【現地取材】テクノロジーの「祭典」で知った、感じた「先進性の次」に重要なこと

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国内最大級のテクノロジーイベント「CEATEC 2019」。今年は10月15日から18日の4日間にわたって開催され、昨年を上回る787社・団体が出展。大手企業からスタートアップまで多くの企業が注力するテクノロジーを披露した。

その中で、出展企業最大のブースを構えたのが富士通。今年9月に「IT企業からDX企業へ」と経営方針を打ち出し改革を進める富士通は、CEATECでは何を訴えたのか。

その内容に迫るべく、今後注目を集めるテクノロジー分野のスペシャリストが訪問。AV/ARの専門家でVRデバイスを開発・製造するH2Lを設立、早稲田大学では教鞭を執る玉城絵美氏、そしてハプティクス(触覚技術)の専門家である慶應義塾大学教授の南澤孝太氏が、富士通のブースを訪れた。

未来社会を創り出すデジタルテクノロジー

富士通ブースの中で二人が注目したのが、専門領域であるVRはもちろん、5G、AI分野の最先端テクノロジー。そして「CEATEC AWARD 2019 総務大臣賞」を受賞したスポーツICTだった。

ものづくりの展示では、VRを用いた製造現場での組み立てサポートを体験できるデモンストレーションを展示した。

製品の設計や製造の検討は3Dツールで手がけられるのが一般的だが、実際の製造時に「その部品が取付けられるか」「設備機械の操作スイッチに手が届くか」までの正確な検証は困難。3Dツールで設計したが、実際に人には組み立てることができない環境だったというケースも考えられる。

VRでの検証はこうした本末転倒なリスクを防ぐ。ヘッドセットとハンドル操作可能な特殊デバイスを活用してバーチャルに組み立てができる。こうすることで、組み立てる時の体制や実際に製造できるかどうかを確認できる。

VR業界って今、「導入しましょう」っていうと、注目は視覚と聴覚情報なんですね。今回体験したVRは、そこに加えて触覚も網羅している。

私は、VR/ARの開発を進める中で「没入感」を研究しているのですが、触覚があることでバーチャル空間への没入感は一気に高まります。なので、研究者の中では今ホットなテーマですね。

触覚には、「表層感覚」と「深部感覚」というものがあって、表層感覚は手や足など、皮膚で感じる感覚。一方、深部感覚や骨や筋肉など体の内部で感じる感覚。私は深部感覚の研究がメインなんですけど、富士通のこのシステムは表層感覚に強い。こちらは遅延もなく、私の深部感覚の研究とコラボできたら、新たな体験価値を生み出せると思いました。

世界では、企業の教育・研修に活用したり、医療分野ではリハビリ、それ以外ではゲームや教育、デザイン・シミュレーションなどすでに幅広い用途で活用しており、日本にもこうした流れは来るでしょう。

ものづくりおいては、ロボットが普及している、普及していくとはいえ、人による製造作業は発生する。その中で、作業の事前検証や研修にこうしたVRを活用することは効果を発揮すると思います。

玉城さんも話していますが、VRの進化に必要なのは「触覚」であることは間違いないと思います。少し話が広がりますが、さまざまなことが電子化され、大抵のことはサイバー空間上でも実現可能になってきた。その中でも「触れる」とか「体感する」ということがサイバー空間上では困難だったわけです。

ハプティクスもだいぶ前から研究されていますが、コストが高かったり、技術がまだ実用段階ではなかったり、そして企業側の関心が低かったりして思うように進まなかった。

しかし、ここにきてサイバー空間上の新たな付加価値としてハプティクスが注目されるようになり、コストも抑えられ、技術もこなれてきた。過去にない流れを感じています。

疑似的な体験をよりリッチにするという意味ではエンターテインメントで活用範囲が広いでしょうし、触れてみないとわかりにくいことの理解力を高めるという点では、医療分野での手術の研修や製造業における組み立て支援などに効果を発揮するでしょう。

AIでの富士通の強みの一つは、AI研究においてホットな分野でもある「説明可能性」。

AIにデータを提供し、何らかの回答をAIが出したとしても、それがどんなデータを活用して導き出した答えなのか、どんな思考プロセスを経たものなのかが分からなければ、その回答を信じにくく、活用しにくい。

たとえば、「Aさんがαという商品を購入する確率は何%ですか?」とAIに“聞いた”時に、「93%です」と言われたとする。ただ、その根拠が分からなければ、本当にAさんに勧めるべきかの自信が持てないというわけだ。だからこそ、回答の根拠・理由の「説明可能性」が今焦点になっている。

その中で、富士通は「Wide Learning」というテクノロジーを開発。属性データを組み合わせて、大量の仮説を抽出し、その仮説をもとに回答を導き出す。そのうえで、なぜ、その答えになったのか、仮説の組み合わせを簡便に確認できるようにした。

機械学習と統計学を組み合わせた世界初のテクノロジーで応用範囲は広いが、CEATECではマーケティングの側面から「主婦がこの商品を買う確率」といったテーマでテクノロジーの優位性を説明していた。

マーケティングの分野で「説明可能」を実現するには、機械学習、AI、そしてマーケティングのそれぞれの知識がないと実現できない。富士通はそれを最先端レベルで研究、組み合わせているんだなと感じました。

今回の展示では、ある商品をある人が購入する可能性を示してくれるAI。しかもその回答の根拠を示してくれるものなので、ユーザー企業としてのマーケティングの観点から魅力的です。

私が創業者を務めるVRヘッドセットなどを開発・販売するH2L, Inc.でも、マーケティングに手を焼いています。デジタルデータがたくさん取れるようになったことは歓迎すべきことなんですが、それを分析して誰に何のアクションをとればいいかを判断するために膨大な時間がかかる……。

だから、マーケティングにおけるAI活用には期待しているんですが、短時間で回答を得ても、導き出した答えの根拠がわからなければ、そもそも信用できなくて使えない。富士通のソリューションはその課題を解決してくれますね。

私はAIの専門家ではないので、AIはユーザーとしての観点が強いですが、機械学習と統計学を組み合わせたこのWide Learningは、ユニークなアプローチですね。

AIを“育てる”ために、一般的には大量のデータが必要とされていますよね。ただ、データがまだ十分に蓄積されていない領域でAIを活用したい場合もある。新商品の販売予測などはまさにそうじゃないでしょうか。

Wide Learningは、AIに統計学を組み合わせて、少ないデータの中から大量の仮説を作りだして予測するというアプローチ自体が面白い。「100%間違いない」という回答を導き出すことはできないかもしれませんが、その結果の根拠を示してくれるので、この回答は有効だなとか、この回答は参考までに活用しようなど判断がしやすい。ディープラーニング(深層学習)とも機械学習(マシーンラーニング)だけとも違うAIのかたちだと思います。

5Gは知っていても「ローカル5G」という言葉に馴染みがない人は多いはず。ローカル5Gとは「公衆」ネットワークである5Gを特定エリアで「自営」ネットワーク化できるというもの。

公衆であれば他のユーザーの利用状況によって回線速度が遅くなったり、回線キャリアのトラブルによって通信が不可能になったりすることが考えられる。また、情報が盗まれるセキュリティリスクも高まる。

さらに、こうした新たなネットワークは一気に整備されるわけではなく徐々に整備される。その計画は通信キャリア次第なので、2020年に本格開始されるとはいえ、地域によってスタート時期は異なる。使いたいと思ってもすぐに使えるわけではない。

ローカル5Gはこうした課題を解決でき、国の認可が下りれば自ら5Gネットワークを構築・運用、セキュアで安定したネットワークの利用が可能になる。

企業は今後ユーザー情報など機密性の高い情報がさらに必然と増えてきますよね。

ネットワーク回線において、通信料や速度、安定性は大事ですが、ネットワークのセキュアさも大事。その中で、「自営」のネットワークを構築してセキュリティレベルを高められるという利点は魅力ですね。

私の会社でも、体の動きとして筋肉のユーザーデータを取り扱い、当社に保管されているんです。過去では取得することもできなかったデータが取れるようになり機密性が高く、「セキュリティ」や「プライバシー」はますます重要なテーマです。

また、自営できるなら実証実験もやりやすい。研修や業務のシミュレーション、たとえば高い場所での点検作業などにVRを活用する場合はありますが、外部に漏れたらいけない往訪もある。ローカル5Gがあれば気密性の高いデータを用いたVR活用にも臆することがありませんね。

自営ということなら当然、ネットワーク構築やシステム開発が必要。なるほど、だからハードやソフトを持ち、ネットワーク構築やシステム開発もできる富士通の強みが活きるんですね。

過去を振り返ると、通信速度が進化することによってテキストだけだったものに音声が加わり、そして静止画や映像までもネットワークに流せる情報が増えてきた。コンテンツやネットサービスの進化には、ネットワークの進化が必ずあったと思います。

ローカル5Gは、高速・大容量、多数同時接続、低遅延という5Gが持つ利点に加えて、安定性とセキュリティを通信キャリアに依存せずに自前で確保できる点がメリット。それに、通信キャリアの整備計画に左右されずに、いち早く5Gを整備できることも良い点でしょう。特定の地域や工場など特定の設備に限定した実証実験もやりやすくなりますね。

私の専門領域であるハプティクスは、触覚技術でデジタル上で「触る感覚」を再現するものです。

ハプティクスの領域において、5Gの特性でとくにメリットがあるのは「低遅延性」。触覚は視覚や聴覚に比べて時間遅れ(タイムラグ)に敏感なので、触覚を遠隔コミュニケーションや遠隔操作に使おうとするときに遅延があるとすぐ違和感につながります。

5Gでミリ秒単位での低遅延のネットワークが普及することは、触覚伝送技術の普及の大きな鍵だとは思います。

スポーツ分野では、「CEATEC 2019 AWARD 総務大臣賞」を獲得した「3Dセンシング/AI自動採点支援システム」を展示。

国際体操連盟と共同開発したもので、選手に特殊な機器を身に付けさせる必要は一切なく、リアルタイムに選手をセンシング。3D空間上の位置をデータ化する。採点支援アプリケーションで、360度あらゆる方向から演技を確認、審判による、より客観的かつ正確な判断をサポートする。センシング技術、リアルタイムのデータ分析技術、見やすさを追求したUIのアプリケーションなどさまざまな技術が詰まっている。

10月にドイツで開催された第49回世界体操競技選手権大会で4種目で正式採用されたことでさらに注目を集め、会場では官公庁担当者や大手企業の経営幹部が視察する姿が目立っていた。

リアルタイム解析技術の結集ではないでしょうか。新しい技術って意外にスポーツで先んじて活用されることが多いんです。

たとえば、視覚情報の処理技術「コンピュータビジョン」とロボット工学の専門家であるカーネギーメロン大学の金出武雄先生は、2001年に「NFL」の優勝決定戦スーパーボウルの中継で使われた放送システム「アイヴィジョン」でコンピュータビジョンを採用。選手の動きを360度どこからでもみられるようにしました。コンピュータビジョンは今では、ロボットなどたくさんのデバイスで活用されています。

この技術は体操だけでなく、フィギュアスケートなど属人的な採点が必要なスポーツには応用が十分に可能ですね。野球にも審判のジャッジにカメラ判定が採用され始めましたが、人とテクノロジーが組み合わさることで採点、判定の質は高まりますから、スポーツでのビジネスポテンシャルが非常に高いと思いました。

こうしたセンシングテクノロジーを用いて、高い精度とリアルタイム性をもって解析するには、どうしても特別な環境が必要になる。複数のカメラを設置しなければならなかったり、人の体に無数のセンサーを取り付けなければならなかったり。それがこのシステムには不要なのが素晴らしい点だと思います。

この技術はかなり先進的な分野だけに早く実用化、ビジネス化したほうがいいと思いますね。スポーツでは体操以外にも活用してほしい。スポーツはどの国にも共通して話題に上げられるものですから、スポーツを通じて富士通の技術力を世界にみてもらう良いチャンスだと思います!

(取材・構成・編集:木村剛士 撮影:森カズシゲ)