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突然、スマホがつながらない!?無線通信時代の新たな問題「電波干渉問題」とは

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2020年に予定されている次世代通信規格「第5世代移動通信システム(5G)」の実用化で、さらに快適な通信サービスが実現されると期待されている一方で、通信量が増加し続けることによる、「電波干渉」で通信品質が損なわれる可能性も指摘されています。こうした中、富士通は世界で初めて予測不能とされる電波干渉を除去する技術を開発しました。

通信品質を下げる「電波干渉」

突然スマートフォンがつながりにくくなったり、スポーツやイベント会場などで撮った画像や動画をSNSにアップする際、アップロードにかなりの時間がかかったという経験をしたことがあるという人は多いのではないでしょうか。こうした現象には様々な原因が考えられますが、そのひとつに「電波干渉」があります。この問題が発生する背景には、無線通信を取り巻く環境が急速に変化していることがあげられます。

なぜ電波干渉が起こるのか

日本における通信のトラフィック量は、第3世代通信(3G)から第4世代通信(4G-LTE)への10年の移行期間中において、年率1.4倍のペースで増加しています。その中で、通信容量を確保するため、使用できる周波数帯域を増やすマルチバンド運用基地局が増加しており、無線に割り当てられる周波数は3倍、バンド数は約2倍まで増加しています。また今後将来、5Gの実用化に加え、IoT通信機器が増えることによって、通信量の増加に拍車がかかることが予想されます。

電波干渉は、こうした複数の周波数の電波と錆びた金属が原因です。複数周波数の電波が、基地局周辺の錆びたボルトや金網、鎖などに当たるとゆがんだ反射波が発生し、「期待しない周波数成分」を生成します。それがパッシブ混変調「PIM(Passive Inter-Modulation)」と呼ばれる干渉波を引き起こし、正常な通信の妨げとなっているのです。例えば、スマホによる通信の際には、この「期待しない周波数成分」を基地局側のアンテナが受信してしまい、本来の通信に余計なノイズが付加されて通信品質を損ねてしまいます。それにより、アップロードやダウンロードに遅れが出てしまうことにつながるのです。

富士通が開発した電波干渉を除去する技術とは?

富士通は、こうした問題の解決のために、通信の品質を下げる干渉波(PIM)を正確に予測し、その信号成分の電力だけを抑える(キャンセルする)技術を開発しました。トランジスタやIC、ダイオードなど与えられた指令によって特定の電力を送信する側では、歪を補償する技術を既に実装できていました。しかし、自装置以外の歪干渉波が着信してしまう受信する側にも適用することで、PIMを抑制できるのではとの仮説を立て、初めての試みとして開発に取り組みました。

富士通の電波干渉除去技術効果

開発した技術の要となるのが「非線形レプリカ信号生成」です。ゆがんだ反射による干渉波を正確に予測し、デジタル信号によってレプリカ(複製)を生成。それを受信信号から減算することによりPIM干渉信号をキャンセルして、本来の受信信号だけを抽出する技術です。

技術の要:非線形レプリカ信号生成

一般的にPIMは電力や位相などを関数とした多項式を基に処理を行うことが多いのですが、送信信号キャリア数や混変調次数が増えると多項式の項数が指数的に増えるため、式を電気回路で実現するのは非現実的な回路規模となり実用的ではありません。また、多くの乗算演算が必要になり、回路の小型化が困難となり商用化に問題もありました。

そこで、富士通は少ない乗算器で正確な波形を生成するこれまでの富士通の高出力増幅器向け歪補償技術を応用する方式を導入し、より精度の高いレプリカを生成することが可能になりました。その結果、一般的な多項式を使う方法では、PIMにより本来の30分の1に狭くなった通信エリアを5分の1までしか回復できませんでしたが、この技術で完全に回復することができるようになります。また、回路規模も小さくできるなど、従来の課題であった高性能と小型化とを両立させることに成功しました。

また、この技術はデバイス内の電子制御機能を変更できる半導体ICである「FPGA方式」であるため、柔軟性に優れ、装置メーカーを選ばず既存の装置間に挿入するだけで使えるという導入のし易さもメリットとなっています。

2017年に世界初の電波干渉除去技術として実用化

世界で唯一この技術は、2017年に実運用を開始していて、実際に電波干渉が発生しているサイトでのキャンセル効果があることも実証できました。

PIMによる電波干渉は、周波数が拡大している市場ではどこでも起こりえる現象なので、モバイルネットワークを構築しているエリアが全て対象となります。最初はトラフィックの多い先進国、都市部を中心に展開を進め、北米では2019年から本格的な拡販をしていく予定です。将来的には世界中のモバイルネットワークにこの技術が適用されることを目指しています。

また、富士通では既存の通信オペレーターに加えて、屋内無線中継システムやCATVを管理・運用する企業などに対しても提供していく計画です。

今回開発した技術で、富士通は「平成30年度(第66回)電気科学技術奨励賞(注1)」を受賞しました。この賞は、世の中を豊かにする新しい技術創出に対して贈られるものですが、PIMに関する文献はそれほど多くはない中で、データを取り続けて考察し、妥当性や精度を向上するための地道な活動を積み重ねた過程も評価のひとつでした。

「5G×IoT社会」を見据えて

5Gの実用化に加え、今後はあらゆる機器がインターネットに接続するIoTがさらに進展します。送信量が急激に増えることが予想される中で、より安定した通信を目指すためには、大電力・広帯域通信を実現することが求められます。その一方で、使用される周波数が増えるほど、電波干渉問題による通信品質低下への影響が大きくなる可能性があります。このような背景から、電波干渉問題は現在のような一部のネットワークだけの問題だけでなく、将来的にはモバイルインフラ全体、つまり企業活動や社会生活において社会的課題となる可能性が大いにあります。

富士通では、この電波干渉除去技術をはじめとした革新的な技術を基にしたソリューションを数多く提供し、これから来る「5G×IoT」社会において、どこからでも安心・安全・快適なモバイル通信実現のため今後も取り組んでいきます。

(注1)電気科学技術奨励賞は、昭和27(1952)年から続く歴史ある賞で、公益財団法人 電気科学技術奨励会が、電気科学技術分野に関する発明、研究・実用化、ソフトウェア開発、教育等で優れた業績を挙げ、日本の諸産業の発展および国民生活の向上に寄与し、今後も引き続き顕著な成果の期待できる人に対し贈呈するものです。