丸ごと液に浸す"冷やしサーバ"!? 地球環境とICT社会を両立する新発想(前編)

【未来を創るチカラ Vol.13】液浸冷却システムの研究開発を牽引する、山本 岳

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インターネットにつながるデバイスやセンサーが天文学的に増え続けているICT社会。データセンターやIT機器から放出される大量の熱をいかに処理するかは、システムの安定稼働にとっても、地球環境にとっても喫緊の課題です。

富士通は、サーバを丸ごと液体に浸して冷やす斬新な「液浸冷却システム」を開発し、平成30年度省エネ大賞(初)・地球温暖化防止活動環境大臣表彰(2年連続6回目)を受賞しました。本技術が実用化に至った道のりから未来に広がる可能性まで、研究開発を牽引してきた山本岳に話を聞きます。

気体に比べて液体は、何十倍〜何百倍も冷却効率がいい

山本 「液浸冷却システムは、通常は空気で冷却するサーバを、液体で冷やすことで冷却効率を高める技術です。空気に代表される気体に対して、液体は数十倍から数百倍の冷却能力があります。一生懸命流速を高めて冷やさなくても、ゆっくりした流れで空気よりも格段に高い冷却性能を得ることができます。
低い温度に保つことで装置の安定性は高まりますし、空冷機器に必要な冷却ファンやエアコンも不要になるため、大幅な電力削減にも繋がります」

かつて中断された技術を、再び時代に求められて蘇らせる

「液浸冷却技術は実は30年ほど前に、海外の企業で製品化されたことがあります。そのときはスーパーコンピュータの性能を高める超高密度実装を実現するための、バックボーン技術として考えられたと聞いています。当時、富士通は液浸ではなく水冷技術(銅などの金属のプレートに水を通して間接的に液冷する)を用いて、大型コンピュータの冷却を行っていました。その後半導体技術の進化によって電力が大きく下がったため、液浸・水冷とも不要になり、空冷技術のみになって液浸の技術開発も中断されました。

冷媒は粘度が少ないため一見、水のようにも見える。液槽には高い気密性が求められた。

しかし半導体の微細化、高速化とともに発熱量が再び大きくなり始めました。データセンターでの消費電力は全世界の消費電力の1%を超え、環境意識の高まりから排熱も問題視されるようになって、再び空冷に代わる技術が必要になりました。

私たちのモチベーションとしては、専用のスーパーコンピュータを冷やすのではなく、世の中のすでにある空冷用の汎用的な素材をうまく冷やすことで、電力を削減することでした。ある意味、液浸冷却技術を蘇らせたということになります」

液浸するがゆえに、化学の知識も必要になった

「液浸冷却システムを考える上では、まずどのような液体を冷媒として使うのかがポイントです。電気的な導通がないこと、それに加えて安全性や、冷媒がサーバ機器などに悪さをしないこと、うまく循環させるためにあまり粘度が高くないこと等々、様々な観点から選択を行いました。

また単に冷やすだけでなくお客様に長く使っていただくことを考えると、システムを運用していく上での使いやすさや、冷媒の揮発を防ぐための液槽の気密性も重要になりました。

このような冷媒を選ぶための化学の知識や、気密性を確保する技術や構造設計などは、従来のサーバの設計には必要のないものでした。液浸するがゆえに、これまで富士通になかった知見や新たなスキルとノウハウが必要になりました。」

これまでの設計開発のプロセスが通用しない

「そのため学生時代に化学を学んだ者を含めてチームを編成するとともに、富士通研究所や化学系のサプライヤーなどパートナーの人たちと協力しながら情報収集を積極的に行って知見を増やしました。

気密性のような構造系の課題については、プロトタイプを作って、我々の実験サイドで使うだけでなく他の部署で使ってもらい、さらに社外のお客様やパートナーにも使っていただくことでノウハウを集めていきました。

サーバやサーバを搭載するラックは、今のような標準的な形になって約20年になります。構造も大きく変わっていないので、新たな製品を開発するのにだいたいこれくらいの期間と費用で設計開発を進めることができるという標準的なプロセスがあります。しかし今回の液浸の開発にはそれが通用しませんでした。予想しなかったことがいろいろ起きて、我々が思い描いていたようにはプロセスがなかなか進まないこともままありました。トライ&エラーを重ねることで、いかに成熟させていくかが課題でした」

液浸冷却システムを実現に導いたカギはどこにあったのでしょうか、さらに詳しく後編へ続きます。


液浸冷却システム研究室エピソード
不思議な液体。スマホを落としても大丈夫?

山本のチームが開発した液浸冷却システムは、独自技術でいくつか特許を取得しています。冷却能力を最大化する液体、フッ素系冷媒とその使用温度(物性値の範囲)もその一つ。

冷媒となる液体を決める際はインタビューにもあるように、電気を通さないこと、安全であること、サーバ機器に悪影響を及ぼさないことに加えて、特に粘性に着目。冷却効率が高くなるよう流れを循環させるため、あまり粘度の高くないことが条件でした。その結果選ばれたのは、「3M™ フロリナート™」という無色透明、サラサラ無臭の液体で性質は全く異なるけれど見た目も感触も水にそっくり。まるで水中に機械を沈めてしまうような、不思議な感慨を覚えます。ある日研究室で、メンバーの一人がうっかりスマホをチャポンと液体の中へ落としてしまいましたが...もちろん大丈夫。スマホの機能に問題なく無事でした。


山本岳

富士通株式会社
AI基盤事業本部 実装技術開発統括部 統括部長

1989年東京理科大学工学部機械工学科卒。同年富士通(株)に入社。(情報システム事業本部)本体事業部に配属。以来大型コンピュータ、ストレージ製品の冷却技術、機構技術の開発に従事。