DXの鍵を握る「顧客中心」の考え方

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公共事業者としての伝統を持つ通信企業は、技術偏重の風土から脱却し、マーケティングや顧客を中心に据えた組織を目指して、大きく舵を切っています。サービス担当者の提示する選択肢が、どこまでいっても黒電話しかないような時代は終わりを告げたのです。

通信企業には今でも厳しい規制が課せられているものの、各企業はもはや公共事業者というよりも、メディアおよびテクノロジー業界における強力なプレイヤーへと生まれ変わっています。この新しいフィールドでは、顧客が王様であり、すべてです。そのため通信企業は以前から、顧客体験を向上させる戦略的イニシアチブに取り組んできました。

業界リーダーから学ぶ顧客体験

ここではそのようなイニシアチブの例として、業界リーダーたちが進めている取り組みをいくつかご紹介しましょう。

・コムキャスト:合理的なオムニチャネル

情報通信系コングロマリットのコムキャストは、シームレスな顧客体験を促進するオムニチャネルイニシアチブに着手しています。同社は独自の顧客体験の創出を目指し、顧客との間の多岐にわたる接点において、一貫性と文脈性のある情報提供を行い、最善の問題解決方法を提示できる顧客対応サービスを提供することにしました。効果的なオムニチャネル体験が実現すれば、顧客はサービスを一層簡単に利用できるようになり、さらに複数のチャネル間で同一の利用体験が得られるのです。

・T-モバイル:あえて時代に逆行した顧客体験プログラム

非通信事業者を意味する「アンキャリア」を掲げたキャンペーンで知られるT-モバイルは、業界の常識に大きく反した顧客体験プログラムを開発しています。このプログラムは、自動音声応答やボット、AIといったテクノロジーの利用を最小限にとどめようとするものです。そのようなテクノロジーの代わりとして、同社は地域の顧客サービス専門チームのネットワークを構築しました。それらのチームは、簡単なアカウント管理から、より複雑なサービスまで、さまざまな顧客業務に対応できるようになっています。このビジネス施策の根底にあるものは、すぐに解決する問題ではない場合、顧客は自身と同じ人間に対応してもらった方が安心し、信頼も築きやすいだろうという考え方なのです。

・ボーダフォン:AIARに着目した顧客サービス

米国と海を隔てたヨーロッパ地域で、T-モバイルとは真逆の試みを行っているのがボーダフォンです。同社は、AIAR、ビデオ機能などを強化するテクノロジーに向けた投資に乗り出しています。こうしたテクノロジーによって、同社の顧客サービス機構は問い合わせにリアルタイムで逐次対処したり、あるいは非リアルタイムで一括対応したりできるようになるでしょう。加えて、顧客サービスの担当者は、顧客の身に起こっていることを一層的確に理解できるようになります。そして、このような新しいテクノロジーが、実際に顧客のトラブルの解決に役立つということも証明済みです。たとえば、ビデオ関連のテクノロジーを活用することで、サービス担当者は問題を視覚的に捉えられるようになりました。これによってトラブルの解決が促進され、技術者の現場派遣は26%削減されています。また、ビデオによる視覚的なやりとりは個別の顧客対応においても大きく功を奏しており、このような問題解決方法が、担当者の負担軽減に寄与してることは明らかなのです。

・ベライゾン:AIに注力したデジタルCX

ベライゾンは顧客体験の向上を目指し、「デジタルCX」と総称されるソリューション群を立ち上げました。その中には、AIや、拡張知能とも称されるコグニティブ・コンピューティングを使ったものが含まれています。SMSやメール、電話を通じて同社とコミュニケーションをとる顧客は、それらのチャネルすべての履歴に基づいてパーソナライズされた体験を得られるようになりました。これらのソリューションは収集した顧客データから傾向や洞察を導き出すことで、徐々に顧客の求めるものを予測できるようになっていきます。こうしたソリューションを利用することで、たとえば、おすすめの映画を表示したり、アカウント管理のトラブルを解決する最善のアクションを提示できるのです。同時に、顧客サービスの担当者は多数のプラットフォームにまたがってあらゆる顧客データにアクセスし、顧客に向けてパーソナライズされた提案も行えるようになります。

「顧客体験」から「顧客中心」のDXへ

通信企業間の競争はますます加熱し、世界規模のクラウドビジネスを行うWebスケール企業や、OTTプロバイダー、すなわち通信事業者やインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)に頼らず、インターネット上で直接メッセージや音声、動画などのコンテンツやサービスを提供する会社の新規参入も続くと見込まれます。そこで各社は、競争に後れを取らないようにデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、対象が限定的だった顧客体験向上プロジェクトも、より戦略的で広範な「顧客中心」のイニシアチブへと急速に姿を変えつつあるのです。

ところで「顧客体験」と「顧客中心」は、一体何が違うのでしょうか? この2つは、同義語のように使っている人も多いものの、実際に意味するところは異なります。顧客体験は、顧客中心よりも狭い領域を指す言葉です。また、顧客体験は結果寄りの概念ですが、顧客中心は企業が製品・サービスを提供する理由や方法を指します。そして、顧客中心の施策を成功させるには、企業文化、業務プロセス、テクノロジーという3つの要素が重要です。

先ほど紹介した顧客体験の事例は、どれも良い成果を生み出しはしましたが、ビジネス全体から見ると対象が限定されたものでした。その一方で、通信企業は、ARAIのような高度なテクノロジーの可能性を実証することができました。あと23年もすれば、これらのテクノロジーはさらに成熟し、堅牢なものとなるでしょう。そのため、通信企業はDXの一環として、深さと広がりを持った顧客中心プログラムを策定する必要があると考え始めています。

通信業界全体として、顧客中心の考え方は、メインストリームになりつつあるといってよいでしょう。先日、ベライゾンは「ベライゾン2.0」という大胆なイニシアチブを新たに発表しましたが、このイニシアチブにおいても、顧客中心の組織を構築することが主な目標として掲げられています。ベライゾンはこの発表に合わせ、顧客の気持ちに寄り添う企業を目指し、組織を大きく改編することにしました。同社のCEOであるハンス・ベストバーグ氏は声明の中で、企業全体の文化、プロセス、テクノロジーが変革されつつあるということ、そして、その目的がより顧客中心的な組織の実現にあるということを説明しています。

世界でもトップクラスの先見性を持つ通信企業は、いずれも顧客中心的な組織を目指し、自社の改革に着手しています。通信事業の成熟化が進むに連れて、業界のリーダー企業は、顧客中心を目指して社内全体を方向転換させているのです。しかも業界内の脅威は、既存の巨大通信企業に限りません。OTTプロバイダーなどもこの領域に参入して競争圧力が高まる中、各企業は今まで以上に、顧客中心のイニシアチブのあり方について真剣に考える必要に迫られているといえるでしょう。

顧客中心という目標の達成に欠かせない要素としては、デジタル時代の課題に対処するうえで欠かせない技術的、精神的、社会的なスキル、すなわちデジタルインテリジェンスが挙げられます。また、顧客のことを知るためには、それに応じたツールも必要です。繰り返しますが、今後、顧客を満足させ、彼らを長期にわたって自社ビジネスに引き留めるには、適切な企業文化、業務プロセス、テクノロジーの確立が求められるということを忘れてはなりません。

 

この記事はBusiness2Communityのステファニー・ロジートが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。

 

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