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Data×AI ――先駆者が語る成功の秘訣は?

データは次世代の石油と例えられるように、これからのビジネスを動かし、利益を生む源泉といえます。その膨大なデータを活用するために使われるのがAIです。ビジネスの視点でデータとAIを捉え、活用するための課題を探ります。
【Fujitsu Forum 2019 フロントラインセッションレポート】

本セッションでは、富士通の渡瀬博文と、AIに関するスタートアップであるDataRobot Japanのシバタアキラ氏、ABEJAの菊池佑太氏が 企業におけるAIの活用をテーマにプレゼンテーションし、その後早稲田大学大学院の入山章栄氏をモデレーターに、データやAIの活用に関する課題や展望について先駆者の立場から語り合いました。

人を中心にトラステッドでより良い未来をデザインする

富士通株式会社
AIサービス事業本部 本部長
兼 データ利活用推進室 室長
渡瀬 博文

「Data is the new oil」――世界中でこの言葉を耳にします。データのグローバル市場は、今後数年間で、10兆円規模とも175兆円規模とも言われています。私たちのビジネスや生活のあらゆるシーンに、データが関与する時代が到来しています。

しかし、ただデータを集めれば、価値が生まれるというわけではありません。DIKW Pyramidモデルでは、データだけでは意味を成さず、集まることで情報となり、そこから知識が生まれ、知恵として活用されると示しています。私たちが集められる世の中のデータは限られており、集めたデータのうち、有効活用されているのはわずか15%程度と言われています。そのような中、AIの社会実装はそれほど進んでいません。

機械や数式と人間の判断基準にも違いがあります。例えば、いつも5分遅れで到着するバスが、2分遅れで到着すると人間は嬉しく思います。これは、日常的に5分遅れるということが判断基準となっているからです。ところが数字上は、2分遅れは遅れです。大切なのは、こういった違いを理解し、AIが出した答えを人間が判断することで正しい解を導くということです。

GAFAを始めとする巨大企業は、膨大なデータを抱えていますが、技術を使って良い世界を作りたいと考え、そのためにデータを活用しています。目的を定め、それを達成するためにデータを用意し、ノイズを取り除き、ツールを使ってデータを活用することで、目的を実現するためのサイクルを回していきます。このサイクルの中でもっとも重要となるのは、何を実現したいのかを最初に明確にすることです。

データを活用するためには目的が重要

このような考え方から富士通は「Design the Trusted Future by Data×AI」を提案し、データとAIの融合的利活用(Data×AI)により、人を中心にしたトラステッドなより良い未来の創造をデザインしたいと考えました。

お客様の目的達成を実現するプロセス、そして、そのプロセスを構成するのに必要なサービスや技術をフレームワークとして設計し、この度発表しました。

Design the Trusted Future by Data×AIの概要

ポイントとなるのは、最初の「目的や課題の明確化、仮説設定」と最後の「業務実行、定着化」の部分です。データやAIは、業務に適用して、初めて価値を創出します。ではどうすれば業務に適用できるのか。最初の目的や課題を明確にすることができなければ、後の工程が揺らいでしまいます。目的や課題をしっかり合意することで、実行までやり遂げ、価値の創出に結びつけます。

AIの世界には多種多様な技術が存在しています。ディープラーニングもその1つに過ぎません。「Design the Trusted Future by Data×AI」では、お客様の目的達成の実現に必要な技術を組み合わせて利用できます。また、富士通が持っていない技術は、スタートアップをはじめ他社の協力を得ることも可能です。

富士通はグローバルで研究拠点を持っており、大学などの研究機関との共同研究も進めています。例えば、フランスの国立研究機関Inriaと共同で研究しているのが、IoTなどの多様なセンサーからの時系列データの解析です。トポロジーという高度な数学をデータ解析に応用するという内容で、従来では扱いが困難なデータから貴重な情報を取り出すことができます。このTDA(トポロジカルデータアナリシス)という技術を活用し、心電図からの不整脈検出では誤判定率を7割低減できました。こうした新しい技術も取り入れ、データやAIの活用を促進していきます。

富士通は技術を手段と捉え、お客様の掲げている目的の達成、そして直面している課題を解決し、より良い未来の実現をサポートしていきたいと考えています。

専門家でなくてもデータとAIが活用できる仕組みが必要

続いて、AIを用いたデータ活用の自動化に取り組んでいるDataRobot Japanのシバタ氏が登壇しました。

DataRobot Japan
チーフデータサイエンティスト
シバタアキラ 氏

データサイエンティストである私が、いろいろな日本企業の方とお話をして感じるのは、製造や流通のように異なる分野のお客様が抱えている問題に、多くの共通点があることでした。

問題を解決するために、AIを用いてデータを有効活用したいという声は少なくありません。しかし、その需要の高さに比べて、データサイエンティストの数が圧倒的に足りないのが現状です。そこで私たちDataRobotは、AIやデータサイエンスの知識がない方でも、AIを駆使したビジネスが展開できるようなサービスを提供しています。

データをビジネスに役立てるためには、「データを準備し、マネジメント方法を考え、モデルのデプロイを行い、実装後の運用ルールを策定する」というプロセスをたどらなければいけません。これらのプロセスを事前に決めてから進める重要性を、多くの方が理解されています。

その中でも、「データの準備」を重要視する声は多く、一部では、「データの準備が全体の80%を占める」という意見もあります。しかし、これについて私は賛成しません。このような意見を口にする方の多くは、モデルが完成した時点で満足し、「データの利活用」にまで目を向けていないケースが多いからです。確かにデータの準備は簡単ではありません。しかし、そこから価値を見出して利用することがさらに困難であり、かつ重要なのです。

だからこそ、プロセスの自動化が必要です。自動化すれば誰もがAIを駆使できるようになり、今までデータサイエンティストにしかできなかったことが、ビジネスに近い現場の方でもできるようになっていき、さらにデータサイエンティストには思いもよらないようなアイデアが生まれるのではないでしょうか。

例えば銀行では、債務不履行者や口座残高の予測、カードの不正利用やマネーロンダリングの防止をAIによる機械学習に置き換えています。農業でも、消費者需要や害虫の発生の予測、種子の選別といった課題にAIが役立てられています。

データとはビジネスの根幹に近いものであり、「ビジネスを熟知している人が技術者として関わる」ことには大きな意味があると考えています。データ利活用が企業に広がった時に、既存産業に起きることは何でしょう。AIは短い時間で経験を積むので、事業の効率化が加速します。現在お金を生み出している既存事業にデータを用いることで、新たな付加価値を生み出していけるのです。

「もの売り」から「こと売り」へと変化する時代の中で高まるAIの重要性

企業のAIの社会実装を支援するABEJAの菊池氏が登壇し、AIをビジネスに実装する方法というテーマで解説しました。

株式会社ABEJA 執行役員 兼
株式会社CA ABEJA 取締役副社長
菊池 佑太 氏

OECDのデータによると、アメリカのGDPは年々上昇しています。一方、日本のGDPは横ばいで、アメリカの3分の1程度です。企業の時価総額ランキングを見ても、バブルの時代は日本企業がトップにいましたが、今ではアメリカと中国に上位を占められています。この差をもたらした要因の1つがAIへの投資金額です。AmazonやGoogleなどの企業ランキングの上位を締める企業は、AIに対して日本企業と比較にならないほどの額の投資をしています。また、ガートナー社が発表している特定のテクノロジーの成熟度、採用度、社会への習熟度を示すテクノロジーのハイプ・サイクルによれば、PaaSやディープラーニングなどの技術は、現在が期待のピーク期で、今後は社会への現実的な活用が進んでいくと思われます。日本企業も、これらの技術を利活用していくことが望ましいでしょう。

しかしなぜビジネスにAIが必要なのでしょうか?

時代は、ハードを売る「モノ売り」からサービスを売る「コト売り」へと遷移していますが、その中で活用されるのがAIです。例えば、体重計は体の重さを測る「モノ」ですが、本来ユーザーは「健康」を求めているはずです。とすれば、健康づくりに寄与するデータをAIによって集め、分析し、サービス化することによって、ユーザーが求める健康をサポートする「コト」へと変えることができます。

そしてAIは、人間の頭と同じようにデータを蓄積し、学習を重ねることで賢くなっていきます。そのため、サブスクリプションモデルによって、継続してデータを蓄積し、精度を上げながら、ユーザーに新しい価値を還元していくプロセスが重要になっていきます。長期間にわたって体重など健康づくりに寄与するデータが蓄積されれば、それを活用してさらに優れたサービスへと進化していきます。このようなサービスを裏で支えるのがAIです。

ただし、ここで重要なことは、AIは「手段」であり「目的」ではないということです。まずはAIを活用して何をやりたいのかという課題設定を正確に行うステップが欠かせません。この課題設定をおろそかにすると、その次のステップは必ず失敗してしまいます。

ABEJAの取り組みをいくつか紹介します。小売流通業界では、店舗にカメラを設置し、取得した動画をAIで解析することによって、来店者の情報を導き出しています。「来店者の属性」「店舗ごとの来店者数」など、今まで取ることができなかった購買に至るまでの店内の顧客行動データも分析できるようになりました。その結果、店員の数を増やす、店内の配置を変更するなど、店頭施策の課題の特性に応じた仮説検証が可能になりました。また、製造業の分野では、熟練作業員の作業中の動画からAIによって行動分析を行うことで、非効率な作業の見える化を行い、改善ポイントを明確にしています。

AIのビジネス利用は始まったばかりで、現在はテクノロジー、そしてそれを提供するベンダーばかりが注目されています。しかし、それは私たちの望むところではありません。ABEJAは、小売流通業向けの店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」や、AIの開発運用を省力化する「ABEJA Platform」などのプロダクトを提供することによってAIの民主化を推進し、AIを使ったビジネスが次々と登場してくるよう支援していきたいと考えています。

データとAIをビジネスで利用する際のハードルとは

早稲田大学大学院の入山氏は「3人のプレゼンテーションは奇しくも、AIを何のために使うのかという問題設定を明確化することが重要という、共通の指摘がありました」とまとめ、「AI導入に対する関心は高い状況ですが、導入時に難しい点、鍵になる点はどのようなものがありますか?」と初めに問いかけました。

早稲田大学大学院
早稲田ビジネススクール
教授
入山 章栄 氏

渡瀬 富士通は、お客様の会社全体をデジタル技術でトランスフォーメーションするといった大きなプロジェクトも手がけています。大きなテーマをどのように進めて価値をつくり出すか、非常に困難な案件もあります。しかし、様々な試行錯誤を経て、何を達成したいのか目的を明確にして実行するとうまくいきやすいということが見えてきています。範囲を絞る、段階を踏むなど、お客様と議論を重ねさせていただくこと、そして経営の目的を踏まえて課題を明確にすることが大切だと考えます。

シバタ 課題やテーマを見つけるために、DataRobotではお客様とのワークショップを開いています。データサイエンティストはお客様企業の需要を想定し、様々な提案を行います。しかし、ワークショップなどで現場の方やマネージャーに発想してもらうほうが面白いアイデアが見つかります。

その際に重要なことは、一般的なブレインストーミングではなく、AIに何ができるのかという点にフォーカスして議論を行うことです。そうして生まれたアイデアを、ビジネスインパクトなどの観点から評価し、順位付けを行い、上位のものからどんどんやっていきましょうという取り組みを繰り返し行っています。

菊池 辛辣な意見になるかもしれませんが、一般的なシステムインテグレーションのように、要件定義をガチガチに決めるようなプロジェクトは、AIに関してはほぼ存在しないと考えてください。成功させるには、課題を見つけて実装するまでのサイクルを早く回すことに尽きると思います。いつまでも要件定義ばかりやっていたら、AIの社会実装が遅れるだけです。

シバタ ビジネスを加速させるために、トライ&エラーを重ねることは必要です。しかし「こんなに膨大なデータがあるのだから、何かできるはずだ」という考えはダメです。まずは「何のために」という課題を最初に明確にして始めることが重要です。

渡瀬 サイクルを早く回すには、新しい取り組みを行う部門を別の組織として分離し、そこで実行するのが望ましいでしょう。あるいはその正反対になりますが、既存の業務に組み込むことを真剣に考えることも有効です。新しい取り組みを始めるだけでなく、続けていくために、重要なことは、中途半端な状態は望ましくないということです。

菊池 私が企業の方にお願いしていることは2つあります。1つは経営トップの直下に専門のチームを設置すること。外部の専門家に丸投げしては、AIに対する経営者の思いが伝わりませんし、コントロールもできません。もう1つは、データのあり方です。ストレージの組み方、データの保管方法など、あらかじめAIなどの二次利用を前提とした形でデータを用意しておくことです。

AI利活用のための組織が必要というテーマを受けて、入山氏は「こういう人をアサインするとうまく回る。逆にこういう人は向いていないという条件には何がありますか?」と聞きました。

白熱するパネルディスカッション

シバタ 別組織を作るケースでは、社会実装に向けて社内の人を巻き込んでいくことが必要ですから、社内でビジネスを走らせている方が重要です。
次々と新しい技術は登場しますし、モデルの作り方も昔と今では違います。また、人間の適性としては、オープンマインドな考え方が必要です。

菊池 スキル面も大切です。ディープラーニングの理論は理解できないとしても、ビジネスで活用するためのスキルは習得していただきたいと思います。課題発見から実装までのサイクルを何度も繰り返し実行するのであれば、そういう人材の獲得、教育は不可欠です。
しかし、オープンマインドを持ち、技術を理解し、経営の視点を持てる人材はそうそういるものではありません。だとすれば、チームを組んで、データのストラテジーを考える人、モデルを考える人、社会実装を進める人というように複数人で分担するのが良いと思います。

最後に入山氏は「AIは私たちの社会、ビジネスにどういうインパクトを与えると考えていますか?」と問いかけました。

菊池 AIはありとあらゆる産業に浸透していくことは間違いありません。いずれはユーザーが使っているツールの裏側でAIが働く時代が到来します。つまり、AIをAIと意識せずに当たり前に使いこなしていくことになります。AIの技術が進展すれば、医療も進歩して、人間は長生きできるようになる。そういう時代の企業の役割はハードなどの「モノ」を売ることではなく、サービスといった「コト」に切り替えていくことになるでしょう。

シバタ AIも他の技術と同じで、良い使い方も悪い使い方もあります。AIは人間にとって良いものか悪いものかという問題はよく聞きますが、使い手によってその答えが変わります。もしかすると、この問いかけ自体が間違っているのかもしれません。どちらの使い方をしたとしても、AIは社会を変えるだけのパワーを持っている技術であり、人間の役に立つことはたくさんあります。
そして、AIもまたデータを蓄積することで賢くなっていきます。それによって経済的な活動は活発化していくことでしょう。一方で注意しなくてはいけないのは、この技術を狡猾に悪用する人の存在です。犯罪行為に利用されないような手段も考えなくてはいけません。

渡瀬 富士通ではAIコミットメント、いわゆる倫理規定を発表しています。富士通はヒューマンセントリックというビジョンに基づき、技術は人を幸せにするという観点で、すべての企業活動を行っています。
何かをやってみれば何かが見える、ということはなく、この技術を使ってお客様が目的を達成できるか、を私たちはいつも考え、そのための製品やサービスを提供したいと考えています。

入山氏は「古くから日本企業のITを支えてきた富士通、スタートアップのDataRobot、ABEJAと立場は違っても、想像以上に問題意識が共通していたのが印象的でした。次はAIやデータの利活用を実際にやってみることではないでしょうか」と呼びかけて、パネルディスカッションを締めくくりました。

なお、講演の内容をグラフィックレコーディングでまとめてあります。

登壇者

DataRobot Japan
チーフデータサイエンティスト
シバタアキラ 氏

株式会社ABEJA 執行役員 兼
株式会社CA ABEJA 取締役副社長
菊池 佑太 氏

早稲田大学大学院
早稲田ビジネススクール
教授
入山 章栄 氏

富士通株式会社
AIサービス事業本部 本部長
兼 データ利活用推進室 室長
渡瀬 博文