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“山の神” 柏原竜二が語る、陸上競技の魅力を高める応援のチカラ(後編) アスリートの人生は続く

【未来を創るチカラ SPORTS×ICT編Vol.3】元陸上選手 柏原竜二インタビュー

メインビジュアル : “山の神” 柏原竜二が語る、陸上競技の魅力を高める応援のチカラ(後編) アスリートの人生は続く

前編からの続き)
現役選手時代、昇り竜のような箱根駅伝での走りをはじめ、多くの人の心に忘れられない感動を残した柏原竜二。2017年に競技を引退して以来、さまざまな場面で陸上競技の魅力を伝え、スポーツの支援活動を行なっています。後編では、今後ますます可能性の広がるスポーツICTについて、またアスリートの人生について思いを聞きます。

スポーツの世界でICTはどのような可能性があるのだろう

陸上競技界のテクノロジーとしては2019年の日本選手権100mで、スタートからゴールまで選手のスピード変化をグラフ化されたものを見て、先進的で素晴らしいと思いました。サニブラウン・ハキーム選手、桐生祥秀選手、小池祐貴選手が三者三様、それぞれのスタートダッシュの伸び率や、トップスピードになるタイミングが違っていてすごく面白かったです。

富士通のICT技術としては、体操の3Dセンシング技術(注1)や富士通レッドウェーブでも活用しているプレイヤーモーショントラッキング(注2)など、スポーツの現場で活用が始まっています。陸上競技に展開が可能なものとしては、走るフォームの動画解析などができると面白いと思います。

(注1)高速化・複雑化の進む体操選手の動きを瞬時に3Dセンシング。より正確な採点を行うために、国際体操連盟が採用している。
(参照)体操採点支援システム
https://sports-topics.jp.fujitsu.com/sports_digital_solution/gymnastics-scoring-support/

(注2)リアルタイムで選手のパフォーマンスやスタッツをわかりやすく視覚化、分析できる。また、ファンや視聴者には新しい観戦スタイルを提供。
(参照)プレイヤーモーショントラッキング
https://sports-topics.jp.fujitsu.com/sports_digital_solution/player-motion-tracking/

医療の面でもICTが活かされてほしいです。血液データをとると選手の疲労や体の状況が一発で分かるのですが、データを蓄積していって、起きている現象と選手の体質を照らし合わせて、ゆくゆくはこうなりますよという踏み込んだ予測ができるとよいのではないでしょうか。

イチロー選手に共鳴。僕たちは考え続けなければいけない

今テレビのスポーツ中継でもdボタンを押せば、パッといろいろな情報が出てくることが多いですが、ただ見て終わりではなく、どうやったらもっと観やすくなるのか、もっと選手のためになるのか、レースの駆け引きや勝負の興奮はどうやったら伝わるのか、一緒に考える機会につながってくれたらいいなと思います。

イチロー選手が引退会見で「アメリカの野球は考えなくなった。日本の野球はそうであってほしくない」(注3)という発言をされましたが、スポーツの技術や肉体のことに関して我々は常に考え続けなければいけないと思っています。それができる世の中になってほしいです。新しい技術やテクノロジーが組み合わされば今よりもっと面白いことになるだろうし、もっと考えて技術も向上して、さらに違うものが出てきたらすごく面白い。予定調和の起こらないことがスポーツの醍醐味や興奮、感動を生むケースが多いので。

(注3)2019年3月22日マリナーズのイチロー選手が引退会見で言及した。「2001年に僕がアメリカに来てから2019年現在のアメリカの野球は、全く違うものになりました。頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような…(中略)日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいなと思います。」近年メジャーリーグは、データに基づき効率的な試合をしようと攻守とも大味になったといわれる。

速くて強い背中を追って、中学から長距離走にのめり込んだ

小学生のころ僕はリレーのメンバーになったことがなくて、長距離は得意だけれど短距離は苦手、走るのはそれほど嫌いではないという感じでした。中学では帰宅部でゲームをやりたいと思っていたのですが母親から「帰宅部だけはやめなさい」と言われ、陸上部の先生が熱心に誘ってくれたので、じゃあ陸上部に体験入部しようと思ったら、1週間後には試合のメンバーに入れられていました(笑)

小学校の持久走大会では6年間負けなしでした。でも中学では同級生に僕より断然早い、県のトップクラスの子がいて、指導の先生に「あいつとお前は違うから」と言われたことを今でも覚えています。先生も悪気があったわけではなく僕も腹を立てたわけじゃなく、ただすごく悔しくて。この悔しさがのめり込ませてくれた要因かなと思います。速かったし強かった、その背中をずっと追いかけていたのも事実なので、そういう人が近くにいたことは大きかったと思います。僕にとって1つ目のターニングポイントです。

貧血が意識を変えた。そして “チームスポーツ”駅伝で活躍

2つ目のターニングポイントは、高校で貧血になったこと。食改善をはじめ自分が競技向上のためにどうすべきなのか考えるきっかけになりました。3つ目は東洋大学に入って陸上、駅伝をやったこと。そのおかげで今の自分がいると思っていますし、この経験を活かしていけるといいなと思っています。

駅伝は一人で走るから、チームスポーツなのか?とよく言われるのですが、365日同じ目標に向かってチームが動いているというのは、もうチームスポーツだと僕は思います。駅伝のタスキを繋げたいと思って大学に進学したら、最初の目標はまず大会に出場できるメンバーに入ること。次の目標は自分が目指すタイムや順位にいかに近づけられるか、それを踏まえてチームがどういう順位になるのかが醍醐味や魅力です。

怪我をして何もできないことが一番苦しかった

現役時代で一番苦しかったのは、怪我で何もできなかったことですね。歩くのも痛くてダメ、筋トレもできない、毎日ソファでボーッとして、チームとして何も役に立っていない。監督にも何も返せていないという気持ちがありました。

2017年に引退を決意できたのは、次に怪我したらやめようと決めていたからです。実際に怪我をしてしまって、「もういいや」という感じでしたね。競技をやめるというのは一つストロングポイントがなくなるということで、今後自分がどうなっていくのか怖さも不安もありました。でも競技を続けられない体の状態なら、きっぱり辞めた方が自分のため、他の競技者のためだと考えました。
最後まで監督は止めてくれましたが、「もう大丈夫です。やることもやったし、後悔はありません」と伝えました。

引退したアスリートのセカンドキャリアの道筋を作りたい

競技を辞めた自分たちには会社員としてやるべきことがある。自分たちにしかできないことも必ず存在します。ただ会社との兼ね合いを考えているとだんだん幅が狭まってしまうので、僕自身働き方を変えていって、今までの会社員としてあり得ないことをどんどんやっていくつもりでいます。個人としての活動では、たまにゲームのイベントに出たり、7月には世界コスプレサミットで審査をしました。会社の活動と二面性を持ちつつも、ゆくゆくは個人でやっていることも会社に還元できればいいなと思っています。「元アスリートなのに何でこんなことやっているの?」というくらい変なことやっていかないと誰も目を向けてくれないですし。

どこまでやったら怒られるのか、やっぱり崖の上に立っておかないと。そうやって今後競技を辞めて会社に残るアスリートに道筋を作ることができたらいいなと思っています。僕たちの活動をメディアなどが取り上げてくれたらスポーツが盛り上がるし、うちの会社もきっと受け容れてくれる。そんな流れを創っていけたらと思います。

柏原竜二

写真 : 柏原竜二

1989年7月13日 福島県生まれ。
福島県立いわき総合高等学校、東洋大学を卒業し、富士通株式会社へ入社。東洋大学時代に箱根駅伝で三度の総合優勝に貢献し、4年連続5区区間賞を獲得すると同時に、4年次には主将としてチームを優勝に導いた。卒業後は富士通陸上競技部にて活動し、2017年3月31日をもって現役引退。現在は同社 企業スポーツ推進室に所属し、スポーツ活動全般への支援、地域・社会貢献活動などを担当し、幅広く活動している。