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「アフターデジタル」とは?デジタルトランスフォーメーションを加速する新しい概念

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デジタルトランスフォーメーション(DX)成功には、リアル世界がデジタル世界に包含された「アフターデジタル」を前提とした取り組みが求められています。

富士通の首席エバンジェリスト中山五輪男が、「アフターデジタルの世界に向けて今から取り組むべきこと」を、シニアエバンジェリスト及川洋光によるアフターデジタルの世界観を先取りした最新技術のデモを交えながらご紹介しました。
【Fujitsu Insight 2019 基調講演レポート】

写真 : 富士通株式会社 理事 首席エバンジェリスト 中山五輪男

富士通株式会社 理事 首席エバンジェリスト 中山五輪男

DXに必要な「アフターデジタル」の視点とは

「95%が失敗」しているDXへの取り組み

世界各国でデジタル化が加速していく中、日本の状況は一体どうなっているのでしょうか。主要63の国と地域を対象とした世界競争力ランキング(スイスのビジネススクールIMDの調査)によると、日本の2019年の総合順位は昨年の25位から5つもランクを落として30位です。昨今、政府を中心に働き方改革が叫ばれていますが、単純に労働時間を短縮するだけの取り組みでは、順位がもっと落ちるかもしれません。

図 : 世界競争力ランキング

世界競争力ランキング

30年前の日本は本当に強い国でした。その強い日本を復活させるためにはDXの推進が必須です。これを成し遂げられないと日本はもっとランキングを落としてしまうかもしれない、私はそう感じています。

しかし、DXが失敗する確率は95%という衝撃的な数字がIMDのマイケル・ウェイド教授から発表されています。これは日本だけの話でなく、全世界の企業がDXに失敗する確率です。

DX推進のキーワードは「アフターデジタル」

「アフターデジタル」。この言葉は、今後DXを進めていく上でとても大事なキーワードになります。「アフターデジタル」とは、藤井保文さん(株式会社ビービット東アジア営業責任者)が、書籍『アフターデジタル』(日経BP社刊)で、デジタル化する世界の本質を示した概念です。データ化できないオフライン行動がなくなることで、私たちの身の回りのリアル(オフライン)が完全にデジタル(オンライン)に包含される世界を表します。
私たちの世界は、間もなくこのアフターデジタルへと突入していきます。そのため「生活の中に常にオンラインが浸透している」という新しい視点でDXを考えてください。

リアルを軸にデジタルの活用を考えるのではなく、常にオンラインを前提にデジタルを活用して、世の中の変化を考えてみるということです。

これまでのビジネスにおける重要な要素はヒト・モノ・カネでしたが、今はそれに一つ加わってヒト・モノ・カネ・データになります。これらすべてがオンラインの世界の中にあるということを前提に新しい価値を見つけ出すDXを進めていきましょう。

アフターデジタルの世界を実現する「デジタルツイン」

続いて、シニアエバンジェリスト及川洋光によるデモンストレーションでアフターデジタルの世界観を共有しました。

写真 : 富士通株式会社 シニアエバンジェリスト 及川洋光

富士通株式会社 シニアエバンジェリスト 及川洋光

世界で進む「アフターデジタル」の具体的な取り組み

アフターデジタルの最新事例として、グローバルの事例の紹介とリアルタイムデモを実演しました。

皆さんが行なわれている現金のやり取り、これをキャッシュレスにするためにICカードやスマートフォン決済があります。これはリアル(現金)が先にあり、デジタル化(キャッシュレス)が後にある考え方です。しかし、アフターデジタルは最初からデジタルで考えます。

グローバルで有名な事例がアリババ傘下の食品スーパーマーケット、フーマー(盒馬鮮生)の取組みです。コンセプトは簡単で、3km圏内であれば30分以内に必ず配送するというもの。スマートフォンやPCから注文をするとネット経由でリクエストが店舗に届きます。

普通のスーパーはリアル店舗が先にあり、後でネットショップを始めるのが一般的ですが、フーマーはECサイトによるネットショップを先にやっています。さらには、何と、ECサイトのための倉庫をリアル店舗として一般客を入れているのです。フーマーはネットでの接点だけでなく、リアルな人の接点もとても大事にしており、オンラインかオフラインかを選ぶのはあくまでお客様自身だと考えています。ネット通販が必要なときにネットで注文し、直接手に取って購入したいときには倉庫に行って買うことができます。

社会課題や災害課題の解決に活用が期待される「デジタルツイン」

「デジタルツイン」はリアル世界をデジタルに再現する技術になります。いろいろなセンサーを使い、リアルな世界の双子のようにデジタル世界を再現することから「デジタルツイン」と言われています。当社の最新事例として台湾のスマートダムの共創コンセプトをお伝えします。

デジタルツインでリアルなダムをデジタルに再現すれば、地形やダムの形状、水位などのほか、上流の河川の情報やダムの放出した水の推移もリアルタイムで確認できます。

この技術を応用すると災害対応に役立てることもできます。例えば台風が来たとき、河川の水位の状況は水位計があれば分かります。しかし水位計のデータは過去から現在までの情報にしか過ぎません、本当に欲しいのは何時間後に氾濫しそうかという予測です。
スマートダムでは過去から現在の水位の経緯と、現在から未来への予測が出来ます。つまり、2時間後に氾濫しそうなのか、それとも今回は氾濫しないのかの予測も可能となります。

台風による増水で堤防が決壊した場合でもデジタルツインは役立ちます。決壊すれば川の水が街に押し寄せてしまいますが、現在、水がどこまで迫ってきているかというリアルな情報は、街中に水位計を設置しないと分かりません。しかしこの事例ではドローンを使い、上空から撮影した映像をリアルタイムに見ることができます。ドローンを飛ばして撮影した映像をサーバーにアップすれば、大勢の人がどこまで水が迫っているかをリアルタイムで見ることができます。

写真 : 台湾中区水資源局が取り組むスマートダムのダッシュボード画面

台湾中区水資源局が取り組むスマートダムのダッシュボード画面

デジタルを前提にした遠隔医療の実現

続いて紹介するのは「テレポーテーション」です。これはMicrosoftの三次元認識機能を持つカメラデバイスの「Azure Kinect」を使います。このデバイスをいくつか組み合わせて、テレポーテーションする対象を囲むと、物体を三次元キャプチャできます。

デモでは2台のAzure Kinectの間に中山が立っています。前の1台が中山の前面を、後ろの1台が背面を撮影し、三次元キャプチャして、私が頭に装着したヘッドセットにより、目の前の空間に中山の姿をホログラフィックに表示します。

写真 : テレポーテーションデモの様子。右上投影画像がヘッドセットで見えている映像

テレポーテーションデモの様子。右上投影画像がヘッドセットで見えている映像

リアルタイムでホログラフィックも動きますので、中山が動けば、その様子をリアルタイムで私の目の前の空間に投影されます。三次元キャプチャなので、私が中山の後ろに回り込むと背中を見ることもできます。

これはビジネスにどう活用できるでしょうか。例えば遠隔医療。Azure Kinectを使って医師と患者をキャプチャすれば、遠隔での診察も可能です。離島に住む患者や足が悪くて病院に行くのが大変な患者がいるから遠隔医療を提案するのではなく、最初からデジタルである程度診察できるようにしようというアフターデジタルのアプローチです。これはDXの取り組みになるのではないでしょうか

DXを支える7つのテクノロジー

2019年6月、富士通は時田隆仁が社長に就任しました。時田は、全国各地で行っている講演や、メディアを通して「今後、富士通はIT企業からDX企業へ様変わりしていきます」と宣言しています。

そしてDXを支える7つのテクノロジーを定義しました。コンピューティング・AI・5G・サイバーセキュリティ・クラウド・データ・IoT、当社が誇る7つのテクノロジーです。まずはAIについて最新情報を紹介します。

弱点を克服し、進化し続けるAI

富士通のAI「Zinrai」には数多くの技術が搭載され、今も次々と新しい技術が組み込まれています。

その中の一つが最適なアクションプランを提案してくれる「Wide Learning」です。ディープラーニングはデータの量が生命線であり、教師データが少ないと高性能な判断をすることが難しくなります。「Wide Learning」は、少ない教師データでも元の教師データの持つ要素を組み合わせて仮想の教師データを増やし、そのデータを元にディープラーニングを行うものです。その結果、高い回答精度を得られます。さらに、富士通が従前より推進している説明可能なAIをより高度に実現することができます。AIが導きだした答えの根拠が見えることにより、その根拠に基づく最適なアクションプランをAIが提案できるようになります。

もう一つが世界初、AIを高い精度のまま維持し、安定運用が可能な「High Durability Learning」です。AIの精度を維持するにはメンテナンスが欠かせません。AIを運用していると社会情勢や市場・環境の変化などにより、現在の入力データ傾向が構築当初の学習データと乖離し、AIの推定精度が低下してしまうケースがあります。

例えば金融業における信用リスク評価では、為替や金利、物価は変動により、学習時91%だった精度が69%に落ちてしまいました。同じように小売業も季節やイベントによって商品デザインが変わります。運送業も伝票の入力形式が変わります。使えば使うほど、時間が経てば経つほど精度が下がっていくのです。

ところが精度を維持するために、定期的に学習データを集めて正解付けするというメンテナンスを継続するのも容易ではありません。しかしHigh Durability Learningを使うと、最初に教師データを集める点は同じですが、その後も自動で正解付けを行います。その結果、精度があまり落ちなくなります。先程の金融業の例では69%まで下がった精度が、High Durability Learningを使うと89%にまで回復しています。小売業も66%に下がったのが94%に、運送業では82%まで落ちた精度が92%にまで高めることに成功しています。

図 : High Durability Learningの検証事例

High Durability Learningの検証事例

量子コンピューティングを使った効率化

次にDXを支えるテクノロジーの一つ、コンピューティングに関するものとして「デジタルアニーラ」を紹介します。先日ドイツ・ミュンヘンで開催された「富士通フォーラムinミュンヘン」では、富士通の量子コンピューティングのデジタルアニーラがさまざまな業務のオプティマイゼーション、最適化を実現する、いくつかの事例を紹介しました。

デジタルアニーラは、量子の動きに着想を得て作られた、新しいタイプ・新しいアーキテクチャのコンピュータです。普段私たちが使っているコンピュータと違い、解ける問題は組み合わせ最適化問題だけです。しかし、組み合わせ最適化問題に関しては富士通のスーパーコンピュータより何億倍も速いパフォーマンスを持ったコンピュータです。

このデジタルアニーラを使っているBMW社の事例を紹介します。BMW社では2017年から製造現場において量子コンピュータの活用を模索していました。自動車を作る過程において、PVC(ポリ塩化ビニル)を車体に吹き付ける作業があります。産業ロボットが吹き付けますが、BMWの車種ごとにPVCの縫い目が異なるという課題を抱えていました。組み合わせをすべて考慮するとその数は10の108乗になります。スーパーコンピュータを使っても何千年もかかるかもしれません。その膨大な数の組み合わせをデジタルアニーラは一瞬で計算してしまいます。その計算結果を産業ロボットに反映させることで、効率の良いスケジュールで自動車を生産することができます。

デジタル視点でリアルを考える

現在、世界中の企業がDXに取り組んでいますが、その多くがDXという言葉に踊らされていて、何がなんだかわからない状態になっているのも事実です。

そもそも何のためにDXをする必要があるのか、私はいろいろな人の話を聞いたり、本を読んだりしているうちにある一つの結論に達しました。企業がDXをする目的は2つあります。

1つ目は業務の効率化です。冒頭にもお話した通り、日本の競争力はどんどん落ちています。徹底的にオートメーション化して業務の効率化を行い、働き方や会社の中の仕組みを変えていかないと日本は本当にとんでもないことになってしまいます。

そして2つ目は、新しい利益の獲得です。

デジタル技術を用いてその2つの目的を達成すること、それがDXではないかと考えています。

図 : デジタルトランスフォーメーションとは

デジタルトランスフォーメーションとは

その時に、ヒト・モノ・カネ・データが常にオンラインにつながっていることを前提にデジタルを掛け合わせることで、業務の効率化や新しい利益の獲得ができるのではないでしょうか。これからは、アフターデジタルの考え方で新しい価値を見つけ出すDXを進めていきましょう。