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キャッシュレス社会に向けた金融・銀行界の取り組み 金融庁・中央銀行・銀行界からみた方向性と課題(前編)

メインビジュアル : キャッシュレス社会に向けた金融・銀行界の取り組み 金融庁・中央銀行・銀行界からみた方向性と課題(前編)

来るキャッシュレス社会に向けて、変化の波にさらされる金融業界。キャッシュレス決済普及率が決して高いとはいえない日本の金融業界はまさに今変革の時。長年日本の金融社会インフラを支えてきた金融・銀行界の視点から、現状のキャッシュレス推進はどのように見えているのでしょうか。
【富士通フォーラム2019インダストリーセッションレポート】

目標はキャッシュレス化比率80%!日本のキャッシュレスの実情

経済産業省では、現在20%弱にとどまるキャッシュレス決済比率を、80%に上げるという目標を掲げています。目標を達成するために、金融機関などで構成されるキャッシュレス推進協議会が創設され、利用者の側からみた利便性の向上や、データの利活用の促進を踏まえたキャッシュレス化の動きが加速しています。その結果、数多くのキャッシュレス決済サービスが誕生しています。利用者の利便性を考えると、それぞれのサービスの相互運用性、いわゆるインターオペラビリティや、安心・安全、といった視点が今後はより一層重要になると考えられています。

キャッシュレス決済サービスには、金融機関にとどまらず、通信キャリア・流通小売・Fintech企業や、amazon、Apple、facebook等のグローバルプラットフォーマーの参入が進んでおり、数多くの決済サービスが乱立している状況となっている。

こうしたキャッシュレスの実情を踏まえ、金融庁の松尾元信氏が「キャッシュレス社会に向けた取り組みについて」と題して講演しました。

キャッシュレス社会に向け「金融をデジタル化」する金融庁の取り組み

キャッシュレスがもたらす3つの変化とは

キャッシュレスがもたらす変化は、大きく3つあると言えます。1つ目は、「簡便性」です。キャッシュレスで先行する中国では、レジカウンターがなく、スマートフォンで決済が完結するレストラン等が増えています。レジを受け持つ担当者は不要で、従業員の不正を監視する必要もなくなります。キャッシュレスがもたらす簡便性はお店も顧客も享受することができるのです。

金融庁
企画市場局参事官
(信用・保険制度担当)
松尾 元信 氏

2つ目は、「情報の利活用」です。従来型の決済システムの中では、顧客の購買履歴や個人情報の収集は限定されており、顧客ニーズにマッチしたテーラーメイドの商品開発には莫大なコストがかかるため、富裕層や大企業向けに限定されてきました。しかし、昨今ではスマートフォンの普及によって顧客の様々な金融・非金融情報を獲得することが可能となり、AIの活用によって即時かつ低コストで顧客ひとりひとりに応じたテーラーメイドな商品開発と提供が可能になってきています。

3つ目は、「資金の流れの変化」です。従来型の資金の流れは、銀行や証券会社、保険会社といった金融業が、企業と家計のお金の流れの仲介を行い、その上で金融業界がフルラインでサービスを提供してきたわけです。Fintechの進展は金融業界が担ってきたフルラインサービスの一部を切り出し(アンバンドリング)、決済・送金・融資などの新たなサービスを提供する業者を生み出しています。その結果、伝統的銀行を介さない新たなお金の流れが生まれることになり、これを活用して自らのエコシステムを作り出していくプラットフォーマーが出現しています。お金の流れのネットワーク自体も、「従来の金融機関ハブ型」から、「インターフェース企業中心型」や「取引所型」「分散型」へと多様化が進んでいくということになります。

これらの変化に対し、当局は、「経済の持続的な成長と国民の厚生の増大」に基づき判断を行う姿勢をとっています。新たなデジタルサービスの登場は顧客の利便性を高めますので、そのインフラ整備や情報利活用は積極的に後押ししていきます。伝統的な金融機関自身がデジタル化していく流れも同様に後押しをしながら、Fintech企業と伝統的金融機関が連携協働するオープンイノベーションを促していきます。一方、金融ですので、利用者保護の観点はきっちりと押さえて、安心安全な土壌づくりを進めていきます。

日本でのキャッシュレスの促進には「現金の引き出し」を減少させる視点が大切

日本では国を挙げて「誰でもどこでもキャッシュレス」ができる環境を目指しています。しかし、キャッシュレス化が進展している国のキャッシュレス決済比率は40~60%であるのに対し、日本のキャッシュレス決済比率はわずか20%弱。90%に迫る韓国や60%に達する中国と比べ大きな開きがあります。

世界からみた日本のキャッシュレスの現状

日本におけるキャッシュレスの中心的な手段は、クレジットカードで、キャッシュレスによる支払いのおよそ9割を占めています。

キャッシュレスの指標は世界的にクレジットカードやデビットカード、電子マネーで比較するのが一般的です。このキャッシュレス比率を上げることは、政府全体の目標であり、金融庁もその達成に向け努力していきます。

これに加えて、銀行口座の振替や振込も広い意味ではキャッシュレスな取引といえます。金融庁ではこれらの実態を正しく把握するため、メガバンク3行の協力のもと、個人の給与受取口座から実際にどのように出金されているのかについて調査しました。その結果、クレジットカードによる口座振替はおよそ15%で、それ以外の公共料金の口座振替やインターネットバンキングによる振込が4割を占めていました。現金を使わない、広い意味でのキャッシュレスを推進するためには、クレジットカードやデビットカード、電子マネーの推進は当然として、これに加えて金融機関と協力し、従来から存在する銀行間の振込や振替の使い勝手を向上させ、結果的に現金の引き出しを減少させるという視点も重要になるのです。

実際に、こうした視点による、銀行の取り組みも加速しています。その代表例が、2019年秋に開始予定のオールバンク参加型スマホ決済「Bank Pay」です。デビットカードを発展させた「Bank Pay」は、スマートフォンを用いて銀行口座から直接引き落としができる便利な決済手段を提供するので、キャッシュレス推進に貢献しうるとされています。

チャージ型のサービスでも、「あなたのスマホに、ATMを。」がコンセプトの「J-Coin Pay」が登場しています。「J-Coin Pay」では、銀行口座からのチャージ、友人や家族への送金等、お金に関する様々な行為がスマホ1つで完結する状態を目指しているようです。さらに、MUFGでは、ブロックチェーン技術を使い、グローバルな決済基盤を提供する試みも行われています。このような様々な取り組みが進められ、結果的にキャッシュレスで便利な世の中になっていくのだと考えています。

Fintechビジネス成功の3つのポイントは?さらなる普及を目指す金融庁の「金融デジタライゼーション戦略」

金融機関がFintechビジネスを成功させる要因は3つあると考えています。1つ目は、「顧客視点をもつこと」。供給サイドの視点ではなく、顧客ニーズに基づく新しい商品やサービスを開発する姿勢が求められます。

2つ目は、「スピード感をもった意思決定」です。時間をかけて完璧な計画を作るのではなく、変化が速い環境下において、走りながら考え、柔軟に修正する視点が求められます。

そして、3つ目は、「データの利活用」の視点です。デジタル化の過程で入手できる金融・非金融データを活用して、顧客に還元していく考え方が求められます。

これらのことを進めていくためには、経営トップの意志とビジョンが勝負の決め手になるような気がしますし、自社のリソースにこだわらず、若い力や外部の力を利用していく考え方が必要になります。また、組織の在り方も変わってきます。トップ直結の組織によるスピード感ある意思決定が求められますし、十分に権限移譲が行われた子会社形態を活用するというやり方もあります。

Fintechビジネスの普及促進を図るためにも、金融庁では金融サービスを向上させるための7つの取り組みを公表しています。その一番目に掲げているのが、金融デジタライゼーション戦略です。金融機関が情報の蓄積と利活用をやりやすい環境を整備し、高度なサービスを実現していくことです。そのために行政のデジタル化や金融インフラのデジタル化を積極的に進めていきます。さらに、様々なチャレンジを促す仕掛けや規制の実現に取り組んでいくというのが金融庁の施策になっています。

金融サービスの向上に向けた「金融育成庁」としての7つの取り組み

金融デジタライゼーション戦略を実行に移す取り組みは既に始まっていますが、そのうちの一つが金融規制の見直しです。平成28年の5月には銀行法を大幅改正し、銀行がIT系の子会社を持つことができるようにしました。デジタル化の流れの中で、金融機関とITは切っても切り離せないという考えのもと、実現した法改正です。その翌年にはオープンイノベーションを促す仕組みとして、Fintech企業と金融機関の連携を促すために、金融機関がオープンAPIによって接続方式をFintech企業に開放し、先進的かつ利便性の高い安価なサービスの提供を促す法改正を行っています。現在、インターネットバンキングを提供していない9行を除く128行がオープンAPIの提供を表明しており、銀行界の大きな流れとなっています。
本年は、金融機関が情報を利活用しやすくするための環境整備や、保険会社がIT子会社を持てるようにする法改正を行っております。

また現状では、業態ごとに異なる法令が存在するため、類似したサービスであっても、そのサービスを提供する事業者の業態によって、制度に歪みが生じてしまいます。このため、金融に関する基本的概念やルールを横断化する取り組みを始めています。とくに、「決済」分野が重要になってきますので、優先的に対応を進めています。
具体的には、送金について、銀行業と現行の資金移動業の間に新たな類型を設け、銀行送金以外でも幅広い金額の送金を可能とすることや、プリペイドやポストペイを組み合わせたシームレスな小口決済の実現等によってさらなるキャッシュレス促進へ寄与できないかという取り組みを進めています。
加えて、「決済」、「資金供与」、「資産運用」、「リスク移転」といった各機能に対応するサービスについて横断的に提供することを可能とする横断的な金融サービス仲介法制の実現に向けた検討を進めます。これにより、スマートフォン等を活用した、個々の利用者のニーズに即した利便性の高いワンストップのチャネルの提供が可能になります。

そのほか、スマホを通じたサービスには不可欠となる世界最先端のオンラインによる本人確認方法の導入を既に行っているほか、決済インフラに商流情報を乗せ決済プロセス全体を高度化させる取り組みも進めています。

さまざまなチャレンジをサポートする組織として、「Fintechサポートデスク」の設置や、専門チームによって実証実験をサポートする「FinTech実証実験ハブ」、Fintechの最新トレンドや状況を把握し金融行政に役立てる「Fintech Innovation Hub」を設立しています。

キャッシュレスをはじめとする金融デジタライゼーションは着実に実行されています。利用者がより便利で安全なサービスを享受できるよう、金融庁ではこの取り組みが、さらに浸透していくよう注力していきます。

本セッションの後半では、明治大学の小早川周司氏、三井住友銀行の渋谷愛郎氏、全国銀行資金決済ネットワークの千葉勇一氏が、それぞれのキャッシュレスへの取り組みを紹介。金融サービス事業者や金融機関の「インターオペラビリティ(相互運用性)」の重要性をテーマに、後半のディスカッションへと続きます。

登壇者

金融庁
企画市場局参事官
(信用・保険制度担当)
松尾 元信 氏