いま日本発祥の最先端技術を活かすとき。量子コンピューティングはいかに社会問題を解決できるか

~東北大学×富士通 イノベーターズ・トークセッション~[後編]

メインビジュアル : いま日本発祥の最先端技術を活かすとき。量子コンピューティングはいかに社会問題を解決できるか

東北大学情報科学研究科にて 前列左から時計回りに観山・大関・東・竹本(敬称略)

対談者

東北大学大学院准教授 大関真之
東北大学特任助教 観山正道
FUJITSU Intelligence Technology Limited VP of Platform Services 東圭三
富士通研究所 デジタルアニーラユニット 技術開発プロジェクトディレクター 竹本一矢
ファシリテーター 富士通 グローバルマーケティング本部 戦略推進統括部 統括部長 藤健太郎

(インタビュー前編からの続き)
量子コンピューティング研究の第一人者である東北大学の大関先生・観山先生と、富士通のデジタルアニーラのビジネス推進者である東・研究者の竹本。四人の対話によって、量子コンピューティング業界を活性化するために必要なコミュニティやナレッジベース、そして日本が持つ大きな可能性が見えてきます。

物理学の数式が、問題解決のプラットフォームになる

大関 「例えば企業が、『自分たちが築いてきたこのすごい技術を100%活かせてはいなかったよね』と気づいた時に初めて、どの部分がネックなのか、制約として何が重要なのか、仕組みを見直しましょうとなる。本当に何を最適化したいかという目標を明確にすれば定式化できて、問題が解けていくのですよね。企業や社会がまず自分の世界と向き合って、定式化する専門家と協業することによって数式が完成したら、その時点で実は問題の99%が終わっているのではないかと思います。

定式化するということで問題が解けていくのですよね。共通の明示的な数式が、一気通貫して問題を解くためのプラットフォームになるというのが非常に強い。」

竹本 「全然違う種類の課題が、定式化することによって同じ組合せ問題に帰着するとわかるのは、ものすごく面白いですよね。」

 「そうですね。例えば、金融のポートフォリオ(安全資産と危険資産の最適保有率)の問題を解くロジックと、工場内の棚に置く場所を見直す再配置問題を解くロジックに、同じ式が当てはまります。全く違う分野なので、驚きがあります。」

デジタルアニーラ第二世代で、イノベーションを広げたい

 「デジタルアニーラは、今後どのような展開をしていくのでしょうか。ビジネス的な視点と、技術的な視点の両方からお話しいただけますか。」

 「昨年の12月21日からデジタルアニーラ第二世代のサービスを、国内で提供開始しました。ビット数は8Kビット、精度は64ビットです。」

大関 「おお!」

 「64ビットもあってどうするのだ(笑)という声もあるかもしれませんが、ビジネス拡大に向けては、デジタルアニーラの体系を三つのレイヤーで考えています。

最もハードウェアに近いところは、今後100万ビットを目指して研究開発を進めています。真ん中のレイヤーではミドルウェア的なところを強化していくために、カナダの1QBit社(1QB Information Technologies Inc.)と組んで、いろいろな課題を一緒に解決していこうと取り組んでいます。

一番上のレイヤーである、お客様の課題を解決していくところについては、お客様の課題をどのように引き出して定式化していくかに非常に注力しています。物流問題のように、共通項を引き出してパラメータをある程度与えればどんどん解けるようにしていこうという領域と、創薬やガンの放射線治療のような、非常にピンポイントでの使い方を発掘していく領域と、二つに分けて取り組んでいます。」

技術開発のカギは規模・連携・結集

竹本 「デジタルアニーラの技術開発の方向性でも、取り組みを3つ考えています。一つ目はやはり規模です。組合せ最適化問題の中には、単純に問題の規模が大きいために解き難いというものもあります。大規模の物流や、ビックデータからの商品推薦などもそうです。8Kビットの第二世代を製品化しましたが、お客様からは、さらにもっと規模の大きいものを、というリクエストもいただいています。デジタルアニーラはデジタルなのでノイズが少ないというところを活かして、もっと規模を増やしていけると感じています。

二つ目は、既存のコンピューティングとの連携です。クラシカルなコンピューティングは連綿と蓄積されたアルゴリズムの結晶なので、それを活かさない手はありません。創薬で使われるタンパク質の折りたたみなどは、安定構造をアニーラで探索して、標的に対するドッキングはスーパーコンピュータを使って計算する。これをぐるぐる繰り返します。こういった連携を活かせるケースはたくさん世の中に潜んでいるはずなので、もっと引き出していきたいと考えています。

そして可能性を追求するためには、デジタルアニーラだけなく世の中の様々な計算方法も上手く使っていくことで、もっともっと解ける問題の領域が広がっていくはずだと思っています。この三つの方向性の取り組みを、今後進めていきたいと考えております。」

たくさんの人が遊ぶうちに、意外な使い方が技術を広げる

竹本 「こういった技術は、技術者やユーザーが増えていくと、あるところで何か相転移的にワッと広がり出すのではないかなという可能性を感じています。ユースケースと実際にユーザーが増えていくことは車の両輪だと思うのですが、ユースケースがある程度たまらないと『何がやりたいですか』というところが見えてこないし、逆にそのニーズが見えてくるからこのユースケースを作るということもある。きっとどちらが欠けてもダメだと思います。

そのためには、エンジニア・レベルで真摯に取り組む人間が増えていくということがものすごく大事だと思っています。デジタルアニーラもD-Wave(D-Wave System社)も関係なくて、まずはそういったものを使える環境を広く用意して、たくさんの人にとにかく遊んでもらえたら、そのうちに何か意外な使い方が出てきて、そこからバッと広がると思うのです。そういう意味でも、今は何かとても夢のある状況にあるのかなと感じています。」

コミュニティやナレッジベースで、知見を共有したい

 「何が問題なのか、問題を解くための数式はどういったものがいいかといった知見やサンプルを、関係者の中で共有できるコミュニティが作れると、きっともっと理解が進みますよね。」

竹本 「ナレッジベース(knowledge base)ですよね。」

大関 「僕らは、D-Waveマシンで使われたユースケースを、論文で出ている範囲に関しては、日本語に翻訳して『T-Wave』というナレッジベースをつけています。自分たちが応用した場合や、検証例なども出していっているので、デジタルアニーラを使った場合という記事も載せる予定です。そういったものがどんどん広がっていくといいなと思います。」

座して待っていてはいけない。今はチャンス

観山 「そうですよね。そうやって一緒にやっていく動きを見たら、『じゃあ、ウチも』という感じで、ゆるくコミュニティができるといいと思います。やっぱり今何を恐れているかというと、

まず大前提として、社会への危機感があります。例えば親方が現場を取り仕切ってなんとか成り立っていたようなものが、今うまく次の代に繋げられないということがままあって、これまですごいことをやっていたのに世代交代できずにロストテクノロジーになってしまうという危機感。それからグローバル化によって、世界からワッと乗り込まれてしまうかもしれないから、こちらからも攻め入らないとダメかと。業態がスケール化してしまっていることも問題ですよね。

ここで座して待っていたら、きっと5年後くらいにはアメリカや、あるいは中国かもしれないですが、海外のソリューションベンダーが出てきて、『全部、これを使ったらいいですよ』となって終了〜ということが起きてしまうと思います。量子アニーリングは、アルゴリズム自体がせっかく日本発で、ユーザーベースでも先行者利益がまだあると思うので、やっぱり頑張ってやっていかなくてはと思います。今はチャンスだし、今行かないと。」

世界を先取ってしまおうと決心した

大関 「僕らも活動のギアチェンジをした時があるのです。半年に一度、D-Waveマシンを使っている国際機関のユーザーカンファレンスがあって、量子アニーリングマシンの利用例を発表しているのですが、最初に参加した時に、『お、これは頑張れば勝てるのじゃないか?』と思ったんですね。日本では、D-Waveだけでなく、デジタルアニーラであるとか別の解く方法が出ていて、もっといろいろな業種で定式化することを通して、世界でリードを張れるのではないかと。

みんな最適化問題の解き方を模索して、それぞれの文化や業種に基づいて問題を定式化しているわけです。それなら日本独特の問題設定はあるのか、日本企業の独特な設定はあるのかと、ある意味必死になったのはそこからです。もうこれは日本全体をあげて、企業も大学もアカデミアも一つのコミュニティを大きく形成して、世界を先取ってしまおうという決心をつけました。」

オールジャパンで、オープンイノベーションを

 「結実するところまで日本がリードしていくことを、本当にやっていきたいと思います。そのためには小さな障壁を取り払って、大学も企業も、ベンチャーも一緒に手を組んでやっていきたいですね。」

大関 「なんだなんだ和平会談か!と(笑)今まではそういうものが、なかなか起こらなかったですよね。でも最大のチャンスなのだから、一緒にやることに遠慮など要らないです。」

観山 「フラットに協業できるところは協業して、いわゆるオープンイノベーションという言葉を形骸化させないドライバーでありたいです。」

 「日本のベンチャー企業の間には、そういった盛り上がりをお感じになりますか。」

大関 「盛り上げようという仕掛けは色々としています。手前味噌になってしまうのですが、東北大学で START事業(科学技術振興機構による大学発新産業創出プログラム)を支援していただいたプロジェクトの成果として、このたび株式会社Jijを設立しました。Jijという会社名は観山先生が付けたのですが、イジングモデルのビット間の相互作用の係数の名前です。東工大出身の大学院生の方がCEOになっていて、非常に若い力で小さいながらも柔軟な対応力と元気の良さがあります。
こういったことが刺激になって、ベンチャー間に連携が生まれ、新しいものが成果物として出てくるのではないかなと期待しています。」

 「ベンチャーの方々は非常に尖った知見やユニークな発信力を持っていますよね。我々ももっとフットワークを軽くしてネットワークを築いていきたいと思います。」

大関 「プレイヤーが揃いつつあるという感じで、非常にワクワクする時代が来ていると思います。」

 「特にここ二年くらい、日本国内で盛り上がっているという気がしますね。」

大関 「この動きは、世界的に見ても稀で独特ですけれど、それはチャンスということですよね。結実させて、取られないようにできれば(笑)」

 「そのためにもまず、和平会談を始めたいですね(笑)本日は、どうもありがとうございました。」

登壇者
大関 真之 氏

1982年、東京都生まれ。2008年東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程早期修了。東京工業大学産学官連携研究員、ローマ大学物理学科研究員、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て16年10月から現職。主な著書に西森秀稔との共著『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社)など。

東 圭三

1963年、大阪府生まれ。京都大学工学部卒業後、富士通に入社。サーバ用OSの研究開発を経て、AIサービス事業本部の本部長として、富士通AIのZinrai及びデジタルアニーラ、ロボットに関する事業を統括。2019年4月からは、カナダ・バンクーバーに設立した「FUJITSU Intelligence Technology Limited」のVPとして、AIプラットフォームやサービスの企画開発を推進。

観山 正道 氏

1981年、兵庫県生まれ。2011年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程終了。東京大学工学部特任研究員、東北大学AIMR特任研究員、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻特任研究員を経て17年11月から現職。

竹本 一矢

1973年、仏パリ市生まれ。2002年筑波大学物理学研究科博士課程修了後、富士通研究所に入社。半導体量子ドットを利用した長距離量子暗号システム開発に従事したのち、2016年よりデジタルアニーラの開発チームに合流。現在はディレクターとしてデジタルアニーラ・ユニットの技術開発プロジェクトを牽引。

藤 健太郎

1974年、東京都生まれ。東北大学経済学部卒業後、富士通に入社。同社におけるクラウドビジネスの推進に携わり、現在はグローバルマーケティング本部にて戦略推進統括部の統括部長として、デジタルアニーラやブロックチェーン等のビジネス推進を担当。