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日本の技術結晶 スパコン・ポスト「京」 システム開発責任者の想いに迫る

5月23日に“富岳(ふがく)”という名称が決定したスーパーコンピュータ“ポスト「京(けい)」”。性能は富士山のように高く、ユーザーは広い裾野のように拡がり、海外にもその名を轟かせたいという思いが込められています。2021年から2022年頃の共用開始を目指し、理化学研究所と共同での開発が進められている現場の意気込みを、富士通の清水 俊幸に聞きます。(聞き手:フリーアナウンサー 森 遥香)

※写真は、理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピュータ「京」

富士通株式会社
次世代テクニカルコンピューティング開発本部
システム開発統括部
清水 俊幸

CPUは15万個、「京」の100倍の実行性能を目指す

-- 製造開始の発表が4月15日にありましたが、ポスト「京」について簡単にご説明いただけますか。

ポスト「京」は、理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピュータ「京」の後継機です。「京」はスーパーコンピュータの性能ランキングTOP500で2011年に2回世界一に輝きましたが、ポスト「京」は、富士通が開発した高性能CPUを15万個以上接続して、アプリケーション実行性能で「京」の100倍を目指しています。

-- 大きな進化ですね。清水さんは、ポスト「京」のどの部分に携わっているのですか?

ポスト「京」のシステム開発責任者で、主にハードウェア開発を担当しています。

-- 開発となると苦労も多そうですが、どのようなことが大変でしょうか?

何と言っても規模が大きく、15万個のCPUが1つ欠けても目標とする性能が出ませんので、それを調和させてきちんと動かすことと、品質の確認やスケジュールの確認が非常に大事だと考えています。そこが苦労するところだと思います。

世界最先端の開発競争はエキサイティング!

-- 面白さ、やりがいはどのようなところでしょうか?

開発を一貫して任せていただいているために、いろいろなチャレンジができるのです。一部のみの開発では自由度が非常に狭まってしまいますが、ハードウェアからソフトウェアまで一連の開発ができるので、いろいろな部分で工夫することができてとても楽しい。またスパコンの領域は、世界中で最先端技術の開発が進む中で競争できる、とてもエキサイティングな状況です。

-- 清水さんは「京」の開発にも携わっていたのですか?

はい、「京」の時は、CPU同士をつなぐインターコネクトの部分の開発をやっていました。インターコネクトはCPUをきちんと動かすために非常に重要で、特に完成した時に性能を出せるかどうかの鍵を握るところなので、完成までとても心配で非常に苦しい思いもしたのですが、完成して予定通りの性能が出たという時には本当に感動しました。
「京」が予定通りの性能を出して多くの皆様に使っていただけると、いろいろな成果が出ていくのだと感じて身震いしましたね。

-- ポスト「京」が稼働したら、どのような分野で活躍していくと思いますか。

ポスト「京」のプロジェクトは、開始当初から文部科学省さんや理化学研究所さんのところで重点課題アプリケーションというのをまとめられ、広い分野のアプリケーション開発者、研究者の方に適用分野を検討していただいています。例えば、エネルギーや創薬、ものづくりなど非常にたくさんの広い分野で成果創出ができるのではないかと思っています。

日本の技術が結集されたポスト「京」を広く世界で使ってほしい

-- 清水さんは日本のIT業界で、ポスト「京」をどのように活用していくべきだとお考えですか?

ポスト「京」は日本の技術が結集されたものだと思っています。願わくは世界で広く使っていただいて、さらにオープンコミュニティの中でもっと広い範囲で活用されて、その成果が出ることを期待しています。

-- スーパーコンピュータ開発の中で富士通の強みはなんでしょうか。

富士通の強みは、何と言っても総合力ですね。富士通ではCPUの開発からソフトウェアまでの一連の重要な開発を担当し、担当者間の綿密なコミュニケーションにより、高い性能と品質を実現できると思います。

スパコンという道具がより洗練され、世の中を幸せにしてほしい

-- 計算能力もどんどん高まっていると思いますが、今後スーパーコンピュータの分野は、どのような可能性を秘めていると思いますか?

計算能力が高まると、またやりたいことが増えますし、解ける問題も増えてきます。計算機に求められる計算性能というのはとどまるところはないと思っています。

-- 開発を進めれば進めるほど、可能性は未知数ですね。 スパコン分野で、これから求められていくことは何でしょうか?

省電力、省エネルギーはとても大事だと思います。スパコンを使っていると電気を消費しますし、運用には莫大なコストがかかります。トータルにコストを減らしてパフォーマンスを上げていく。「京」に比べて、ポスト「京」はすでに電力あたりの性能は20倍ぐらい改善しているのですが、さらに改善していくということが重要になってくると思います。

-- ポスト「京」が目指すところは、やはり世界一でしょうか?

世界一には様々な基準があると思うのですが、ポスト「京」はいろいろなところで世界一になるものだ、なっていきたいと思っています。“アプリケーション実行性能で「京」の100倍”という目標は達成しなければなりません。スパコンランキングでどうかというのは、結果として後からついてくるものかなと思っています。

-- 努力の先に世界一があるかもしれないですね。最後に、富士通のスパコン分野全体での今後の展望についてお聞かせください。

富士通は40年、いろいろなアーキテクチャを先進的に取り入れてスパコンを開発してきました。スパコンは、研究を進めたり世の中を便利にするための道具ですから、その道具を使って研究成果を出していくことが必要です。
ポスト「京」では、アプリケーションの広がりが容易になるようにArmアーキテクチャ(注1)への対応に取り組んでいます。多くの人がポスト「京」や、弊社から提供させていただく予定のポスト「京」技術を利用したスパコンを通じて、多くの素晴らしい成果が出せるよう、アプリケーション環境の充実などにも取り組んでいきたいです。道具をより洗練させて世の中を幸せにできるといいなと思っています。

(注1)参考情報:ポスト「京」プロセッサの命令セットを紹介【Hot Chips 28. 富士通講演レポート】
https://journal.jp.fujitsu.com/2016/08/23/01/

-- ポスト「京」の稼働を楽しみにしています。ありがとうございました。


スーパーコンピュータ ポスト「京」=「富岳」とは?

超高速で膨大な計算ができる計算機が、スーパーコンピュータ。「京」の名は1秒間に1京(10の16乗)回の計算ができることに由来します。「京」は世界性能ランキングのTOP500(注2)で2011年6月と11月に1位、Graph500(注3)では2014年以降8期連続1位に輝きました。アプリケーション実行性能で「京」の100倍が目標のポスト「京」=『富岳』には、FACOMに始まる富士通コンピュータ開発の知識と経験も結集しています。

医療・災害・エネルギーや持続可能性といった社会課題解決のために、新発想のものづくりのために、宇宙や生命の謎を解明するために、それらを助けるAIやロボット研究のために、世界最高の“道具”を目指すポスト「京」。その開発は、今持ち得る最高の技術をつぎ込んで、人類の次の技術を獲得しに行く挑戦です。

スパコン「京」

(注2)TOP500は、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのリストを年2回発表している。

(注3)Graph500は、ビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキング。