企業がデジタル革新で失敗しないためのポイントとは

今や多くの企業が、テクノロジー面で他社に後れを取ってはいけないという危機感を持っています。しかし、その一方では、組織の準備が整っていない、あるいは組織のスタッフやプロセスなどが未整備の状態で、新たなソフトウェアや自動化技術、その他のITイノベーションを採用する行為にリスクが伴うことも事実です。

ところが現実には、組織がテクノロジーに関してあまりにも楽観的で、十分な検証を行わずに、あるいは不慮の事態への対応策が用意されていないにもかかわらず、新しいシステムを運用していることもあります。エンタープライズ向けストレージシステムの製造販売企業であるピュア・ストレージ社で国際部門を担当する最高技術責任者のアレックス・マクマラン氏は、昨夏にロンドンのガトウィック空港が機能停止に陥った例を挙げて、その危険性を指摘しました。この事例では、重機が光ファイバーケーブルを切断し、突然、フライト情報を知らせるクラウドベースの電光掲示板がオフラインになってしまったことで、搭乗客は手書きのホワイトボードを頼りに搭乗ゲートを探す必要に迫られたのです。

「予想外の方向に事態が展開する中で、代替プランが用意されていなかったことにより、サービスを向上させるために設計されて高い評価を受けたはずの最新システムが、実際には搭乗客と従業員の両者に大混乱をもたらしてしまいました」と、マクマラン氏は指摘します。「多くの組織がテクノロジーに対して持つ楽観的な姿勢が、この失敗例でも示された形ですが、馬車の後ろに馬をつなぐような、この種の愚策の例は、いうまでもなく他にも数多く存在しているのです。」

また、普及させるには、まだテクノロジー自体が準備段階にあったり、コストが高すぎるケースもあります。B2B向けにデジタルの各種サービスを提供しているエコノコム社でマネージングディレクターを務めるクリス・ラブレイ氏は、小売業界におけるRFID方式の無線タグを用いた追跡システムの利用を例として挙げました。本来、このシステムは、在庫管理を楽にし、盗難を防ぐ役割を果たします。しかし、以前にこのアイデアが注目された時点では、初期システムのコストが高くつき、すべての製品に採用するには予算がかかりすぎて失敗に終わり、サプライヤーの間で広く普及するには至りませんでした。たとえば複数のブランドを扱う衣料品店では、商品の半分にしかRFIDが採用されていないような状況だったので、タグの追跡のためにコストをかけてスキャナーやソフトウェアを導入することが無意味だったのです。

RFIDタグ導入の目的は在庫管理の効率や精度を向上させることにありますが、すべての商品がそれに対応していなければ効果的な利用は期待できません」と、ラブレイ氏はいいます。今ではRFIDタグのコストが下がってより広く利用できる環境が整い、小売業者にとってRFIDシステムへの移行は賢い選択肢となりました。つまり、気が熟するまで待つ忍耐が報われるということです。

では、なぜ企業は、実証されてもいないテクノロジーに、期待通りに機能するかどうかも確認せずに飛びつこうとするのでしょうか? 「そうした企業が陥る罠とは、最新の何となく素晴らしく思えるテクノロジーや、『巷で話題の』システム開発方法が、自分たちをデジタル化による繁栄に満ちた世界へと一気に導いてくれるものと信じてしまうことです」と、ITコンサルタント企業の6point6社でデジタル革新担当マネージングディレクターを務めるクリス・ポーター氏は指摘します。そうしたテクノロジーにはブロックチェーンやAI、クラウドなどが含まれ、開発手法には開発と運用の連携を強化するDevOpsや、製品指向で改善を続けるアジャイル開発、あるいは同じく顧客志向で改善を行うリーン開発などがあるといえるでしょう。そのどれもが大きな可能性を秘めているものの、自社のビジネスとのマッチングや導入のタイミングを誤っては、有効な利用は望めません。

Uber、Airbnb、Netflixなど、新しいテクノロジーは、多くの市場で変革を起こしています。すると、その他の企業もこうした変化を目の当たりにして、同様の破壊的変化が自分たちの業界や市場に降りかかるのではないかという不安を抱くのです。「私でさえ、それが自分にどのような影響をもたらすのかが心配になるほどですから」と話すのは、プロジェクト管理やリスク管理などの効率化を推進するアクセロス社でITILと呼ばれるITサービス管理フレームワークの成功事例アンバサダーを務めるアクシャイ・アナンド氏です。同氏は、企業のコンサルタントやベンダーたちが、意図的かどうかは別としても、そうした懸念に乗じて自分たちのサービスや商品を売り込もうとしていると述べ、次のように続けます。「カンファレンスでの講演やブログなどで、『このテクノロジーを導入しなければ、あるいはこれらの新たな開発手法を採用しなければ、ビジネスに失敗するだろう』という説明がしきりになされるので、それが不安をかき立てている面があります。」

テクノロジーをアップグレードすることにはもちろん価値があるものの、「デジタル革新とは単なるテクノロジーの更新ではない」と、アナンド氏はいいます。「真のデジタル革新とは、自社のビジネスモデルを実際に破壊することにあるのです。このような変化を起こすには、はるかに多くの勇気とスキル、忍耐が必要になります。」言い換えれば、時間をかけ、正しく理解する必要があるということです。

新たなテクノロジーの採用を検討している企業は、標準やプロトコルを考慮したうえで、その製品が将来に広くサポートされるかどうかを確認するべきだ、とラブレイ氏は言います。「VR、MR、ARといったテクノロジーを検討しているなら、そのような先端テクノロジーにも流行の波があることに注意する必要があるでしょう。」

そして、新たなテクノロジーを導入する前に、デジタル革新の目的と、それを実現する方法について、しっかり考えることが必要です。保険会社のロイズや大手スーパーマーケットのウェイトローズなどを経て、現在はセキュリティスタートアップのタニウム社で最高情報セキュリティ責任者を務めるクリス・ハドソン氏は、次のように述べています。「まず自問すべきことは、『このテクノロジーが収益を向上させるか、顧客の利用や満足度を向上させるか』ということです。この質問に対する答えが『イエス』なら、次にそのテクノロジーの運用に適した人材、適したスキル、利用可能な処理能力を有しているかを検討する必要があります。」

アナンド氏は、特定のテクノロジーがビジネスに有益かどうかを把握するために役立つ考え方として、「サービス・ドミナント・ロジック」を挙げます。「これは、製品やテクノロジーではなく、サービスが、現実にいかなる価値を生み出す手段となっているかという点に着目するという考え方です。製品とテクノロジーは、消費者とのエンゲージメントや取引において主要な役割を果たすかもしれませんが、実際に顧客が価値を得るのはサービスからなのです」と同氏は述べています。たとえば、銀行が提供するバンキングアプリは、必ずしも顧客にとっての価値を生み出しているわけではありません。それを利用して即座に支払いを行ったり送金したりできるというサービス自体に価値があるのです。

ソフトウェア企業のシトリックス社は、自社ビジネスを「クラウドファースト」アプローチに移行した際に、このような考え方が役立つことに気づいたといいます。「数年前、当社は従来のソフトウェアではなくクラウドサービスを提供するため、テクノロジーの変革に投資すると共に、自社のオフィスやチームにも同じテクノロジーをいくつか導入しました」と説明するのは、同社の北欧地域担当バイスプレジデントであるミシェル・セネカル・デ・フォンセカ氏です。「そのプロセスを開始したときに、私たちはテクノロジーだけでは不十分であることに気がつき、製品主導の文化ではなくサービス主導の文化へと移行することの重要性を認識したのでした。」

製品やテクノロジーに注力していたときには、結果的にスタッフの業務に対するエンゲージメントに関する問題が発生し、それが顧客の満足度にまで影響してしまったと同氏は振り返ります。「私たちは、『最高のテクノロジーであってもそれだけでは十分でない。チームはこれまでとは違うやり方で取り組む必要があり、そのためには新しいスキルの育成が必要になる』という教訓を苦労して得たのです」と続けます。つまりシトリックス社にはクラウドテクノロジーだけでなく、スタッフのトレーニングや顧客サービス、関係構築にも投資する必要がありました。「世界最高のテクノロジーを手に入れることができても、強力なプロセスとサポートによって従業員と顧客双方のユーザー体験を向上させなければ、最高の結果は得られないのです。」

アナンド氏によると、「サービス・ドミナント・ロジック」はベストプラクティスの採用とITサービス管理フレームワークの整備によって実現されますが、フレームワーク自体はアクセロス社のITILでも、同等の機能を提供できる他のものでも構わないといいます。「いずれにしても、こうした事例は、テクノロジーの観点からではなく、サービスの観点からものごとを考えるのに役立つでしょう。」そして、このように考え方を切り替えることが、テクノロジーを適切なタイミング、適切な方法で導入できるようにするための最初のステップである、というのがアナンド氏からのアドバイスなのです。

 

この記事はThe Guardian向けにニコル・コビーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。