• ホーム
  • 小売・卸
  • キャッシュレス決済【第四回】 Grab-and-Goだけじゃない! 先端ITが切り拓く「リテールテック」の価値創造

キャッシュレス決済【第四回】 Grab-and-Goだけじゃない! 先端ITが切り拓く「リテールテック」の価値創造

2018年12月、コンビニ大手のローソンは同社のスマホ決済アプリ「ローソンスマホペイ」でセルフ決済できる店舗を、2019年10月までに1000店に拡大すると発表しました。ローソンスマホペイは、店頭の商品値札のバーコードをスキャンして購入商品を特定し、利用者がスマホアプリの決定ボタンを押すことでセルフ決済できるスマホアプリです。セルフ決済レジに行く必要も、店員とやり取りする必要もありません。2019年10月に迫る消費税増税をにらんだキャッシュレス対応策といえますが、コンビニ大手が手軽にセルフ決済できる環境を整えたことで、セルフ決済がぐっと身近になってきそうです。

ローソンスマホペイでセルフ決済している様子

ローソンスマホペイの実験店舗の一つ「ローソンJEBL秋葉原スクエア店」

一方、米国ではレジ無しスーパー構想を世界で初めて打ち出した米アマゾン・ドット・コムがレジ無しスーパー「Amazon Go」の出店を加速しています。2018年1月にシアトルに一般ユーザー向けの店舗を開いたのを皮切りに、2018年内にシアトル4店舗、シカゴ3店舗、サンフランシスコ2店舗と9店舗を開店しました。米ブルームバーグはアマゾンの出店計画を「2018年内に10店舗、2019年に50店舗、2021年までに3000店舗」と報道しましたが、今のところ、そのペースは維持されているようです。

アマゾンはレジ無しスーパー以外のリアル店舗の展開も積極的に進めています。Amazon.comで4つ星以上の評価を受けた製品を販売する「Amazon 4-star」をはじめ、ブックストアやキオスクなどのリアル店舗を全米で100店以上開店しています。同社は2017年8月、400店舗以上を抱える食品スーパー大手のホールフーズ・マーケットを買収していますから、EC大手だけでなく小売り大手でもあるわけです。

2019年1月に米国ニューヨークで開催された「NRF2019」のAmazon Web Servicesの展示ブース

リアル店舗をネット店舗と比べた場合、利用者の購入プロセスにおける最大のストレスはレジでの待ち時間の長さでしょう。リアル店舗はレジの数しか同時決済できないため、一度にたくさんの利用者が決済しようとするとレジに長蛇の列が出来てしまい、前に並んでいるすべての人の決済が終わるまで、購入商品を決済できません。ローソンのスマホアプリによるセルフ決済も、Amazon Goのレジ無し決済も、リアル店舗が抱えていたレジ待ち問題を解消します。今後のリアル店舗が向かうべき一つの方向性といえそうです。

スマホアプリによるセルフ決済は、バーコード決済対応の専用スマホアプリの開発と店舗におけるバーコード表示の整備で実現されました。Amazon Goのレジ無し決済は、QRコード決済機能を備える専用スマホアプリと、店内撮影映像の画像認識やAI処理で購入品と購入者をリアルタイムに特定して紐付ける仕組みを開発したことで実現されています。このようにスマホアプリ、画像処理、AIなどの先端ITは、小売現場の購買体験を価値あるものにする目的で使われ始めており、こうしたソリューションは小売り(リテール)とテクノロジーの融合という意味で「リテールテック」と呼ばれています。

Amazon Goが実用化したレジ無し決済は、「ほしい品物をつかんで(grab)、そのまま外に出る(go)」ことから「Grab-and-Go」と呼ばれており、リテールテックによって実現される新しい購買体験の代表例となっています。ただし、リテールテックが作り出す価値ある購買体験はGrab-and-Goだけではありません。今回は2019年1月に米国ニューヨークで開催された「NRF2019」の様子を織り交ぜながら、最新のリテールテック・ソリューションを見ていくことにしましょう。

買い物カゴを瞬時にスキャンして購入品リストを表示

NRF2019においても、店舗における待ち時間のないスマートな決済の実現は一つのテーマとなっていて、Grab-and-Goやスマホアプリでのセルフ決済ソリューションがいくつも見られました。ただしGrab-and-Goはコンビニでの買い物のように購入品が少ないときは便利ですが、大型スーパーでまとめ買いするようなときは、決済時に購入品をチェックしたくなったりします。またスマホアプリを使う決済では、スマホアプリを起動・操作する必要があるため、両手が塞がっている場合には面倒です。NRF2019では、こうした課題を解決する便利で安心な決済ソリューション「Grocery RFID」を富士通が展示しました。

Grocery RFIDは、RFIDタグと手のひら静脈認証を組み合わせた決済ソリューションで、ショッピングカートを決済ゲートに持ち込んで購入品をチェックし、その後、手のひらをセンサーにかざして決済するというものです。ゲートにカートを入れるとカート内の商品に付けられたRFIDタグが読み取られ、ディスプレイに購入商品リストが表示されます。利用者は自分が購入する品物と合計料金を確認し、問題なければ手のひらをかざして決済を実行します。

NRF2019会場の富士通ブースにおけるGrocery RFIDのデモの様子

Grocery RFIDの決済ゲートのディスプレイに表示された購入商品のリストと合計金額

棚管理から店内搬送まで、活用が広がる店舗ロボット

小売り現場での活用が活発になっているIT技術としては、店舗内を自動走行する店舗ロボットがあります。店舗ロボットが注目されるきっかけとなったのは、米ウォルマートが2017年に店舗ロボット開発のスタートアップ企業である米ボサノバ・ロボティクスと提携し、店舗に設置された商品棚の管理にボサノバの店舗ロボットを活用すると発表したことです。それまでスーパーにおける商品棚の管理は人間が商品棚を歩きながらチェックすることで実施していたため、多くの作業時間を取られ、見落としによる管理ミスも発生していました。店舗ロボットはこれらの課題を解決します。店舗内を自走して商品棚をカメラ撮影し、その撮影画像を分析することで、商品の欠品や価格表示の誤り、陳列状態・案内表示が適切かどうかなどをチェックします。

米ボサノバ・ロボティクスの店舗ロボットが店舗を走行して商品棚を撮影している様子(出所:ボサノバ・ロボティクス)

NRF2019では、ボサノバ・ロボティクスのロボットが、同社の展示コーナーだけでなく、連動ソリューションを提供する富士通などのソリューションベンダーのブースにも展示されていました。なお富士通も店舗ロボット「Co-worker Robo MATEY」の開発を進めており、国内では試作機を公開しています。

Co-worker Robo MATEYの試作機(富士通)

リテールテックで話題を集めている企業としては、中国アリババグループで総合スーパーを展開する「盒馬鲜生」(Freshippo)があります。NRF2019会場では、Freshippoが中国のスーパーで実用化している店舗内における購入物の自動配送システム、スマホアプリ+QRコード決済のスマートチェックアウト、自動配送レストラン「Robot.He」で用いられているロボット配送システムを展示して、多くの来場者の関心を集めていました。

NRF2019のFreshippo展示ブース ブース上部には中国で実用化している購入物(緑色のバッグ)の自動配送システムが設けられ、動作の様子をデモしていた。

Robot.He で実用化されている配送ロボットのデモの様子

画像認識技術で作るリアル店舗の新たなユーザー体験

Amazon Goにしても、店舗ロボットにしても、その基礎となる技術は撮影画像をコンピュータ分析するコンピュータビジョンです。NRF会場でもさまざまな企業が自社のコンピュータビジョンの特徴をアピールし、その適用業務をデモしていました。例えばスイスのScanditは、バーコートやQRコードの高速読み取りとAR(拡張現実)を中核技術に据えて、適用場面別のスマホアプリで店舗改革する例をデモしていました。例えば、従業員向けのアプリでは、商品のバーコードをスキャンすると、空いている棚のどこにおけばいいのかをARでオーバーレイ表示します。購入者向けのアプリは、販売商品のバーコードをスキャンするとその商品を使っている動画や利用者のレビュー記事をARでオーバーレイ表示するといった具合です。

NRF2019のScandit展示ブース

リアル店舗ならではの試着や接客をリテールテックで支援

利用者にとってリアル店舗ならではの購買体験に試着があります。鏡に自分を映して、そこに画像をかぶせて試着映像を作るといったリテールテックならではのソリューションもありますが、実際に試着する現場で利用者が困るのは、試着ルームに持ち込んだ衣類のサイズや色を変えたいときではないでしょうか。「もう一つ小さなサイズを試してみたい」と思ったとき、すぐに店員さんが小さなサイズを持ってきてくれたら便利ですよね。こうした現場の問題解決に向けたソリューションの展示もありました。富士通のSmart Fitting Roomです。利用者のニーズを素早く店員に伝える仕組みによって、利用者は求める衣類を素早く店員に持ってきてもらうことができるわけです。

NRF2019会場の富士通ブースにおけるSmart Fitting Room のデモの様子

リアル店舗の店員の対面接客を支援する場面でリテールテックを活用する試みも始まっています。2018年4月、青山商事は富士通と共同で来店客の視線からAIで心理を推定し、接客業務を支援する実証実験を実施しました。

実証実験では、富士通研究所が開発した視線の時系列データから人の関心や迷いを推定するAIの新技術を活用して、商品に対する来店客の視線の動きに応じて、関連商品の情報をスクリーン表示するなどの新しい顧客体験を提供しました。また、店員のモバイル端末にAIで推定した来店客の関心や迷いに基づく関連商品を通知して、接客業務を支援しました。

見てきたようにリアル店舗のリテールテックは、コンピュータビジョンやAR、スマホアプリ、AIなど、急激な技術革新が進んでいる先端ITがフル活用される領域となっています。ネット店舗の利便性とリアル店舗ならではの購買体験を組み合わせたOMO (Online Merges Offline)の動きが加速する中、リアル店舗における購買体験の価値向上を実現する手法は、どの先端ITをどう活用するかを競いながら、さらなる発展が期待できそうです。

著者情報
林哲史
日経BP総研 主席研究員

1985年東北大学工学部卒業、同年日経BPに入社。通信/情報処理関連の先端技術、標準化/製品化動向を取材・執筆。2002年「日経バイト」編集長、2005年「日経NETWORK」編集長、2007年「日経コミュニケーション」編集長。その後、「ITpro」、「Tech-On!」、「日経エレクトロニクス」、「日経ものづくり」、「日経Automotive」等の発行人を経て、2014年1月に海外事業本部長。2015年9月より現職。2016年8月より日本経済新聞電子版にて連載コラム「自動運転が作る未来」を執筆中。2016年12月「世界自動運転開発プロジェクト総覧」、2017年12月「世界自動運転/コネクテッドカー開発総覧」、2018年6月「Q&A形式でスッキリわかる 完全理解 自動運転」を発行。2011年よりCEATECアワード審査委員。