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落合陽一らと考えるダイバーシティと「Ontenna」の可能性

AI(人工知能)などのテクノロジーを使い、身体的・能力的困難のサポートや克服など、様々な社会課題の解決に挑むプロジェクト「xDiversity(クロスダイバーシティ)」。2019年6月18日に東京都内で開かれたトークイベント「JST CREST xDiversityシンポジウム」では、xDiversityのメンバーであるメディアアーティストの落合陽一氏、東京大学生産技術研究所の菅野裕介氏、ソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙氏、そして富士通の本多達也が登壇。ダイバーシティ社会に向けた取り組みと、聴覚に障がいを持つろう者のために開発された「Ontenna(オンテナ)」の可能性についてディスカッションしました。
【JST CREST xDiversityシンポジウム レポート】

AI基盤に基づく空間視聴触覚技術で社会課題に挑むxDiversity

本多 まずは、落合さんからxDiversityとは何かについて簡単にご説明をお願いします。

落合 xDiversityは、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)のCRESTに採択されたプロジェクトです。そこで目指すのは、視聴触覚技術や義足義手技術など、人間の身体を補完する、もしくは拡張する技術と機械学習などのAI技術の融合です。どのように融合させていくのかといった考え方、そして、そのためのハードウェアの開発も手がけています。

筑波大学 准教授
Pixie Dust Technologies CEO
落合 陽一 氏

研究開発は企業だけでなく、社会にとって重要なことだと考えています。エンジニアが取り組むだけでなく、エンドユーザーが自分でものを開発しながら社会的な課題解決していくことが求められてくるでしょう。どうやってサスティナブルな仕組みを作っていくかが大切です。

富士通がOntenna(注1)を開発したように、企業がハードウェアを開発し社会に普及させていく一方で、ソフトウェアのレイヤーでは学生などが自分で開発していくといった取り組みをもっと進めていきたい。そういう想いでプロジェクトを進めています。

(注1)「Ontenna」とは
聴覚に障がいを持つろう者のために開発された、クリップ型の“音をからだで感じる新しいユーザインタフェース”。富士通の本多達也がProject Leaderを務める。

Ontenna(Youtubeチャンネル)

大企業ならではの挑戦!社会が必要としているものを作る

本多 xDiversityのプロジェクトを進めている立場から、「Ontennaプロジェクト」の意義をどうお考えですか。

富士通株式会社
Ontenna Project Leader
本多 達也

落合 富士通が取り組んでいるので社会実装が早いですね。ベンチャーでは資金力の問題もあってこう上手くはいかないでしょう。社会が必要としているけど、売上に結びつかないものは数多くあります。企業は、売上や利益になるかは分からないが社会にとって必要なプロジェクトに、もっと投資するべきだと考えています。

Ontennaは、1個あたりの価格がさほど高くないところが素晴らしいと思います。これは重要なことで、音楽会などで配るのに1個10万円のデバイスでは配布できません。Ontennaは、いろいろなシーンで一人ひとりが使うから、ポータブルでないといけないし、コストも安くないとなりません。マスプロダクトに近いものだと考えています。

菅野 ユーザーコミュニティにリーチする力が素晴らしいと思います。本多さんの巻き込み力、そして人間力を含め、ちゃんとユーザーとつながっているというところは、私のように大学で研究プロジェクトを経験している立場からすると、なかなか難しいところです。

また、パッケージングのコマーシャル感とポップさというのも、大学ではなかなか洗練されていかないところです。これらが一体となって、様々な人を巻き込んで発展している感じが強く感じられるプロジェクトだと思います。

遠藤 ベンチャー企業の視点では、Ontennaプロジェクトは「テック」、つまりテクノロジーの意味合いもソーシャルな意味合いもあります。いろいろな意義がありながら、「Ontennaをちゃんと売り上げていこう」という取り組みは、実はすごく意義があると考えています。

裏を返せば、これからの試練を乗り越えていかないと、プロジェクトをスタートさせた意味がなくなってしまう。しかし、これを乗り越えられたらソーシャルベンチャーやテックベンチャーの新しいスタイルが実証されると思います。つまり、意義が問われるのはこれからだと思います。

本多 その通りです。大企業じゃないとできない売り方もありますし、大企業でないとできないこと、大企業の枠を取り払わないとできないことなどが、必ずあると思っていますので、そこをしっかりと考え、プロジェクトを進めていきます。

健常者・障がい者関係なく楽しめるコンテンツの創出が大切

本多 逆に、Ontennaプロジェクトに足りないものは何かお聞かせください。

落合 2019年の「耳で聴かない音楽会(注2)」でOntennaをどう使おうかなと悩んでいます。Ontennaはパーンという音、例えば打楽器や足音などの音に関してはすごく反応が良いです。つまり、音感のないもの、もしくは音の強弱にのみ意味があるものに対しては非常に効果的なんですけど、音に切れ目がないとか、打楽器以外の音とかは難しい。

特にオーケストラの重奏的な響きなどは邪魔にすらなってしまいます。どうすればティンパニの音だけを拾えるのか、キーになる楽器の演奏だけをOntennaにタイミングよく入れると一番気持ちよく感じるのかについて調べているところです。

遠藤 Ontennaという箱はできたので、あとはコンテンツだと思います。「耳で聴かない音楽会」とか、タップダンスとか映画とか、健常者・障がい者関係なく楽しめるコンテンツがあって、それがスケールしていく雰囲気を感じたので、今後に期待しています。

ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)
Xiborg
遠藤 謙 氏

落合 そういえばOntennaはマイクの精度があまり良くないですよね。特に人混みだと誰から話しかけられているのかほぼわかりませんから、音の切り分けに機械学習をうまく使えれば良いと思います。

僕が一つ実装したいと思っているのは、Ontennaを付けている人に「○○くん」と呼んだら反応してくれる機能です。話しかけた後は、スマホの文字認識機能を使ったり、目と目が合っていれば話がわかったりするのですが、声をかけるという行為に関しては触りに行かないとわかってもらえないので、名前を呼ばれたら動くというのはすごく重要だと思います。健聴者にとって、耳が不自由な人の肩を触ったり、目の前に手を出したりすることは意外とハードルが高いので、それを克服するためにもOntennaは良いデバイスだと思っています。

(注2)「テクノロジーで挑む、音楽のバリアフリ―」を掲げ、落合陽一氏と日本フィルハーモ二―交響楽団がコラボレーションしたプロジェクト。テクノロジーを活用した聴覚支援システムによって、聴覚障がいのある方もオーケストラを楽しむことができる。

ダイバーシティ社会の実現に向けた、Ontennaの可能性

本多 それでは最後の質問です。xDiversityのメンバーとして、今後Ontennaを使ってやりたいことは何でしょうか?

遠藤 僕は義足の研究をしているんですけど、スポーツとか音声、あと今は5Gの話に興味があります。5Gによって実現するクラウドとローカルデバイスのシームレスな環境はゲームチェンジャーになると思っています。Ontennaもオンボードでやれることは限られていますが、今後クラウドが使えるようになるとできることがさらに広がっていくのではないかと思います。

そういったテクノロジーを使って、スポーツ関係でなにかできるのではないかと考えています。僕たちもパラリンピック関係の仕事をすることが多いので、そういったプロモーションも兼ねた何か大きな、なおかつテックで意義があって、しかも売上も立つようなプロジェクトがあったらいいなと期待しています。

本多 本来は聞こえない音でもOntennaを使うことで感じることができれば、スポーツの体験の仕方が変わると思っています。落合さんがお話しされたとおり、Ontennaはリズム感と強弱が得意なので、そこをスポーツにどう活かすかというのは考えています。

遠藤 例えばフェンシングや剣道の試合を見ていると、いつ当たったか分からないことがありますよね。あれをビジュアルで見せたりもするのですけど、もしかしたら音声とOntennaでやれることがあるかもしれませんね。

菅野 僕はダイバーシティとは何かということをちゃんと考えないといけないと思っています。一つはプラットフォームとしてのOntennaのHackabilityを上げていくことが大事だということ。つまり本多さんや富士通が想定したシナリオ以外の使い方ができるようにしていくことが重要だと考えています。APIを開放するとか、作り込む機能って結構需要があると思います。

もう一つは乗せるコンテンツの文化的ダイバーシティがすごく重要だと思っています。Ontennaが提示する文化的ストーリーというのはあると思いますが、そこから漏れているコンテンツというのは絶対に存在します。ダイバーシティを掲げる上ではそれが重要なのではないでしょうか。

東京大学生産技術研究所
准教授
菅野 裕介 氏

本多 最初はろう学校の子どもたちに音を届けたい、楽しいとか笑顔を作るといったブランディングを意図的にやってきましたが、菅野さんのおっしゃる通り、漏れているコンテンツ、漏れているけど必要なコンテンツはあるはずです。

菅野 必要かどうかは僕らではジャッジできません。ある人にとってはすごく大切なカルチャーだけど、他のマジョリティにとってはそれほど大切なものではないというのがあるはずです。そういう部分にまで開かれたものになっていると、ダイバーシティを掲げるプロジェクトとして「美しい」と思います。

「ポケモンGO」「スマートウォッチ」にはなくて、Ontennaでできることとは?

落合 最近、「ポケモンGO」を始めました。「モンスターボール プラス」を使うと、Ontennaのように光と振動でポケモンを感知することができます。このような触覚インターフェイスだけで何かをしたいという人は、ゲームのユーザー数だけいるということです。ただし、このゲームのデバイスは頭に付けられません。そう考えるとOntennaはユーザビリティに特化しているから、マーケットとしてはかなり可能性があるのです。

「ポケモンGO」などのゲームデバイスやスマートウォッチにできなくて、でもOntennaにできることは何かということをずっと考えています。スマートウォッチはただ震えれば良いのですが、Ontennaは髪や耳に付けることを本多さんが言い続けたおかげで、身体に付けるデバイスとしてはかなり特化していると思います。これは足かせにもなりますがアドバンテージでもあって、他の人たちは単にデバイスが震えれば良いと考えますが、Ontennaは身体に付けられることに意味があると考えています。

その中で、僕はやはりコンテンツが必要だと感じています。いろいろな会社が似たようなアプローチの製品を開発していますが、どれもヒットしないのはハード先行型だからだと考えています。ハード先行型のものは買って楽しかったらすぐに置いてしまうのです。何かの体験ができるソフトと一緒ならば毎日使おうということになりますが、ソフトがないとどうしようもない。ハード面だけでなくソフト面で発想することも重要だと思うし、Ontennaのインターフェイス自体がもっと拡張されても良いと思います。あとはファッション性、白以外の色も見たいですね。

本多 本日は本当に貴重なご意見をありがとうございました。

登壇者

筑波大学 准教授
Pixie Dust Technologies CEO
落合 陽一 氏

東京大学生産技術研究所
准教授
菅野 裕介 氏

ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)
Xiborg
遠藤 謙 氏

富士通株式会社
Ontenna Project Leader
本多 達也