異業種データ活用で、東京のビジネスエリアが生まれ変わる【前編】

東京駅と皇居の間に位置する大手町・丸の内・有楽町エリアは「大丸有(だいまるゆう)」とも呼ばれ、ヒト・モノ・情報が集まる地域として注目されています。三菱地所様と富士通はこのエリアの新しい価値向上を目指し、異業種企業との共創に取り組んでいます。
【富士通フォーラム 2019 カンファレンスレポート】

「大丸有エリア」発のオープンイノベーションを加速させるために

まず初めに「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリア」でのオープンイノベーションについて、三菱地所の佐野洋志氏が説明しました。

三菱地所株式会社
街ブランド推進部
オープンイノベーション推進室 室長
佐野 洋志 氏

「大丸有(だいまるゆう)エリア」とは、東京都千代田区にある大手町・丸の内・有楽町の3つを合わせたエリアのことで、120ヘクタールの土地に100棟以上のビルが建ち、上場企業の本社が92社、そこで働く人の数は約28万人、利用可能駅は13駅28路線と、非常に多くのビジネスマンが活動している場所です。つまり、丸の内には非常に多くの活動データが集まっているということです。

近年の各企業は、よりスピーディーに多様なものを創出していくオープンイノベーションに取り組んでいます。丸の内も、イノベーションに魅力を感じる人や企業が集まり交流することで、新しい賑わいが持続的に生まれるような街づくりを目指し、今後20年で更なる創造的な賑わいを創出する「OPEN INNOVATION FIELD」を目指していきたいと考えています。

三菱地所様の考える「OPEN INNOVATION FIELD」

私の所属している街ブランド推進室は、大丸有エリアの中でも特に「付加価値創出」をミッションにしています。2000年頃からスタートアップ企業向けの施設の運営も行っており、これをさらに加速させようということで、2年前にオープンイノベーション推進室を発足しました。

ここで、いくつか具体的な施策を紹介します。ハード面では、スタートアップの方が集積するラボと呼ばれる拠点を設置しました。スタートアップ企業と大企業がラボで交流し、オープンイノベーションによって新しいものを創造していくことを目指しています。

一方でソフト面では、新規事業創出に向けたスタートアップ企業への出資やイベントの開催を行っています。加えて、街づくりにおける先進技術の有用性についての検討も行っており、今後はAI(人工知能)やIoT、ロボティクスといったICTテクノロジーを積極的に活用し、防災やインバウンド、SDGsといった社会課題の解決にも取り組んでいきます。

異業種共創の起点は「データ」、ポイントは信頼できる利活用基盤の活用

続いて、富士通の佐々木泰芳が、異業種共創を進めるためのポイントを紹介しました。

富士通株式会社
ネットワークソリューション事業本部
サービスビジネス事業部 事業部長
佐々木 泰芳

近い将来、生産年齢人口の減少が予測されている日本で、ビジネスを盛栄させるためには、生産性向上が重要な課題です。お客様からはよく「本業の強みを活かしつつ、本業を活かした新しい価値を届けたい」という声をお聞きします。そのために必要なのが「異業種共創(Co-creation)」です。

富士通ではこのたび、異業種共創の1つの例として、三菱地所様のプロジェクト「OPEN INNOVATION FIELD」に参加しました。丸の内は東京駅と皇居に挟まれ、基本的にはオフィスワーカーが多いエリアですが、有楽町や大手町など他のエリアからも多くの人が訪れます。さらに、東京駅からはインバウンドも流れてくるという、1つの生態系のようなものができています。そんなエリアに色々な企業が集まり、様々なデータを持ち寄り活用することで、丸の内に新たな価値が見出せるのではないかという期待を感じています。

これまで異業種共創がうまくいかなかった背景には4つの理由があります。1つ目は、単純に相手が競合なので組むことができないこと。2つ目は、提供したデータが二次利用されないかという不安。3つ目がお客様の個人情報保護。4つ目がコストです。

富士通では2018年、この4つの壁を超えるサービスとして「Virtuora DX データ利活用サービス(注1)」を発表。これは、企業が保有するデータを、業種・業界をまたいで安心・安全に利活用する場を提供し、Digital Co-creationを実現するデータ流通・利活用サービス基盤です。ブロックチェーン技術を採用しており、データに対して「誰が何をしたのか」が共有されます。これにより、データのフェアな使い方が成立します。また、東京大学大澤研究室で開発されたデータジャケット(注2)という技術を使い、データの詳細内容は明かさずに、誰とでも共有しやすい環境を提供しています。

データを安心安全に流通・利活用する場を提供する「Virtuora DX」

(注1)データの改ざんが実質不可能であるブロックチェーン技術を拡張し、企業や組織が保有するデータの概要をポータルサイト上で安心・安全に共有、見える化することで、異業種間共創を加速するデータ流通・利活用サービス(2018年5月14日 プレスリリース)

(注2)東京大学 大澤幸生教授によって考案されたデータ記述モデル。データの詳しい内容は明かさずに、データの概要や取得期間、取得場所などの情報を記述することで、デジタル情報の羅列である実際のデータの価値を人が理解できる形式で記述する手法。

異業種のデータと専門性を組み合わせ新たなサービスを生み出す

続いて、富士通の池田栄次が大丸有データ活用プロジェクトの成果について述べました。

富士通株式会社
ネットワークソリューション事業本部
サービスビジネス事業部 LCMサービス部 シニアマネージャー
池田 栄次

大丸有データ活用プロジェクトは、2018年5月~12月の8か月間、異業種間でのデータ流通・利活用の有効性の検証を目的としてスタートし、2020年を契機に大丸有エリアの魅力をどのように世界へ発信するかというテーマ設定のもとで進みました。

実証テーマは「大丸有の魅力を世界へ」

従来難しいとされてきた企業間のデータ利活用ですが、今回のプロジェクトには、三菱地所様、ソフトバンク様、東京ガス様など様々なデータをお持ちの企業に加え、アナリティクスやマーケティングの専門性を持つ企業が加わり、多業種でユニークな取り組みになりました。

また、データジャケットの活用を通じ、東京大学様にもご支援いただきました。データジャケットとは、人間が理解することを前提としたデータの概要情報のことです。データの中身ではなく、概要情報を共有することで、その利用価値が多くの人に理解され、利活用が可能になります。

データジャケットを活用することで安心・安全にデータを利活用できるようになる

下の図は、12企業に使っていただいた実際のポータル画面です。各社からご提供いただいたデータの中身を提示することなく、参加者誰にも分かりやすい形で交換できる環境が整ったことが、このプロジェクトの成果の1つかと思います。

データジャケットのポータル画面

プロジェクトでは、最初の段階で12の組織がきちんと顔を合わせ、信頼感を生むためにワークショップを行いました。デジタルだけでなく、このようなリアルな取り組みも非常に重要だったと思います。

ワークショップからは100ほどのアイデアが生まれました。そこから「商業施設のサービス向上」「インバウンドを主眼においた観光」「街の防災等を含めた安心・安全」という3つのテーマに分かれ、分科会を構成しました。ポイントは、それぞれに主査を立て、統括する幹事組織を据えたことです。その結果、各社がモチベーションを保ちながら、長期間に渡るプロジェクトに取り組むことができました。

富士通が主査を務めたのは、「インバウンドを主眼においた観光」をテーマにした分科会です。プロジェクトは実態の把握、仮説構築、仮説修正、最終的にマーケティングプランの立案という流れで進みました。人流データから外国人観光客の集中するエリアや滞留状況を可視化すると、皇居来訪者は有楽町より東京駅利用が多く、丸の内エリアにあまり滞留していないという実態が把握できました。

人流データを可視化することで人の集中するエリアや回遊ルートを俯瞰的に把握することが可能に

この可視化データをもとに、外国人観光客へのインタビューによる回遊ルートの収集を行った結果、東京駅から皇居へ直行直帰する外国人が多数あるものの、丸の内を回遊する行動も抽出されました。

さらにSNSデータを活用して、その回遊行動を分析すると、仮説としていくつかのペルソナが浮かび上がりました。例えば東京駅から皇居へ来る外国人は観光目的、有楽町方面から来る人はショッピング目的、セレブ宿泊客はアートスポットなどの高級体験など、それぞれ関心が異なっていることが見えてきました。

そして、丸の内エリアを東京の他エリアと比較したポジション分析から、アート・伝統の要素を強めることにより、丸の内をユニークなエリアとして訴求できるのではないかという結論に達しました。最終的には「富裕層を丸の内エリアの美術館へ誘導する」といったマーケティング施策案に結びつきました。

プロジェクトを進める上では、効率的なインタビューの取り方や場所の設定、SNS分析など、参加企業から多大な協力、知見をいただくことができました。人流データとSNSデータなど様々なデータをロジカルに組み合わせ、そこに参加企業様の専門性が加わることで1つの結論を得たということは、大きな意義のあることだったと考えています。

課題も多いがチャレンジする価値も高い異業種共創

最後に、三菱地所の奥山博之氏が、大丸有データ活用プロジェクトの課題や異業種共創での発見について講演しました。

三菱地所株式会社
街ブランド推進部
オープンイノベーション推進室 総括
奥山 博之 氏

今回の大丸有データ活用プロジェクトを通じて、データを提供するということは、企業にとってはハードルが高いことだと分かりました。外部にデータを提供するにあたっては、どう加工するか、どの程度のクオリティにするかといった社内コンセンサスが必要になります。

また、データを提供するだけ、もらうだけでは意味をなさないことが多いことも分かりました。単にデータを提供してもらうだけでは駄目で、リアルな場で取得データについてコミュニケーションを取ることが必要です。皆様の会社でも宝のデータが眠っているかもしれませんが、そこにはデータの持つ意味をフォローする人が必要になってくると思います。

今回のプロジェクトでは「異業種共創」に関心を持つ企業、言い換えれば外部との交流に非常に前向きな企業、担当者様にご参加いただいたと思っています。三菱地所でもデータの分析はよくやるのですが、今までは外部のコンサル会社に依頼して分析レポート作成をお願いする形が殆どです。そうするとレポート結果に表れていないお客様の生の声や、空気感のようなものはなかなか見えてきません。今回の大丸有データ活用プロジェクトのようにフラットな関係を築くことができると、普段聞くことができない分析の苦労やデータの持つ意味を教えていただくことができ、非常に有意義だったと感じています。

異業種共創には会員がフラットに議論できるコンソーシアム形式の運営が重要であると感じた一方、同業他社を同じコンソーシアムに入れるのは難しいとも感じました。データの取得方法や更新頻度などを同業他社が教え合うことは、現実的ではありません。ある程度テーマを絞り、そこに同業他社が入らないようにオペレーションを工夫する必要があると考えています。

最後に三菱地所は大丸有の地区でオープンイノベーションを盛んにしたいという思いを持っており、色々な企業と異業種共創に取り組んでいきたいと考えています。もちろん我々はエンジニアリング会社ではないので、失敗も多いですし、想定以上に時間もかかることでしょう。しかし、今後も失敗を恐れず、まずはやってみたいと思っています。

後半では進行を富士通の松木敦が務め、登壇者4名によるパネルディスカッションを行います。

登壇者

三菱地所株式会社
街ブランド推進部
オープンイノベーション推進室 室長
佐野 洋志 氏

三菱地所株式会社
街ブランド推進部
オープンイノベーション推進室 総括
奥山 博之 氏

富士通株式会社
ネットワークソリューション事業本部
サービスビジネス事業部 事業部長
佐々木 泰芳

富士通株式会社
ネットワークソリューション事業本部
サービスビジネス事業部 LCMサービス部 シニアマネージャー
池田 栄次