AIを使った「がんゲノム医療」で、がん治療を加速する

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日本人の2人に1人が罹る病気・がん

現在、日本では2人に1人が何らかのがんに罹ると言われています。国立がん研究センターによると、2017年にがんで亡くなった人は37万3334人、日本人の死因第1位となっています(注1)。今の時代、がんは日本人にとって非常に身近な病気の1つだと言えるでしょう。

そもそも、がんとはどのような病気なのでしょうか。人間の身体は細胞でできています。正常な細胞には核と呼ばれる中心部分があり、さらに核の中には遺伝子を含む染色体があります。この染色体に含まれる遺伝子や遺伝情報の全てを「ゲノム」と言います。このゲノムが何らかの原因で傷つくことによって細胞が変異し、正常に働かなくなったものが「がん」です。

がん化した細胞(がん細胞)は正常な細胞とは異なり、身体からの命令に反して勝手に増え続けるのが特徴です。がん細胞が増え続けると、周辺の重要な組織を破壊したり、本来はがん細胞がない所に血管を通じて転移したり、正常な組織が必要とする栄養を奪って身体を衰弱させたりと、身体にとって非常に大きなリスクに繋がります。

がんの発生する原因は様々ですが、喫煙・飲酒・食生活・ストレス・運動不足といった生活習慣や加齢、ウイルスによる感染等によるものが、男性で53.3%、女性で27.8%と大きな割合を占めており、その中でも特に喫煙が大きな要因になっていることが分かっています(注2)。

(注1)厚生労働省「平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/index.html

(注2)国立がん研究センターがん情報サービス「がんの発生要因」
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/factor.html

「がんゲノム医療」では、変異した遺伝子の検討作業の時間短縮が課題

がんの治療方法には、手術によるがんの切除をはじめ、薬物治療や放射線治療等様々な方法があります。その中でも最近注目されているのが「がんゲノム医療」です。

がんゲノム医療とは、がん患者ごとの体質や病状、薬の反応や副作用を予測し、最適な治療を行うというものです。つまり、胃や大腸等「がんが発生した臓器」そのものではなく、がんの原因となる「変異した遺伝子」に基づいて診断・治療を行う医療です。

がんゲノム医療では、患者の検体からシーケンサーと呼ばれる装置で遺伝子情報を取り出す「がん遺伝子パネル検査」を行った後に、専門医による検討、カンファレンスを経て治療方針を決定します(図1)。このがん遺伝子パネル検査が2019年6月から健康保険適用となったため、今後がんゲノム医療を希望する患者が増加することが予想されています。

図 : (図1)「がん遺伝子パネル検査」の過程

(図1)「がん遺伝子パネル検査」の過程

がんゲノム医療では、がん患者の遺伝子変異を明らかにすることで、病気のなりやすさ、薬の反応性や副作用等を予測します。患者ごとに最適な医療を提供するためには、明らかになった遺伝子の変異に対し、医学論文のデータベースから専門の医師が過去の症例を探し出す作業が必要になりますが、これには多大な時間がかかります。このため、より正確かつ迅速に病気の診断や治療法の選択をアシストする技術の開発が急務となっています。

そこで富士通研究所では、がんゲノム医療に関し、AIを使った様々な取り組みを開始しました。

①東大医科研との実証実験で、遺伝子変異の検討時間を半分以下に削減

富士通研究所は、2018年4月から東京大学医科学研究所(東大医科研)と共同研究を進め、がんゲノム医療を効率化するAI技術を開発。このたび、東大医科研と実証実験を行い、効果を確認しました。

がんゲノム医療における課題の1つが、医学論文データベースからの症例検索です。今回の実証実験では、論文中に様々な表現で記述されている用語を文脈から特定する富士通研究所の言語処理AIと、東大医科研の知見を組み合わせ、遺伝子変異と治療薬の関係性や、治療薬と効果の関係性等のナレッジを論文から自動的に抽出し、ナレッジグラフと呼ばれるデータベースを構築しました。具体的には、86万件の論文からがんゲノム医療ナレッジグラフを構築し、それぞれのナレッジグラフに240万件のナレッジを格納しています。

実証実験では、こうして構築したナレッジグラフを急性骨髄性白血病の過去の診療ケースに活用し、論文全体を解読する負担を軽減するとともに、必要な論文に絞った検討作業を可能にしました(図2)。その結果、従来1件の遺伝子変異の検討作業に約30分かかっていた所、半分以下に削減できることを確認しました。これは、現在年間1万2000人以上と推定される日本の白血病の罹患者全員を対象にゲノム医療を行った場合、専門の医師による6,000時間の検討作業が3,000時間以下に短縮できることになります。

なお、本実証実験では、富士通株式会社が日本医療研究開発機構(AMED)「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」(注3)の「ゲノム医療を促進する臨床ゲノム情報知識基盤の構築」(注4)に参画して開発したデータベースの一部を、ナレッジグラフに取り込んで利用しています。

図 : (図2)ナレッジグラフの活用で、整理されたコンパクトな情報による効率的な検討作業が可能に

(図2)ナレッジグラフの活用で、整理されたコンパクトな情報による効率的な検討作業が可能に

(注3)政府のゲノム医療実現推進協議会中間とりまとめを踏まえ、ゲノム情報と疾患特異性や臨床特性等の関連について日本人を対象とした検証を行い、臨床および研究に活用することができる臨床情報と遺伝情報を統合的に扱うデータベースを整備するとともに、その研究基盤を利活用した先端研究開発を一体的に推進する事業。

(注4)AMEDの課題番号:JP20kk0205013

②愛知県がんセンターとの共同研究で、がんゲノム情報解析を効率化

さらに富士通研究所は、AI技術を活用してがんゲノム情報解析の効率化、およびがんゲノム医療の普及に貢献することを目的として、愛知県がんセンターと包括的な共同研究契約を2019年11月に締結しました。

富士通がこれまでに開発してきたがんゲノム医療の効率化に貢献するAI技術と、愛知県がんセンターの保有するがんのゲノムデータや診療データを用い、がん遺伝子パネル検査結果の解釈を効率化する技術の確立、および患者の遺伝子変異と病気との関係性を明確化する機能の高度化が、今回の共同研究の主な狙いです。

今後、富士通研究所は、AI技術を用いた臨床情報やゲノム情報のデータベース構築とがんゲノム医療における診断・治療法の選択、新規治療法等の知識発見を支援する新たなAI技術の開発を行います。一方、愛知県がんセンターは、患者ごとのがん遺伝子パネル結果や診療データ、がん症例に関する遺伝子検査結果の解釈、検討方法、治療選択等のノウハウ提供と開発したAI技術の検証を進めていきます。同時に、共同研究の成果を愛知県がんセンターと連携する東海地域の病院へ展開し、また、各医療機関から様々ながんゲノムデータを収集してデータベースを増強することで、より精度の高いがんゲノム医療の普及を目指します。

がんゲノム医療には大きな期待が寄せられています。今後もさらなるAI技術の発展と症例・治療データの蓄積が進むことによって、多くのがん患者により精度の高いがんゲノム医療を届けることが期待できます。富士通は、これからもAIを使ったテクノロジーで医療の発展に貢献していきます。