「MaaS」「CASE」に続くモビリティ業界の次のトレンドとは?

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自動車業界は今、「100年に一度」と言われるほどの大変革の時代に突入しています。自動車メーカーは、クルマそのものの機能を充実させるだけでなく、利用シーンや業界構造、さらにはクルマのあり方までを根本的に考え直して、開発業務を行っていかなくてはなりません。

2019年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長は同社の決算説明会において、直近の4年間はトヨタをモデルチェンジすることに取り組んだ期間とした上で、「トヨタを『モビリティカンパニー』にすることこそが、私の使命である」と述べました。大変革の時代において、トヨタほどの大企業でも生き残るためには、自動車メーカーではなくモビリティカンパニーにモデルチェンジすることが必要だと述べたのです。

今回は、改めてモビリティの定義を明らかにするとともに、主には自動車業界においてモビリティに対する意味合いがどのように進化してきたのか、さらに富士通がモビリティの進化系の姿として描くモビリティ業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)についても紹介します。

モビリティの意味は「移動性」

モビリティ(Mobility)を辞書で調べると、「移動性、流動性」という意味を表す名詞であることがわかります。

このため、「モビリティ産業」といえば本来は自動車産業だけでなく移動のインフラすべてを担う産業を意味しますし、「モビリティ革命」といえば自動車での移動を含む移動手段すべての革命のことを意味します。例えば、2017年9月に設立された「モビリティ変革コンソーシアム」。オープンイノベーションによりモビリティ変革を実現する場として設立された同コンソーシアムは、現在、160以上の様々な業種の団体が参加していますが、主催するのはJR東日本です。

トヨタ自動車が「モビリティカンパニーにモデルチェンジする」と宣言したのは、単に自動車を顧客に提供するだけの会社ではトヨタ自動車の先行きがおぼつかない、これからは顧客の移動をすべてサポートできるような会社にならなくてはならない、という宣言を行ったともいえます。配車サービスを提供するウーバー・テクノロジーズの例を出すまでもなく、人々の移動、すなわちモビリティの世界では、これまでの常識が覆るような様々な出来事が起きています。このトレンドを正確にとらえることが、モビリティ業界に携わる企業には必要となってきます。

2016年にダイムラーが提唱した「CASE」とは

ではモビリティ、とりわけ自動車産業では現在、どのような変革が起きているのでしょう? その進化の過程をたどると、自動車は、1900年代に入ってすぐに誕生したT型フォードによって大衆化されてから、基本的には「走る・曲がる・止まる」という基本性能に価値を追求してきました。さらには「安心・安全・快適」を追求することで、人々が安全に快適に自由に移動するという観点から、自動車はモビリティの中心として君臨し続けてきたのです。

そして、近年、モビリティの世界でキーワードとして急速に注目を集めているのが、「CASE(ケース)」です。

CASEは次世代車の進化の方向性を言い表している言葉です。「Connected(つながる)」「Autonomous(自動運転)」「Shared and Services(シェアリング・サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字をつなげたものがCASEです。これからの自動車開発には、この4軸での進化が、相互に絡み合いながら同時進行していくことには誰も異論はないでしょう。このため、自動車業界では様々なシーンにおいて、CASEという言葉が使われます。

CASEという言葉は、もともとはダイムラーが2016年に発表した考えをルーツとしています。2016年9月に開催された「パリ・モーターショー」において、電動車に特化したベンツのブランド「EQ」の最初のコンセプトカーを発表したのですが、同時に中期経営戦略を語る中で「CASE」という考えを披露しました。ダイムラーは「これからCASEに注力する」と宣言したのですが、この考えが多くの自動車関係者と意を同じにするものだったことから、一気にCASEが広がりを見せたのです。

快適な移動サービスを提供する「MaaS」とは

もう一つ注目を集めているMaaS(マース)ですが、「Mobility as a Service」を直訳すると「サービスとしてのモビリティ」となります。これは、移動するということをサービスとして捉えるという考えと言えます。企業としては、自動車や人の移動に関してその需要と供給を最適化して、快適なモビリティ環境を提供するサービスを狙うわけです。

CASEとの関係は、CASEの考えに基づいて自動車が進化し、進化したその先に、MaaSによって他の移動手段と融合されたサービスの姿があると考えられます。MaaSは、自転車のような個人的な乗り物だけでなく、電車やバスといった公共交通も含まれているのが特徴ともいえます。このため、自動車メーカーは、従来のような車両提供の枠を超え、他の移動手段も巻き込んだMaaSのためのプラットフォーム提供を狙っています。

CASEに比べてMaaSは若干分かりにくいかもしれませんが、すでにMaaSの事例は多く登場しています。有名なのは、フィンランドのヘルシンキで使用できる「Whim」というアプリでしょう。Whimでは、アプリ上で自分が行きたい目的地を指定すると、いろいろな交通手段を含んだ複数の移動手段が提示され、さらにそれらの移動手段は予約でき、決済も行えます。配車サービスの「ウーバー」や「グラブ」などもMaaSの事例といえますが、Whimは移動手段が自動車だけでないという点で、一歩進んだものといえます。

図 : Mobility産業の新化

モビリティ業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展するワケ

これまで紹介してきたように、クルマを中心としたモビリティ産業はCASEによって個々の移動体が進化し、そしてMaaSによって顧客に対するサービスが一歩進んだものとなります。そして、その先にあるものはモビリティ業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

DXとは、デジタル技術を活用して製品やサービスをはじめビジネスモデルにも変革を起こすことです。すでに、多くの業界でDXは起こっており、例えば金融業界ではFintechの名の元、銀行窓口業務の多くがネットで行えるようになり、また小売業界ではアマゾン・ドット・コムに代表されるようなECサイトが顧客の消費行動を大きく変えました。

モビリティの世界でもDXの動きは、今、特に加速しています。理由は大きく2つ考えられます。1つ目はCASEが浸透していくことで、自動車がコネクテッド化され、その結果としてデータが蓄積されはじめたこと。DXの源となるデータが様々な観点から収集可能になったことで、それを活用しようとする動きが活発となってきています。

そして2つ目の理由は、既存の自動車関連企業ではなく、GAFA(注1)をはじめとする新興勢力がモビリティの世界に参入することで、競争が激化してきたこと。業界における「デジタルディスラプション」は、往々にして新興勢力によってもたらされますが、既存の自動車関連企業はこういった新興勢力の動きに非常に敏感で、それが逆にモビリティ業界のDXを進めるうえでの活力ともなっているのです。

(注1)GAFA(ガーファ)とはグーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)の米IT(情報技術)大手4社の頭文字を並べた総称を指す。

富士通が支えるモビリティ技術

ではモビリティ業界のDXを実現するために使われている技術にはどのようなものがあるでしょうか。富士通が力をいれているのは、「Collecting(データを集める)」「Connecting(データをつなげる)」「Utilizing(データを活用する)」の3つの領域の技術です。

これらは、富士通がこれまでにメインフレーム、パソコン、スマートフォンなどの分野で培ってきた経験をモビリティの分野にも展開できる技術です。

この3つのキー技術を融合して、これまでの自動車産業や公共交通の枠を超えた新しい価値をもたらすのが、富士通が考えるモビリティ業界でのDXです。具体的には「モビリティ分野でのデジタルツイン」という世界の実現を目指しています。

車載機・交通データなどから収集したデータで、現実世界をデジタル世界に再現

デジタルツインとは、現実世界をそのままデジタル世界に再現することによって、仮想空間の中で様々なサービスが検証できる環境を創出するものです。

コネクテッドカーが当たり前になる未来、動くセンサーとして機能するクルマからは大量のビッグデータが集まります。デジタルツインは、これらのデータをデジタル世界上にリアルタイムに反映し、刻々と変化しつづける実世界のあらゆる情報を再現します。

デジタルツインを活用することにより、自動車事故の解析をスピーディに実施して保険業務を効率化したり、個人の嗜好に合わせてダイナミックな地図情報サービスを提供したりといった、新しいビジネスがどんどん広がっていくでしょう。

デジタルツインを構築する技術として、カギとなるのは富士通研究所が開発したストリームデータ処理技術「Dracena(ドラセナ)」です。Dracenaは、100万台を超える車から集まったビッグデータを同時に処理できる技術で、あらゆる場所で発生している実世界の出来事を、同時に広域で再現できるようになります。

図 : 刻々と変化し続ける車両や道路などの実世界の大量のデータをDracenaでデジタル世界上にリアルタイムに再現/分析/予測

刻々と変化し続ける車両や道路などの実世界の大量のデータをDracenaでデジタル世界上にリアルタイムに再現/分析/予測

また、富士通の位置情報自動生成技術である「Visual-SLAM」も重要な役割を果たします。この技術を使うと、クルマから集めた情報を基に、街全体を三次元地図として再現できます。

図 : カメラ画像(二次元)から自車/周囲物の高精度三次元位置をVisual-SLAMで再現

カメラ画像(二次元)から自車/周囲物の高精度三次元位置をVisual-SLAMで再現

得意とする専門技術を持ち寄り、共創でモビリティ業界のDXを実現する

モビリティ業界でのDXを継続的かつ広範囲に進めるためには、「Co-Creation」をする必要が多分にあります。一社の技術だけで進めるのではなく、複数の技術企業がオープンにそれぞれの得意分野を持ち寄ってディスカッションし、アジャイルに開発プロセスを回していくというやり方でイノベーションを起こすという動きは、全世界で起こっています。

富士通とFord社の子会社であるAutonomic社との協力体制も、こうした流れの中でスタートしました。Autonomic社は、コネクテッドカーから集めてきたデータをあらゆるサービスに活用するための、クラウドベースのプラットフォームを手掛けています。この技術と、富士通のデジタル技術を融合させることによって、デジタルツインが実現できるというわけです。

富士通はこれまでに培った経験と技術を武器に、モビリティ業界の未来を実現していきます。