心の中を引き出し形にするデザイン思考メソッド"グラフィックレコーティング"

ラクガキコーチがすすめる絵心コミュニケーション

メインビジュアル : 心の中を引き出し形にするデザイン思考メソッド

グラフィックレコーディング、通称”グラレコ”。直訳では絵を使って記録することですが、実際はそれ以上の意味や効果が期待されて、最近注目を集めています。先進的なIT技術を用い、企業や組織が共創によってイノベーションを起こしていくこの時代に、なぜ手描きのグラレコなのか?自身もビジネスの現場で実践しながらグラレコを推奨しているタムラ カイに話を聞きます。(聞き手:フリーアナウンサー 森 遥香)

富士通デザイン株式会社
サービスインテグレーショングループ
グラフィックカタリスト・ラクガキコーチ
タムラ カイ

絵を通してコミュニケーションを活性化させる"カタリスト"

-- タムラ カイさんは、本当に富士通の方ですか(笑)

2003年に入社して16年、一途に富士通です(笑)

-- ニックネームでお呼びしてよいのでしょうか?

はい、「タムカイ」で。

-- タムカイさんのお仕事を教えていただけますか?

毎日水玉シャツを着る仕事…ビジネス水玉なんて言われます(笑)それは冗談として、メインの仕事は、共創をする時に必要なコミュニケーションについてファシリテーションしたり、そのためのプログラムを作ることです。"共創"コークリエーション(Co-Creation)は、富士通でも今よく言われていますが、アイディアを出すにしても、何をするにもコミュニケーションが大事です。

-- "グラフィックカタリスト" "ラクガキコーチ"という聞いたことのない肩書きもお持ちですが…

グラフィックカタリストは僕が作った造語です。"グラフィックレコーダー"と言うとどうしても記録するだけの人のようになってしまうので、絵を通してコミュニケーションを活性化させる触媒という意味で、グラフィック+カタリストという肩書きを作って活動しています。ラクガキコーチは、絵を描くことでコミュニケーションが変わる確信があるものの、多くの人から「絵を描くなんて無理です」と言われるので肩書きを作って、「じゃ、ラクガキでいいのでちょっとやりません?僕がコーチしますよ」とワークショップや講座を開いています。

議事録ではなく、ビジョンや思いを共有する触媒に

-- なぜグラフィックレコーディングを取り入れようと思ったのですか?

取り入れるというより、もともと仕事のメモを取る時にでも絶対に絵を描いているような人間でした。当初は自分用のメモなので一見意味のないものを描いていたら先輩に怒られ、僕の中では意味があると思っていたのに最初はそれが理解されなくて、怒られないようにするにはどうしたらいいだろうと考えたら、意味があるものを描けばいいんだということに気がついて、そうしたら「これは分かりやすい!」と褒められるようになりました。

-- 逆転ですね!ではグラレコとはどのようなものかご紹介いただけますか?

これは富士通フォーラムで開催されたフロントラインセッションの内容をリアルタイムにその場で描いていったものです。

出てきたキーワードを元に、登壇したお一人ずつの自己紹介を書いていきました。「AIもデータ活用も手段なので、何のためかという目的があるべき」「真の目的を言語化する」といったそれぞれ違う言い方だけれど同じことを仰っていると感じた言葉もありました。書いて残していくには情報の取捨選択が必要になるので、四人の方に共通する思いは何だろうと探すこともグラレコの役割かなと思っています。

-- 一目でわかる取説みたいですね。

ただ実は「わかった気になるという問題」も抱えていて、これでセッションの内容全てが伝わるわけではないですし、情報としては少なくなっているので議事録として使うには不適切な部分があります。でもこのグラレコを持って「自分はここが印象に残っている、大事だと思った」と他の人に話をしたら、触媒としてコミュニケーションが変わっていく。コミュニケーションを通してビジョンを描いたり、皆で思いを共有するにはこういった手法がいいのではないかと思っています。

人間の顔の表情が描ければ最強。100通りのエモグラフィ!

-- やっぱり私にはハードルが高いと言いますか、ここまで上手に書けないです。イラストを描くのは好きですが、絵心があるかは別問題で…

絵心って絵を見て絵がわかるということなので、よく「ないない」というけれど、「ないのは画力」で、「絵心は誰にでもあります。だから描けますよ」というのが、僕のラクガキ講座のスタートです。

-- コツがあれば教えていただけますか?

待っていました!そのためにマーカーとスケッチブックを持ってきました。
コミュニケーションという視点から何を描いたら一番効果的かということを考えに考え抜いたのですが、僕は最終的に人間の顔が書ければ最強だと思っています。人間が一番本能的に反応するものは顔なので、顔の表情が描けるといろいろなものが伝えられるようになります。

顔の表情を作るパーツは口と目と眉毛の三つ。口は「あ、い、う、え、お」、これだけでも表情が見えてきますね。それだけ僕らの脳は顔に餓えているんです。目は「黒目、白目、上につむっている目、下につむっている目、キュッと硬くつむっている目」、眉毛は「まっすぐ、アーチ、上がり眉毛、下がり眉毛」5×5×4で100、組み合わせて百個の表情が描けます。

-- すごい!

絵を媒介にして、心の中にあるものを引き出して形にするデザイン思考

これを僕はエモーション(=感情)とグラフィ(=記号)を足して、エモグラフィと呼んでいます。例えばビジネスの現場で「お客様が困っています」と言いますが、どのくらいの困りなのか、どういう困り方なのか、絵にすればわかりやすい。最近よく言われているデザイン思考で重要な要素のひとつが、お客様が何を思っているかつぶさに洗い出して、言葉にならない思いまで敏感に感じとることですが、エモグラフィは表情の絵という一つの媒介を使ってお客様はどういう状況なのか考えていきます。

-- グラフィックレコーディングにはどのような可能性がありますか?

文字を書くのと一緒くらいのイメージでちょっと絵が描ければ、お客様とも、友だちとも、家族ともコミュニケーションは変わるんじゃないかと思っています。
昔は足りていないモノは作ればよかった。でも今はモノが足りている時代。本当に今必要なものは言葉にできない、でも皆の心の中にある。それを引き出して、形にして、確かめることがデザイン思考なのかなと思いますし、グラフィックレコーディング、ひいては「描く」という行為はそのための手段として有効だと考えています。

もっともっと世の中は良くなっていいはず。皆で壁を突破していきたい

-- コミュニケーションの未来をどのように考えていますか?

友だちとのやりとりなど、スマホで伝わった気になっているけれど、目の前に相手がいたら、ちょっと表情がピクッとなっただけでわかることがあります。便利になればなるほど、何かあきらめてきたものがあると思うのです。今まで落としてきたけれど、実はすごく大事だったものにもう一度スポットライトが当たる、皆がその大切さを思うようになる、というのが僕の思うコミュニケーションの未来です。

-- これからどんなことに挑戦していきたいですか?

最近「仕事は何ですか」と聞かれると、「突破担当」と答えています。皆が「この辺が壁なんじゃないか」というところの先に未来はあると思うので、皆が恐れる壁を勝手に超えていく。もっともっと世の中って良くなっていいはずなので、皆で壁を突破することをやっていきたいと思っています。

-- ありがとうございました。