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糖尿病の「個別化治療」に向け、AIが貢献できることは?

個人に最適な経口血糖降下薬を処方する必要性

今、世界中で患者が増えている糖尿病。糖尿病は、血糖値が高くなる病気で、この状態が続くと様々な合併症を引き起こしてしまいます。厚生労働省の調査によると、糖尿病の入院患者数は全国で約1312万人となっており(注1)、生活習慣病の代表的なものと言えます。

糖尿病の治療では、経口血糖降下薬やインスリン製剤などを用いる薬物療法を適切に実施することがとても大切です。具体的には、日本糖尿病学会が推奨する合併症予防の目標値である「HbA1c7.0%未満」を維持するように、血糖値を継続的にコントロールしていきます。HbA1cとは、「ヘモグロビンA1c」の略で、血液中のヘモグロビンと糖が結合したものの割合を示し、糖尿病治療における血糖の指標となっています。

しかし、長期に渡る治療においては、この指標を低い水準に抑え続けることが難しくなります。というのも、治療期間が長期にわたる場合、合併症の併発など病態が複雑になることが多いため、それに合わせて複数の経口血糖降下薬を適切に組み合わせる必要があるからです。しかし、薬を投与する順序やタイミングを考慮した最適な処方の決定方法は、まだ確立していないのが現状です。

(注1)厚生労働省「平成29年(2017)患者調査の概況」より。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/index.html

約5000人の診療データをAIが学習、治療効果を予測する学習モデルを作成

こうした中、札幌医科大学の大西浩文教授(医療情報部長)らの研究グループと、富士通、富士通北陸システムズは、糖尿病治療における経口血糖降下薬の処方の検討にAI(人工知能)を活用して最適化することを目的とした共同研究に2019年2月から取り組んでいます。

札幌医科大学附属病院を受診している糖尿病患者約5000人の診療記録、検査結果、処方情報などの膨大な診療データから、個人情報を削除した形式で抽出したデータセットを作成。それをAIに入力して学習させることで、投薬による治療の効果を予測する学習モデルを作成します。

札幌医科大学からは臨床医を始めとする医学・医療情報の有識者が参加。富士通と富士通北陸システムズからは、患者の処方情報や検査情報などの臨床情報データの安全・確実な取扱いに精通している富士通と、専任のAI技術者を持つ富士通北陸システムズが参加しています。

AIに学習させる「高精度なデータセット」の成型技術と、学習モデルの作成がポイント

今回の共同研究における技術的なポイントは2つあります。1つは、AIに学習させる「高精度なデータセット」の成型技術です。臨床情報データから解析対象データを収集・加工するプロセスには工夫が必要です。例えば、糖尿病患者に関するデータは、来院間隔が異なったり、検査項目が一定ではなかったりすることが多いため、データの欠損やばらつきが課題となります。その課題を考慮しつつ、まず患者一人ひとりに対し、HbA1c値の変動状態の「どの部分を取り上げるか」を決めます。次に「投薬内容やその時の患者の状態を表す検査値」を抽出します。これにより、得たい答えと因果関係のある情報が取れ、学習のためのデータセットとして成型できます。

もう1つが「AIによる学習モデルの作成」です。先ほど成型したデータセットに対し適切な学習方法を探索したり、有識者が重視するポイントや注視する要素を考慮して、薬や検査値との関係性をAIに学習させ、治療の効果を予測する学習モデルを作成します。

共同研究における技術的なポイント

糖尿病の「個別化治療」の実現へ向けて

現在、糖尿病の治療では、1種類の治療薬でHbA1c値を良好にコントロールできる人もいれば、複数の薬を必要とする人もいるなど、個人差が大きくなっています。そのため、個人に合わせた最適な治療薬の選定や複数の薬の組み合わせといった「個別化治療」が重視されています。今回の共同研究により、糖尿病患者個人に適した経口血糖降下薬の効果を予測し、最適な処方を支援できるようになれば、将来的に患者への身体的な負担を回避することにもつながります。

共同研究は、具体的にどのような学習モデルを作成できるかの検討から、学習モデルの試作・評価を繰り返し、成果の創出を目指しています。その後は患者一人ひとりに適した治療薬を選択するために、糖尿病治療薬に対してAIが出したアウトプットをどうやったら医師が理解できるか、検討に使えるかなど、実用化に向けた検討を行う予定です。将来的には、データの捉え方や考え方などのノウハウを他の疾患の治療に流用することも十分期待できます。

富士通は、今後も共同研究を強力に推進し、社会に革新的な価値を生み出すことで、人々の生活が豊かになる未来を実現していきます。