• ホーム
  • ブロックチェーン
  • The Price of Trust 信頼なき会社はいらない ジェフリー・サックスが語る「未来の会社のあたりまえ」【後編】

The Price of Trust 信頼なき会社はいらない ジェフリー・サックスが語る「未来の会社のあたりまえ」【後編】

メインビジュアル : The Price of Trust 信頼なき会社はいらない ジェフリー・サックスが語る「未来の会社のあたりまえ」【後編】

前編からの続き)

SDGsの「4つの指針」

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は国連に加盟する国々によって採択された国際的な開発目標で、2030年までに達成すべき17の具体的なゴールから構成されている。とはいえ、やる気はあっても実際に成果を出せるかどうかは別問題。作成に携わったわたしたちとしても、どのようなアプローチをもってすれば成果を出しやすいか、そのために企業がどんな行動を取ればいいのかをまとめた提案を検討中だ。具体的にはSDGsの指針を4つの項目に集約して、それを次のような質問に落とし込んで示そうとしている。

1つ目は「われわれの製品は社会にとってサステイナブルか?」。企業は顧客の健康を害したり、依存性を高めたり、危害を与えたり、暴力を招くような製品を提供してはならない。

2つ目は「われわれの製造システムは環境的にサステイナブルか?」。企業は二酸化炭素排出量や土地の利用法を見直さなければならない。鉱業・農業関連の企業は特にそうだ。森林伐採や環境汚染、温室効果ガスを生み出す元になっていないかチェックする必要がある。

3つ目は「広い視野をもってバリューチェーンを眺めているか?」。いま、企業のほとんどはグローバルなバリューチェーンに組み込まれている。例えばスマートフォンで考えると、そのバッテリーに含まれるコバルトなどは他国・他企業における鉱物採掘のバリューチェーンを経て提供されている。そして、アフリカにおける採掘環境はご存知の通り劣悪だ。だからスマホ業者は自社が製造するエンドプロダクトだけではなく、サプライヤーのバリューチェーンにも目を光らせる必要がある。

4つ目は「われわれは良き企業市民だろうか?」。きちんと納税しているか?世に真実を伝えているか?人々の権利を侵害していないか?といった問いについて考えなければいけない。

わたしたちのチームは、米国の産業界とともにこの指針に基づいてSDGsの効果的な実践を進めようとしている。また同時に、これを評価システムとして企業の採点をし、結果をレポートにして公表するつもりだ。
その目的は、不正な行為や害をもたらす行為を企業にやめさせること。すべての企業が模範的な行動を取れずとも、不正な行動をやめさせるための抑止力になればと期待している。

テクノロジーをどう使っていけばいいのか?

「信頼」の文脈で情報技術を語る場合に問題になるのは、わたしたちがどのようにその技術を活用するのかということだ。情報技術には、利益とリスクがついて回る。最近、社会の信頼を大きく損なったIT企業にフェイスブックがある。フェイスブックが約束したことは嘘だったばかりでなく、組織の内部で何が行われているかについて、彼らは真実を述べようともしなかった。

グーグルやアマゾンもそうだが、わたしたちはフェイスブックのような巨大IT企業がわたしたちの行動を追跡し、監視し、メールを盗み見ていることはなんとなく知っている。さらに、これらの企業は政府機関に協力していることも多いから、彼らのもつAI技術は防衛やスパイ行為に使われているとも考えられる。
とはいえ本当のところ、彼らが実際に何をしているのかはよくわかっていない。そして彼らの技術革新のスピードは法規制が追いつかないほど速く、その政治的影響力も大きい。不正行為をしても逃れるのはたやすい、という状況がここにもある。

最先端の情報技術はわたしたちの生活に恩恵をもたらす一方、使い方によっては危険で、害を与える存在になりえる。そしてわたしたちはまだ、新しい技術をどんなふうにコントロールしたらよいのかを完全に理解していない。ブロックチェーンについても同じようなことがいえるだろう。この技術は仮想通貨とともに語られることが多いが、とりあえずわたしはこの問題の多い通貨のファンでないことだけは確かだ。

もちろん仮想通貨だけがブロックチェーンのすべてではない。分散型台帳によって透明性の高い状態で情報管理を行えることが、この技術の価値であるはずだ。しかしビットコインの例を見ればわかるが、やはりブロックチェーンもその価値を最善の方法で発揮させるためには、使い方をよく考える必要がある。どうすればその利益を享受し、リスクを回避できるかを考えると同時に、技術を不正利用しようとする企業の存在にも警戒しなければならない。

わたし自身は、社会のために情報技術を活用するのは大賛成だ。ブロックチェーンも、ヘルスケアや医療、ガバナンス、金融などの分野において有効なアプリケーションが開発されているのは事実だし、エストニアのように、この技術を使って政治や行政の運営を効果的に行っている国だってある。つまりわたしたちは、テクノロジーを賢く使っていかなければいけないということだ。

若者たちは改革が必要だと思っている

若い世代について言えば、話してきたような企業環境に飛び込むにあたり、優秀な彼らにはどう振る舞うべきかをきちんと理解しておいてほしいと思う。なぜなら彼らは、こうした不正行為を嫌う人々でもあるからだ。

実際彼らは、不正行為への嫌悪と就職活動の間で混乱しているようにわたしには見える。おそらくこれが、アメリカの若者が他世代に比べて積極的に政治参加する現状を生んでいる理由だろう。彼らは改革が必要だと思っている─だからこそ、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)下院議員のような若手政治家を支援しているのだ。

AOCは、改革の必要性を訴求し、発信し続けている政治家のひとりだ。先日もトランプ大統領の元弁護士、マイケル・コーエンの議会証言に対して大統領の脱税疑惑を厳しく追及していたね。わたしが思うに、彼女は若い世代が考えていること、不正の温床となるような既存のシステムを一掃したい、という思いを代弁しているのではないだろうか。若い世代はいま、こうした政治家を支援することを通して声を上げているんだ。

企業は「Do No Harm」を原則に据えるべきである。そして匿名性を捨て、正しい行動に向かわなければならない。そうしてこそ社会の信頼を取り戻し、次世代の活躍の場を生み出すことができるだろう。そういう意味で、わたしは若い世代には大いに期待しているんだ。

プロフィール
ジェフリー・サックス(Jeffrey Sachs)

経済学者 コロンビア大学教授

これまでに国連や世界銀行といった国際機関のアドバイザーを務め、世界から貧困を根絶するための活動に従事している。『世界を救う処方箋』『貧困の終焉』など著書多数。2004年と2005年、『TIME』誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に選出された。

佐々木 希世

フリーライター

グローバルビジネスやSDGsといったテーマを中心に、日英で発信。著書の『「半径5メートル最適化」仕事術』ほか、ウェブや雑誌で多数執筆している。