MaaSにおけるS字成長カーブの到来 ‐勝ち抜くための準備はできていますか?

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MaaS(Mobility as a Service)はまもなくS字成長カーブを迎えます。熾烈で破壊的な競争を勝ち抜くためには、スタートを切る前に態勢を整える必要があります。それができなければすべてを失うことになるかもしれません。

S字成長カーブの歴史

S字成長カーブ(S-Curve)とは、新しい商品が市場に登場してからの成長過程を評価したり、その後の事業規模の変化の予測をS字のカーブで表したものです。近年S字成長をみせた技術革新には、重要で説得力のある次の三つの傾向が見られます。

1点目は、S字のカーブの周期が徐々に短くなってきていることです。例えば、スマートフォンは市場に導入後わずか5年で瞬く間に普及しました。

2点目に、勝者独占的であるということです。2007年にAppleのiPhoneが登場した当初、NokiaやBlackberryはそれなりのシェアを占めていました。ところが今や、両者とも遅れをととり、後発のAppleやSamsungが市場を独占しています。

3点目に、S字の転換点までにマーケットシェアを獲得し、常に革新的で市場に対して価値があり続けることが非常に重要になるということです。この転換点を逃すと回復するのは困難(もしくは不可能)になります。NokiaやRIMがわかりやすい例でしょう。

MaaSの未来

このMaaSのS字カーブは確実に近づいており、企業は2025年までには準備を整えなくてはなりません。大げさな予測に聞こえますが、根拠はいくつも存在します。その1つに、ロボットやシステム工学における自律システム、つまり、自動運転(autonomy)の技術発展の加速があげられます。自動運転タクシーは2025年までに1マイル(約1.6KM)あたり0.35ドルになると予想されています。現在タクシーは3.50ドル、Uberは1.50ドル、自家用乗用車は0.75ドルであることを考えると、自動運転タクシーは驚愕の安さです。

これは当然のことながら、自家用車の減少をもたらします。すでに自動車の販売は激減しており、2030年までには乗用車やトラックの生産は 70%減少、アメリカ国内の移動手段の95%はMaaSが占めることになると予想されています。

この最大の要因は、ミレニアル世代やジェネレーションZと呼ばれる、1980年代から1990年代初頭に生まれた人たちが、それより前の世代よりも車を保有しなくなったことでしょう。運転免許すら取得しない人も増えています。車を保有することがステータスになるという時代は過ぎ去り、ライドシェアリング(Ridesharing)が新しいトレンドになっているのです。

これらの世代(及び、その上の世代)は、欲しいものを欲しい時に手に入れることが当然のことと考えています。デジタル社会、サービス指向の社会を背景に、欲しいものをすぐ入手したいという消費者の欲求は、駐車や運転、車のメンテナンスやパンクの修理というような、車を所有することで生まれる不便さに、耐えられなくなっています。つまり、欲しいと思った時に一瞬で、面倒無しにVIP体験を手に入れることを求めているのです。

巨大都市の登場もまた、自動車産業における世界的な消費者層の変動の一因となっています。国連によると、人口1,000万人以上のメガシティは世界に33都市存在し、2030年までには43都市に増加すると予想されています。このような都市においては、一人ひとりが車を保有し運転するという発想は、もはや続かないでしょう。

著しい経済発展を遂げているBRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国における自動車市場の傾向は、産業全体に大きな影響を与えるでしょう。例えば、この10年、中国の自動車市場は世界最大でした。しかし、2018年、この20年で初めて、自動車の売り上げが減少しました。この落ち込みを阻止するため、カーシェアリング市場は中国をはじめ、各地で巨額の投資を集めています。これらの事実は自動車産業界に大きな影響を与えており、多くの企業にとって、大きな変革を起こさなければならない時が迫っています。

MaaSへの挑戦

このように新しい現実の兆しが見え始めている中で、OEMや自動車サプライチェーンが準備態勢をなかなか整えられないのはなぜでしょうか。

大きな要因の1つには、現実の否定があります。多くの企業は、MaaSなんて実現するわけがない、と思い込んでいるのです。そして人は車を持つことが好き、と信じ込んでいます。しかしこの持説はもはや現実と合致していません。彼らが思うほど、車好きな人は多くないのです。前述の数字が明確にそれを表しています。

また、自動運転がまだ先の話しであり、次の動きを考えるのに十分な時間がある、と考える人がいることも要因の一つです。「いい収益が未だ出ているから、この問題はまた別の日で対応しよう」と先送りして考えてしまうのです。

戦略的、文化的な混乱も存在します。変化が必要だとわかっている人は少なくありませんが、上下関係の厳しい伝統的な自動車メーカーにおいては、頭を下げながら、しっかり計画し、次の商品をデザインし、投資、生産、販売、精算を行っています。

なんとかしてこのような文化を変えていく必要があると感じているものの、多くの企業にとって、将来、自社がどんな役割を担うか、はっきりわからない中で、それを実現するのは容易なことではありません。現状が読みにくく、変化を測る枠組みが無い中では、自動車メーカーは何かちょっと試しにやってみること以外何もできず、不安で身動きがとれなくなっています。

MaaSに対応する態勢を整えるためには

自動車分野のどのプレイヤーもMaaS到来に向けての準備を進めるためには、まず、不安や否定、古い常識を押しのけ、行動を始めなくてはなりません。これからの時代は、サービス主体でデータから価値やお金を引き出すことに注力することになります。技術戦略を持つことも重要な一方、データから価値を引き出す方法を理解することが、生き残る鍵となります。

OEMなど、自動車産業におけるサプライチェーン企業は、的確で大胆な未来予測をし、データ駆動型社会で自社がどのような役割を果たせるのか、確定する必要があります。コモディティーや資本的支出を抑えるために、次の三つのレイヤーモデルを考慮しましょう。

  • MaaSでは、モビリティサービスのみを専門に扱う専業の会社が、企業や個人のニーズにあったサービスを月額で提供するようになるでしょう。
  • Vehicles as a Service、Vaas(サービスとしての乗り物)では、従来の車の所有にとって代わり、モビリティサービスに対して自動運転車を提供するようになるでしょう。企業では、車を生産するための資本的経費は持ちません。
  • Components as a Service 、CaaS(サービスとしての部品) は、サプライチェーン自体に変革を起こす企業です。座席メーカーは座席をサービスとして販売し、使用に応じて費用を回収。これら部品メーカーはサービス会社と提携を結びます。アクセル、車輪、タイヤを包括的なパッケージサービスとして提供するようなイメージです。

自社が将来、どのような役割をもつ企業になるのか、そのビジョンが決定したら、現状とのギャップを評価します。ギャップを正しく理解することが、確実に次へのステップを踏む重要なポイントになります。これにより、統制がとれ、かつ、確実な方法で、企業は未来に向かって進んでいくことができます。

一部の準備段階には、企業内部の構造的な変革や組織づくりというステップもありますが、ほとんどが、デジタル分野での変革になるでしょう。例えば申請書類のデジタル化、クラウドへの移行、デジタルスキルに長けた人材や新しいツールに投資するなどです。

進化し続ける市場やその転換点をよく観察することで、正しく未来予測をし、正しく方向性を判断する(し続ける)ことができます。もちろん、市場の変化に合わせて企業戦略を切り替える必要もあります。柔軟なフレームワークを構築し、方向転換を可能にする態勢を整えることが、ライバルとの大きな差別化につながります。

また、MaaSによるデジタルディスラプション(デジタル革新による、業種業態を超えた既存のビジネス構造の破壊)は、まだ、市場に存在していないものも含めて、他の分野にも影響を与える、ということを常に意識する必要があります。つまり、変化しているのは自動車産業だけではない、ということです。全く新しい「モビリティの生態系」、つまり「A地点からB地点へ移動する」という意味は、金融サービス、小売業、公共サービス、自動車サービスをはじめ、数多くの業界を巻き込んで、再定義することになります。

例えば、買い物袋を乗せた自動運転車が、職場までお迎えをしてくれる…そんな世界が待っているかもしれません。

デジタル・コンバージェンスは、交通や移動を消費する方法を根底から変え、市場における消費者と提供者の関係性を大きく変えます。この変革において、企業同士がいかに提携を結び、業界を超えて協力をするかが鍵になります。

図 : 分散型市場から統合型市場へ

分散型市場から統合型市場へ

ブレーキを外す

MaaSへのシフトは徐々に加速し、早ければ2025年にはスタートする可能性があります。このスタート地点までにデジタル環境を整えられて列の先頭に到着しなければ、ビジネスにおいて死活問題になるでしょう。

サービス指向の世界では、未来はいかにデータを収益化するかが目的となり、その結果、消費者の「欲しい物やサービスがすぐ手に入る喜び」への要求は、ますます積極的になるかもしれません。時代の変化を過小評価したり、行動を先送りすることは非常に危険です。

もちろん、MaaSの影響は自動車産業に限りません。これまでの市場や生態系を根底から変えるデジタル・コンバージェンスにつながるとも言えます。これは新しい市場の誕生を意味し、今はまだ市場に存在しない新しいチャンスや新しい収入源の獲得を可能にするとも言えます。

成功は、達成し難いものではありません。変わることは不可能ではないのです。

このゲームに勝つためには、まず参加する意志を固め(すなわち、不安、否定、文化的障害を乗り越える)、どの役割で競うかを決め(前述の三層モデルを考慮した未来予測)、勝利までの距離を知り(ギャップ評価)、ゴールまでのステップを踏み(デジタル変革)、常に周りを見渡し、正しいカードを切りながら確実に勝利に向かうことが重要です。

それができなければ、競争相手から大きく差をつけられてしまうかもしれません。

※この記事はFujitsu Blogに掲載された「The S-curve is coming for Mobility-as-a-Service — is the auto industry ready?」の抄訳です。
※本記事の文中のリンクは英語ページに推移します。