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AIと自動化が後押しするバーチャルキッチンの時代

メインビジュアル : AIと自動化が後押しするバーチャルキッチンの時代

Taster CEO and founder Anton Soulier in the kitchen.

近年、目に見えて急成長を遂げているビジネスが、フードデリバリーサービスです。デリバルーやウーバーイーツなどの企業によって送り出されたライダーやドライバーが、さまざまな料理を配達するために街中を走り回っている光景がいたるところで見かけられます。一方で、新しいプラットフォームの出現が既存の勢力に変化を生じさせることはよくありますが、店舗を持たずに宅配専用のメニューを提供するフード版シェアリングエコノミーサービスであるバーチャルキッチンの台頭によって、レストラン業界にも二次的な目に見えにくい変革が広がってきました。

ロンドンを拠点とするバーチャルキッチンのテイスターは、フードデリバリーサービスとAI、そしてデータ分析技術の出会いが、いかに大きな破壊的変化をもってレストラン業界を脅かす可能性を生み出しているかを示す一例だといえます。同社は、11か所のキッチンで100人のシェフを含む115人の従業員を有する中小企業に過ぎません。しかし、先ごろ、バッテリー・ベンチャーズ、ハートコア・キャピタル、ローカルグローブ、およびファウンダーズ・フューチャーのマーク・メナス氏から、ベンチャーキャピタルとして800万ドルを調達することに成功しました。

フードデリバリーサービスは当初、地域のレストランを対象にしたブームのように思われていました。しかし、最適化と自動化に長けたバーチャルキッチンこそが、最終的にこのフード戦争に勝利する可能性が見えてきたのです。

 

テイスターは、このフード変革をさらに推し進めたいと考えたデリバルー出身のアントン・スーリエ氏によって2年前に創設されました。

「今こそ、デリバルーのようなプラットフォームを活かしたフードビジネスを立ち上げる大きなチャンスだと思いました」と同氏はいいます。「デリバルーはとても物流に長けた企業であり、私の仕事はそのための料理を提供することです。」

デリバリーサービスは、すでに食べ物の購入と消費のあり方を根底から変える原動力となっています。その結果、オンデマンドで提供される料理を選ぶ消費者が増えることになり、家庭で料理する機会は徐々に減ってきているのが現状です。スイス最大の銀行であるUBSによる2018年のレポート「キッチンは死んだのか?」では、その時点で350億ドル規模だったフードデリバリー経済が、2030年には3,650億ドル規模にまで成長するだろうと予測されています。

同レポートは、「2030年には、現在家庭で手づくりされている食事のほとんどが、代わりにオンラインで注文され、レストランやセントラルキッチンから提供されるようになるというシナリオも考えられる」とし、「食品小売、食品メーカー、レストランの各業界に加え、不動産市場、家電、ロボティクス関連業界にまで大きな影響が及ぶ可能性がある」と指摘しているほどです。

このシナリオの当然の帰結の1つとして、フードデリバリーサービスが継続的に成長していくことは十分予想されます。ただし、主にこの流れは、既存のデリバリーサービスが持つ消費者へのリーチを利用しようとする、サードパーティ企業によって推進されていくでしょう。

その中には、ウーバーの元CEOであるトラビス・カラニック氏が手掛けた、デリバリー専門ブランドを立ち上げるための場をシェフに提供するスタートアップのクラウド・キッチンズをはじめとする新規参入組が含まれます。

たとえば昨年は、カリフォルニアを拠点とするキッチン・ユナイテッドが、デリバリー専門スタートアップの調理場となる倉庫を拡大するために1,000万ドルの資金を調達し、今年には、ベルリンを拠点とするキーツが、ベルリン、アムステルダム、マドリード、バルセロナ、ミュンヘンなどのバーチャルキッチンのネットワークに向けた資金として新たに1,350万ドルを調達しました。

こうした動きがある一方では、デリバリープラットフォーム自身も、この食品調理競争に参戦しています。2年前にはデリバルーが、デリバリー専門レストランにデータとキッチンを提供するためにデリバルー・エディションズを立ち上げたほか、メディアの報道によればウーバーもこの領域に参入し、バーチャルブランドにキッチンを貸し出すサービスの導入実験を進めているということです。さらにウーバーは、既存の小売レストランと提携し、それらのキッチンをウーバーイーツでしか注文できないバーチャルブランドのために使う試みも進めています。

このことは、先に挙げたテイスター自体も激しい競争環境に置かれていることを意味します。そして、今後、これらの動きが強まることは避けられないでしょう。それでも、テイスターの現在の取り組みに目を向ければ、こうしたバーチャルキッチンへの流れが加速している理由が垣間見えてくるはずです。

このスタートアップは、デリバリーでのみ提供される料理を調理するための一連のキッチンを、ロンドン、パリ、マドリードで運営しています。それらの料理は、韓国風フライドチキンのアウト・フライ、ハワイ料理のオ・ケ・カイ、ベトナム料理のミッション・サイゴンといった、デリバリーサービスの個々のアプリ上にしか存在しない独自ブランドの下に販売されます。そのため、これらのバーチャルキッチンのマーケティング活動の中で、消費者がテイスターというブランド名を目にすることはありません。

このアプローチでは、既存のレストランよりも優れたさまざまな利点が即座に得られます。たとえば、食堂や受け取りカウンターが不要となることによる店舗スペースの節約や、全従業員が調理にだけ集中できるために実現する接客コストのカットなどです。しかも、新たなチャンスが生まれたら、それらの既存のキッチンを利用してバーチャルブランドの増設に対応することも容易にできます。

「私は毎日、人々がどのようにデリバルーを利用しているかを観察し続けました」と、スーリエ氏は語ります。「同社の成長はとにかく素晴らしいものでした。ところが、その一方で、その場で料理を作って人々が食べにくる形態の既存のレストランは、デリバリーモデルにあまりうまく適応できていなかったのです。」

テイスターのようなサービスは、はじめからデリバリーを想定して考えられました。そのため「パッケージは熱々の料理を新鮮なまま届けるために設計され、メニューはすぐに食べて貰えるとは限らないことを考慮して選択されている」とスーリエ氏は説明します。

そして、テイスターがデリバリープラットフォームから受け取るデータと組み合わせることによって、最も人気の高い商品をリアルタイムで把握でき、それ踏まえてメニューを素早く調整することが可能となるというように、両者の協力関係がより良いシナジー効果を生み出しているとのことです。

また、テイスターのバックエンドシステムは、同社の数多くのサプライヤーと直接つながっています。そのため、メニューの変更と同時にサプライヤーへの注文も自動的に更新されるのです。

「これは、当初から取り組みたいと考えていた大きな課題でした」とスーリエ氏は言います。「サプライヤーに直接注文が入れられるようになれば、プロセスが本当の意味で自動化され、無駄を減らすことができるからです。」

さらに同社は、そうしたデータを利用することで、休日や天気といった要因による需給変化を予想する独自アルゴリズムの開発に乗り出すことができました。システムがそれらの変動を追跡して、自動的に注文を調整しようというものです。

同社のビジネスにおいて、この領域の開拓はまだまだこれからという段階にあります。しかしスーリエ氏は、キッチンの数が拡大し、得られるデータ量が増えるにつれ、AIの活用をさらに推し進めて自動化できる領域を拡張し、一層的確な予測に基づくデータドリブンの業務が行えるようになると確信しています。

その自動化の規模とレベルは、今後数年のうちに単独のレストランでは太刀打ちすることがますます厳しくなる水準にまで達するでしょう。食品小売業界では、これらのプラットフォームから収集されたデータによって消費者の食の選択肢はバラエティ豊かなものとなり、ニッチなメニューの普及に拍車がかかることも予想されます。また、現実のレストランを開店するよりも新規参入に伴うリスクが大幅に低減されることで、このバーチャルキッチンブームはさらに盛り上がり、それに伴って業務の合理化も進むことでしょう。

かつて、バイクメッセンジャーによる寿司の宅配が話題となったこともありました。しかし、このバーチャルキッチンが巻き起こす食品小売業界の変革は、確実に、そして、はるかにそれを上回る大きな波紋となって広がりつつあるのです。

 

この記事はVentureBeat向けにクリス・オブライエンが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。