モビリティと暮らしの融合 デジタルが生み出す「生命が宿る建築」とは

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人がコンピュータに合わせていた時代から、コンピュータが人の感性や行動を理解し、自然に人に寄り添ってくれる。そんな時代がすぐそこまで来ています。
私たちの日常生活にデジタル技術が心地よく存在し、まるで生き物のように振る舞いながら、人と共に成長する未来の建築「EQ House(イーキューハウス)」と、それを支える業種を越えた取り組みについて、竹中工務店様と富士通がご紹介します。
【富士通フォーラム2019 セミナーレポート】

※登壇者の部署名、肩書は、講演当時のものです。

本セミナーでは、最初に富士通デザインの田中培仁が登壇し、「デジタルテクノロジーで人に寄り添う」をコンセプトとしたAFECTIVE DESIGN(アフェクティブデザイン)について説明しました。

デジタルが生み出す新しい感性が、心を動かす体験や価値をデザイン

新規ビジネスの創出を成功に導くためには、3つの過程があると考えています。まず、そのお客様がどこを目指したいかという、明確な「ビジョンの策定(Vision)」、次に、技術的にやりたいことが実証できるかという「コンセプトの開発(PoC)」、そして、それがビジネスのエコシステムとして本当に回るのか、という「ビジネスの検証(PoB)」の3つです。その際に重要なことは、各々のフェーズを繋ぐ「人間軸」を通すこと、つまり「人」を中心に据えるということです。

写真 : 富士通デザイン株式会社 未来構想・デザイングループ デザインディレクター / 一級建築士 田中 培仁

富士通デザイン株式会社
未来構想・デザイングループ
デザインディレクター / 一級建築士
田中 培仁

そのための方法論として、富士通デザインではお客様に「AFFECTIVE DESIGN」という、「人」を基軸にした独自のビジョンを提唱しています。AFFECTIVE DESIGNとは、機能やユーザビリティだけではなく、感性的な心地よさを重視し、個人に寄り添ったデザインを追求するという考え方です。

私たちは、大量生産された画一的な商品・サービスに人が合わせていた時代から、今後は自律的に商品・サービスが人に寄り添う時代が来るだろうと予想しています。それは、その人個人に、よりパーソナライズされた動的に進化していくサービスが提供される時代です。

同時に、デジタルの役割も変わっていくだろうと捉えています。人間がコンピュータに合わせ、効率的(Effective)な機能や効果を追求していた時代から、コンピュータが人の感性や行動を理解し、自然に人に寄り添いながら、人間の感性や心地よさに訴えた(Affective)な時代への変化です。

図 : 自律的な商品・サービスが「人に寄り添う」AFFECTIVE DESIGNのコンセプト

自律的な商品・サービスが「人に寄り添う」AFFECTIVE DESIGNのコンセプト

このような変化を背景に、私たちは「AFFECTIVE DESIGN」というコンセプトを掲げ、デジタルテクノロジーが日常の中に心地よく存在し、生き物のように振る舞い、人と共に成長していく社会を実現していきたいと考えています。

今回、人と社会の関係性をデジタルで変える共創プロジェクト活動の1つとして、富士通は「EQ House」に参画しました。これは当初、竹中工務店様とメルセデス・ベンツ日本様が、未来のライフスタイルを発信するという建築デザインからスタートしたプロジェクトです。

そこに、富士通のデザイナーとエンジニア、さらに暮らしのアルゴリズムを基点に寝具の西川様、ABCクッキング様が加わり、デジタルテクノロジーでパーソナライズ化される未来の暮らしをデザインしました。

図 : モビリティと暮らしが融合したEQ Houseのコンセプト

モビリティと暮らしが融合したEQ Houseのコンセプト

続いて、EQ Houseのプロジェクトリーダーを務める竹中工務店の花岡郁哉氏が登壇。プロジェクトのコンセプトや概要を紹介しました。

竹中工務店が目指す 人と共に成長する家「EQ House」とは

モビリティと暮らしの融合

EQ Houseは、メルセデス・ベンツ日本様と当社が「近い未来に、私たちのライフスタイル、モビリティとリビングはいったいどうなっていくのか、実際に造ってみよう」ということでスタートしたプロジェクトでした。約2年間の期間限定で、メルセデス・ベンツ日本様の電動モビリティを包括するブランドEQ、そしてモビリティと暮らしが融合した「未来の暮らし」を体験できる施設として、2019年3月に六本木の「Mercedes me Tokyo」に隣接して開設されました。

写真 : 株式会社 竹中工務店 東京本店設計部副部長 (アドバンストデザイングループ長) 花岡 郁哉 氏

株式会社 竹中工務店
東京本店設計部副部長
(アドバンストデザイングループ長)
花岡 郁哉 氏

EQ Houseは、近年、自動車業界で注目されているキーワード「CASE」、つまり、「Connected(コネクト)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Services(シェアアンドサービス)」「Electric(電動化)」が私たちの生活に浸透した未来を想定しています。その未来に相応しい新しい建築をデザインしました。

EQ Houseのコンセプトは、「人とともに成長する、生命が宿る建築」です。IoTやAIの活用により、あたかも生命が宿り、私たちの日常生活を優しく見守ってくれるような建築を目指しました。

これからの建築は、画一的なものを大量生産するのではなく、設計段階はもちろんですが、竣工後においても個々のニーズに応えることが求められています。

また、急速に変化しているモビリティへの対応も必要になります。モビリティの電動化、自動化が進んだ際には、モビリティとリビングとが一体化し、家から次の場所へのシームレスに移動できる可能性も高まります。

このようなトレンドを踏まえて、これからの建築を考えてみたいと思いました。現在も、IoTを活用し機器と機器を繋いだ建築はたくさんありますが、それに対して、EQ Houseは機器と技術を建築に溶け込ませ、どこまでも自然に感じられるような、人の感性に訴えた心地良い空間を追求しています。

建物に人格を与えて「好き」という感情を伝える

人と建築の関係も変わります。家が人とコミュニケートし、好みを学習することで、本来モノであるはずの建築に、生命が宿っているように感じる関係が生まれます。

EQ Houseは、建築というよりは自然の一部のようにも感じられるデザインとしています。その外観は、アイコニックな家の形をしていますが、建物を包んでいる白いパネルには、細かい開口がたくさん設けられています。壁には、電気を通すことで、曇ったり透明にしたりと、自由に調整できる通電フィルムという素材を使いました。生活空間を包んで、まるで建物自身が呼吸しているように、環境や人に応じて変化させることができます。家の中でありながら、木漏れ日のような美しい光環境を生み出しました。また、入口は人が近づくとさっと透明になり、人を迎え入れてくれます。

富士通からは、「生き物感」というキーワードも提案いただき、通電フィルムを環境だけでなく人にも積極的に反応させていこう、という流れになりました。また、光の変化するリズムが人の呼吸に沿ったリズムになるよう、一緒にデザインしていきました。

リビングとモビリティをシームレスに繋ぐため、建物には、車をはじめとするモビリティを受け入れる「モビリティチューブ」という空間と、人が暮らす「リビングチューブ」という空間を交差させています。

図 : モビリティとリビングとが一体化した家

モビリティとリビングとが一体化した家

「モビリティチューブ」には、所有する車だけでなく、シェアされた車や、自分が乗りたいモビリティを自由に選んでそれが自動的に来てくれるような生活を想定しています。

そのため、中央に設置された透明なガラスのインターフェースには、来た車の種類や充電の状態などが表示されるようになっています。このインターフェースには、車だけでなく、家や暮らしに関わる情報も表示され、人と建築、モビリティを繋ぎます。

写真 : ガラスのインターフェース。ガラスの面に暮らしの様々な情報が表示される。

ガラスのインターフェース。ガラスの面に暮らしの様々な情報が表示される。

人と建物の関係を再構築する上で、建物に「好き」というプラスの感情を伝えられるように設計したのもポイントです。暗い時に「明るくして」、寒い時に「暖かくして」と人から指示されている状態は、極端に言えば建物が「怒られている」状態とも言えます。

今回は当社が開発したIoTインフラであるビルコミュニケーションシステム(「ビルコミ®」)を活用し、スマートウォッチからのバイタルデータによって自動的に環境を制御するだけでなく、「私は今、こういう温度が好き」あるいは「この光が綺麗」など、プラスの感情を建物に伝えられるように設計することで、人と建築がコミュニケートできるように致しました。

EQ Houseでは、これからも、モビリティとリビングの未来を想定した様々なイベントが開催される予定です。ショールームでありながら、実はホテル・旅館としても検査済証を取得しているため、実際に人が宿泊することが可能な仕様になっています。

将来的には、実際に泊まってもらって、モビリティと暮らしが融合したシームレスな体験をしてもらえるようなイベントが企画されることを期待しています。モビリティと繋がれば、街全体が自宅のリビングの延長のように感じる体験を生み出すことができるのではないかと思います。

建築に「生命が宿った」時、人と建築の関係性はどう変わっていくか

花岡氏の講演の後、花岡氏と田中が「人に寄り添い、共に成長するデザイン」をテーマにディスカッションを行いました。

写真 : 人と共に成長するデザインが人や暮らしをどう変えていくのかをテーマに対談

人と共に成長するデザインが人や暮らしをどう変えていくのかをテーマに対談

田中 富士通と組んだ経緯などをお話しいただけますか。

花岡 EQ Houseの基本設計がまとまった段階で、デジタルエージェンシーとの協業の可能性を探る中で、東京・浜松町の富士通デジタル・トランスフォーメーション・センター(DTC)に伺い、富士通が提唱する「共創ワークショップ空間」を体験しました。そこでは、様々なデジタルツールを特別に意識することなく、自然な手の動きで操作でき、人を中心に人とツールのとても自然な関係が見事に生み出されていました。

その体験をきっかけに、東京都六本木にある「AFFECTIVE DESIGN STUDIO」にて、AFFECTIVE DESIGNを体現する数々のテクノロジーを見せていただくことになりました。AFFECTIVE DESIGNの考え方は、これまで私が建築をデザインする際に最も大切にしてきた「人の感性を中心に据える」というポリシーにとても近く、最初からお互いの活動に対する共感があったおかげで、スムーズにコラボレートできたと思います。

田中 講演の中で「生命が宿る建築」というキーワードが出てきました。EQ Houseプロジェクトによって建築に生命が宿った時、人と建築の関係性はどう変わっていくと思いますか。

花岡 今までのものづくりでは、スペックに軸足を置いて進んできたと思います。スペックが高ければ高いほど喜ばれる。一方で、あるスペックを高くすることで、他の体験を失うこともあります。多様な価値観に応えるためにも、スペックの設定をユーザーに委ねることができないか。そのために建築は人とコミュニケートし、好みを理解する必要があると思いました。

また、建築はものづくりなので、私たちとしては、作ったものを大事にしてもらいたいという思いが強くあります。そこで、ちょっとしたマイナスも可愛いと思えるくらいの寛容さと愛着を持ってもらうにはどうしたらいいかを考えた時、生命が宿っているとか、建築に見守られていると感じられる関係性を実現するのがいいと思い、「生命が宿る建築」というコンセプトをもとに設計しました。

「生命が宿る建築」は、用途を問わず適用できると思います。建物に設置したセンサーが色々な変化を感じ取り、それをもとにどんな体験を提供するのか。今後共、考えていきたいと思っています。

田中 建築分野では、建築に人が合わせる時代が長く続いていました。それが今では、人に合わせて動的に変化する、建築の「パーソナライズ化」への取り組みも進んでいます。建築がパーソナライズ化される未来についてはどうお考えですか。

花岡 パーソナライズすることと、個々が建物に対して愛着を持てることは常にセットであるべきだと思います。パーソナライズは、人とモノの関係をより豊かに密接にしてくれますが、建築で難しいのは空間がひとつしかないということ。その中で、複数の個人に合わせてパーソナライズしたものを同居させられるようにするための工夫が必要になると思っています。

田中 今回のEQ Houseプロジェクトでは、富士通も一緒に計画から参画し、現場の施工の職人たちとITエンジニアが協力しながら作り上げていきました。今までにないような体験づくり、エクスペリエンスデザインを経験してみて、どのような感想をお持ちになりましたか。

花岡 同じコンセプトで同じモノ、建物を作ろうとしても、人が感情移入できるかどうかは、その完成度によってかなり差が出てきます。富士通が示すAFFECTIVE DESIGN STUDIOのコンセプトやプロトタイプなどはいずれも完成度がとても高く、自然に感情移入できるもので、とても感銘を受けました。

田中 富士通は独自のクリエイティビティによって新しい時代の価値を創り、進化し続けていくこれからのサービスを提供していきたいと思います。EQ Houseプロジェクトでは、人と建築や車が、より自然かつ能動的にコミュニケーションすることで、時間と共に成長していくこれからの暮らしを形にしていくプロジェクトでした。

それは未来の暮らしという体験を創りながら、人と建築の関係性を時代に合わせて変えていくということです。AFFECTIVE DESIGNプロジェクトでは、「人×富士通」と捉えて、人と車、人と旅、人と美、人とスポーツなど、新しい時代の関係性をデザインしていくプロジェクトが進んでいます。そして人を中心に様々な業態を、データを基点に繋いでいくことで、人を幸せにしていく社会を実現していきたいと思います。

私達は六本木にAFFECTIVE DESIGN STUDIOを構え、そんな未来を社会実装していくパートナーを募集しています。小さな一歩を一緒にはじめてみませんか。本日はどうもありがとうございました。

モビリティと暮らしの融合 デジタルが生み出す「生命が宿る建築 ”EQ House”」【AFFECTIVE DESIGN】

登壇者

写真 : 株式会社 竹中工務店 東京本店設計部副部長 (アドバンストデザイングループ長) 花岡 郁哉 氏

株式会社 竹中工務店
東京本店設計部副部長
(アドバンストデザイングループ長)
花岡 郁哉 氏

写真 : 富士通デザイン株式会社 未来構想・デザイングループ デザインディレクター / 一級建築士 田中 培仁

富士通デザイン株式会社
未来構想・デザイングループ
デザインディレクター / 一級建築士
田中 培仁