日本初、シワ改善に着目し「リンクルショット」を15年かけ開発したポーラの挑戦

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業界でも異例の15年の歳月をかけて完成した「シワを改善」する薬用化粧品。「日本初」というイノベーティブな商品を生み出すまでの困難な壁を、ポーラ化成工業の開発チームはどうやって乗り越えたのでしょうか。

2017年1月の発売開始から94万個の販売と約130億円の歴史に残る売り上げ(2017年12月累計)を達成した、日本初のシワ改善薬用化粧品「リンクルショットメディカルセラム」。本セミナーでは、製品開発の陣頭指揮を執り、研究スタートから商品発売に至るまで、何度もプロジェクト中止の崖っぷちに立たされながらも承認第一号の取得を成し遂げ、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018」大賞を受賞された、ポーラ化成工業の研究・企画担当 取締役執行役員の末延則子氏が登壇しました。
【Fujitsu Insight 2019 DX Days - 基調講演レポート】

写真 : ポーラ化成工業株式会社 研究・企画担当 取締役執行役員 フロンティアリサーチセンター所長 医学博士 末延 則子 氏

ポーラ化成工業株式会社
研究・企画担当 取締役執行役員
フロンティアリサーチセンター所長 医学博士
末延 則子 氏

市場規模2兆円を超え、拡大する化粧品市場

日本国内の化粧品の市場規模は2兆円を超えています。シェービングクリームやシャンプーも化粧品の1つで、キレイに装うのではなく身だしなみを整える目的で化粧品を使うことは、男女問わずもはや当たり前の時代になりました。

従来、化粧品の支出額は婦人服にかなわないと思われていました。それが今では婦人服を逆転する伸び率を示しています。2人以上の世帯の支出額では、化粧品が既に婦人服を越えたというデータも出ています。

図 : 化粧品業界の今後の展望

化粧品業界の今後の展望

10年後20年後には、さらに化粧に対する考え方が変わっているかもしれません。おそらく男性も、健康的に見せるために日焼けしたように見えるファンデーションを塗ったり、眉や口元をキリリと整えて就職の面接試験に臨んだりする、こんなことも当たり前になるのではないかと、私たちは考えています。

シワを「隠す」ではなく「改善」、イノベーティブな開発コンセプトでスタート

2017年1月に発売した「リンクルショットメディカルセラム」は、日本で初めて「シワを改善する」効能がある化粧品として、2016年に厚生労働省の認可が下りた医薬部外品です。「初めて」であるが故に降りかかる困難もありました。それでも私たちの開発チームが諦めることなく、困難を乗り越えられたのはなぜか。その理由を説明します。

これまでシワはメーク化粧品で隠すものでしたが、私たちは「シワを改善する」スキンケア化粧品を開発したのです。開発過程がまさに「イノベーション」そのものであったこの製品は、申請までに7年、行政審査に8年という、業界でも異例の長い期間がかかりました。

まずシワができる原因を見つけるために、私たちの研究チームは「自分たちで一から、何か新しい、納得できることを見つけよう」という視点で始めました。これがイノベーションにつながった最初の一歩です。

1年半の研究の結果、ヒトの皮膚のシワがある個所にだけ「好中球エラスターゼ」と呼ばれる酵素が存在することを発見しました。私たちのチームは、この「好中球エラスターゼ」の働きを制御できればシワが改善するのではないかと考えました。そこで、5400種類以上もの物質をスクリーニングしました。この膨大な成分をスクリーニングするために、4人のメンバーで1年半もの時間を費やしました。そしてついに、この酵素を最も効果的に制御できる「ニールワン」という成分を発見したのです。

チョコミントにひらめき、逆転の発想で成分を見直し商品化へ

シワを改善する成分ニールワンを見つけたものの、この成分には大きな弱点がありました。ニールワンは水に溶かすと効果が徐々に弱くなってしまうのです。スキンケア化粧品では、ローションやクリームなど、ほぼすべての製剤に水が含まれています。この問題を解決しないと、商品化できないことになります。

そこで私たちは日本中を訪ね回り、多くの専門家に相談しました。しかし「難しい」「諦めた方がいい」と言われるばかりでした。

そんなある日、一人の研究員がたまたま入った喫茶店の「チョコミントアイス」を見てひらめきました。「水に溶かすのではなく、このチョコチップのようにニールワンを製剤にそのまま練り込めばよいのではないか」と。

こうして、ニールワンを安定して配合する方法がやっと見つかったのです。諦めずに、時間をかけてとことん考え抜くことで、ふとよいアイデアが浮かぶことは、どんな仕事にでも往々にしてあるものだと思います。

「白斑問題」で承認審査がストップ、独自試験で安全性を証明

ニールワンを安定して配合できる目途がつき、薬用化粧品として厚生労働省に承認を申請した後、化粧品業界全体を揺るがす問題が起こりました。2013年、美白化粧品を使った皮膚がまだらに白くなるという「白斑問題」が発生したのです。

厚生労働省が認可済の医薬部外品で被害が発生したことから、化粧品の根本的な安全性が問われて大きな社会問題となり、厚生労働省の新規の承認審査が一時ストップする事態にまで発展しました。当然、ニールワンを配合した製剤の審査も先送りです。その後、審査は再開したものの、これまで市場で実績のないニールワンの安全性に関する審査の目は大変厳しくなり、困難を極めました。

今度は社内から「製品化を諦めたほうが良いのでは」という声が出ました。しかし私たちのチームは諦めず、独自に製品の安全性試験を実行しました。一般的な化粧品の安全性試験は30人程度の被験者で3か月程度行うものですが、この製品ではのべ500人、3年という大規模な安全性試験を行いました。ご協力いただいた皮膚科の専門医に「もう充分でしょう」と言われても、徹底的にニールワンの安全性を証明し続けたのです。

この膨大な努力の結果、申請から承認まで8年もの長い期間がかかりましたが、ニールワンは厚生労働省からの認可が下り、ニールワンを配合したリンクルショットメディカルセラムの発売までこぎつけることができたのです。

チームメンバーから学んだ「大切な姿勢」

研究メンバー、上司、先輩、他部署、取引先など、この製品の開発には様々な方々の協力がありました。チームリーダーとしては、みんなが悩んでいること、一人一人の強みと弱みを把握し、一緒に達成感を味わい、喜び合うことを心がけながら開発と向き合ってきました。
本当に多くのことを学びましたが、まとめると、以下の5つが挙げられると思います。

図 : 開発を通じて学んだ変革に向けて大切な姿勢

開発を通じて学んだ変革に向けて大切な姿勢

イノベーションは「新結合」、組み合わせて新しい価値を再定義する

「イノベーション」の意味は「新結合」です。何かと何かを組み合わせて、新しい価値に変えることが「イノベーション」。例えば「回転寿司」は、江戸前寿司とベルトコンベアーを結合させて、お客様にもっと気軽にお寿司を楽しんでもらおうという新しい価値を提供したイノベーションであると言われています。

このように、身近なもの同士を組み合わせて新しい価値を再定義するものが「イノベーション」であると考えると、何か思いつきそうな気がしてきませんか?

ポーラ・オルビスグループが現在目を向けているのは未来であり、その1つが宇宙です。宇宙船の中はとても乾燥しているので、宇宙でお肌をケアするための化粧品を作りたいと考えています。

また、「美」を価値の基準に置くポーラ・オルビスグループは、京都西陣織の老舗の協力を得て、未来に向けて創出すべき「美」について考える「美を紡ぐ」をスタートさせました。

化粧品を使って美しくなることで優しい気持ちになれる、その気持ちが家族に伝わり、家族から友人や職場の人々にも伝播する、さらにその先々の人々にも優しさの伝播が続いて、このことが世界平和につながっていく……私はいつもそのように考えていて、社員たちにも伝えています。

ごく普通の人に見える私が「リンクルショットメディカルセラム」を作れたこと、このことを伝えて、皆さんに「あの人ができるのだったら、私にもきっと何かできる」と思っていただきたいと思います。「何かやりたい」という気持ちがあふれることによって技術も革新していきますし、世界平和にもつながっていくものだと信じています。