食品ロスを減らす注目のフードシェアリングサービスとは?(後編)

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前編からの続き)

日本でフードシェアリングサービスは普及するのか

欧州を中心に活用が活発化している、フードシェアリングサービスは日本で普及するのでしょうか。まず、前編でみた食品サプライチェーンの上流(農家・生産加工業者)と組織・団体をマッチングする下表の③のようなソリューションは、Micheliniら(2018)(注1)が指摘しているように、いわゆる「発展途上国」で、より親和性が高くなっています。サプライチェーンの上流での加工、保管や輸送において限られた技術や資源しかなく、最適な方法が選択できずに廃棄に至るケースが多いからです。

図 : 図表1 フードシェアリングサービス (出所)富士通総研作成

図表1 フードシェアリングサービス
(出所)富士通総研作成

インドの事例が取り組むように、生産や保存において恵まれない環境でも廃棄を減らし効率的に必要とする人々へ食べ物を分配するのに、ICTが一役買っています(注2)。飲食・小売店と消費者、もしくは組織・団体とマッチングする①や②のようなサプライチェーンの下流で起こる廃棄への対策は、日本も含めた「先進国」においてより重要な取り組みです。

特に日本では、フードバンクがあまり普及していないこともあり、現状では飲食・小売店と組織・団体とマッチングする②のような取り組みはほとんどみられません。上述のとおり、今後は次第に増加することが考えられますが、本稿では①に着目し、日本での普及の可能性を考察してみます。

国や企業の法整備と消費者との相互作用が鍵

実は日本でも、昨年辺りから、①のフードシェアリングサービスが登場しています。2018年よりサービスを開始した株式会社コークッキングのフードシェアアプリ「TABETE」や、SHIFFT株式会社が運営する定額制が特徴の「Reduce GO」等が代表例です。

ただTABETEが2019年3月時点で登録者10万人(注3)であることからも、海外事例との規模の違いが分かります。「TABETE」の創業者は、「Too Good To Go」に着目して日本でのサービス展開を考えたと語っています(注4)。類似の課題に対して、既に広く普及しているものからヒントを得てそれを応用すること自体は筆者も物事の発展に重要な一歩だと考えますが、サービスの背景にある考え方や環境が異なれば、サービスモデルがすぐさま日本で機能するわけではないことを認識しておく必要もあります。

フードシェアリングサービスの利用が日本で増えていくかは、消費者や企業がこういった取り組みに価値を置くかどうかに左右されます。それには食料ロス・廃棄問題に対して社会全体がどのように考え取り組んでいるかが大きく影響しているといえるでしょう。

欧州では、そもそもの社会的背景として循環型経済や持続的な社会のあり方の模索のなかで、社会全体の基礎に根付く価値観や体制が変化している点があります。①に限らず、②や③のような取り組みが広がっているのも、こういった背景に因るところが大きいです。

例えば、欧州議会は2012年にEU加盟各国に対し、2025年までに食品廃棄物を半減させることおよび食品廃棄物の発生を抑制するための具体的行動を求める決議を採択しています。日本では成立したばかりの食品ロス削減推進法ですが、世界に先んじて食品廃棄に対応する法律を制定したのはフランスでした。2016年に食品廃棄禁止法が成立し、大型のスーパーマーケットを対象に事前に契約した慈善団体に食品を寄付するか、家畜の肥料や飼料に転用することが義務付けられました。

違反した場合は罰金が科せられるという厳しい内容です(注5)。法整備による枠組みの構築というマクロな変化に呼応するように、消費者がより持続可能な方法や商品を選択する傾向が強まっています(注6)。このような環境の中で、消費者の態度が企業の生産や販売方法の見直しを迫ると同時に、企業は問題意識をビジネス等の活動に反映し社会課題解決への貢献を消費者に促すという双方向の相互作用が生じ、本稿で取り上げたフードシェアリングが普及する素地が形成されています。

日本においても、冒頭で紹介した「食品ロス削減推進法」の成立や大手チェーン店の対応など、食品ロス対策への意識と実際の対応も確実に変化しており、消費者の感度も上がっていると言えるでしょう。それがすぐさま普及に繋がるわけではありませんが、フードシェアリングサービスなどに取り組む企業を選択するという、欧州と同様な流れが加速していくことが予想され、企業はこの点を消費者にうまくアピールしていくことが求められます。

食品の安全性の担保も重要

また、日本での普及に対し実務的な課題として食品の安全性をどのように担保するのかということは重要な点です。コンビニの大量廃棄などの問題に至った厳しい消費期限管理も、元を辿れば食中毒など衛生上の問題を引き起こすことによるリスクや、そうしたリスクに対する消費者の過敏なまでの反応への対処という面があります。

上記に挙げた海外事例のなかには、独自に安全性を査定する仕組みを明記し、利用には講習を受ける必要があるサービスもあれば、そういった記述は少ないものも多くありました。そもそも、Too Good To Goが始まったデンマークを含む北欧諸国の気候風土は日本と大きく異なっており、湿気の高さや最高気温の違いなどにより、食品の腐敗スピードなど、衛生管理の必要なポイントも違っています。日本での普及には、こういった食品の安全性の確保をより明確に消費者へ示していく必要があります。

フードシェアリングサービスがもたらす社会的価値とは

食料ロス・廃棄問題に対して、アプリを中心としたフードシェアリングサービスは、従来の生産や販売方法で出てしまう余剰に対して効果的なアプローチであることは間違いありません。しかし、ここでは消費者を目先の利害のみを追求する存在としてではなく、社会的価値にもコミットする存在として捉える視点が重要になるでしょう。フードシェアリングサービスの提供を単に新たなビジネスチャンスの到来と理解し、消費者に「お得感」を訴えるようなアプローチでは、海外の先行事例の表面的な部分だけを捉えて終わってしまうのではないでしょうか。

企業と消費者の双方が相互的に作用しながら価値観の変容が起こっていくことで新たな社会認識が醸成される過程と、欧州におけるフードシェアリングサービスの普及を切り離すことはできず、その流れを含めて理解する必要があるからです。この相互作用抜きにサービスを設計してしまうと、例えばその帰結として、フードシェアリングサービスが安価に購入できる食品の選択肢を増やし、むしろ不必要な購入を増やす懸念もないとはいえません。購入に至って利益が出たとしても、結局購入されたものが消費者によって廃棄となってしまっては意味がありません。問題になっている食料廃棄のなかには家庭内での大量廃棄も含まれており、食品ロスの削減を考えるとき、この点は重要です。

フードシェアリングサービスは、大きく言えば資源の有効活用による持続可能な社会を目指すという大義が明確にあります。本稿で取り上げた事例では、消費者は単に安く在庫を購入するだけではなく、それによってどのような社会的インパクトを与えることに貢献しているのかを、以前よりも明確に感じることができるようにサービスがデザインされています。この点を消費者が購買をとおして感じ、次第に意識が変わっていく過程こそが、フードシェアリングサービスのもたらす社会的価値といえます。

サービス提供主体はこの点を念頭に置き、現時点での日本の社会経済状況や持続可能な社会に対する消費者の感度と実際の行動などを敏感に捉え、サービスをデザインしていく必要があります。さらに、普及を加速するためには、国や自治体による食品ロス対策啓蒙との連携や、サービス利用企業に対する優遇措置などの施策も効果的でしょう。こういった動きが積み重なり、少しずつ企業活動と消費者の行動変容を促すことで、本来の目的が達成される流れが醸成されていくことを期待したいと思います。

(注1)Michelini, L., Principato, L. and Iasevoli (2018) Understanding Food Sharing Models to Tackle Sustainability Challenges, Ecological Economics, Vol. 145: 205-217.
(注2)先進国におけるより上流での食料ロスは、こういったマッチングによる解決を図ることが有効な部分以外に、例えば規格外品を選択しない消費者の問題など、消費者と企業の意識変革によって解決されるだろう部分も大きい可能性がある。
(注3)TABETEによるプレス・リリースより。
(注4)創業者のインタビュー記事参照。
(注5)ジェトロ調査レポート(2016年9月)「【欧州】廃棄食品削減の動き活発化」
(注6)Schanes & Stagl (2019)は消費者がどのような動機をもってフードシェアリングを活用しているのかを分析し、「感情と倫理観」、「アイデンティティとコミュニティ参加の感覚」、「利益」、「社会に対する影響」、「行為の有用性」の5つを特定している。詳しくは以下を参照されたい。Schanes, K. and Stagl, S. (2019) Food waste fighters: What motivates people to engage in food sharing?, Journal of Cleaner Production, Vol. 211: 1491-1501.

執筆者プロフィール
森田 麻記子(もりた まきこ)

株式会社富士通総研
経済研究所 上級研究員

写真 : 森田 麻記子(もりた まきこ) 株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員

2012年~2015年 デンマーク、オールボー大学、比較福祉研究所(Centre for Comparative Welfare Studies)に4年間在籍し、2016年 富士通総研入社。 専門領域は社会政策学、高齢者福祉、ライフコース研究。

田中 秀樹(たなか ひでき)

株式会社富士通総研
経済研究所 担当部長

写真 : 田中 秀樹(たなか ひでき) 株式会社富士通総研 経済研究所 担当部長

消費者調査や市場調査を行った後、流通業向けコンサルティングやインターネットビジネスの新規事業化支援に従事。現在はICTが企業・社会に与えるインパクトのリサーチとビジョン策定を担当。
関連サイト サイバービジネスの法則集

※この記事は、富士通総研公式サイトの「オピニオン」に掲載された記事(掲載日:2019年7月11日)を一部修正の上、転載したものです。
※執筆者の部署・役職と記載内容は、「オピニオン」掲載当時のものです。