サービス統括部 統括部長代理 中村 元晃