AI導入を成功に導く5つのポイント

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AIには、金融サービスに革命をもたらす可能性が秘められています。MITスローン・マネジメント・レビューとボストン・コンサルティング・グループが世界の経営層を対象として2019年に行った調査によると、回答者の90%は、AIが自社にとってのビジネスチャンスになると考えていることがわかりました。

その一方で、現在、多くの組織がAIを使ったシステムに多額の資金を投じていますが、その導入戦略について明確なビジョンを持っている企業や、全社展開に向けたプロジェクトの優先順位付け、運用試験の実施などの導入プロセスについて、しっかりと考えている企業は、あまり多くありません。

また、2019年に米国証券業金融市場協会が開催したSIFMAオペレーション・カンファレンスの折に、銀行や資産管理会社、証券企業、コンサルティング会社、規制当局から集まった200人以上を対象に行われた調査によると、回答者の78%は、AI戦略を実用段階まで進めることができていないとしており、20%の回答者は、よくわからない、もしくはAIに関する取り組みを行う計画はない、と答えています。

しかし、AIを効果的に利用できなければ、金融企業は時流に取り残されて、生き残ることさえ難しくなると思われるため、系統立った積極的なアプローチをしないという選択肢は、もはや考えられないのが現実です。

多くの企業では、全社レベルの戦略的アプローチを取ることなく、場当たり的なソリューションを散発的に導入しています。このような状態を回避するには、AIの導入が、企業全体のDXプロジェクトであると同時に、社内のデジタル・データ機能を総点検する機会にもなると捉えることが必要です。そうすれば、AIへの投資から大きな見返りを得られる可能性は飛躍的に高まり、AIを取り巻く過剰宣伝に振り回されることもなくなるでしょう。

AIの導入を考える企業によくある失敗例として、その技術的側面に重点を置きすぎてしまうことが挙げられます。技術面に偏ることなく、AI導入に伴う人材や企業文化、業務の変化などの管理に関わる要素を特定し、プロジェクトを成功に導くことが大切です。

そこで本記事では、AI戦略を策定する経営幹部のお役に立てるよう、「戦略」、「プログラム構築」、「全体システム」、「スキル」、「スタッフ」という5つの重要なポイントに着目して、AI導入を成功させるための指針をご紹介します。

戦略

企業が、破壊的な改革を引き起こすテクノロジーに適応していくための方向性を定めるには、AIに対して全社レベルの視点を持つとともに、現場が経営幹部からのトップダウンのサポートを得られるようにすることが重要です。AI戦略を明確化する際は、長期と短期の2つの観点から、このテクノロジーを捉えておくとよいでしょう。たとえば、長期的にAI技術によって自社のビジネスモデルがどのように変わっていくのかを検討する一方で、短期的には社内の効率や顧客体験をAIベースのソフトウェア製品やサービスを利用して改善する機会に目を向ける、というようなことが考えられます。

多くの企業は、AIとは、課題を発見し、解決してくれるもの、と捉えている印象があり、それは大きな落とし穴です。そのように考えてしまうと、最初の利用時から、思ったような成果はもたらされず、そのため、将来の投資にも消極的にならざるを得なくなるといった悪循環に陥ります。したがって、企業は、自社の課題の中からAIで解決する価値があり、しかも、すぐに大きな成果につながるようなものを優先順位の高い順に3〜5件特定し、それらの解決案が現場において実際の効果を発揮するまでの道筋も明確化しておくべきだといえるのです。

たとえば、AIの導入が社員の作業時間の短縮につながる場合は、浮いた時間を他の業務に回せるように作業プロセスやチームの構造を見直すことによって、明らかな価値を実感できるでしょう。そうすれば、今度は将来の投資に対して賛同を取り付けやすくなる、というメリットも得られます。また、あるAIソリューションを構築する際には、規模拡大と再利用ができる形で行うようにし、それを、特定の部門や業務だけでなく社内全体で利用可能になるよう努めることも、企業にとっては重要です。

さらに、AI戦略を策定する際は、社内の活動だけでなく、外部パートナーとも協力して投資対効果の高いエコシステムを開発することにも目を向けなくてはなりません。たとえば、多数のクライアントや大規模なデータセットに対応できる企業は、他社にも革新的なAIソリューションを提供することで、1社あたりのAI導入コストを低減しています。このようなソリューションを利用すれば、社内で構築するよりもコスト効率よくAIシステムを導入することができるわけです。先のSIFMAオペレーション・カンファレンスにおける調査では、回答者の95%以上が、他社やパートナー企業とのAI共同開発に価値を見出しています。

戦略に関するパートの最後の最後のアドバイスは、AI戦略を策定する際には、サイバーセキュリティや情報セキュリティ、データプライバシーをはじめとする安全面の要件にも配慮する必要があるということです。AIを取り巻く規制の進展を絶えず評価し続けることが重要です。「倫理的なAI」や「説明可能なAI」といった、消費者に直接影響の及ぶ領域には特に注意する必要があります。

プログラム構築

AIプログラムの構築に際して、この分野に精通したスタッフのチームを設置し、そこにイノベーションの推進を任せっきりにするということはよくありますが、これはあまりお勧めできない方針です。マッキンゼーによる「自動化とAIによる大規模なインパクト推進」(リンク先は英語)というレポートでも、「分析を通じて価値を生み出そうとする組織では、システムが孤立した形で開発される傾向があるが、そのようなシステムは中央集権的で実際の業務とかみ合っていなかったり、断片化・サイロ化によって連携性が低くなっていたりする」と指摘されています。

これに対して、まず、業務や顧客、業界の知識が豊富なメンバーからなる機能横断的なチームを編成し、そこにAI技術を熟知しているメンバーを加えるという方針をとれば、真のイノベーションを達成できる可能性は大きく高まるでしょう。このようなチームが手がける最初の社内的なAIの利用事例によって明確な価値を提示できれば、それがすなわち成功モデルとして認められ、そのモデルを組織全体で活用できるようになるのです。

全体システム

多くの企業は、すっきりと集中的に管理されるデータの保管場所や、その扱いに関する明確な戦略を持たないまま、AIソリューションの構築を試みます。AIソリューションをテストし改良するうえで欠かすことのできない、それらの準備を怠ってしまうと、ソリューションの信頼性や有効性、ビジネス価値が制限される可能性が高まることは避けられません。AIによる処理を左右するデータの品質が低い場合には、過剰な学習や不完全な参照モデルによるリスク、そして、導き出される結果に偏りを生じる恐れが非常に大きくなるからです。

とはいえ、AI関連の取り組みを始める前にあらゆるデータの品質を高めなければならない、というわけではなく、また、必ずしも一元化されたデータレイク、すなわち生のデータの保存場所を設ける必要があるわけでもありません。

マッキンゼーの試算によると、企業がデータクレンジング、つまりデータ品質の向上にかける労力のうち、実に70%は不要なことに費やされているといいます。そうならないためにも、何が最も価値の高いユースケースの実現につながるのかを考え、重要度に基づいて優先事項を決めることが重要です。

その意味では、最初にAIソリューションの試験運用を安全に行うための「サンドボックス」となる技術的なアーキテクチャを構築し、その中で本稼働前のソリューションを試験し、調整できるようにしておくことも、企業のAI戦略にとって欠かせない要素といえます。それに加えて、実際のデータを使った実験や、明確な指標に基づく性能評価、およびそれら全体の継続的な管理を、再利用可能な方法で行えるようにしておけば、優れた成果が上げられる可能性も大幅に高まることでしょう。

スキル

「データサイエンスの民主化」に関する議論は、近年、盛んに行われてきました。その中で想定されているのは、データサイエンスやAIの仕組みに関する基本的なトレーニングを、今よりも大幅に広い層のスタッフに対して提供していくような取り組みです。このようなトレーニングをすべての組織で取り入れるのは難しいかもしれませんが、企業が今までとは違うタイプのスキルをスタッフに身に付けさせるという考え方自体は、間違いなく理にかなっています。

業務プロセスや顧客のニーズを把握しているスタッフが、データサイエンスの基本的な知識を習得すれば、企業や顧客のための価値を増大させる今までにないAIソリューションを考え出せるようになるかもしれません。そして、テクノロジーに精通した人材とビジネス領域に明るい人材との間で、AI分野の専門スタッフが「通訳」的な役割を果たすことで、技術知識だけに頼ることなく、これまでにない想像力と互いの立場を理解する気持ちの中から、バランスのとれたAIソリューションを生み出せるようになるのです。

スタッフ

AIの導入時にプロジェクトが期待通りの成果が上がらない主な理由としては、社員や企業文化や、社内政治的なものへの配慮が足りないことが挙げられます。

企業のリーダーがスタッフにAIのメリットを伝える際には、社員やチームにとってより望ましいと思える環境を作るためのチェンジマネジメント、つまり変革管理の手順を定めることになりますが、その際には、AI導入の影響を最も多く受けるスタッフにも、そうした取り組みへの参加を積極的に促すことが必要です。

また、リーダーは、AI導入の成功率を高めるために企業内の文化的な慣習にも目を向け、改革すべき点があれば、それを特定して改善することが求められます。

さらに、AIによって人間の業務処理能力が強化されることに伴って、業務自体のあり方を見直すことも重要になっていくでしょう。スタッフがより価値の高いタスクに移行できるよう支援すると同時に、ビジネスや顧客、業務のプロセスとオペレーションに関するスタッフの知識を活用してAIソリューションを継続的に管理・改善し続けていけば、現場の人間たちが、AIがもたらす広範な変革に自らを適合させていく際の手助けにもなるのです。

最終的に、AI関連の人材を惹きつけ、育成するための計画の策定も忘れずに行ってください。そうすることで、組織はAIソリューションを作り上げるためのスキルや知性、想像力、知識を持った人材を確保し、競争上の優位性を維持していけるようになるからです。

ネーハー・シンは、金融系サービス企業であるブロードブリッジのイノベーション&グロース部門担当ヴァイスプレジデントです。

 

この記事はVentureBeatのネーハー・シンが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.com.にお願い致します。

 

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